「殺すつもりはなかったんだ、信じてくれ!」
激しい土下座モーションでクエストボードに向かって謝る例のハンターのことを、流通エリアのアステラの人々はなるべく見ないようにしていた。今日も絶好調に迷惑である。
例のハンターの背中には、うっかりした「討伐」に用いた凶器たる愛用の竜熱機関式【鋼翼】改があった。そして殺してしまったのは素材のために受注した捕獲クエストにて犠牲になった下位ボルボロスである。
しかも、うっかり討伐してしまうのは、本日すでに二回目である。現行犯であっても、それがフリークエストのなかの「捕獲クエスト」を受けたハンターとして正しいことではなくとも、少なくとも爆弾そのものであるこのハンターにわざわざ罰を与える命知らずな人間などいないので、そうまでして謝る必要も無いのだが。
そもそもだ。最早災害と言っていいほど強大な力を持ち、環境をも動かす古龍すらたった十五分ほどで片手間に狩るということを繰り返すハンターなので、間違って討伐したことくらいわりと些細なことなのである。
一応述べておくと、ハンターはむやみやたらに殺生を行ってはならないものなのだ。狩猟の最中に討伐してしまったモンスターは事細かにギルドに報告しなければならない。たとえそれが小型モンスターであっても。
ハンターはあくまでハンターであり、生態系の蹂躙者ではないのだ。まあアステラ所属のハンターの場合、所属していないのでギルドには報告しないのだが、事細かに討伐したモンスターについて報告するのは似たようなものである。
なので罪悪感を感じること自体は間違いではない。だが、そんな良心がこのハンターにあったところでそれよりも先に正すところがあるだろうと見られるのがオチである。普段の行いは大切である。
さらにこのハンターの話をすると、これまた別にわざと討伐をやったのではない。他のハンターにはなかなか理解できないことだが、まだ数発はいけると思ったらあっさり死んだらしい。殺す気はちっともなかった、というのは真実の言葉なのだ。質が悪いことに。
他のハンターにとって最も理解不能だったのは、戦っている相手の生命の息吹を感じることもできない例のハンターの鈍さではない。討伐と捕獲を間違えたのに、口ぶりがあまりにも軽かったことだ。
緊張感の元、命のやり取りをしている狩り場で、相手が捕獲できるとみればさっさと試みて命があるうちに帰還したほうが良いはずである。
しかし、このハンターの言葉を信じるなら、捕獲できそうにない程度の活きの良さだったので追撃をすべきだと考え、しっかり会心の真溜め斬りを弱点に当てた瞬間討伐になってしまったと。前回の「うっかり」に至っては、坂にいた瀕死のボルボロスを見てつい一発くらいいけるだろうと空中回転乱舞を仕掛けたところ、見事にお亡くなりになったとか。
アステラ的には的確かつ、馬鹿力かつ、人並み外れたハンターの言うことはなかなか理解し難いが、まぁ、嘘をつくような人間でもないのでそうなのだろう。行動は馬鹿すぎる。
真溜めの方に至っては、踊るオレンジの数字は九百を超えていたとか。アステラの人々には数字の意味はわからないが、話を聞いたアステラのハンターたちは瀕死寸前の下位個体にやるものではないのだろうな、と推測した。
「ブロスシャッター作りたいんだ、お願い捕獲するまで死なないで!」
「捕獲クエストを受けなければ解決しますニャ。討伐しても達成ニャ」
「捕獲クエストの方がちょっとだけ報酬が高いんだよ!」
「本末転倒ニャ……」
下位クエストの報奨金に対して叫ぶほど、無様な金欠なのである。
そのため、オトモの正論な言葉にもこの始末である。ブロスシャッターの素材のために下位のクエストに入り浸っていたハンターは絶妙な手加減を必要とする狩りに少々手が滑りっぱなしなのだ。
土下座をようやくやめたハンターは、あとどれくらい素材が必要かを確かめるべく、ウィッシュリストを開いた。やっぱり必要だなぁと呟き、一応、上位の素材と勘違いしているのではないかとR3を押し込んで素材にカーソルを合わせた。
アステラで生きているハンターとしては、手帳に挟んだ覚書を読んでいるだけだったが、中の人がプレイヤーなので素材の詳細がわかるのだ。
その瞬間、すべてを理解した早とちりのハンターは泣き崩れた。
必要だったのは下位のボルボロスではなく、下位のディアブロスの素材だったのである。なぜ間違えたのだろう、と泣き声が聞こえていたアステラの人々は不思議がったが、例のハンター的な思考では簡単な話である。
まず、ブロスシャッターを作るまでにこのハンターに必要だったのはボルボロスの下位素材である。そして、生息地と色が似ていて中の人的には混同しやすいのである。突進もするし、と言い訳は重なる。
武器の名前も紛らわしい。「ブロス」シャッターなのだ。「ボロス」シャッターではないが、似ている。なので、今までボロス素材が要求されていてもそんなものかで済ましてきたのである。たった一文字、されど一文字。武器の名前すら脳内では一文字勘違いしていたのである。口ではしっかり「ブロス」シャッターと言っていたのに。
謀られた! と、今日も狂人と囁かれるハンターはますます暴れた。駄々っ子のようである。転がり暴れるハンターに人々は遠巻きにするしかなかった。背中の武器が床板を削らないか戦々恐々とするしかない。
彼的には、この二匹は良く似ているらしいのだ。どちらも、このハンターが大好きなパワー系のモンスターなのである。言われてみれば……似ているように感じるような、感じないような。生息地が同じ大蟻塚の荒地であり、突進攻撃をしてくるという点も似ている、縄張り争いだってする、とハンターは叫ぶ。
このハンターにとって、パワー系のモンスターといえば、ボロス、ブロス、ネギなのだ。お気に入りのモンスターであるネルギガンテとはこのハンターも流石に間違えないが、前者二種はひとくくりにしているらしい。アステラ的には知ったこっちゃない。
しかし嘆いていても武器は出来上がらない。このハンターは久しぶりにハンマーでネルギカンテと戦いたくなったのだ。それが全てのはじまりで、元凶なのだ。彼は豪快かつ爽快に角をへし折りたかったのだ。
とりあえず、最近は色々と装備が増えたのだから以前と環境が違うだろうと考え、攻略を参考にすると無属性最強! という言葉に心惹かれてボルボブレイカーⅢとカオスラッシュをとりあえず横に置いておいて、新たな武器を追いかけ始めたのである。
ブロスシャッターⅡは追加武器ではなく、前からある武器なのだが、以前は攻略すら見ない本物のライトプレイヤーだったので気付きもしなかったのである。
しばらくして、例のハンターは弱々しく起き上がると、ぶんどり刀を装備している頼もしいオトモをぎゅっと抱きしめ、武器をしっかり担ぎ直した。そして下位のディアブロスをひと狩りしに行った。
いや、素材が集まるまで狩り続けたので「ひと狩り」では済まなかった。
「殺さずに……殺さずに……」
「?」
ともあれ狩りである。ハンターなので狩りをするのである。狩りをしなければ、このハンターはコーディネーターとでも名乗った方が正しくなってしまう。
例のハンターは、制限人数二人の救援参加で上位のディアブロスを狩っていた。立て主のペアの相手は野良によくいる中の人的には異国のハンターらしく、ハンターの低い祈りの声が理解出来ずに首を傾げる。
わざわざ上位にも出向いているのは、言うまでもないが下位の素材が解決してもやっぱり素材が足りなかったので。このハンター、素材はあるだけ使うのである。つまり上位素材もスッカラカンであった。
今回必要なのは上質なねじれた角である。角破壊ならそれこそハンマーを担げば良いものの、ハンターはめげずに大剣を背負っていた。シビレ罠を仕掛けて頭をタコ殴りにすれば同じだと考えたのである。
なお、やっぱり慣れた武器の方が立ち回れるので実のところ、空振りがほぼない片手剣の方がダメージが出ているときもあるのだが。頭一点狙いならば間違った選択でもない、とフォローができる。
しかしながら、一撃ダメージの爽快感にハンターは完全に盲目になっていた。
「……罠、設置」
「(グッジョブのスタンプ)」
とはいえ大剣とスラッシュアックスの組み合わせで角を両方折れるだろうか。このハンターはライトな中堅プレイヤーである。プロハン並みに上手いとは言い難い。
シビレ罠の中で麻酔が効いて眠りに落ちるディアブロスをハンターは恨めしく睨んでいた。片角しか折れなかったのだ。
しかしめげない。諦めない。続けて彼は救援参加した。何やらその調査クエストは、見覚えのある表記だった気がしたが、特に気にせずに彼は飛び立つ。
「……こんにちは」
「? (グッジョブのスタンプ)」
さっき別れた相手と対面した。
あるあるである。素材のために同じモンスターをターゲットに救援参加すると、同じ人に当たり続けることがあるのである。このハンターはちょっと気まずいような、嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちで挨拶したが、相手は異国のハンターである。通じていないようだ。
しかし言葉など些細な問題なのだ。
挨拶に不思議そうな顔をされただけで、ディアブロスを発見するや否や二人して襲いかかるのみなのである。狩りの最中となれば言葉の壁など関係ない。大抵の定型文は見慣れているので意味が分かるし、共に駆け抜けると友情が生まれないこともないのである。
二人のハンターは手早くディアブロスを捕獲ラインまで押し込むと、また角を両方折れずに捕獲した。そして捕獲と同時に乱入して来たディアブロス亜種に仲良く吹っ飛ばされて同じように起き上がり、クリアの表記と共に全く同じ動きで勝利に頷いた。
稀に、しかしよくある光景である。矛盾しているようだが、プレイヤー的にはそんなものである。
もちろん素材が足りないのでハンターはすべてを返上してディアブロスを狩り続ける日々となったが、そのような武器を求めて戦い続けるというのも醍醐味なのでこのハンターは今日も幸せである。
砂地に眩しい白いブリゲイドの帽子をオシャレに被り、しかし連続狩猟し続けるためナルシストにスクリーンショットを撮る暇もなくあくせく狩り続けた。
武器が完成した暁には、きっとこみ上げる幸せが格別だと信じて。
殺す気はなかったハンターさん
戦うからには殺す気で戦っていたが気づくと討伐していて自分の罪深さに戦(おのの)いたらしい。叩き込めるときには全力を出す、後先のことは考えない。ほとんどバーサーカー。
一番活躍していたオトモ
ぶんどり刀で素材を集めるという点で実は最も活躍していた。お陰で何回か狩りの回数が削減された。
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アナザーストーリー