「ぐぉっ」
あがるのは野太い悲鳴。しかしそれは聞き慣れた悲鳴なのでアステラの人々は仕事の手すら止めなかった。むしろ、気にしてはならないのだ。
今日も例のハンターは勝手気ままな生活を送っている。
その背中にはみんな大好きエンプレスシェル・冥灯。スキル、弾丸節約付き、雷水の属性弾にレベル一と二の睡眠弾、斬裂弾、それに加えて徹甲榴弾まで撃てるお手軽便利なライトボウガンである。ナナ・テスカトリとテオ・テスカトル、バゼルギウス、マム・タロトからネルギガンテまで大体これがあればなんとかなるすごいやつである。
このハンターがこのすごいライトボウガンを作るとき、まだマカ錬金にナナ・テスカトリの宝玉がなかったので、宝玉系に関してはかなり運がないこのハンターは数日乱獲していたのも記憶に新しい。
そしてそのすごいやつを手にしていようが馬鹿な例のハンターは、武器を背中に装備しているというのに、悲鳴をあげて見事なまでに吹っ飛ばされ、強かに背中を打ち、痛みのあまり激しく転がり回って悶絶している。
転がりつつも自分よりも先に武器の安否を確認するところがこのハンターらしいところである。動作チェック、よし。その一環で地面にへばりついたまま海の方に向かって通常弾を何発か撃ち込んでいたがわざわざ咎めるような命知らずはいない。むしろ関わりたくないので目を逸らされている。見ないふりが一番なのである。
吹っ飛ばされても自慢の顔は無事だったが、気合を入れて綺麗に結っていた髪の毛が盛大に崩れ、ハンターはとても悲しくなった。自分のせいでパーティが三乙し、クエスト失敗と相成り帰還するよりも悲しかった。
お気に入りの帽子も自分の背中で踏み潰してしまい、丁寧に拾って優しく優しくシワを伸ばす。今日のブリゲイドはクールな深い青色である。シワ自体はすぐ戻ったものの何となく羽根のポジションが元通り決まらない。ハンターはもはや半泣きであった。
例のハンターを吹っ飛ばした命知らずな犯人はプーギー。好き勝手に着せ替えをしてくるくせに、あまり撫でもしないハンターの気まぐれの撫でに怒り狂ってタックルをぶちかましたのである。
彼は最初プーギーに親切心から生姜焼きと名付けようとしたが知り合いの良心的なネカマハンターに止められ、それでも普通に可愛がっていたのだが、だんだん人並みに変わらない反応に飽きてしまい、そして今はプーギーにツンツンとされるようになってしまったのである。
このハンターにネーミングセンスはないのかあるのか。真実はともあれとりあえずプーギーに対しては最悪だったようである。
「いってー……」
例のハンターに近寄るアステラの人はあまり居ないので、ハンターはオトモの差し出す可愛い手を取って起き上がる。
ハンターは痛みと悲しみのあまり内心プーギーに豚汁とかソーセージとか名付けたくなったが追いかけるのも面倒なのでやめた。それより帽子や髪型が心配だった。そしてそれよりもなによりも、オトモの優しさが嬉しかった。
「大丈夫かニャ?」
「大丈夫。ありがとう。……プーギーにモヒカン生やしてやろうと思ったのに」
「ニャン」
「にゃんにゃんちゃんもモヒカンにしたい?」
「したくないニャ」
「そっかー」
ハンターは起き上がり、オトモアイルーの頭を撫でてから中途半端に結われた髪をすっかり解いてしまうと、えっちらおっちらと階段を登り始めた。階段からはアステラ名物のカップルが仲睦まじくしているのが見えたのでヒューとはやし立てるような口笛を吹きながら。
当然、アステラはじまって以来のやばい狂人ハンターに目をつけられたかと勘違いしたその二人は慌てて部屋に引っ込んだ。
別にこのハンターは恋愛ゲームをしに来たわけでもなければ、中の人が女性なので男性アバターの今、何も気にしていなかったのだが。恋人を口笛ではやし立てるとかいう、ゲームかマンガの中でしか出来ないことをやってみたかっただけなのである。ただのロマンである。
ハンターはなんとか気を取り直し、とりあえず着てもらえなかった「ベヒーモスのきもち」や他のプーギーの衣装を洗濯して干しておこうと考えつつマイハウスへ戻っていく。
ブタは綺麗好きだとよく聞くのでしっかり洗えば着てくれるかもしれないと思ったのである。動物への気遣いをする方向は普通だが、それよりまず正すところがあるのはご愛敬だった。
それから、彼は武具のメンテナンスもしておきたかった。武具をこよなく愛する彼は、ともかくそれらの保存状態にも気を使う。そのわりには武器の使い方は丁寧ではないが、狩りの最中は命のやりとりである。それどころではない。それに気を使うというのも、ただただメンテナンスという名目で作った武具と戯れるのが幸せなだけなのだ。
ゲーム画面としては装備のアイコンの一覧をいじくりまわしているだけなのだが、ハンターの肉体はアステラでしっかり生きているのである。
愛する武器にキスを送ったり、腕装備のスリンガーをパッチンパッチンガションガションして遊んだり、美しい装備の装飾をしばらく凝視したり、布で丁寧に磨いたと思えば抱きついて頬擦りして台無しにしたり、突然ファッションショーをはじめて決めポーズをとったりするのだ。スクリーンショットももちろん撮っている。彼にとっては至福のひとときである。
とりあえず、ハンターはマイハウスに戻るとすぐに三十分ほどかけて丁寧に髪の毛をポニーテールに結い直し、作ったばかりの装備や手に入れてまだ新しいダンケの重ね着を撫でくりまわしたり、色を変えて新たな組み合わせの可能性について考えたり、愛しく可愛いフワフワクイナたちを腕に鈴なりに乗せて笑っていたり、ゴワゴワクイナを抱きしめてふかふかなベッドにダイブしたりと至極幸せそうに過ごした。
もちろん足元に寄ってきたツチノコも思う存分撫でくりまわして、オトモとおやつを食べたりもした。おやつは美味しいと判明したハチミツを半分こするのだ。にが虫にはもう懲りた。
幸いにもこの行動、もとい奇行はプライベートな特等マイハウスの中で行ったので、慣れきったアイルーたちしか観客はおらず、これ以上の悪評が広がりはしなかった。
……もはや手遅れなのだが。
「プーギーちゃーん、出ておいでー」
「ニャンニャーン」
「アオキノコ栽培しすぎたからひとつあげるよー! おっ、よーしよーし! いい子いい子! 出てきた判断の甘さが運の尽きだ! 捕獲!」
彼はモヒカンにするのを諦めなかった。
現金なことにキノコに釣られてよってきたプーギーをしっかりがっちり捕まえると思う存分撫で撫でし、またタックルされる前にすかさずモヒカンにフォルムチェンジ、もとい着せ替え。素敵な紫のモヒカンの珍妙なブタの完成である。
一応弁明しておくととても似合っていて可愛いのでハンター的にはオールオッケーである。アステラ的には……関わりたくないためセーフなのでプーギーの味方はいない。
ハンターは手を叩いて喜び、自分もプーギーの近くに立って決めポーズした。想像よりもずっと可愛かったのでスクリーンショットをしっかり逃さず撮っただけなのだが、周りの人間から見ればプーギーに変な服を着せて自分は決めポーズするやばいやつである。
それから、そこは流通エリアの道の真ん中なので果てしなく邪魔である。誰にも指摘されたりはしないが。クエストボードへの道を塞がれた哀れな罪のない一般ハンターは曖昧な笑みを浮かべ、邪魔だと言いたいのを決して悟られないように立ち止まる。例の導きの青い星に目をつけられた方がよっぽどやばいのである。
約束のアオキノコをちゃんと食べさせながら、ハンターは楽しそうに嬉しそうにプーギーを愛でると、おもむろによっこいせっと抱き上げる。
可愛い可愛いブタさんが自分の腕の中でブヒブヒしているのがあまりにも可愛いのでハンターは笑顔になり、さらにスクリーンショットを撮りまくった。
懐いたプーギーは抱き上げてその辺を歩くと、一定の場所で震えてお知らせしてくれるのである。そこに丁寧におろすと、地面を掘ってお礼に何かをくれるのだ。ハンターは無事に掘り出されたお食事券を貰い、ハンターは久しぶりのかわい子ちゃんとの触れ合いにほくほくしながらも突然駆け出した。
比較的、あくまで比較的だが大人しくしていたハンターの突然の行動にアステラの人々はなんとか吹っ飛ばされはしなかったがぶつかり、よろめき、ハンターはそれなりにある人間性からぶつかったことをしっかり詫びつつも止まらない。さながら魔緒である。サイかもしれない。トリケラトプスでもいい。
しかしこのハンター的には何も悪いことをしていないのでそのまま気にもとめずにさっさと食事場へ直行し、調査ポイントでさっとご飯を食べると装飾品集めにひと狩り行ってしまった。
大剣になんとしてでも回復カスタムを付けたいハンターは、悲しいかな運が偏ってちっとも大剣のレア七のカスタム石が出ないのである。
しかしそこは面白可笑しく毎日を過ごしているハンターなので、めげることなく楽しいことをしながら歴戦イビルジョーを根気よく毎日狩り続けていた。イベントクエストがない時はまた別のをなにか受けてこつこつと狙うのだ。
明日もきっと、彼は可愛い食事場のアイルーたちにちょっかいをかけ、あるいは食事場の上空で綱渡りしてバナナを取りにくるアイルーを延々と観察し、思う存分愛する装備を愛でて満足するとひと狩り行くのだ。
例のハンターは毎日楽しかったが、アステラの人々からの評価はますますやばいやつになっていく。しかし全く気にしないので、彼は幸せなのである。
被害者のプーギー
抱き上げて運び、おろされても地面を掘らずに疲れて寝ると、それはそれで可愛いとハンターが騒ぐので迷惑している。大人しく掘った方がハンターをどこかへやれるため、幸せになれることに気づいた。
ハンターさん
可愛いものも綺麗なものもかっこいいものも好きなので人生が楽しい。運が良くないので宝玉やカスタム石に毎日悩まされている。言わずもがな、稼ぐが金欠ハンターである。
鈍いわけではないが、どうでもいいと思っているのでアステラの人々に遠巻きにされていることに気づいていない。集会所でほかの中の人がいるハンターがいる時はもう少し周りに気を使うが所詮はプレイヤー、NPCに気を使うことはないのでいつも邪魔なところで好き勝手している。
ちなみにこのハンターのオトモの名前は「にゃんにゃん」でも「ニャンニャン」でもない。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
-
ゲームシステムによるもの
-
クエスト頻度、難度、クリア時間
-
イベント関連
-
メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
-
アナザーストーリー