ハンターさん、集めるのが好き   作:四ヶ谷波浪

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この話は普通の小説です。いつものような流れではなく、「ハンターさん」がゲーム開始するまでのお話となりますから、中に人がいるのは最後だけです。
テイストが違います。


アナザーストーリー:例のハンターと呼ばれたあなた

 畑で土を弄っていると、ふと、影がさした。人の形をしているそれを見上げると、逆光の中に男がいた。彼の格好は村人のそれではない。

 

 重い装備をものともせずに纏う、ハンターである。ハンターの例に漏れず、今まで狩猟してきたモンスターの素材を使用しているらしい。

 

 私はその手のことに詳しくはないのでどんなモンスターの素材で作られているのか皆目見当もつかないが、使い込まれたらしいその装備を身に纏う彼が頼れる相手なのは知っている。

 

 太陽の光の中、男の目が私を温度もなく、見ていた。

 

「や、よくぞいらっしゃいました、ハンターさん」

「そんなに改まらなくていいよ。それで? 何が出たって?」

「はぁ、それが分からんのです。とにかく村を出た者が襲われたとか、積み荷をそれで落としたとか、既に死傷者もおります。

ですが、みなモンスターのことに詳しくなく、モンスターの名前までは……」

「そうか。まぁいいさ。依頼書をくれ」

 

 赤っぽい髪をひとつに結い上げたハンター。その感情のこもらぬ強い眼差しを頼もしく思う。

 

 いつだって、どんな時でも彼は変わりない。狼狽えることも無く、怯えることも無く、冷徹で、その目はまっすぐで、いつだって結果を残すのだ。

 

 私は一介の農夫であるため、彼の担ぐ武器がなんであるかはわからない。ただ、高い背としっかりした体格を持つこの若い男が強いということだけを知っていた。

 

 何度か見かけたことがあるが、得物が彼の背丈ほどあるほど大きくとも、彼の足取りに変化はなく、強力で獰猛なモンスターよりも強いというのは本当なのだと知らされる。

 

 彼の名は……なんだったかな。

 

 このあたりじゃ「例のハンター」と言えば、間違いなく彼のことになる。どんなに強いモンスターでも必ず討伐し、時に捕獲し、そして五体満足で帰ってくると評判だ。依頼を断るのは他の依頼が先に入っている時のみ。

 

 まさしく救世主と言っても良い、素晴らしい働きをするハンターだが、彼はどこかの村付きではない。

 

 誰もが望むはずの安定した暮らしを求めていないのか、どこかに居を構えているという話も聞かない。仮の「マイハウス」をその時々で借りているという。

 

 是非とも、うちの村で彼を雇いたいものだが難しいだろうな。依頼金を高く積んでも先の依頼を優先する人間で、依頼されればどんなに遠くにも赴くのだから。

 

 その強い眼差しで、逞しい肉体を駆使して数多のモンスターを葬ってきたのだ。躊躇はなく、また、彼は安寧を必要としていないように見えた。金や名誉に興味があるようにも見えない。

 

 戦いに快を見出しているような人格破綻者にも見えなかったが、一体、何が浪漫は溢れるが危険極まりないハンターという仕事をさせるのか誰も知らないのだ。

 

 あるハンターは金を、あるハンターは名誉を、あるハンターはモンスターへの情熱を、あるハンターは戦闘を、それぞれ求めているものなのに。

 

 だけど、依頼主である私たちに、それは、気になりはしてもそれまでのこと。間違いなく依頼通りの仕事をこなす凄腕ハンター。彼が力を貸してくれるとなれば百人力では済まされない。

 

 例のハンターがいれば安心だ、彼に依頼できるならもう解決したようなもの。そういう考えは私たちの心に平穏をもたらした。

 

 しかし、その生活も終わりを告げるらしい。

 

「そういえばハンターさん、例の依頼も受けるのかい?」 

 

 例の依頼。

 

 それは、五十年ほど前から調査を続けている「新大陸」への出立。あそこにこのハンターが赴くとかいう話だ。この村は港に近い。だから、そういう話は結構知られている。

 

 彼は有名人であるから、余計にだ。

 

「例の? あぁ、新大陸の調査団への話か。受けるさ。ま、今受けることになっている依頼を五つほど終わらせてからになるが。それだと出航に遅れるだろうからまたにしてくれって断ったつもりなんだが……」

「そりゃあ、ハンターさん、あなたほどの人なら向こうは待つでしょう」

「有難いことだよ」

 

 丁寧に依頼書を畳み、懐に仕舞った例の彼はすぐに出発すると言った。

 

 ほかの依頼ならばもう少し村でゆっくりしていくこともあるのだけれど、死傷者が出ているということが気にかかったらしい。

 

 オトモも連れず、単身狩りへ赴くハンターを見送り、彼の無事を祈った。とはいえ、現実主義の彼に知られたら鼻で笑われるかもしれなかった。

 

 祈って何になる、と。

 

 祈るくらいならわたしがその懸念を倒してやる。そう、彼はよく怯え祈る人間に言う。彼は強い。ハンターの中でも別格の存在だ。だが、冷たい。血の通わぬ人間のように完璧で、抽象的な物事に冷酷で、柔らかさのない男なのだ。

 

 せっかくの整った顔立ちも女に言い寄られることすら興味を持たないので意味もない。ハンターであるというのに傷跡ひとつない奇跡的な容姿を生かす気もない。

 

 彼は頼れるハンターだ。例のハンター、そう呼ばれて通じるような人間だ。だが実は、裏ではこうも言われている。魂を持たぬ人形のようだ、と。

 

 事実、会話こそ交わすが彼はにこりともしないのだ。次々と持ち込まれる依頼に不愉快さを示すこともついぞなかった。彼は淡々とそれらをこなし、モンスターを屠り、そして帰ってくる。

 

 あの赤い目が感情らしいものを映す日はない。新大陸の調査団は、彼を正しく御せるのだろうか?

 

 私には、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは、ご主人を探していた。それは迷子ということじゃなくて、「ボクのご主人」になるハンターを探していた。いつの日か立派なニャンターになるために、人間か竜人か、はたまたニャンターのオトモになって訓練を積むために。

 

 そんな、同じような思惑を持つアイルーがめいめい装備を着込んで緊張の面持ちで並んでいた。

 

 売り込み対象は新大陸へ赴くハンターたち。調査団、その中でもハンターと編纂者を主体とする五期団となる彼らに。

 

 それはつまり、優秀のお墨付きがあるようなもの。その中でも「推薦組」と呼ばれるひと握りのハンターはもっとすごいらしい。自分を売り込んだのではなく、他人に推薦され、わざわざ請われて新大陸に行くハンターたち。

 

 どんな人たちなんだろうか。

 

 今日は彼らがオトモを探しているというので顔合わせの機会を作って貰ったのだ。今までもオトモを連れていたハンターも多いだろうけど、オトモアイルーにも事情があって、新大陸に行くことは出来ないと契約を解除したオトモもいるみたいなのだ。

 

 ボクたちからすればもったいない話だけど、今はそれがありがたい。特上級のハンターたちのオトモの座をどうも、ありがとうニャ。

 

「わあ、こんなに! お集まりいただきありがとうございます!」

 

 編纂者らしき女性が入り口から入ってきて頭を下げる。その後ろから続々と無骨な身なりのハンターたちがやってきた。

 

 隣で緊張の面持ちをしていた三毛のアイルーがぶるぶると震えた。

 

 彼らはボクたちと目線をあわせ、勘や武器、あるいは……ボクたちには想像も及ばないような理由で選んでいく。選ばれないアイルーはまた、どこかでご主人になってくれるハンターを探しに行くために次々と他のハンターたちと会話する。

 

 正直、この中でオトモを断られた経験のないアイルーはいない。ボクにもある。だから、期待と不安でいっぱいだった。オトモになったことはある。だけど、やっぱり、新大陸に行くとなると普通のオトモでは駄目かもしれない。

 

 この場にいるのは新参アイルーではないけれど、やっぱり体格から違うハンターたちには劣ってしまう。だから、高みを目指すために必死になる。

 

 新大陸に行けるなら。間違いなく、他のアイルーとは一線を画すニャンターになれる。調査しきれていない新しい大地、新種のモンスター、見知らぬ生態系の中でハンターとともに大地を巡れるなら。それはかけがえのない経験になるに違いのだから。

 

 彼らは目星をつけ、だいたい話がまとまりそうになったけれど、いまいちハッキリと「オトモにする」とは言わなかった。誰かを待っているみたいだった。

 

 推薦組のあるハンターが、相棒らしき編纂者となにやら話している声が聞こえる。

 

「あと一人が来ないって?」

「さすがに勝手に先に決めちゃうのはまずいでしょう」

「だけど、そいつは今どこにいるんだ? ちょっとやそっとの遅刻なら仕方ないけど、三日も掛かるって言われちゃ待てないぜ?」

「そうね……伝書鳩で知らせてくれるらしいけれど」

 

 と、タイミングよく伝書鳩が舞い込んできた。編纂者がそれを読み、ため息をつく。

 

「依頼に忙しくて今日は来れないみたいね。みんな、もう選んでいいみたい。彼は……そうね、自分で探すみたいよ」

 

 伝書鳩の足に結ばれていた手紙から、細かい花びらの白い花がいくつかはらりと落ちた。ハンターたちはそれに気づかない。ボクはそれに見とれていて、声をかけられても上の空になってしまった。当然、そんな集中力のないアイルーなんて向こうも願い下げで、ボクは選ばれなかった。

 

 しばらくして、選ばれたアイルー、選ばれなかったアイルー、そしてオトモを見つけたハンターたちがいなくなったあと、それをなんとなく拾い上げた。

 

 そして、どこにでもある野の花をボクは大切にポーチに入れた。

 

 なんという名前だったろう。どこにでも蔓延る野の花。だけど、どこか心に留まる小さく、可憐な花。

 

 言うならばそれは……追想の。

 

 

 

 

 

 

 初めて見た時は、女性だと思った。柔らかなまなざしをしていて、まつげが長くて、綺麗な人だったから。

 

「初めまして」

 

 低く、優しい声がボクを出迎えた。そのとき、ああ男性なのだと悟った。

 

「初めましてニャ」

 

 あれから数日。なんとかご主人ハンターを見つけるべく色んなハンターに声をかけ、大抵は既にいるオトモにブロックされる日々。

 

 そんな折、あるハンターが会いたがっているという話にボクは一も二もなく飛びついた。

 

 そこにいたのは、あの「例のハンター」。凄腕と評判の、「推薦組」。

 

 彼を魂持たぬ人形とは、誰が言ったのだろう。こんなに優しい声をしているのに。ほら、目が、ボクを慈しむようにあたたかい。うっすら微笑んでまでいる。

 

 魂がないなんて。なんて悪口なんだろう。彼に対する妬み? ひがみ? わからない。目の前のハンターのまなざしは柔らかく、決して依頼を機械的にこなし続ける強靭なハンターには見えなかった。穏やかそうで、少し緊張していて、ボクのことを好意的に見てくれていたんだニャ。

 

「君は、新大陸に行っても構わないか?」

「喜んでオトモしますニャ!」

「良かった。きっと、長いこといなきゃいけないけれど、本当にいいんだね?」

 

 長く、他のオトモアイルーが切望する新大陸でオトモが出来るなんて! もちろん、大きく首を振ってうなずいた。

 

 彼は笑って、しゃがんでいた膝を地面につけた。がしゃん、と防具か武器かが重々しい音を立て、この人のうわさ自体は嘘ではないのだろうと思わせる。だけど、不思議なことにそんな歴戦のハンターなのに傷一つないのだった。

 

 違うニャ。歴戦のハンターで、傷一つないから、この人は。

 

「わたしの名前は……」

 

 知っている。あの野の花の名前。噂に似つかぬ小さく白い、優しい花の名前。

 

 ボクの目は、きっと、これまで出したことがないほどの輝きを湛えていたと思う。

 

「わたしのオトモは君にする。君の名前を教えてくれる?」

 

 差し出した大きな手にボクの手を乗せる。ボクたちを引き合わせた人間がはっと息をのむ。

 

「ボクの名前は……」




例のハンター
プレイヤーの器。五期団の推薦ハンターとして問題ない程度の功績を作るために存在したので人格らしいものはなく、依頼を受け続け、功績を作るだけの機械のようなもの。親や故郷などの設定はないので、突き詰めるとぼろが出るがだれも突き詰めない。
オトモを選んでいるときに中の人がキャラメイクをしているくらいなので、そこまでいつものハンターさんではない。
中の人はモンハン初心者なので、最初はかなり遠慮がちにプレイしていたので前面に出ていてもあまり変わらなかった。

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

  • ゲームシステムによるもの
  • クエスト頻度、難度、クリア時間
  • イベント関連
  • メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
  • アナザーストーリー

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