ハンターさん、集めるのが好き   作:四ヶ谷波浪

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マムとアサシンの装衣の話


ハンターさん、日課は欠かさない

 例のハンターは、集会エリアから流通エリアに堂々とした足取りで降りてくると、世界樹の肥料が完全に切れていることに気づき、崩れ落ちるように膝をついた。辛うじてボックスから溢れていなかったが、それを幸運と思うはずもなく。

 

 だが、それを些事だと断じてすぐに起き上がる程度には機嫌が良かったらしい。

 

「王マム楽しいというか美味しい」

 

 エンプレスシェル・冥灯を片手に、クーラードリンクをガブガブ飲みながら例のハンターは言った。その目は爛々と輝いていた。マム・タロトの黄金のように。だが濁ってもいた。周回疲れで。

 

 珍しく、彼の懐も温かかった。比較的満たされていた。調査ポイントも落とし物を拾っていれば雨あられと降り注ぐ。不満はあまりない。

 

 無理矢理不満を捻出するとすれば、やっぱりライトボウガンゲーだったということぐらいである。たまに飽きたプロ周回ハンターたちが別の武器を使っていることはあるのだが。

 

 怒り荒ぶられてジュワっと溶けなければなんだっていいのだが、やはり手軽といったらライトボウガンなのである。

 

「すっげーーーーの、会心のアレの【属性】とか【特殊】のついた装備とか壊れてる。レウス防具の呪いが解けるね! というか欲しかった武器がポロっと出た。もう過去のものなのかもしれないけど、とりあえず新情報が固まるまでは強い武器ってことでいいはずだ。ようは使い方が問題なんだ。

というか、ポロっとあの火太刀だぞ。ちょっと試しにネギ狩ってくる」

 

 例のハンターは機嫌よくニコニコ笑いながら装備を組んだ。組んだが、彼は呪われているので流れるようにマム・タロトの集会所に入り、気づけばエンプレスシェル・冥灯を担いでいた。

 

 マムから逃げるな。それが骨の髄から命じられているのだ。

 

 「こうきんこおりちゃあく」を取らねばならぬ、取らねばならんのだと、集会エリアの人々にとっては謎の呪文をブツブツ唱え、彼は脊髄反射に従う。

 

 なお皇金氷チャアク、とは。属性値620の属性値の壊れたチャージアックスのことである。その暴力は、第二弱点が氷でも、ダメージが第一弱点の武器より高くなることもあるほど壊れた属性値を誇るやべーやつのことである。

 

 YouTub〇でモンハンワールドの動画を見るのが日課な例のハンターにとって、こいつは強い! と脳に刻み込まれた一品である。

 

 色んなプロハンたちが素晴らしい速度でいろんなモンスターを狩りまくっては「強い」「壊れてる」「取るべき」と言うのだ。これは取らねばならない。

 

 ということで、せっかくの火太刀の試し斬りもせず、彼なりにまじめにマム周回に取り組んだのだが……火太刀が出たのはいわゆる王マム・タロトビギナーズラックというものだったのか。

 

 火太刀がぽろっとでたことさえ奇跡だったようなのだ。二度と欲しい装備は出ず。ガイラ雷弓さえも。皇金氷チャアクの影の形もなく。

 

 例のハンターは敗北する。敗因は、マムへの強い忌避感が、一日二回角折ればいいかなと楽観したことによる。あんまり虚無になりたくなかったのだ。

 

 そしてたとえ取れたとしても。

 

 彼のチャージアックスの練度といえば、剣強化のやり方がよくわからないな! とりあえず盾強化してズバババンするか! というレベルなので出たら出たでまともなチャアクハンターにお前はまずタイラントブロスで慣れるところから始まるんだろ! と斬りつけられる羽目になったかもしれない。

 

 ともあれ、周回向きではない性格と鑑定武器は相性が非常に悪かったが、その分ぽろっと幸運にも出た良い装備は人一倍大切にするのである。

 

 あとは生産武器でなんとかするのである。鑑定武器をすべて集めるようなベテランハンターではないので。とはいえ、集めるのが好きな性格が、いつかはすると囁いているのだが。

 

 ド〇クエなどでは、ドーピングアイテムを狂ったように集めては仲間キャラクターのステータスをカンストさせるタイプのやり込み癖がある、ちょっと人並みから一歩踏み出したプレイヤーなのだ。まぁ後まわしにして忘れることもまた多いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も流通エリアで例のハンターは楽しそうにポーズをキメていた。

 

「中性的な容姿を持つ、長髪の麗しのハンター……その隠された正体はなんとアサシンだった! 普段の優美かつワイルドな姿とは裏腹に真の顔は冷酷無情、静かで素早い身のこなしで命を穿つ! カッコイイー!」

 

 流通エリアの人々は、例のハンターの意外な語彙力を聞き流していた。ごく普通に興奮すると語彙力が消し飛んでいくタイプの彼女にしてはなかなか頑張って語っていたのである。

 

 彼のナルシストっぷりはもはや一種の風物詩のようなもので、狭い通路で踊り狂うなどの本当に邪魔な行為と比べてみれば階段で一人で喋っているくらい大したことではないのだ。

 

 だからといって、特に何もなく、いつも通りやっぱり邪魔なのだが。

 

 それから、疲れた時に例のハンターのこんな語りを聞くと、あの無邪気で穏やか、変なところは何も無い五期団のハンターがこんなにも変わり果てた姿に……と涙が出てくる時があるのであまり詳しく聞いてはならないのだ。

 

 思い出補正が過分にかかっているのは現状があまりに酷いせいである。

 

 アサシンの装衣を身にまとってド派手な語りを朗々と唱える例のハンターの辞書には隠密だとか、忍ぶとか、そういう言葉はないらしい。茂みに隠れる気もまたない。

 

 実際、アサシンの装衣に隠密機能は一切なく、むしろ見つかりやすいのでこの行為が百パーセント間違っている訳では無いが、「アサシン」を語るならなにかが間違っているような気がしてならない。

 

 だが、カッコよければなんでもいい例のハンターはコラボ装衣にただただ幸せになっていた。

 

 ○○の装衣というのは総じてダサい。少なくとも、クリア画面の収集が趣味の彼女はそう思っている。なので、外見が良い装衣は大歓迎なのだ。

 

「でもこれ着てたらわたしの素晴らしい髪の毛の色調調整の結果が完全に隠れるよね、カッコイイには常に犠牲が伴う……仕方ないか!」

「ニャー」

「にゃんにゃんちゃんの目の赤とお揃いにしたのにね。勿体ないけど一撃当てたらすぐ壊れるし、ちょっと我慢かなぁ」

「お揃いニャ?」

「そうだよう、ほら、瞳の周りの君の赤とね、わたしの髪や目の赤は同じなんだよ。お揃いって……なんかいいよね」

 

 流れる様に例のハンターはオトモの後頭部をスーハーした。

 

 マムが去り、アサシンの装衣を存分に風にはためかせ、やることがなくなった例のハンターに「ヒマ」の二文字が押し寄せるが、都合よく目をそらすことができるスクリーンショットを撮りまくるという行為はモンハン熱を覚ますことなく維持させる程度には有効だった。

 

 そもそもゲームをかけ持ちしているごく普通のゲーム好きなので特に一つのゲームが多少暇でもどうでもいいのだが。

 

 ログアウトしたあとは別ゲーにこんばんは! デイリーミッションをしよう! をエンドレス、そして深夜におやすみなさい! をする、そんな普通の人間なので。

 

 だが、モンハンワールドのプレイヤーとしても特に取り立てておかしなところもないライトプレイヤーなのでごく一般的に色んな武器にチャレンジし、ごく普通のプレイをし、ちょっと普通以上にスクリーンショットを撮りまくるくらいなので他にかまけているとわざわざ言うほどでもなく。

 

 2018年最もハマったゲームであることには違いないのだ。コマンドゲームなRPG好きに、人生を変えかねない衝撃を与えてくれたのだ。アクションゲームは下手っぴだったのだが、うっかりハマってしまった新たな扉に歓喜していた。

 

「素早くネルギガンテに音も無く忍び寄り……ヤツが気づいた時には痛烈な一撃が脳天に直撃する。華麗なわたしは素早く転身の装衣に生着替え、タイマンバトル(オトモあり)が開幕する……」

 

 真に華麗なハンターは転身の装衣に速攻着替えるほどチキンではないのだが、それなりの腕しかないライトプレイヤーなので都合の悪いことは気にしない。

 

 興奮気味のその声は男性アバターゆえに相応に野太いが、中身が中身なのでそれなりに姦しい。一人だが。一人装衣をいじくりまわしてカッコイイだのキマってるだの、きゃらきゃら騒ぐのだ。 

 

 だが流石にずっと一人で騒ぐほどではない。重ね着ドラケンを入手した時のような興奮では流石にないからだ。アサシン〇リードを未プレイな例のハンターには特に思い入れがない。

 

 あの手のグラフィックのアクションゲームに酔い、ドットゲーにすごすご戻っていく程度の三半規管なのだ。モンハンはなぜかそこまで酔っていないが、古代樹の森は敵である。

 

「よーし、じゃあ適当な救援調査クエストで激運チケット消費しようかな。武器はガンランス。全部ガードして肉質無視でフルバループで勝てないものはないからね! キリンもゼノも、ネルギガンテも! クシャは……、……」

 

 彼は不自然に口ごもった。苦手なモンスターの一匹や二匹がいるのもまた、普通のライトプレイヤーらしいところである。ガンナーは弾かれるときがあり、風圧はまた鬱陶しい。ブレスを見切れるがそれだけで、それなりに肉質もめんどくさい硬さ。

 

 まぁ王だろうと狩れるのだが、狩れることと得意か苦手かは特に関係がない。狩れないモンスターなんていないのだから。

 

 ガイラクレスト・王を得物に、毒武器のオトモを真の相棒に。なおアサシンの装衣は使いどころが難しいので早速留守番である。

 

 殴ってよし、フルバーストもよし、溜め砲撃もチクボンも、普通に砲撃クイックリロードループも何だってよし。万能選手のガンランスは、戦闘中にすべて考えるのを放棄するバーサーク気味のハンターには丁度いいのだ。

 

 戦法? そんなものはすべてガードして弱点をボコボコにすること以外はない。

 

 今日も適当だが元気いっぱいにモンハンを楽しむ例のハンターはひと狩りを重ねるのだ。




避ける気がないハンターさん
ガードは出来るが回避は苦手、正面突破したいお年頃。
ゲームのアバターには手塩をかけるがリアルの自分には頓着ない典型的なゲーマー(ライト)。多分、好きなものへの想いが純粋なので笑顔は可愛い。性癖も趣味のうち。
なお、ハンターさんの笑顔は一部の人間に威圧と恐怖を与える。オトモは和む。

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

  • ゲームシステムによるもの
  • クエスト頻度、難度、クリア時間
  • イベント関連
  • メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
  • アナザーストーリー

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