「次はナナ行こーよ、ナナ!」
アステラの人々は例のハンターにバレないように気を遣いながらも、一人で大声で話す例のハンターを不気味そうに見ていた。ハンターの足元には今日もよくブラッシングされたオトモアイルーがいたが、そちらに話しかけているような様子でもないのだ。
なにしろ今日の例のハンター、目覚めてからずっとあの調子なのである。
見えないハンターらしき存在とおしゃべりし、よく笑い、楽しそうにしている。最低限機能を果たす程度にしかこちらに用がないらしいのでアステラ的には平和だし、ナルシスト全開に道の真ん中でポーズをキメることもなく、さっと通り抜けてくれるので邪魔でもないのだが、とにかく不気味なのだ。
大声で見えない存在と延々と話しているなんてとうとう本当に気が狂ったのかもしれない。
それから口調も変であった。例のハンターは男だが、話し方がなんだか柔らかい気がする。あんな人だったか。いや、ハンターがただの純粋な人なのかというと、よくわからないので……ハンターはハンターなのだとしか言いようがないのだが。いきなり性転換するくらいしなくてはアステラの人々が「ハンターだから」で納得しないことはないのだ。
もちろん、ただ例のハンターがリアルの友達とボイスチャットしているだけなのだが。友達とプレイしているのにゆっくりスクリーンショットを撮りまくることもしないし、NPCに構う暇もない。口調もロールプレイをしていない素というだけのことだ。
しかしながら、アステラの人々にそんなことはわかりやしない。とうとう本当に狂人になったか……いつかそんな日も来るだろうとは思ってたんだ。という空気が流れる。
むしろこっちに構ってこないなら少々うるさいだけで万々歳ではないか。大声の独り言ぐらいなんだというのか。快適になるじゃないか。そう互いに励まし合う。
「ちょうどわたしの調査クエに歴戦四枠三十分、一乙アウトのナナがあるからさー。よーし、いこ! はやくいこ!」
もちろんこのハンターの「はやくいこ」はわざとである。
無邪気にはしゃぐ例のハンターが自分たちを欠片も気に留めることなく……これは通常通りだが……クエストボードに向かい、調査クエストを受注し、オトモをたくさん撫でてから、一日の出撃回数の平均を大きく超えてぐるんぐるんと戦場にとんぼ返りしているのを見るのはなかなかに怖い。
なおそれでも大のお気に入りのブリゲイドをキメるのをやめるつもりはないらしく、白に黄色を混ぜたなめらかな色をしっかり着こなすことはしていた。
しかし新色を着ているというのに決めポーズを三回しか取っていないのだ。どこかで悪いものでも食べた可能性がある。拾い食いしたのかもしれないが、ハンターにとってスタミナライチュウの拾い食いは基本なのでどこで当たったのかわからない。
そもそもあのハンターに中毒を起こさせるような劇毒がその辺りに転がっていると考えるだけで恐ろしい。
「……狂ったか」
「今更だろ」
飛び立って行った例のハンターの後ろ姿がすっかり小さくなると、誰かがぽつり。返事もぽつり。もともと狂ってるようなものだったじゃないか。そう励ますように言いたげな返事だ。
しかし、こうなるとこうなったなりに寂しいものである。
まだ、武器の使い方がちっとも理解出来なかった、最初の新米駆け出しの例のハンターのことを思い出す。女みたいな顔をして、その顔に凛々しい表情を頑張って浮かべ、ドスジャグラス程度にすさまじくボコボコにされながらもなんとか勝ってきた時の泣きの混じった笑顔。
小さいジャグラスについばまれつつも、照準の合わせ方も知らないライトボウガンをそこらじゅうに乱射して、なんとか勝てた時の恐怖と達成感のあった初々しい表情。
任務クエストで初めて歯が立たなかったモンスターの対策のために長いことうんうん悩んで、装備を恐る恐る更新し、試行錯誤を繰り返してようやく勝てた時の輝かしい笑顔。
何度も何度もテオ・テスカトルに負けて、初めて今の相棒である片手剣を握った日。火耐性を上げるために作った装備を緊張の面持ちで着て、救援まで呼んで勝てた時のやり切った顔。
そう、悪名、というかやばいやつだと広まる前の、ただただ無邪気で純粋に楽しんでいた普通の青年だった頃のハンターは表情豊かで純粋で、特にやばいやつでもなく、毎日楽しそうで一生懸命で、皆の弟として足る存在だったのだ。
それを思いだすと、今のすっかり狂ってしまった様子にはどこかやるせないものがあるし、なにかしてやれることはなかったのかとまで思ってしまう。
もちろん、ハンターは最初から特に何も変わってはいない。昔はメインのストーリーを進めるのに必死、中の人はハンター業をワールドからはじめたので、完全な初心者という二重苦だっただけなのだ。
つまり、やりたくても武具をつくりまくるなんてマネができなかっただけである。顔についてはしっかりキャラメイクしていたが、ナルシズムに浸るにも装備が訳の分からないキメラではそこまでやる気もしなかっただけにすぎない。
それにようやく勝てた時の純粋な感情も失っていない。ただ、勝てない敵がいなくなっただけのことで。モンスターのほとんどがソロで倒せるスナック菓子のような存在になっただけなのだ。モンスターが成り下がったわけではない。このハンターが立派に成長したのだ。
実際のところはそんなものなのだが、現状が酷すぎるせいで、美しい記憶によって美化された五期団推薦の例のハンターの昔を思うとなんだか泣けてきてしまったのだ。泣かなくていいのに。
「もっと話し掛けて、一人にならないようにしてやればこうはならなかったのかもしれないな……」
まったくもって的外れな話だが、アステラにしんみりとした空気が流れた。狂人となる前のハンターへの黙祷である。すっかり狂い、かつての彼は死んでしまったとでも言いたげである。中の人は特にスタンスを変えていないのに。
ひと狩りしに行ってから十数分後、見えない友人ハンターとともに馬鹿笑いしながら帰還した例のハンター。心底楽しそうに虚空に向かって話して、時折大笑いしているのを悲しく見ながら、人々はそっとしておいてやろうと思う。
どちらかというと、そっとしておかれたいのはアステラの人々の方なのだが。
「次! 次は何しよ! ベヒーモスの手負いの奴ならいけるでしょ! やったー! いこ! はやくいこ! 回復は任せて! ヒーラーやるよー、元気な広域キノコマンだよ!
えっと、じゃあ厄介な尻尾は……え、虫棒してくれるの? やった! 切ってね! 役目でしょ! ありがとう! え? わたしも切れ? もちろん、剣士の役目だからね! 頑張るよ!」
「ゆうた」発言はもちろんわざとである。発言のあとにハチミツくださいとも言っていないのにすかさず送られてきたのでハンターはますます笑い、過呼吸になりそうになりつつもテンション高く踊り始めた。
ただの相手の装備変更待ちである。基本ソロプレイヤーの彼は人並みに寂しがり屋であったので、ボイスチャット付きで遊んでくれる相手にテンション上げっぱなしなのである。
鼻歌でも歌いそうな楽しげな雰囲気に、アステラの人々のしんみりとした空気。グッピーなら死んでしまう激しい温度差がそこにあった。
なお例のハンターのオトモアイルーは狩り場でこのハンターの話し相手の女ハンターの姿を見ているので何らかの手段で話しているんだろうニャー、としか思っていないのでしんみりとした空気の意味がわからず、アステラで死人でも出たのかと首をひねっていた。
「よーし、ひと狩り行こうぜ!」
またハンターは嬉しそうにひと狩りしに行き、二十分くらいでまた楽しそうに帰還し、見えない相手と大笑いしながら次の標的を決め、またひと狩りし、また戻って……を深夜二時まで続けた。
つまるところ、アステラ的には数日続けられたわけだ。眠りもせず、猫飯はしっかり食い、疲れた様子もなく狩りを続け、話し相手は見えない相手。完全に狂人である。
しかしながら、やっているのは単なるボイスチャットである。
なので深夜二時になると流石に近所迷惑とか、親フラ壁ドンが懸念される。いつまでゲームやってるの! うるさい! 寝なさい! と親に言われてしまいかねない。友人相手との口論なら曲射で反論すればいいが、親フラに曲射するわけにもいくまい。最悪、ブレーカー落としの刑である。それは勘弁願いたかった。
そろそろまずいと思ったのか、中の人の次の日の予定に差し障るからなのか、ハンターは別れを惜しみながらボイスチャットを切ると、バタンと突然後ろに倒れた。
もちろんただ彼もログアウトして自分のお布団へ向かっただけなのだが、周りからすると数日狂いっぱなしのハンターがとうとう電池切れで倒れたわけだ。
流石に心配されていたのでオトモアイルーを手伝って例の星をマイハウスに運び込んでベッドに寝かせると、悲しみの表情で祈りを捧げられた。もちろん、例のハンターはそんなことを知らずに魂の抜けた体は普通に寝ていたし、中の人も楽しかった上機嫌のまま就寝しただけなのに。
それからしばらく、ハンターは妙にアステラの人々が優しいことに気づいたが特に気にすることなく普段の狩りライフに戻っていった。
ハンターさん
友達とプレイ出来て楽しい。まさか自分が狂人だと思われていることも知らず、楽しい狩りライフを満喫している。
装備はキメラ派。要するに普通のプレイヤー。
ハンターさんのリア友ハンター
ネナベではない。
おそらく、彼女のアステラで似た扱いを受けている。見えない相手と喋るのは怖いので。
ハンターの尊敬する装備一式派。キメキメのマムかエンプレスでやってくる。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー