ハンターさん、集めるのが好き   作:ryure

20 / 37
武器を変えた時の挙動の話。


ハンターさん、間違える

 突然トチ狂ったのか、全身色がだんだんと変わりだす未知の技術の結晶たるブリゲイド一式(重ね着)をまとった例のハンターは、本日の得物である巨大なハンマーを抱えて顎を乗せ、駄弁っていた。

 

 さっきまではその体勢のまま、ハンマーの斬れ味とは? と哲学をしていたがすでに飽きたようである。結局結論は出なかったが、近接武器でスタン値最強は斬れ味の落ちないボウガン殴りなのだと騒いでしばらくうるさかった。

 

 彼の中でボウガンは撃つものよりも殴るものなのかという疑惑があるが、人よりちょっとボウガン殴りに興奮を覚えるだけなので大した問題ではない。

 

 もちろん、そんな彼の隣には白くて可愛いオトモがちょこんと座っている。

 

 場所は流通エリアにある、世界樹の前にある短い階段である。座って足をぷらぷらさせ、あくせく働く人たちをぼんやり眺めながらだらだらしているのだ。ちょっと欠伸をしたり、友人にボイスチャットを繋ごうとして繋がらなかったり、手鏡で髪型をチェックしたりと、さながら休み時間の女子高生のようである。

 

 いくら顔が角度によっては性別不詳だろうと、綺麗に髪を結っていようと、ここまでくると外見がどうであれなにも周りの対応は変わらない。抱えている武器があまりにも凶悪であり、やらかしてきたことも膨大である。そしてそこにいるのはもちろん、古龍狩り大好きな、つまり天災よりも強い例のハンターなのである。

 

 なので、例のハンターの中の人が想像しているような、「たまには休息をする中性的イケメンハンターのわたし」では全くない。狂人の休息にすぎない。

 

 とはいえ下手に通路に突っ立たれるよりは邪魔ではないので、アステラの人々は例のハンターが突然暴れないか確認のためにチラ見しながらも安心していた。いつもそこにいてくれと切に願いながら。

 

 先日は、ようやく完成したハンマーに例のハンターの琴線が振れたらしく、長いこと邪魔なところで踊り狂っていたのだ。それに比べれば特に問題はない。

 

 ヤッター! デキタ! ワーイ! カッコイイ! デッカイ! ツヨーイ!

 

 こんな言葉ばかり聞こえてくる狂喜乱舞にはもううんざりしていた。喜んでいる姿は感情が素直で結構なのだが、とにかくいる場所が邪魔なのである。強引にどかすことも出来ない相手なのが最悪なのである。

 

「せっかく最強のブロスシャッターを作ったのに、あんなに楽しかったもちつきに失敗したからさ、改善策を考えるべきなんだ。思うに大剣やりすぎてボタン操作がそっちに染み付いちゃっているんだなって」

「ご主人さっき、避けられないで吹っ飛ばされてたニャ。他の武器を使ったら前の武器のことを忘れるのかニャ?」

 

 なお、プレイヤーたるこのハンターは、しっかりシステムに守られているので本当なら首の骨でもへし折って死んでいたような一撃を受けたが、体力を半分ほど削られただけでピンピンしている。古龍との戦いでは欠かせない硬化薬様様であるが、それにしたっておかしい。

 

 それから、モンスターの攻撃を避けられずに吹っ飛ばされるのは被弾の多い彼には日常なのだが、優しく可愛いオトモアイルーはあたかも武器が不慣れだったから避けられなかったように話した。

 

 防御バフを使うように、彼は自分のプレイングスキルにはそれなりの自覚があったが、やはり気にしているので、オトモはなるべく触れないようにしているのだ。

 

「うん、おおむねそう。それだよ。大剣のあとの片手剣でシールドで叩く方の派生がやりにくく感じたり、ヘビィのあとのライトで照準合わせてなきゃ駆け回れることを忘れてたり、久しぶりに弓使うと、スティックの入力忘れててチャージステップじゃなくて普通に転がって回避したりするアレ」

「ニャア……」

 

 ハンターのオトモは、「そんなわけあるかニャ」とか「なんで今まで死ななかったんだニャ」とか、オトモらしからぬ暴言に近い言葉を言いそうになったが何分付き合いも結構長くなってきたので、喉にこみ上げてきた言葉を飲み込むことに成功した。

 

 判別できない言葉を除いても、このハンターが言っていることはかなり無茶苦茶である。それでも命を張って狩りをしているハンターなのだろうか。ここまで生還してきているので、その実力には間違いないのはアステラの誰だって知っていることだが、心構えが適当すぎるのである。しかしここのアステラ的には、幸か不幸か、導きの青い星なのである。

 

 例のハンターのオトモ含め、今日もほかの誰にも共感されない狂人ハンターの言葉。そもそも複数の武器を使いこなせるという時点でかなり稀有な存在になっているのである。だというのに適当すぎるのである。

 

 その稀有なハンターが、前の武器の使用感にひきずられて武器の使い方が適当になるなんてことがあるのだろうか。あってたまるか、と言いたいのだ。うっかり話が聞こえてしまったアステラの一般的なハンターにはそんな与太話みたいなこと、ひたすら疑問だった。

 

 そもそも重さや構えから違うのにそんなの間違えっこないだろう、とも。ハンマーも大剣も重い武器だが、明らかに重心が違うのに、と。

 

 しかしながら、このハンターには画面の前の中の人がいるのでそうもいかないのである。

 

 所詮はコントローラーのまるやバツやさんかくのボタンをポチポチ、スティックキーを適当に傾けて、振動を楽しみながら操作しているに過ぎないのである。さっきまで大剣を担いでいたのなら、突然ボウガンなんて持つと照準も合わせずにぶっぱなす真似をしたりするのだ。

 

 いや、これは誇大表現がすぎたかもしれない。流石に近接武器から遠距離武器に切り替えた直後は、操作感が違いすぎて逆に間違えたりしない。モンスターとの距離のとり方から違うからだ。見え方が違えば間違えないものである。

 

 だが、大剣とハンマーなら? もしくはガンランスとランスなら? このハンター、いまいち頭がよろしくないのか、さっきも溜め斬りのつもりでハンマーを振り回し、ランスの突きのつもりで撃ち込んだガンランスの砲撃の連射により、弾切れをアッサリ起こすのだ。

 

 そして、なんとか思い出したリロードに手間取ってよく吹っ飛ばされる。その腕にある盾はなんのために存在するのか。状況をじっくり見極めて隙を見つけ、行動するのがモンスターハンターだというのに。

 

 しっかりしてほしい。だがこのハンターにとってはそんなものなのだ。

 

 事実、ようやく作った新しいハンマー片手に喜び勇んで突撃したネルギガンテに、よりにもよって大剣の要領で攻撃したハンターは、攻撃力の差が300ほどあり、装備の組み方によって大剣よりも高かったというのにダメージは三分の一ほどに落ち込ませた失態を犯した。

 

 ただただハンマーが下手なのか。否と言いたい。下手というよりは不慣れなだけである。もっと言うなら対応力の欠如というだけの話なのだ。使い慣れていないのが下手だ、と彼は認めたくなかったのだ。

 

 それを一般的には下手だというのだが、負けず嫌いな例のハンターはNPC相手には絶対に認めやしないだろう。中に人がいるどこかのハンターに言われたら認めつつも立ち直れなくなるのでやめてあげよう。

 

 すべて、慣れが肝心なのだ、という信条でハンターをやっているのだ。久しぶりというのは万物の大敵である。ビギナーでもないのでラックもよくない。たまたま上手くいくなど古龍相手にもはやありえない。

 

 あんなに正面から頭をぶっ叩きたかったのに、すっかり大剣に慣れきった例のハンターは、悲しい顔をして練習あるのみなのだと結論付けた。向上心は人並みにあるのだ。

 

 真剣な顔をして立ち上がると、凝りもせずにネルギガンテのもとへハンマーを担いでひと狩りしにあった。もちろんハンマーの腕に自信がないので救援参加である。

 

 

 

 

 

「気づいた。ハンマー用のカスタム石がない。つまり今なら歴戦王クシャルダオラがある。散弾ぶっぱなしてカスタム石を拾おう。攻撃力強化を盛りたい。ということでいこ!」

「ご主人それヘビィボウガンニャ?」

「クシャルダオラにハンマー担ぐのはプロハンだけだって……」

 

 プロハンだけという割には結構見たことはあるし、見事に戦っているのをついさっきも拝んだこともあるハンターだったが、自分ができるかといえば絶対にノーなのである。それならばまだ一撃死する可能性が高い弓で戦った方が竜巻にやられない分役に立てるというものなのだ。

 

 イマイチキマっていないが、それでも、歴戦王たる古龍をたかだか武器を強くしたいというだけの理由で乱獲するのは十分に頭がイカれているので誰も何も反論しないのだ。

 

 このハンター、アステラ的には強いのである。ここのアステラ的には。なにせここの主人公なのである。ストーリーをクリアし、さらに「導きの青い星」をクリアしている時点で問答無用でアステラ最強なのである。こんな武器を変えるくらいでしばらく戸惑ってしまうようなライトプレイヤーでも、だ。

 

 出発前に、今日のスクリーンショットタイムをふんだんにとり、いつも通り流通エリアの人通りが多い場所で邪魔しまくった例のハンターは、自分の理想の美貌にすっかり見蕩れていたので周りのことなぞどうでもよかった。それだけで上機嫌になるお手軽な脳みその持ち主である。

 

 しかし、乙りたくはない気持ちを人並みに持ち合わせているのでアイテムの確認はしっかりし、オトモに今日も頼むよとしっかり話しかけ、頭を吸い、爽やかな表情になると装備の確認はせずに飛び立って行った。

 

 しかしどこか抜けているハンターの失態は、ベヒーモス用のヘビィボウガン装備で飛び立ってしまったことだ。武器が同じく賊ヘビィなのである。装飾品だけ違うのでぱっと見ると区別がつかないのである。

 

 だけども、装備マイセットの名前もきっちり変えているのに間違えるとは、なかなかにそそっかしい。

 

 もちろん現地でもちゃんと装備を変えることができるのだが、気づくまで、風圧耐性を組んでいない装備で盛大によろめいているあいだに吹っ飛ばされ、それによって見事に何度か乙ってキャンプに戻ってくるところはこのハンターの間抜けなところである。

 

 しかしながらそれでも勝ってはくる。それくらいの腕なのである。

 

 一日の日課を超えた回数を出撃して、ようやっと手にしたハンマー用のカスタム石を手に、ハンターが嬉嬉として加工所に駆け込んでいくのが見られたのは、アステラ的には数日後のことである。

 

 もちろん、素材資材がいつだって枯渇寸前のこのハンターである。ただでさえ新しいハンマー装備のために防具をしこたまカスタム強化したばかりのハンターである。カスタム石はあっても、ゼニーも宝玉もちっともないのだ。

 

 頭が回っていないハンターは、金の竜人チケットの存在も忘れて半泣きで足りない宝玉を狩りに行ったり、腹いせに追い剥ぎの装衣を使ってモンスターたちに八つ当たりしたりしながらなんとかカスタム強化を終わらせたのだ。

 

 プレイ時間が短いライトプレイヤーな中の人は、毎日ここまで長いことプレイしない。そこまでやるともう座っているだけで腰やら頭やら首やらが痛くなってくるのである。ゆえに、ハンマーのカスタム強化を終わらせ、しばらく無言になってセーブを終わらせた瞬間、このハンターはばったりと倒れた。

 

 ただのいつものログアウトだが、アステラの人々には狂人ハンターの電池切れと認識されているため、オトモアイルーが一生懸命足を掴んでマイハウスへ引っ張っていくのを少し手伝った。

 

 いつも通り、この時だけ立ち入る例のハンターのマイハウスには所狭しと装備が飾られ、少々薄暗い部屋の中で愛する装備に囲まれてすやすやと眠る彼はとても幸せそうに見えたらしい。




武器の切り替えが下手なハンターさん
装備武器を変えてすぐは、しばらく挙動がおかしくなるくらいはいつものこと。その程度では歴戦王が相手でなければ死なない程度のプレイングスキルだが、大抵いつもちょっと狂う。
今日の疑問「片方しか研がない双剣の斬れ味、本当に戻っているのか?笛の柄を研いで何か変わるのか?」




これにてネタ切れなので、次のイベントクエスト配信でネタ仕入れてきます。祭りと重ね着、次の歴戦王やモンスター追加で更新できるはずです。なにもなくとも思いつけば書きます。
これからもワールドを楽しみながら書いていきますので良ければお付き合いください。

ここまで読んでくださったすべての読者の方に感謝を。本当にありがとうございます!



いつもぶつかってばかりいるアステラの人々に謝罪を。この作品の最初のきっかけは、流通エリアを爆走してぶつかった時にハンターが謝っているようなそぶりをしているのをみて、「この世界で生きているハンター」と「中の人はプレイヤー」の認識が生まれたからです。私は本当にぶつかってもNPC相手に何も感じなかったのに、ハンターさんはきちんと謝っている。そんな温度差が素敵に感じられたのです。
ありがとう、アステラの人たち。そしてごめんなさい、これを書き始めてからは避けるようにしてるけど、これからも多分ぶつかります。

アステラにて……クエストボードの前で進行の邪魔をしたり、加工所の前で足止めしたり、本当はプレイヤーが中にいるハンターさんは今日も「なんだこいつ」と思われているに違いない。

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

  • ゲームシステムによるもの
  • クエスト頻度、難度、クリア時間
  • イベント関連
  • メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
  • アナザーストーリー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。