大剣でナナ・テスカトリに挑むのに疲れた例のハンターは、とりあえず加工所に走った。そして、何やら背負って食堂に来た。いつもの流れである。迷ったら加工所である。
とりあえず受付嬢に一言。
「スラアク作った」
例のハンターは、食堂で永遠に貪り続ける受付嬢に向かって、「私の武器を見てください!」がデフォルトセリフになっている決めポーズをし、にこやかに言った。
使用回数はゼロ、トレーニングエリアですら担いだことはなく、言うならばスラアクのスも知らないほど初心者であり、なにもかも初めてである。ただ張り付いてぶちかますのがカッコイイのだけ知っているのだ。
ワクワクが止まらず、未知への希望に目を輝かせて表情がうるさい。そこにあるのは憧れだけ。カッコよくて強そうな新境地への想いだけである。
それ故に、彼の組んだ装備は、あくまで検索したら上の方に出てきた攻略サイトを参考にした他力本願な装備に過ぎず、とりあえずエンプレスな冥灯にしておけばなんとかなるという安易な考えが、頭以外ドラケンという万能攻撃装備に手を伸ばさせた。
しかしながら、野良で見かけるハンターのかなりの割合がエンプレスで冥灯ななにかの武器を担いでいるのであながち間違いでもないのだ。切れ味の落ちる速度が半分の、爆破属性白ゲージ。攻撃力は低くない。汎用装備にもってこいである。
あっち向いてもこっち向いても青いワカメ。個性なんて歴戦王に求めるのは実装初期ではなかなかない。みんなしてフレアに対抗し、回復薬グレートを広域早食いガバ飲みして凌ぐだけなので。凌げそうにないなら戻り玉が役に立つ。
とはいえ、挑むのがネルギガンテなら多少は個性が見られるかもしれない。近接がいるのに拡散弾をぶっぱなす異国のハンターとかよく見かけるのである。個性尖りすぎである。
なんにせよ、ドラケン一式は彼的には片手剣の領分なのである。装備の流用をしながら組むしかないのも、なにしろ金がないのである。金がないので、あるものを全力で利用するしかなかったのでおる。スラッシュアックスの回復カスタム強化代すら、ベヒーモスの素材を切り売りして捻出されたくらいである。
虫棒使えと言われるところだが、例のハンターの範疇外である。
「唐突ですね」
話しかけられている受付嬢は、一応相棒の義理でちらっと姿を見て答えた。
いつもながらのブリゲイドは暗い紫色に染められ、なんとなくハロウィンしているが、このハンターのファッション関連にはどんなに少しだとしても関わってはならないので口に出さない。受付嬢は賢明だった。
スラッシュアックスは、彼のメイン武器である片手剣と比べると身体から随分はみ出る大きい武器なので、流通エリアでの衝突事故が多発するだろうと思ったが、「まぁ私は関係ないことですけどね」と考えた受付嬢は誰にも何も言わなかった。
余計なことをして、どこからこの狂人に伝わるかも分からないのである。比較的このハンターへ危機感を持たない受付嬢ではあるが、まぁ頭がおかしいとは思っている。誰しも我が身が可愛いのである。
だが彼女も鈍感かつ同類なので、狂人のペアであるということだけで半ば同列扱いの腫れ物扱いをされていることには気づいていない。
狂人ペアは両方似たりよったりの変人なので仕方がないのである。胃袋ブラックホールな向こう見ずも、不死身で散財魔なナルシストも普通はお近づきにはなりたくない。
食い意地だけでイビルジョーに襲われたり、理想探求のために命を平気で張ったりする狂人どもと関わるのは勘弁なのである。遠くから気付かれないように観察する程度に留めておきたいのが周囲の総意なのである。
「あのねえ、普通にするのに飽きたんだよな。具体的には大剣で王ナナ狩り続けるのに。
だからってスリル味わいたいからガンナーやっても、PSの関係で炎に弾丸や矢を吸われそうだし。だから新武器! 新境地! わたしは至るぞさらに先へ!」
だから新武器? 隣のテーブルに座っている五期団のハンターは、例のハンターの思考が理解出来ずに思わず顔を見てしまった。その視線に目ざとく気づいたハンターのファンサービス的なウインクに、目をつけられたかと戦慄するハメになりながら。
ともあれ、そんな理由で武器種を変える狂人なんてアステラ的にはこいつだけである。多くのプレイヤーはやることだが、アステラ的には頭がイカれた行為なのである。
命は惜しくないのか。狩りは命懸けだというのに。
もちろん、このハンターはプレイヤーなのでシステムにより不老不死である。だからそんなことはどうでもいいのである。なんなら乙っても楽しい頭が幸せなハンターなので。
「はぁ」
「スラアク使ったことないし、チャアクと迷ったんだけどさ。
でもまずはブンブン素早く振り回す方やってみたくて。というか瓶チャージがわからない。まぁそのうち分かるよな。とりあえずスラアクでネギ狩って練習したらヴァルハザクで試し斬り続行して、それから王ナナ行こうかなー」
「楽しそうですねー」
「あぁ楽しい」
例のハンターは大きく頷き、心底楽しそうに、歌うように、そしてアステラ的にはとんでもないことを抜かしながらクエストリストを眺め、歴戦ネルギガンテを初めての試し斬りの相手に選んだハンターは上機嫌にひと狩りしに行った。
もちろん、動きを動画やトレーニングエリアでの予習は済ませてあるのであとは本番だけなのである。
その日、彼は素早くブンブン武器をふりまわし、張り付いてパンパンパンパン……ドーン! する悦びを知ることになる。
使用回数一桁にして歴戦王ナナ・テスカトリに突撃する新参スラアクハンターが野に放たれることになるのだが、一応、全身ドラケンで行くはずもなく、早食い広域耳栓火耐性装備なので本人的にはそこまで地雷だと思っていない。
ともあれ、テスカトのメスにして王。歴戦妃とでも言えばいいのに、捻りもなく普通に歴戦王と名付けられた新しい強いモンスター、またの名をエンドコンテンツに彼は夢中になった。真のエンドコンテンツは虚無のマムかコラボのベヒなのは何故なのか。
中の人はマム・タロトから逃げた。虚無に手を染めたくなくなったのである。なので、彼女的には追加イベントクエストがエンドコンテンツなのである。
なお、今回の報酬になるさくら重ね着については、個別の組み合わせが許されなかったのでなかったことにしつつも、一応取るのである。コンプリートもハンターの嗜みである。
使い道がない悲しさを背負いながらも、次にやってくる歴戦王ゾラ・マグダラオスの重ね着が絶大な人気のせいで諦めてダウンロード版を手にした中の人的に手に入らなかったオリジンなので、例のハンターはワクワクしながら待つことにした。
「スラアクたのしい」
例のハンターは新武器がめちゃくちゃ楽しかったらしい。ヨダレを垂らさん勢いで、自慢の顔をデレデレにしながら報告した。
人並み以上に律儀なのである。続報なんて求められていないが、とりあえず報告したからには続報をお伝えする程度の人間である。
もちろん、NPCに気遣う気を持ち合わせていないので一方的なのだが、幸いというかなんというか相手である受付嬢は豪胆で、なるほどこのハンターにしてこの受付嬢ありなので押し負けたりはしなかった。
言葉のキャッチボールアンド、ドッジボールの開催にはなるが。本人たちは何も思わなくとも、周りの胃は傷められるのである。
「うわっ、顔がゆるゆるですね」
「えっ顔が?! この顔が!? この美しいわたしのハンターの顔になにか問題でも?!」
「顔には問題ないですけど、発言には問題しかありませんね」
このハンターは初めてマトモに受付嬢の言葉を理解し、そして言うべきことを言った。
「お前のメインストーリーでの行動もな!」
「喧嘩はよすニャ」
「うん」
しかしながら、愛しのオトモの方が占めるウェイトが広いので即刻どうでもよくなった。
ナルシスト極まりつつも、自分の顔とオトモの安否ならもちろんオトモをとる程度の優しさと溺愛。ともあれ、二人は互いへの興味をすぐさま失ったので話し相手はオトモに移行した。
オトモへ猫なで声を出しながら撫でくりまわしている時のこのハンターは、ほとんど中の人の素が出るのだが、もとより情緒不安定なこのハンターの口調はコロコロ変わっているように見えるので特に周りになにか思われることはない。
せめて一貫性があれば狂っているとまでは思われなかったのだろうが、ロールプレイングゲーム好きは中途半端に誤解を生んだのだ。
ある時は普通の男性、ある時は迷惑なナルシスト、ある時は柔らかい口調の狂人、ある時はテンションの振り切った例のアイツ、またある時は凄腕不死身ハンターなのだ。どれもこれも特に意図的な区別ではないが、しかしアステラの人々に真相を知るすべはない。
ともあれ、幸いにして誤解しているのはNPCなので、彼がそれに気づいたところでどうでもよかったのだが。
「スラアク本当に楽しかったんだよ。斧モードでブンブン振り回すのも重さがあっていいし、剣モードで素早く振るのは痒い所に手が届く感じでいいし。なにより属性解放してドーンするのが最高。
ダメージもそこそこ出てるし、楽しいし、勢いあってカッコイイし、しばらく使おうかな。ナナとの相性も悪くないし」
しっぽフリフリしているナナ・テスカトリのスキのある頭に属性解放するのが最高なのだ、と例のハンターはうっとりした。
目を閉じればパンパンパンパン……ドーン! が聞こえてくるようである。
「ニャー、弓の時みたいにたくさん練習ニャ?」
「スーーーーーーッ……、そうだよう。
これでもっとカッコよくなれる! あぁ、このギルドの衣裳を身にまとった、羽根の帽子の二枚目の麗人はいつだって鮮やかに、そして華麗に! 武器を素早く振るって狩りに出る! 気高く青き王妃と対峙しながら! 時に妃を守る赤き王とも牙を交えて!
うわー、カッコイイなー、サイコーだな! ヤッター! その傍らにはモフモフで凄腕毒使いのオトモアイルーがいるんだよ、カッコイイね!」
オトモのお腹を思いっきり吸うと、例のハンターは笑顔を向けた。なにはともあれ好意的な主人には変わりないのでオトモも笑顔を返した。
しかしながら、慣れていないことには代わりがないので特攻気味の被弾の多さは相変わらず。華麗とは言い難いがそんなことは脳内でなんとかなる。
回復薬グレートを水よりもガバ飲みしながら時に乙り、一方楽しいことには変わりはなく、だんだんコツを掴みながら今日も幸せなのである。
逃すことなく歴戦王のエンプレス防具を作りながら、やっぱり財布がカラになる現実と戦いながらも、毎日エンジョイしているのである。
スラッシュアックス使用回数八回くらいのハンターさん
まだまだ乙る。練習あるのみ、諦めない。
上機嫌な時の、夢見るようなとろける笑顔は狂人の合図。
受付嬢
誤解に誤解を重ねられているプレイヤーたるハンターのことをアステラの人間としては一番理解しているが、そもそも興味がないので特になんということはない。
胃袋がブラックホール。まだストーリーでのヘイトを精算できていない。
【挿絵表示】
似顔絵メーカー様(挿絵使用可能と明記されています)にてイメージ画像を作成させていただきました。一応男性素体で作成したのですがどこからどう見ても女の子みたいになってしまいました。とりあえずイメージだけ。
ブリゲイドを被るとポニーテールの尻尾は隠されますが、尻尾出てる方が可愛かった。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー