例のハンターはお気に入りの封印の眼帯をつけ、大好きなブリゲイドの帽子をお守りとして脇に挟み、バッチリ決めた森に溶け込む深緑の装いでルーン石を袋ごと握りしめ、震えていた。
もちろん、感激にだ。
今にも叫びだし、走り回り、全身でその感情を表現しそうな例のハンターを、流通エリアの人々は戦々恐々、怖々と見守っていた。
アステラの人々的には、ウィッチャーが例のハンターの仕事を奪ったとか、活躍の機会がなくなったとかで怒るのか、それとも貰ったものが嬉しくて叫び出すのか、何かよく分からないが彼の心の琴線に触れて暴走し始めるのか、全く見当がつかなかったのだ。
まさか、あのクエスト中ウィッチャーの中の人として、彼の体を動かしていたのが例のハンターの中の人と同じだとは夢にも思わない。彼の口調も、何もかもが似ても似つかぬ硬派で野性的、かつ理性的な男性だったのだから。当然奇声をあげたり突然興奮したりもしなかった。
なので、内面で荒ぶるハンターがモンスターの瞬間移動にいちいちキレていたことも知るよしがない。
ちょっと中の人が舌打ちしながら、無様に打ち上げられる渋いイケメンの野太い呻き声を聞き流していたことも。自分のハンター以外には興奮度が低めなのである。ソードマスターは別なのだが。
呻き声と同時に当たり判定が謎! と吠えたことも中の人の秘密である。避けたじゃん! と咆哮しながらコントローラーと戦っていたのである。
チキンなので大事をとって回避を二回するようにしたりと工夫したが結局、いつも通り被弾しまくりであった。耳栓ぐらい付けさせろという気持ちに駆られた。
初回は一乙で勝ってきたのはひとえに、一年も楽しくプレイしていればさすがに少しは上達もするというところだろう。
アステラの人々は思う。あぁ、あのウィッチャーはスマートで、無駄なく、とはいえ人情味が無いわけでもなく、素直に賞賛でき、変なところもなく真っ当にかっこよかった、例のハンターと違って断じて流通エリアで叫ばないし、突然踊らないし、それでいて例のハンターのように強かった、と。
そう、クリア前の例のハンターのことのように、ウィッチャーのことも美しい思い出としてあるのだ。例のハンターと比較すれば誰しも人格者になるという寸法である。
だがウィッチャーの中の人は、つまり操作していた人間は、例のハンターである。この世は無常。まさしく知らぬが仏である。
初見で近接殺しめいた動きのレーシェンを、スラッシュアックスで華麗に……あくまで例のハンター目線であり、泥臭く、というのが本来のところであるが……討伐したところから察しても良かったかもしれない。
なにせウィッチャーは門から来たる異世界の人間で、ハンターの武器なんて使い慣れておらず、クエスト開幕早々に例のハンター御用達の変形武器たるスラッシュアックス、通称「パワスマ」に持ち替えていたところとかに怪しいと思うべきなのだ。
とはいえ、まぁ、例のハンターはわざわざウィッチャーの中に自分がいたなんてNPCに言いふらしたりはしないので彼らの心の平穏は最低限保たれるのだが。
このことがもしアステラの人々に知れたら、例のハンターは他人に憑依することさえできる! もしかしたら今にも誰かが乗っ取られるのではないか! 誰に? ……ソードマスターとか! やっぱり例のあいつは人間かも怪しいぞ! という騒ぎになる所だった。
例のハンターは、考えたこともなかったがソードマスターを操作できるのなら是非ともやりたかったし、あの旧式のリオレイア防具の重ね着が欲しくてたまらないのであながち間違った考えでもないのが……残念なところなのだ。
「……レーシェンかぁ」
ところで、例のハンターの中の人は、ちょっとホラーが苦手であった。なので、コラボのモンスターがちょっとばかり怖かった。古代樹の森が暗いのも、それに拍車をかけていた。
瞬間移動でハンターのすぐ横に立たれる事に「ひぇ」とか「おいバカやめろ」とか「漏れる」とか情けないことを口走っていたのだが、例のハンターはあくまでハンターであり、ウィッチャーではないので、ウィッチャーが情けないことを言わずに済んだのは不幸中の幸いである。
中の人の名誉も何も無いが。
しかし、ウィッチャーコラボは。彼にとって、そんなことが霞むくらいの素晴らしいできごとだった。
演出により見慣れた古代樹の森が新しいマップであるかのように新鮮で、考察もそれなりに好きな彼女としては有難いことにNPCたちの色んな設定も聞けたし、魔法の演出もかっこよく、実に興奮した。出発地点が違うのも良かった。拠点から出発なんて、ドラク〇みたいだなとRPG好き的には思ったくらいである。
それに。
「受付嬢に、めっちゃほめられたなぁ。しかも理想の誉め方で」
褒められた、ヤッター!
と、わかりやすくも子供っぽくいうのはさすがに恥ずかしかったのか、小声で、周りに聞こえないような小声でそう呟き、例のハンターはうっとりと、誰にでも分かるほど恍惚としていた。
コラボクエストのなかの会話シーンでめちゃくちゃ褒められたことにご機嫌だったのだ。「なんというか、特別です」とか「英雄」とかそういう耳障りの良いワードを反芻してほれぼれしていた。
俗に言う、主人公が後の世に語られているとか。前作の主人公が英雄扱いを受けているとか。そして伝説へ……、そういうのに気持ちよくなるタイプのプレイヤーなのだ。
主人公は褒められるのは良くあることである。面と向かって讃えられる場面は多い。「導きの青い星」をクリアした時など、画面が埋め尽くされるほどの「!」マークに半ば惰性になりながら褒められたものだ。
そういうのには、慣れているし、飽きてもいる。だが、彼女は「主人公がいない場面で」、「主人公を知らない存在へ向かって」、「絶賛」が大好きなのであった。どれくらい好きなのかと言うと、二回目以降のクエストでそこだけ読み飛ばさずに読み返すくらいであった。
極度の「自分の操作キャラがかわいい」とか「カッコイイ!」を患っているので仕方がないことなのだ。
操作キャラが主人公である以上、第三者と第三者の会話を聞く、というのは盗み聞きなどの……つまり、ストーリーで語られているのを立ち聞きするシーンや他人の日記を読んだりする行為からでしか得られず。
ちょっと満たしにくい欲求であったので、例のハンター的には受付嬢のこれまでのヘイトを全て精算しても良いくらいには嬉しかったのだ。
とはいえ、好きの反対は無関心であり、無関心が反転しても無関心なのでこれからも互いに会話のドッジボールをするのだろうが。
「……瀕死のプケプケが死んじゃったからもう一回やるか」
今度は生命の粉塵を調合できるように素材を集めながらやろうかな。麻痺投げナイフをとっておいて、動きを止めたところにとっととやつを片付ければいいのかな。お供のジャグラスを蹴散らすためにはやっぱり近接武器の方が楽かな。
そうやっていろいろと検討するのは楽しい。攻略に頼りながらプレイしても、実際討伐するのは自分の腕次第なのである。
ゆえに楽しいのだ。あれこれ考えながら、一通りの目処が経つと例のハンターはクエストを受注してばったり倒れた。
それはウィッチャーに魂を移動させたからだが、その辺で倒れていることはよくある事なので例のハンターのオトモはえっちらおっちらとその空っぽの肉体をマイハウスへ運んだ。
珍しく夢を見ているらしいハンターが楽しそうな顔でもにゃもにゃ寝言を言っているのを慣れ切ったオトモは微笑ましく思い、うっかり見てしまったアステラ所属の誰かは怯えた。
慣れない武器を手に、しかし着実に敵を屠り、華麗に戦う男がいた。この世界に似合わないおどろおどろしいヒトガタのモンスターを相手取り、時に魔法のように不思議な炎の力を使いながら。
例のハンター、もといウィッチャーは必死に最大限の現実逃避をしていた。現実はどこまでも引け腰である。怖い上に吹き飛ぶし、咆哮に対抗するための耳栓もないのである。
繰り返すが、例のハンターはホラー的要素が苦手であった。彼女的にはCERO-Cが限界なのである。尻尾を切るより怖いことは嫌なのだ。これが限界なので、既に上限いっぱいすり切りいっぱいなのである。
生々しくも尻尾を切る程度ならなんとも思わないが、デフォルメ皆無なモンスターが自分の隣にぬろりと現れるのがもう怖かった。
ヒーヒー言うにも聞いてくれるボイスチャットもなし、自室には一人、オトモもなし。詰んでいるので歯を食いしばるしかなかった。
基本的には素晴らしく楽しいのだが怖いのだけは無理。チキンハンターなのである。
ガワがウィッチャーなのでいつものように弱音を吐くことも出来ない。出来たとしてもウィッチャーのクールな外見で弱音を吐くのははばかられる。例のハンターはハンターであってウィッチャーではないのだ。
操られたニクイドリが不気味なカラスのようなのも相まって、余計に不気味なレーシェン相手に例のハンターが操るウィッチャーはライトボウガンを撃ちまくった。早く帰りたい。
プケプケが参戦し、彼を守るために粉塵を撒きまくりながら散弾をぶっぱなす。吹っ飛ばされ、回復し、粉塵を撒き、裂傷になり……。
逃げを打ちながらまず回復薬を飲もうとして、ジャグラスにちょっかいをかけられ……よろめいたすきに。
……惨たらしくも、情けなく、乙。
中の人は一旦落ち着いてコントローラーを置いた。
気を取り直し、もう一回握る頃にはもともとHPが危険域だったプケプケは死んでいたが。悲しみとともに哀悼を捧げ、君のことは忘れないと心の中で呟いたウィッチャーはガンナー特有の紙装甲でさらに後を追う。悲しみの三乙である。初見のクリアはビギナーズラックだったようだ。
そっと彼は電源を落とす。敗北を捨てずにセーブはきちんとしてから。
彼女はおもむろに愛用のスマートフォンを取り出し、赤いアプリのアイコンをタップした。攻略動画でも見て対策するために。予習は大事だとよくよく思いながら。彼女のプレイヤースキルはどこまでも並み、被弾率は並み以下なので。
例のハンターは、古代樹の森が新鮮に感じることや新しい骨格のモンスターが追加されたところ、渋くてカッコイイウィッチャーにテンションが上がっていたが何分「狩りをする」ことこそが目的なので真剣だった。
このクエストでは重ね着が意味をなさないので、その瞬間だけはアステラの人々が本当の意味で望む「導きの青い星」らしい面構えを見せることができたことだろう。
ただ、ウィッチャーの中の人をやっているうちは例のハンターは「ウィッチャーの邪魔にならないように狩りをしている」ことになっていて人目についていないので誰にも知られることはないのだ。
そしてそれを残念に思うことも無い。
イベントに夢中なのである。
楽しくムービーシーンの自分を何度も見返し、重ね着を変えては再視聴し、モンスターハンターワールドwithウィッチャーに対する光の戦士とか、総司令とペアルックで統一感のあるハンターらしさを演出するとか、「わたしの考えた最高にカッコイイハンター」の重ね着で悦に入るとかで忙しいのである。
暗がりの中でも燦然とした中性的なハンター。髪をきりりと結い上げ、武器を自然に帯びるしなやかな肉体。超常現象に驚くものの、決して己の手柄を目的とせず、異常事態の解決のために尽力することを良しとする。
仲間には頼られ、褒め称えられるも、表立って異世界からの来訪者に頼られ、感謝されるようなことがない自分の仕事に集中するクールなハンター。
それになりきり、あぁなんて、わたしのハンターはカッコイイのか! 何度でもムービーの自分を見てしまう! なんて素晴らしいのか!
と、傍目から見るとウィッチャーがやってきた出来事に興奮しきったあまり思い出を反芻しまくり、やっぱりナルシズムを爆裂させながら叫んでいる残念なことになっているのだがやはり気に留めることはない。
レーシェンを討伐することにも、ムービーを見ることにも夢中で幸せいっぱいな例のハンターはるんるん気分で何度もひと狩りを今日も重ねるのだった。
自分が操作していない動きをする自分のキャラクターが好きなハンターさん
重ね着をひっかえとっかえしてムービーを見まくるのが趣味。今回のムービーはかなりお気に召した模様。
ゲラルトにはムービーシーンでしか会っていないのでナルシストでものすごく迷惑、だがアステラ的には英雄的ハンターであることを知られていない。
仮にボイスチャットを繋いでプレイしていたら相手はものすごく煩い思いをすることになる中の人を持つ。ホラーが苦手というより普通にビビリなだけかもしれない。
本当に苦手ならおびただしい数のモンスターを狩りまくることで恨まれないか不安に思うところだが、今日も元気に大虐殺をしている一般的なハンター。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー