「ドーレーニーシーヨーウーカーナー、テーンーノーカーミーサーマーノー」
「言ーうーとーおーりー、ニャー」
「イエーイ! ラーイートーボーウーガーンー撃ってバンバンバン! もひとつ撃ってー、ヘービィボウガン! 狙撃! あー、バゼルね、オッケー!」
例のハンターは流通エリアのクエストボードを占拠しながら高らかに妙な歌を歌っていた。いっそ禍々しく聞こえるその歌は、今からせいぜい十数分で狩られるモンスターを選ぶためだけに歌われる無慈悲なものだ。
わざわざ歌う理由も、大したことがない。このハンターにとってはほとんどのモンスターは同じなのである。だから選びかねた。一応、多少の得手不得手はあるし、武器の相性ももちろんあるが、勝って帰ってくるという点では同じである。
現在開催されている、豊穣の宴。季節に一度のアステラ祭。つまりこのハンターにとってはイベントクエスト全解放である。あっちもこっちも普段はできないので目移りし、どれを狩ろうか迷う贅沢な期間なのだ。
とはいえ、すでにやるべき事は終わっているのであとはただのんびり楽しむだけなのだ。やるべき事とは、もちろん、新しい双剣や重ね着を手に入れることをさす。取りこぼした装備もすでにすべて作り終えた。
やることもないので歴戦王クシャルダオラにも日参し、シールド散弾ヘビィボウガンで狩るのも慣れきって、もはやスリルを味わってワクワクしたいだけの理由でイビルジョー弓のおやつ感覚にしているこのハンター、そのクシャルダオラ用の弓装備を作った反動でいつものように財布がカラなのであった。
装備はあっても大半の強化はまだなのである。装備を作るとほぼ確実に三部位はカスタム強化必須である。
いくら慣れたとはいえ、相手はガンナー殺しの歴戦王である。防御に余念をなくそうとすれば、カスタム強化が必要で、それにはやたらと金がかかるのである。
しかしながら、金が普段より手に入るゆえにとうとう防具製作は一周したので、あとは素材不足で作れなかったものがいくつかと、竜玉不足で作りあぐねたものがいくつかあるだけなのだ。少しは余裕が生まれた。
だからといって、このハンターの歩みは止まらない。仮に防具をコンプリートしたらなんだというのだ。全てを作っていない武器があるではないか。もちろん、コンプリート好きのため、ほとんど手を出していない武器種も全て作ろうと決めている。
大剣なんてコンテスト大剣しか作っていないハンターである。それで事足りてきたせいであるが、それゆえに道のりは長い。
それに、こっちには四列ほどしか作っていない護石があるではないか。オトモの武具だって半分も作っていない。それにマム武器コンプのイバラの道にいずれは分け入らなければならぬ。まだまだやる気なのだ。
もちろん、武器の新作を作る事にスクリーンショットタイムを取るのでこれからも邪魔度合いもテンションの高ぶりも特に変わることはないだろう。
自分の理想を集め、表現した麗しの自分の顔を鏡で見て、恍惚としながらも、どこまでも彼はハンターなのでハントすることには余念が無い。とりあえずMHW式選び歌の指が選んだ、イベント歴戦バゼルギウスを狩ることにしたので装備を整えた。
もちろん相手の火力が強いなら、こっちも高火力に紙装甲の弓を使いたいお年頃なのである。ということで、トビカガチのもふもふぱちぱちの弓を背負いながら、例のハンターは太刀使いになりたいとこぼした。チャアクもスラアクも「よく分からない」というだけの理由で使用回数がそれぞれ2、0、0のハンターである。
太刀ってどうやって使うの? 何? ゲージ? 練気溜め? 難しそうに見えてやっていることは大したことではない? 見切って兜割り? 何を言っているんだ、わたしは溜め斬りループの片手剣が友なんだぞ、難しいことを言わないでくれ!
理解する気がない鳥頭のハンター、新境地へ踏み込むのを極度に嫌う。とはいえ、この前まで同じノリだった弓、大剣も踏み込んで沼にはまっていき、気づけばそれなりに使いこなし、専用装備を作るためにゼニーを溶かし続けているわけなので半年から一年後には普通程度には使いこなしているはずである。
ワールドからの初心者ハンター、長所といえばすべての武器が分け隔てなく慣れていないのでなにかに凝り固まっていないことにある。
ともあれ今はやる気がないので気になるだけにとどめ、例のハンターは指笛を吹いてひと狩りしに行くのだ。歴戦だろうがバゼルギウスには変わりない。
全身柔らかく、しかしながら攻撃を食らえば一撃死の危険もあるピーキーなモンスターである。つまりスリルがあり、楽しいだろうとこのハンターは考える。
とても気に入ったギルドクロスのマントを風にぱたぱたさせながら、例のハンターは悠々アステラを闊歩して、次の狩りを心待ちにしながらご飯を食べた。
「何度見ても可愛くない? 見てよこの、可愛い顔したフワフワクイナの双剣! こんなのどう見ても切れるわけないじゃねぇか。睡眠属性って柔らかさで心地よくなってモンスター寝てるんじゃね? ……ふわー、いやこれすごい、ふわっふわっしてる、なにこれ。顔をパタパタすると……寝……いや大丈夫、大丈夫だから」
例のハンターは途中で自分が男性アバターであることを思い出して少し口調に気をつけながら、フワフワの慈愛に頬擦りした。ロールプレイを大切にしているのである。気にするべきはそこではない。
しかしながら、本人の思う、中性的な美人のそれなりに強いハンターはクールで冷静である、という考えからは完全に離れた狂人として扱われていることには気づいていない。本人のロールプレイの決意も秒速で崩れ落ちることすら気づいているのか。
今日も双剣に頬擦りし、オトモを膝に載せてよちよちしているが、さっきまで歴戦王の古龍やら歴戦飛竜やらを狩りに死闘を繰り広げていたと思えば、これである。
こいつはどんな神経を持ち合わせているのか、と見られても仕方がない。自分の生活の温度差についてなにか思うことはないのか。
例のハンターなら考えることすらないだろうな、とアステラのほかのハンターはすぐに思った。
「確かに変わった双剣ですね」
「だよね、じゃなくて、だよな! あー可愛い、ほんと好きだ。トビカガチ一式着てひと狩り行きたい。スキルが噛み合わねぇから重ね着が欲しい。フワフワ、もふもふ、フワフワな慈愛!」
「……相棒ってなんでハンターしてるんですか?」
それならいっそコレクターにでもなったほうが良かったのでは。金欠に陥ること以外問題に見えない。受付嬢はわりと真っ当な感想を抱いた。しかし、相手は中の人という魂を持つ真っ当な人間とは言い難い存在である。
そして、高給取りのハンターである今でさえ金欠なので何を言っても無駄である、という点にすぐさま気づけないところがまだまだこのハンターを理解しているとは言い難い。
とはいえプレイヤーなのでハンターなのである。それだけである。しかし一応、このハンターにもゲームを続ける理由ならあった。
「ここは神秘と夢の果て! わたしが失った幼少期のときめきがここにはある! それだけだよ。ところで君はなんでそんなに食うんだい?」
神秘と夢の果て。言うならばロマンである。
土の地面すらあまり目にしない文明の中、鉄と清潔な管理の中で育ち、さらに彼女は都会育ちである。例のハンターにとっては、ここは幻想の世界なのである。しかしながら、生粋のこの世界育ちである受付嬢には理解出来なかった。
だから、彼女はいつものように特に気にせずにいつものセリフを言った。
「やだなぁ、私のことはいいじゃないですか」
会話はそれで途切れた。しかし二人の間の空気は決して悪くないのである。互いのことが同じくらい気にならないくらいには興味が無いのでお似合いのコンビなのである。
どこからどう見ても今日の獲物が刃物ではないので、例のハンターはさっきから双剣と戯れているのである。それも顔で。いくらハンターの目にはフワフワに見えていても、周りから見ても可愛らしいフォルムでも、武器には違いないので、危険すぎて誰も目を合わせたりしない。
もちろん、武器が自分に刺さってダメージを受けることはないので安全であるが、システムに守られていなければ怪我はなくともとっくに状態異常的な睡眠に落ちていたことを中の人は知らない。さっき寝かけていたのは純粋にフワフワ故である。
マム・タロト連戦から目をそらし、デイリーバウンティもとっくに終わらせた例のハンターはとりあえず駄弁っているだけなのである。深いことなんて考えちゃいない。
受付嬢と会話するのに飽きたら次は流通エリアでだらだらするのである。わざわざ階段で下までおりて、しばらくアステラの人々の動きを観察し、そのへんを散策すれば時間が潰れるとふんでいるのである。
相変わらず邪魔なハンターであった。
周回から逃げるな、ともし固定を組んでいるのならここあたりで言われただろうが、生憎何人かのフレンドはいてもほとんどソロプレイヤーなので、誰にも何も言われないのである。寂しい気持ちは救援参加で紛らわすハンターなのである。
このハンターとて日常的に通話を繋いで狩りをやりたいのである。しかし、ある時繋いだら繋いだで相手のネカマハンターに謝られたのである。自分が女性アバターだから勘違いさせてすまなかった、と。
中の人も普通の男性だと思われていたのである。現実はちょっと性癖が歪んだ普通の女性だったわけだが、やる気や熱意という意味では性差関係なく何ら変わりはない。しかし出した声はごまかしようもなく、彼女は「お構いなく」とだけ答えるハメになった。
いや、ある意味構ってほしいからマルチしているのだが。もちろん、ただの構ってちゃんな姫プレイなんて求めちゃいない。手取り足取りなんて虫酸が走る。いつかリアルに見かけたオタサーの姫を見てから、いっそ畏れがあるのだ。
ただ、彼女は、純粋に一ハンターとして一緒に馬鹿やりたかっただけである。
小学生のドッジボールのように。ありし日のお遊戯のように。ただただ無邪気に。
あぁボイスチェンジャーが欲しい。切実に。一緒に馬鹿やりたい。
しかしながら、ワールド人口比から考えてみれば相手のネカマハンターは悪くないのである。むしろそのへんにいる男性ハンターを適当に引いたら中身が女性である可能性を考慮させるのが間違っているのである。
ただ、このハンターは思う。対応がまず違うのである。相手がネカマだなんて、オンゲの女性アバターの九割以上は中身が男性であることくらいこのハンターにも分かっているのである。承知の上で遊びたかったのである。
ただただ誰かと遊びたかっただけのネナベハンターは、それから悲しみとともにマイクを外した。これが無ければバレることはないのだ。恐らく。チャットは必要に迫られても適当な敬語ならバレまい。楽しく憧れのボイスチャットがなくともマルチはできるのである。
イケメンロールプレイはもちろん他人とやる時にまでもちこんだりしないので、本当に、彼はただ一緒に遊んで欲しかっただけなのだ。
気を遣われるなんて真っ平御免なのである。我が道を往くのである。人の手助け、気遣いを不当に受けるなんてなんて自分の理想のハンター作りにはなんの役にも立たないのである。
ふざけないで欲しいのである。こちとらエンジョイ勢なので、全力で楽しいのである。自己完結の権化である。
勝てない時すら、「導きの青い星」すら勝てない強敵と戦って日々ボロボロのイケメンハンター、というだけで興奮できる便利な頭を持っているのである。なんにせよ、幸せに帰結するハンターなのである。
このハンターがただのライトプレイヤーであるように、単なる着せ替えエンジョイ一般プレイヤーでしかないので、腫れ物扱いは真っ平ゴメンなのである。うるせぇごちゃごちゃ考えて気にすんな溜め斬りすんぞと口走らなかっただけ、それなりに冷静ではあったが。
リアルな中身がいるハンターにはそれなりの礼節がある普通のハンターなので、言いたいことも堪えて大人しく、ひたすら大人しくしていただけなのだ。もちろん気づかれないように戦う自分のカッコ良さのあまりバシャバシャスクリーンショットは撮っていたが。
ボイチャを繋いだ瞬間に「あっ」と思われてしまうのはもう勘弁なのである。だからもう、繋ぐのはリアル知り合いとだけである。
そして、自らの素晴らしくカッコよく、中性的でちょっぴり騎士的な格好のスクリーンショットを撮ることにひたすら明け暮れ始めたのだ。……いや、別に何もなくともやっていただろうが。
男性アバターでマイクを繋がずスタンプコミュニケーションだけで相手と接していれば、マム・タロトなら離脱後十分後には誰の記憶にすら残さず遊んでくれる。一般的なライトボウガンハンターをやってさえいれば。
野良救援ももちろん遊んでくれる。こっちは装備が相当変わっていない限り大丈夫である。遊んでくれることがゲームにおいては大事なのである。ハンターランクの差こそあれ、対等であることが一番楽しいのである。
なお、例の件では、彼女のハンターランクの方が50は上だったのでもうなんとも言えないのであった。もうなんだってよかったのだ……。
つまり、自分はゲームの中においてただの中性的なイケメンハンターなのである。ゲームにおいて、中の人なぞどうでもいいのである。だから「わたし」はカッコよく、これからも理想へ向かって歩みを止めずにオシャレして狩りに臨むのである。
なお、気恥ずかしい一人称に関しては、例のハンターはこの頃には開き直っていた。中性的なイケメンの一人称なんて「わたし」でいいじゃないか、むしろカッコイイ、と。イケメン御用達の一人称である「俺」も捨てがたいが、より中性的なハンターを目指すなら、と。
これでますます性別がわからなくなると思えば多少興奮もする。素敵な羽根のついた帽子の下の麗しの顔、やや赤い瞳のイケメンの口から飛び出す「わたし」! このハンターには致命傷を与えるような幸せの扉である。
あぁ、麗しのハンターよ、ネルギガンテの討伐数だけは三桁に乗っかっているハンターよ。今日も自分が美しい。だから楽しい。お気に入りの真っ青なブリゲイドが最高に映えている。ギルドクロスがはためいている。陽光に透かされた髪は燃えるように赤く、肌の白さは目元の紅を際立たせて。
悲しみを背負った例のハンターは、たまに救援参加で仲間うちのボイスチャットが垂れ流されているのを聞くのがとても好きなのである。自分は微塵も話したりしないが、なんだか仲間になったようで幸せなのである。
スタンプでちょっとコミュニケーションをとれればもっと嬉しいが、そこまでの期待はしない弁えもあるのだ。そこそこの幸せが最大の幸せであると理解しているからだ。
発想がとても寂しいハンターは、ただただアステラの人々には欠片の遠慮もせずに流通エリアに向かうと海を眺めるために床にごろんと転がると、フワフワ双剣を抱え、オトモをお腹にのせてしばらくぼーっとしていた。
端の方に寝転がった上に動かなかったので邪魔ではなかったが、なんだか寂しそうな姿に突然暴れ出すのではないかとアステラの人々は戦々恐々としていた。彼はただ、黄昏ているだけなのだが、なんにせよアステラの人々にはわかるわけもなく。
何をしても迷惑なハンターである。
そのうち起き上がって適当なクエストを選び、勝手に幸せなハンターライフを謳歌するので本当は心配いらないのだが、アステラの人々にはどう足掻いても知る由はないので仕方が無いのである。
なお、オトモはそろそろ涼しくなってきたのでマム・タロトの毛皮をまとっていてとてもゴージャス可愛いと、元気になったハンターは主張した。
ガイラアロー・雷を持たないハンターさん
マム・タロトから逃げるな。ただ、今日は気分ではなかった。仕方がない。
作中の会話演出はボイチャ回以外は「ハンターさん」が他の「野良ハンターさん」と話していることをさしている。中の人が関与するところではないが、意志に反したことはしていない。
「ハンターさん」は普通に男性なので別になんということもないのだが、中の人が直接話すとなるとめんどくさい現実が絡んでくるのである。
ハンターさんはこのように、百パーセント中の人の意思で動いている訳では無い。中の人を魂に持つ、モンスターハンター世界の肉体を持つ人間である。プレイヤーという特別な存在なのでいろいろややこしい。
たとえばオトモを中の人的には可愛がっているつもりではあるが、撫でくり回すまではやっていない。そんな感じである。実際は数十秒海を見ていただけでもハンターさんは数時間床に転がっていたことになったり、狩りの時間は十分間なことは変わっていなかったりするのでガバガバである。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー