封印の眼帯を重ね着してウキウキしている例の男に近づくアステラの人はいないが、近づかれても気にしない人間ならいる。
それは例のハンターのペア、通称受付嬢である。受付嬢に相当する人物は複数いるので彼女は個性を出すためかよく「相棒」と主人公……つまり例のハンターのことを呼ぶが、やんわりと本人からは拒否気味である。
瘴気の谷やイビルジョークエストでのことをまだ精算できていないのだ。
中の人的にはそろそろ精算されているが。というか、好きの反対は無関心である。しかしながら例のハンターは、紛れもなくその世界の住民なのである。
ほぼ不死身のプレイヤーとはいえ、危険な目に晒してくれた張本人には違いなく、ちょっとまだ思うところがアイルーのヒゲの長さくらいあるのだ。つまり微妙にあるのである。
会話くらいはするが、相棒呼ばわりは嫌なのだ。だが周りからすれば変人という意味で釣り合っているのでどうしようもない。お似合いのペアである。
ということで新しい重ね着を見せに来ていた。相棒と呼ばなければなんでもいいし、呼ばれてももはや無反応なのでどうでもよかったのだ。
そうなのだ、例のハンターは新しい重ね着を手入れるたびに毎回律義にも教えに来るのだ。その際、季節の受付嬢の着せ替えも絶賛して帰っていく。もちろん、ハンターにもその豪華な着せ替えをおくれという意味でだが。
まぁ、それでもわざわざ受付嬢のところに来る理由としては、他に話す相手もいないというのが真実なのだが。
「どうだ、歴戦のハンター感あっていいだろ」
クールな青の眼帯で自慢の顔が隠れても、部分的に覗いた整った顔立ち……横顔麗しく、思わず見とれてしまうワイルドな君……とかいうシチュエーションに嬉しくなってしまう例のハンターには問題ない。
実際のハンターランクより、妄想力のハンターランクの方が高そうである。
「ものもらいですか?」
「めばちこ扱いするの酷くない?」
互いの扱いが雑なペアである。ちらっと見てくれる程度の優しさがそこにある。例のハンターは例のハンターでフワフワであったかそうな受付嬢の服装を羨んだ。
オリオン装備は悪くはない。むしろフワフワで良い。だがさりげないクリスマス感が普段使いを踏みとどまされる。そうはいいつつそれなりに愛用するつもりではいるのだが。
しかしそれとこれとはまた別問題。例のハンター的には戦闘での機能性がなさそうでもモコモコしてフワフワしたポンチョは無骨なハンターが着ているとギャップがあってきっと良いので欲しいのだ。
というか例のハンターのストライクゾーンは広いので新しいものをみるとなんでも欲しくなるのだ。
「別に目がイカれたわけじゃないが」
「それは知ってます」
「眼帯って付けるだけでかっこいいからな!」
「両目なくても普通に動けそうですよね、相棒は」
「別になんの支障もないけど」
「……」
例のハンターはあくまで当たり前のことを言った、と言わんばかりにあっけらかんとしていた。
「あっ、今の強そうな発言じゃね? もはやわたしは見る必要もない……モンスターのことなどすべて把握しているのだ……お前のすべて、見切った! みたいな」
「やだなぁ、戦闘的に目も必要も無いくらい練度があるってことですか。なんだ」
「いや本当にわたしに目は要らないけど」
「……」
なぜなら例のハンターの目は背中より後ろにあるからである。つまるところ、それは画面越しのプレイヤー目線なわけだが、そんな事情は知る由もない受付嬢は流石に黙った。
とはいえ、視力がない訳では無い。例のハンターの肉体的にはちゃんと見えている。なので眼帯をしていると、中の人を何らかの形で失った場合は普通に支障が出る。
だが、中の人がいないということは魂がないということ。すなわち、魂がないと例外なく昏睡する例のハンターには問題など何も存在しなかった。
流石に自分の相棒の発言を噛み砕けない受付嬢の様子に、NPCの機微に注意を払わないゆえにまったく気づかない例のハンターは、楽しそうにギルドクロスやシーカーにも眼帯はよく合うのだと語り、使える頭装備重ね着が増えたことを無邪気に喜んでいた。
なお、近くのテーブルで話が聞こえてしまった四期団や五期団のハンターたちはもしかしたら例のハンターは人間ではなく、人間の形をしたモンスターかなにかなのか? という疑念を持っては流石にそれは……いやでも……というもだもだとしたやりとりをごく小声で行っていた。
残念ながら、プレイヤーかつ主人公というだけで肉体的にも魂的にも混じりけなしの人間である。人間ではないキャラクターのゲームをプレイするという意味で操作したことはあってもそれまでである。
とはいえ、そんなことなど知る術のないアステラ所属のハンターたちのつけた落としどころは、狩猟においてもはや目も必要も無いほどの達人ハンターである導きの星は、確かに目がなくとも困ることがないのだが、それ故に普段の視力は良くないのだろう、と。
使わないから退化したのではないかとまで言わしめる。そんなことはないのだが。
であるからして、人にぶつかりそうになったりぶつかるのだ、と。狩場ではないので気を抜いているに違いない。
もちろん、避けようと思えば避けられるのに避けないのは例のハンターの人間性の嫌な信頼性による。避けられるのだろうが、どうせ気を抜いている上にこっちのことなど気にも留めていないのでぶつかるしぶつかりかけるのだろう、と。
正解である。ぶつかるのはただ避けるのが面倒なだけという点では。だが、目がが悪いというなら何故自分のコーディネートや顔に関して事細かに理解して自画自賛しているのかの説明がつかないのだが、ともあれ。
噂されるようなことを言うのが悪いので、例のハンターの自業自得である。まぁ、噂されているということに気付けたとしても……調査拠点で噂を囁かれる美形ハンターの正体や如何に! とでも楽しい妄想をはじめるので特に何も変わらないのであった。
話するのにも飽きた例のハンターは、何も知らずに「脈打て本能」を受注して奴の肉質に弾かれないためにガンランスを担ぎ、ひと狩りしに行った。
アステラ祭で豊富なイベントクエストに夢中の例のハンターは、いつもより余分にクエストを受けてはモンスターをちぎっては投げ、楽しくオトモを雪だるまにしてはモンハンワールドサイコー! とソロプレイに勤しんでいた。
友だちがいないわけではない。
「せっかく眼帯あるんだし、それにあわせて身だしなみを整えるのもアリだなー」
「嫌な予感がするニャ」
例のハンターはマイハウスで眼帯をした自分の顔を鏡に映しながら独り言を呟き、オトモアイルーも呟くようにモニャモニャ言った。
上から頭封印の眼帯、胴ギルドクロス、腰ギルドクロス、腕ブリゲイド、足ブリゲイドを全部青に染めた例のハンターはさながらギルド所属の歴戦のハンター、しかも役持ちといった風体である。
しかし顔が役持ちにしては若いのでなんとも言えないような不思議な違和感を、例のハンターはミステリアスだと言いきった。大雑把なので自分がかっこよければなんでもいいのだ。
「眼帯の下に隠された……麗しの君の秘密とは……」
自分で麗しの君とか言っていたら世話ないニャ、とオトモアイルーは愛用のぶんどり刀を磨きながら思う。口にはもう出さない。自分の世界に入っているとはいえ、密室で例のハンターと共にいるのである。
アイルーである以上、命の安全は完全に保証されているが、バレれば長いことよしよしされてしまう。すると溶けてしまうかもしれない。例のハンターはアイルーを魅了する手を持っているのだ。
なお、本来、アイテムボックスの前を占領しているハンターの近くにいるはずのルームサービスはオトモダチタイマーと呼ばれている探索の用が済むとハープ役のところに逃げる。よしよしの餌食になりたくないので、例のハンターとお近づきになりたくないのだ。
オトモダチタイマーとは、五回のクエストもしくは探索で「やわらかい土」を世界樹にやりたいハンター(プレイヤー)にとって都合良く五回で帰ってくるオトモダチ探索のことを指す。まぁそんなことは良いのだ、例のハンターはマイルームに帰ってくる面倒のあまりほぼタイマーを放置しているので。
「隠れる方の目のところに刀傷をつける……いや……刺青かな……オッドアイも厨二そそっていいよな」
「世界が終わるニャ」
自身の顔に絶対の自信を持っている例のハンターが、いくら隠れるからといって顔にほくろ以上の何かをつけるなんて! というわけである。目の色に並々ならぬこだわりをもつ彼がそんなことをするなんて、どうかしているとアイルーは思った。
今の自分を愛するあまり、性別すら変更できる「身だしなみチケット」をもってしてもオトモでなければ分からないほどの微調整しか行わないハンターがそんなことを言っているのである。緊急事態のため、オトモは武装した。
「でも、うーん、どれもありきたりだな」
オトモはありきたりという言葉で、思いとどまらせることが出来るのではないかと思った。
とはいえ、止めたところで止まらなかった場合と大して事は変わらない。顔がどうであれ、本人が気に入っているのなら同じようにナルシズムで周りに迷惑をかけることには変わりないのだ。
「ご主人様は自分の顔を傷つけたりしないですニャ、そうに決まってるニャ」
「もちろんだよお、例えつけたところで綺麗に消せるし」
「ニャ?」
傷跡は秘薬などでなんとかなるかも……しれないが、刺青を消せるなんて聞いたこともない。しかし相手は例のアイツである。重ね着のために歴戦個体を通り越して歴戦王を狩りまくる狂人である。
もしや刺青ごと皮膚をえぐって秘薬で綺麗に治すつもりなのだろうかニャ。オトモは非常にグロい想像をしてしまい、彼ならあるいはやりかねないと否定しきれない自分が少し嫌になった。
アステラの誰かなら、間違いなく、戸惑いもなく肯定するだろう。受付嬢でも肯定するだろう。
だが。自分がご主人ハンターを信じなくてどうするのだ。自分だけが、例のハンターと呼ばれ、狂人と扱われ、偉業を成し遂げたというのに腫れ物扱いの不名誉な扱いを受けるちょっと変人なハンターの理解者ではないのか。
受付嬢は同類なので除く。
彼が人並みかそれ以上に優しいのを知っている。彼が本当に狂っているのではなく、ただモンスターたちと戯れるのが好きなだけなのを知っている。それが行き過ぎているので狂っていると思われているだけなのだ。
なかなかモンスターに勝てない時、唇をかみしめて悔しがる表情を知っている。そのあと燃えてきたと喜ぶ表情が生き生きしているのも。
当然、勝てないからといって怪我が酷いあまり再起不能になることが決してないことに絶対の自信を持っていることも。いやまぁ、その点は狂っているに等しい自信だが、それは個性というものなのだ、きっと。
彼が一人の人間なのを知っている。笑いも怒りもする。嬉しさのあまり泣くことも。少しばかり、ファッションと狩りに命を懸けすぎているだけなのだ、そうなのだ。
「初めまして」と言った彼の声を覚えている。「名前を教えてね」と、自分を愛おしく見つめる目が優しかったことを覚えている。
そうなのだ、ご主人は少々変人だが狂ってはいないのだがら、そこまで変なことはするわけがない。なので刺青を綺麗に消すということは、自慢の顔がそもそも傷つかないようにタトゥーシールでも使ってなんちゃってで気分を味わうのだろう。
思えば、彼が目元にしている化粧だって布団に擦られても微塵も崩れないではないか。化粧があんなにしっかり残るのなら、シールが微塵も剥がれないのは当然で、歴戦王と戯れるご主人がそんなシールを綺麗に剥せるのもまた当然のことである。
ということで思い出を振り返って補正で無理やりオトモアイルーは納得した。
一方、アイルーには優しい例のハンターは、少々化粧の微調整を行ってから眼帯を装備した顔をいかなる角度でスクリーンショットすればより中性的な美人になれるのかを検討するのに忙しかった。
しばらくして満足した例のハンターは突然新しいナナ・テスカトリの武器が欲しくなったのでクエスト「導きの青い星」をやることにし、久しぶりにソロもいいなぁと思いつつオトモと楽しくどんな武器がいい? と検討することにした。
オトモはデキるオトモなので、前からウィッシュリストに載せていたエンプレスシェル・炎妃がいいのではないと意見し、アイルーを魅了する手でよしよしされた。
プレイヤーなハンターさん
ゲームならではのご都合主義を当たり前に享受するプレイヤーのため、オトモその他と次元単位のギャップ勘違いをされている。
眼帯はかっこいい、異論は認める。帽子もいいし、フルフェイスな兜もカッコイイし、顔が見えるやつも見えないやつも、ともあれなんだって好き。顔が見えている方が傾向としては使う。
ほぼ同時に入手したユラユラフェイクに関しては数少ないリア友とマルチの時に使う予定なので大切に仕舞っている。
例のハンターを信じたいオトモ
オシャレのためならなんだってしかねないと思っているが、否定するのもオトモとしての優しさなのだと思っている。
しかし、ゲームでできる範囲は何だってするし、クリアのために不屈発動するのもやぶさかではないことをまだ知らない。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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