ハンターさん、集めるのが好き   作:ryure

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装飾品が足りない話


ハンターさん、珠を集める

 今日も元気に飛び起きた(ログインした)例のハンターは、全身黄色のブリゲイドを翻し、流通エリアにスライディングしそうな勢いでやってくると、不自然にぴたっと止まった。もっとも、例のハンターが自然な動きをする方が稀なのだが。

 

 もう少し正確には、しばらく虚空を見上げていた。その目は何も映しておらず、アステラの人々はまだ無邪気だった頃の彼を思い出しつつも、もうあの頃の、比較的常識的で、騒いだりせず自分にうっとりすることもない穏やかな青年は戦いの中で死んだのだと思い込みつつ、いつも以上に彼を遠巻きにする。

 

 そこにいるのは導きの青い星という称号を持つ狂人ハンターである、と流通エリアの人々は理解していた。もちろん、そこにいるのはリアルでも狂人と呼ばれるような廃人プロハンプレイヤーというより、単なる着せ替え大好きエンジョイ勢なのだが。

 

 外なる世界の魂の持ち主が、内の世界の住民に理解されないのは仕方がないのかもしれないが。

 

 狂っていると言われる所以の一つ、時折何も見ていない目。その実、見ていないのではなく、彼の魂のある場所、「外の世界」を見ているのだが……ともあれ、アステラの人々に知る由はない。トイレなどの離席の時の彼と原理は同じである。

 

 肉体はログインしているので起きているが、その魂がよそ見しているとこうなるのである。

 

 しばらくの沈黙のあと、例のハンターは不意に目の焦点を取り戻して叫んだ。

 

「貫通珠がないと言ったろう! わたしの援撃ちゃんの真価は?!」

 

 援撃ちゃんとは、マム・タロトの角折りから逃げた例のハンターが、逃げる前に手にしたガイラアサルト・援撃のことである。貫通ヘビィの強いやつである。

 

 まだマムを回していた頃、例のハンターは執拗にガイラアロー・雷を欲していた。雷の苦手な愛するネルギガンテと戯れるためである。

 

 そのため、彼の物欲センサーが仕事をしたおかげで手に入れられた奇跡の品で、当然例のハンターにとってはガイラアサルト・賊(散弾ヘビィ)の次にお気に入りのヘビィボウガンになっている。

 

 外見こそ、ガイラなんちゃらにありがちなキンキラキンで個性皆無であるが、その愛すべき性能は貫通弾の鬼とも言える。ただし、貫通珠があるとは言っていない。

 

 なお、もちろんガイラアロー・雷は未実装である。

 

「ご主人ご機嫌斜めにゃ」

「だからって解放珠は都市伝説だし、麻痺珠もよく見ると足りないし……わたしの円滑ハンターライフは……? カッコイイハンターの……痛快貫通弾狩猟で白い歯を煌めかせたい……」

 

 例のハンターはアイテムボックスの前でダイナミックに感情を表現しながら嘆いた。苦悩する素敵なハンターになりきって、足りない装飾品へ想いを寄せていた。

 

 早々に援撃ちゃんの装備の強化を諦めたが、ほかの装備に関してもまた出鼻をくじかれたようである。

 

 彼愛用の攻略サイトによると……自力で装備を組むと生存スキルを盛りまくるので頼っているのだ……素敵な麻痺スラッシュアックスの装備を作るためには必要だった珠がことごとく足りないか、そもそも所持していないらしい。

 

 ない珠イコール都市伝説。彼は落ち込んだ声で言ったが、つまるところ実力不足と運の無さのあらわれにすぎない。

 

 未来予知という名の、セーブデータクラウド保存マカ錬金先読みチート技を駆使しても、手に入れられない珠がある世界で……ない珠があるのは必ずしも実力不足とは言えないのだが、彼は真面目に落ち込んだ。

 

 とはいえ、足りないなら、歴戦個体の古龍に喧嘩を売りに行くか、マカ錬金ガチャをすればいいではないか。

 

 例のハンターはプレイヤーなので、解決の術を知っていた。

 

 発売日にツイッ〇ーで一世風靡したキャラメイキングに一本釣りされた、一応発売日ダウンロード勢の癖に、プレイ時間が電源を切るのと間違えてスタンバイモードを選んだ時込みで500時間ちょい、一週間以上ログインしない時はないという微妙なやり込みっぷりであるので彼には大抵のことはわかるのだ。

 

 とはいえ、どう言い繕っても彼は正真正銘のライトプレイヤーである。歴戦王程度は適当に捻るが、極ベヒーモスは一回しか倒せない程度の実力である。比較対象は初心者ではなくプロハンなので。

 

 プロハンと比べればこのハンターが、たとえハンターランク500に達しても、TA勢でもない上に咆哮一つ避けられないのでライトプレイヤーと言えるので、彼は永遠にその称号から離れられないのである。

 

 発売日からプレイしていても、一日三回くらい狩りに行ったら疲れてしまう中の人を持つのでどうしようもないのだ。継続は力なり。とはいえ継続がどうにも弱い。

 

 珠がないのもライトプレイヤーなのだから仕方がないのだ。それに、彼は別にこのゲームだけをやっているわけではない。電車の中ではソシャゲに忙しい普通の人間である。

 

 家に帰ると握っていた携帯をベッドに投げ、勇んでゲーム機の前に座り込んでモンハンする程度のプレイヤーなのだ。

 

 その腕は、いつまで経ってもネルギガンテの咆哮を見切れない程度なのだ。そろそろ討伐数が200近いというのに。

 

 どうしようもなく脳筋なのである。脳筋なので、見切りを先走って見切りの構えのまま頭を抱え始める残念ハンターなのである。タイミングは分かっているというのに残念なハンターである。

 

 ともあれ。

 

 そもそも、歴戦個体の古龍を討伐するために新しい装備を考えているのだ。だというのにこれは。

 

 ヴァルハザクの瘴気やられの対策のためには、まずヴァルハザクを討伐しなければならないようなものである。

 

 激しい風圧に対抗するためにクシャルダオラを狩るようなものなのだ。例のハンターは頭が幸せな人間だが、その点については疑問に思い、首をかしげた。

 

 とはいえ、ゲームバランスについて考えても仕方がないことである。往々にしてあることなのである。気にしたところでどうにもならないのだ。

 

 例のハンターは気を取り直すと、元気よくクエストボードの救援依頼を開いた。絞り込み条件は、「調査クエスト」「☆9」「報酬受け取り可」。ポチッ。

 

 その瞬間、彼の手は目にも止まらぬ速さで検索結果を選択し、中身も見ずに一番上のキャンプを選択した。

 

 そして、しばらくの沈黙。

 

「……よし」

 

 例のハンターは、歴戦救援の熾烈な席取り合戦に勝利した。歴戦個体の調査クエスト救援において、激運チケットを使ったり、ゆっくりクエストを吟味したり、キャンプ地を選んだりする余裕はまぁないと言ってよい。

 

 そこにあるのはプレイヤーたちの真の戦いなのである。特にこれが歴戦4枠やら5枠のクエストの場合、なりふり構っている場合ではない。できうる限りの速度で参加しろ、それだけである。

 

 そもそもクエストに参加出来なれば戦いにならないのだから。

 

 例のハンターは安堵と勝利の喜びを胸に、のんびりと装備を選び、マイセットから一括装備した。鼻歌交じりに「調査クエスト」と名付けたアイテムマイセットを選択し、ゆるやかに走りながら食事場に向かう。

 

 とはいえ、そこまで読み込みに時間はかからないので食事をゆっくり選んでいる暇はないのだが。彼のP〇4は初期型でこそないが、何もしていない500GBの普通のものである。

 

 故に、ちょっと読み込みが遅いが、だからといってイライラするほど待たされるほどではないのだ。ハマったらハマりっぱなしの性格上、大した数のゲームも入っていないので尚更である。

 

 例のハンターは基本的におおらかで、穏やかで、ソロプレイヤーなので暇人で、乙っても笑い飛ばせるタイプの幸せな人間なので待つことはちっとも苦ではないのだ。

 

 そんな彼がイライラするのは近接をやっている時に拡散弾に吹っ飛ばされた時と、耐衝珠を付け忘れてひるみまくって動けなくなった時と、開幕一乙クエスト離脱野郎がいた時と……案外あるようだが。

 

 ともあれ。

 

 幸せな気持ちで、彼はひと狩りしに行った。

 

 

 

 

 

「滅龍ビンスラアクに慣れすぎた己に失望している。調子に乗ってた。わたしは弱い、わたしは……所詮ワールドからの初心者にすぎねぇんだ……」

「元気出してくださいニャ」

「あぁもう、にゃんにゃんちゃんはかわいいねぇ! ちょっとモフらせてね、スーーーーーーーッ」

「吸ってるニャ」

「ハァ……ねこおいしい……」

「良かったニャ」

 

 例のハンターは流通エリアで膝を抱えて座り込んで嘆いていた。

 

 彼愛用のパワースマッシャーⅡはとんでもなくビンが溜まりやすいスラッシュアックスである。ちょっと斬るだけであっという間に追加攻撃が発動するので例のハンターからすると快適にも程がある一品なのだ。

 

 そして慣れすぎた彼が別のビンのスラッシュアックスを使うとどうなったか。全然ビンが溜まらずに、ただひたすら剣モードで暴れてるだけのハンターになったわけである。

 

 いつももただひたすら暴れているのだが、それはさておき。

 

「大して麻痺も出来なかった……あー、使えない救援だと思われてないか不安だな」

「ご主人は強いハンターニャ」

「にゃんにゃんちゃーん……わたし別に強くないよ……君はご主人を買い被りすぎてるよ……」

 

 自称普通の実力の持ち主の例のハンターは、確かにアステラ的には狂人的でとんでもない能力の持ち主だが、救援参加ハンターというワールドな枠に当てはめると本人の言う通りの実力である。

 

 得意なモンスターに得意武器ではとことん強いが、そうでなければ少し弱い。つまり、普通である。よくいるそこらのハンターである。

 

 珠がいろいろ足りない装備に達人珠をこれでもかと突っ込んで突撃していった例のハンターは、間違いなく自分があまり役に立てなかったのは「珠が足りないから」ではなく、「実力を強い武器で補っているだけでそんなに強くないから」だと自覚した。

 

 スラッシュアックスにはそこそこの自信があったのだが、それを打ち砕かれた例のハンターは、しかし不屈であったので、すぐに事実を受け入れて立ち直った。

 

 自分が強くなくて、武器が強いのなら。それで戦えていたのなら。自分も強くなって武器も強いなら、とんでもないことになるのでは? その先にあるのはサイコーに強くてカッコイイハンターなのでは? と。

 

 不屈なのである。なんでもワクワクするのである。成長フラグとか、そんなヒーローポイントを見逃せないのである。

 

 例のハンターは立ち上がって、さっきの戦利品を天に掲げて強くなることを誓った。

 

 中の人が時間をかけて丹精に作り上げた綺麗な横顔が夕日に照らされて絵になっていたが、誰も彼もが彼と目を合わせないように顔を背けていたので見たのは彼のオトモアイルーだけであった。

 

 茶色に近い赤毛が太陽に透かされて、燃えるように輝く。赤っぽいだけの目が、強い光の下ではらんらんと真っ赤に光る。

 

 これぞ、中の人の計算である。普段は世界観から逸脱しない程度のカラーリングだが、あるタイミングでは星のように輝くのだ。ある角度では彼が性別不詳になるように、そういう絶妙なこだわりがそこにあった。

 

 誰が気づくというのだろう。誰も気づかなくていいのだ。全ては自己満足なのだ。

 

「もっと強くなろう!」

 

 天にかざし、夕日に輝く「滑走珠」はその赤色ゆえに一瞬、「攻撃珠では?!」と例のハンターの胸を無駄に高鳴らせた罪な存在である。

 

 そのままの足でマカ錬金ガチャを回しに行った例のハンターは、キャッチ・アンド・リリースされた滑走珠を悲愴きわまる悲鳴とともに受け取ることになった。




邁進するハンターさん
属性解放/装填拡張の装飾品があるなんて、本気で攻略サイトを見るまでないと思っていたハンター。無撃も強壁もあるのだからあるのだ、と無理やり納得する。
装備が完成しなかった武器は「ガイラスラッシュ・麻痺」のこと。強撃ビンのスラッシュアックスである。
運が悪いのか良いのかだったら実は良いのかもしれない。特に好きな武器の鑑定武器が出ないだけである。それを根に持っているので悪く見える。
更新を完全に停止すると決めた最後の回でオトモとともに名前が発覚する。今のところ予定がないので名前が無いキャラである。ほかのNPCも名前がないので自分も積極的に名乗らない。
というよりも……(颯爽と人を助けて)「あなたは?」「名乗るほどの者ではありません……」をやりたいだけである。ロマンティックなことが好き。されるより、する方が。

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

  • ゲームシステムによるもの
  • クエスト頻度、難度、クリア時間
  • イベント関連
  • メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
  • アナザーストーリー
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