ハンターさん、集めるのが好き   作:ryure

18 / 37
カッコつけたいハンターの日常の話。


ハンターさん、スタイリッシュにキメたい

「これ、巨人狩りのガスおよびアンカー噴出装置だよね最早。そうじゃなかったら流行りの赤いクモ男」

 

 例のハンターは機嫌よく腕を伸ばした。腕には今日も丁寧にピカピカに磨かれたスリンガーがきちんと装着してあった。一応ひと狩りしているところなので、装填してあるのは安定のスリンガー閃光弾である。ラスボスとマム、あのクルルヤック以外には迷ったらとりあえず閃光弾である。

 

「ニャ?」

 

 ハンターの言葉の意味がメタだったせいで理解出来なかったオトモアイルーが、可愛らしく首をかしげたのに顔をデレッとさせたハンターは、優しくオトモを抱き上げ、爽やかにお腹を吸った。いい匂いがした。

 

 そしてオトモアイルーを小脇にかかえると、スリンガーを発射してヒュンと移動し、例のハンターは楽しそうに高らかに笑う。続けて次の楔虫へ向けてもスリンガーを発射し、見事彼の体は地面に触れることなく宙を高速移動した。

 

 みんな大好き楔虫とスリンガーのスタイリッシュ移動である。古代樹の森の楔虫をもっと増やしてほしいというのが彼の最近の主張である。

 

 マム・タロト開催期間以外のこのハンターオススメの楔虫ポイントは、クシャルダオラの巣へ向かう途中の二箇所と、大蟻塚の荒地のジュラトドスとガライーバが戯れているところへ向かうところにあるやつである。

 

 陸珊瑚の台地の瀕死のキリンを追いかけるときに使う楔虫ポイントは、きちんと成功すれば爽快な上利便性も最高で楽しいのは間違いないが、注意散漫、ちょっとだけ中の人が方向転換が上手くないらしいこのハンターはなかなか成功しないらしく、簡単に爽快になれるところの方が好みなのだ。

 

 最近練習したこのハンター、陸珊瑚の台地のスリンガー移動も失敗が一回くらいになったので、ゆっくりと寝床で爆破されにくる哀れなキリンよりも先回りできるようになれたのだ。大好きなスリンガーポイントになるのは時間の問題である。カッコイイのための向上心は人並みではないのだ。

 

「誰よりも早くスリンガーを駆使してたどり着いたときって嬉しいからさ、こうやってソロのとき練習するんだ」

「ご主人は向上心に満ち溢れているニャ」

「ありがとうにゃんにゃんちゃん!」

 

 例のハンターは褒められたお礼に三回ほどスリンガーでヒュンヒュンした。狩りの最中ではあるが多少のロスで時間切れになってしまうようなハンターでもないのだ。

 

 スリンガー移動に満足すると、急いで討伐対象の近くのキャンプに飛んで狩りを開始した。今回の獲物はテオ・テスカトル、得物は片手剣である。

 

 ほかの玉と同様にテオの玉の在庫も、このハンターにはちっともないのである。計画性が欠片もない馬鹿故に。

 

 ヴァルハザクの玉だけやたら持っているハンターなのである。もちろん、一時期彼が、ネルギガンテではなくヴァルハザクを狩ることを日課していた結果なのだが、それをすっかり忘れてテオ・テスカトルのドロップ率が悪いのだと彼は信じ込んでいる。

 

 その後は、スリンガー移動の練習の成果を発揮するために狩りに行った歴戦王クシャルダオラにボコボコにされ、乙らずに済んだのは野良ハンターたちの心温まる手厚い介護のお陰だと風に切り裂かれてズタズタになり、血塗れだったためにいたたまれずに介抱してくれたアステラの誰かに語った。

 

 歴戦王に倒するガンナーのもろさは尋常ではない。生き残れたのはひとえに、ベヒーモスから広域化を積むようになった野良ハンターたちの優しさである。

 

 シールドをたくさん積んでも、ガード系スキルを積めるだけ積んでも、被弾するときは被弾するこのハンターは優しさを噛みしめたとか。

 

 このハンターはスタイリッシュ移動の練習の前に適切な避け方及びガードの仕方を学ぶべきなのだ。しかしながらなかなかそれを理解しないので慣れ、乙って覚えるしかないのだ。

 

 

 

 

 

「真溜めを弱点に当てた時と、竜の一矢が頭から尻尾まで突き抜けた時と、狙撃で飛竜を打ち落としてターゲットクリアした時と、空中回転乱舞で全身くまなく切り刻んだ時と、頭にスタンプしてピヨピヨさせた時と、スリンガーで移動が完璧にできた時と……うーんどれもスタイリッシュでロマンあふれる、最高だ」

「相棒って暗号みたいなこと良く言いますね」

「ところでお前さんいつもメシ食ってるけど胃はどうなってる?」

「え?別に普通ですよ」

 

 愛用のマム・タロト産双剣を撫でさすりながら例のハンターは、うっとりと受付嬢相手に語っていた。ロマン戦法が大好きなのだ。実行できる腕前はないのだが、とにかく偶然成功した時にテンションが振り切る程度には好きなのだ。

 

 受付嬢はまた始まったと思いながら話をほとんど聞く気がない。誰よりも例のハンターの扱い方を心得ているのである。扱い方というよりも自分が振り回されずに済むスルー方法とも言うが。

 

「明らかに自分のボウガン殴りでモンスターをスタンさせた時脳汁出る……タックルで一人だけ吹き飛ばされずに殴り続けた時のアドレナリン量……エリア移動のために背を向けたモンスターにすかさず乗る片手剣……」

 

 例のハンターは会話をするよりも自分の中にあるスタイリッシュなことに夢中になり、突っ伏した。めくるめく妄想の世界の中のカッコイイ自分は決して足削りで膝をつかないし、起き攻めで乙らないし、散弾のダメージがうまく当たらなくてすべて「1」だったりもしないのだ。

 

 ブツブツとカッコイイロマンなワンシーンについてつぶやく不気味な例のハンターがいるので今日も食事場の営業妨害は甚だしい。

 

 カッコよくてスタイリッシュなハンターになりたいのだ。その為にオレンジのブリゲイドの帽子は食卓の上に置いてあり、最近一番カッコよかった自分の象徴であるダイバー+ドラケンの重ね着を着ているくらいである。

 

 食事が届けばシュノーケルを外すので、周囲のハンターから浮いた白い肘が眩しい鎧男になることだろう。

 

 運良く、否、運悪く食事場で鉢合わせしている他のハンターは、どんな恰好をしていてもブリゲイドの帽子を手放さない彼の美学に呆れ、少し感心しつつも絶対に関わりあいになりたくないため目の焦点を意図的に外して遠い目をしていた。

 

 万が一、突然起き上がりでもした例のハンターと目が合ってしまうなんてことが起きないように。

 

「ランスだったら全身ガンキンでガードをし続けるとか最早鉄壁の守りすぎてカッコイイし……」

 

 ムニャムニャ言いながら例のハンターはゆっくりと動きを止めた。アステラの人々は無茶苦茶な動きをしたせいでポックリしたのかと生存が気になったが、単なる寝落ちである。注文を言う前に寝落ちしたのでハンターはその後数時間ほど食卓に放置された。ログアウトしていないので下手に動かせないのだ、システム上。

 

 アステラ的には数時間後、ハッとなって起き上がったハンターは何故かおどりはじめたりしたが、そんなことはアステラの食事場担当アイルーたちにはどうでもよかった。そこにいるだけで営業妨害なのでさっさと退散してくれと思っていただけなのだ。

 

 中の人的には珍しく、リアルには十分ほど寝落ちしてから起き、トイレに行く前にハンターを踊らせておいただけなのだが。連続狩猟は時に眠気をもたらすものなのだ。もっとも、眠気の象徴たるマム・タロト第一エリアほどの眠気はなかったのですぐ起きたのだ。

 

 眠気も覚めてスッキリしたハンターは、清々しい顔で定食を完食すると今日のネルギガンテをひと狩りしに行った。

 

 運悪く、救援参加先の立て主が戦闘に絶妙に参加しない位置で突っ立っていたので剥ぎ取り後にぼこぼこにそいつを切り刻んで、機嫌悪く例のハンターがアステラに帰還した……という、アステラ的には完全なるとばっちりで恐慌状態になったりもした。

 

 アステラ的には散々な日である。

 

 その後、このハンターはゲームと全く関係の無い相手と通話しながら狩りを始めたので、声は聞こえないが表情が一人でやたらうるさいハンターを不気味がったり、あと少しで勝てたのに帰還になった狩りのあとは板張りの地面だというのに例のハンターの地団駄が凄まじかったりもしたので、ともあれ迷惑である。

 

 例のハンター曰くの「スタイリッシュでカッコイイ」に真の意味でなるのにはまだまだ時間がかかるのである。

 

 普通の思考で考えるなら、やるべきことは装飾品集めおよび素材、ゼニー集めだというのに歴戦王に挑みまくってカスタム石を集めているところからして、計画性も何もないライトなハンターはそれでも日々幸せなのでもうなんだっていいのである。

 

 今日も中の人はニコニコ笑顔で椅子に滑り込み、ピッとP〇4の電源を入れてワクワクしながらコントローラーを握り、モンスターハンターワールドを起動する。すると、例のハンターの魂は宿り、赤毛のポニーテールの男はマイハウスのベッドの上からムクリと起き上がって、流通エリアのボード前に移動する。

 

 そして操作可能になるとまず、さんかくを押してログインボーナスを受け取り、今日のブリゲイドの色を決め、ノリノリで決めポーズを取って今日のスクリーンショットを撮る。

 

 準備体操にネルギガンテを倒してから本命のネルギガンテか配信バウンティのターゲットを倒し、その後なにかほかのモンスターに挑んで満足してログアウトするのである。

 

 ゆっくりゆっくりと装備を集めながらのんびりエンジョイするのである。アステラ的にはめまぐるしく狩りをする狂人で、稼いだだけ金をつぎ込む馬鹿だが、その実態はただの着せ替え好きなのんびりしたライトプレイヤーであり、彼への認識には温度差も勘違いも多分に含まれているのだ。

 

 しかしながらそれは永遠に解決することなく、ゲームシステムによって守られた不死のハンターは今日も幸せなのである。




ライトプレイヤーなカッコつけハンターさん
一日一ネギ、三日で三ネギ、三ネギ狩って玉落ちない。ドロップ率うんぬんよりもライト過ぎて討伐数が少ないだけの可能性がある。とはいえ狩る日は十も二十も狩る。
スリンガー移動を完璧にしたその時、ハンターのテンションはおどりだしたいくらいになる。空中回転乱舞が成功すると、明らかに調子に乗る。
そろそろ身だしなみチケットを買うことを検討しているが、どうせほとんど分からない微調整しか予定していない。

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

  • ゲームシステムによるもの
  • クエスト頻度、難度、クリア時間
  • イベント関連
  • メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
  • アナザーストーリー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。