「君のご主人なにやってるの、アロハがかわいいアイルーちゃん」
「儀式ニャ」
「へぇ、何の?」
「地雷ハンターが救援参加しない儀式ニャ。この前は戦いに参加しないハンターがいたニャ。ご主人、戻って真溜め当てに行ったニャ。厄落としニャ」
「……効果あるの?」
「ご主人は疑ったら負けと言ってたニャ」
例のハンターは救援参加がメインの野良ハンターである。アイルーと話しているのはそれに参加してくれた野良の女ハンターだが、とても愛らしい顔をしていても、中の人の性別はわからない。おそらく男性だろうが、オトモアイルーには区別がつかなかった。
なお、オトモアイルーは自分の主人の本当の性別を薄々理解していたが、別にそれを暴いたって仕方がないのである。暴いたって何か変わることもなく、特に腹の足しにもならないので、気にするだけ無駄なのだ。
合っていようと間違っていようと主人の機嫌はその程度で損なわれないだろうが、狩りに行く時間が減るのだけは間違いない。どうせ「にゃんにゃんちゃんは賢いね!」とか言うに決まっているのだ。そしてひとしきり騒ぐに違いないのだ。
例のハンターは今日も朝からしっかり綺麗に赤っぽい髪を結い、自慢の顔にアクセントの赤い化粧をし、彼の愛するブリゲイドをパリッと着こなして、一人で一時間ほど様々な決めポーズをとって悦に入り、ナルシストしていたのである。
その虚無の時間をハンターの隣で虚無猫として過ごしているうちに、ハンターについてのことは大部分どうでもよくなったのである。きちんとした信頼関係はあっても、ハンターの狩り以外の行動については気にするだけ無駄という部分についてはしっかり悟ったのである。
まさに、そんなことはどうでもいいのだ。そんなことより今はあと二人参加しに来るのを待っている最中である。
素敵な黄色のブリゲイドの帽子のハンターは一人、虚空へ向かってタックルをひたすら繰り出していた。オトモ曰くの「儀式」である。たまに暴発した真溜め斬りが地面に突き刺さるがすぐにローリングしてなかったことにするとタックルを繰り出す作業に戻る。
彼の大のお気に入りのコンテスト大剣は今日も美しく磨かれ、タックルの度にギラリと照り返す。ハンターはタックルしながら変なやつが来ませんように。勝てますように。そんな、わりと切実な気持ちで深く深く祈りを込めてタックルする。タックルに想いを込めて。半分くらい無意識に。
最大レベルの広域化の範囲内かつ、絶妙にエクリプスメテオの範囲外とかいう微妙なところに戦いもせず立っているハンターとかもうごめんであった。
もちろんサボりに気づいて真溜めでぶん殴って連れてきたその腕に自信が無いハンターは、すぐに乙ってそのまま離脱したのでにこやかなハンターもちょっと怒った。相手は現実世界の人間なので前にゲームのキャラクターへ怒った時よりも怒りの度合いは高かった。
女ハンターは三人目の参加によって地面に潜って退散していったアイルーを見送るとしばらくひたすらタックルを繰り返すハンターを観察していたが、すぐに飽きて自分も武器を振り回しはじめた。彼女は太刀使いであった。
野良ハンターというのは、例のハンターと同じく中はプレイヤーな普通の人である。ごく稀に普通とは言い難いプロハンターとあたるが、ともあれ、どう足掻いてもアステラ的には狂人変人やばい人の巣窟であり、関わりたくない人種なのである。
ともかく彼らの、人が集まるまで己の武器を振り回し続けるという狂宴はしばらく続き、図太いはずの受付嬢も少しうるさがるというか、流石にちょっと迷惑したのだった。せめてベースキャンプから出てやって欲しかった。
それにも飽きたハンターたちはそのうち、互いの体を互いの武器で斬り合い、怯み合い、暫くすると楽しそうに大笑いしたり拍手し始めた。どう足掻いても、どこからどう見ても狂人たちの祭りである。ダメージがないとかそういう問題ではない。絵面が狂っているのである。
多少のことでは動じない受付嬢もこれにはドン引きし、ハンターという生き物が人間ではなくモンスターではないのかと思い始めたくらいだ。これではモンスターハンターではなくモンスターなハンターではないか、と。
しかしながら受付嬢はこの狂人ハンターの自称相棒である。公式にペアを組んでいるのである。上手く例のハンターとの距離を取れるので、今まで解散していないのである。
武器を振り回したり笑い転げたりするハンターが増えるにつれただただ突っ立ったNPCであることを強調し、彼女は巻き込まれることなく難を逃れた。
賢くなければ過酷な世界で生き残れないのである。もちろん彼女はこれを頭で考えてやったのではなく、ドン引きのあまり考えるのをやめて突っ立っていただけなのだが。
賢くなくても別に生き残れるのかもしれない。運さえあれば。事実、彼女はハンターの即死するエクリプスメテオでさえ、無傷の生還をキメるのである。システム上。話しかけたハンターすら生かすという点ではチート級である。キャンプに入っても回避できるのだがそれはそれ。
ともあれ、野良ハンターたちはようやく人数が集まると広域化で互いにバフアンドバフしながらモンスターのところへスライディングしていったのでようやくベースキャンプは真の意味で平和になった。
その回も随分頑張ったようだがやっぱり勝てなかったハンターは、帰ってから存分に受付嬢相手に愚痴るのだろうが、受付嬢はハンターの話を四分の一も聞かないようにしているので愚痴られたって誰も不幸せにならないのだ。
食事場で隣の席に座った四期団や五期団のハンターが勝手に聞き耳を立てておののくくらいで、話を広めることによる報復を恐れた彼らはこれ以上広めたりしないのだから。広められなくても悪評は十分広がっていて手遅れだが。
それ以前に受付嬢はわざわざ話すのが面倒だったので狂人共の宴について他言することはなく、アステラの人々の心の安寧は若干守られた。他言しようがしまいが例のハンターが狂人であることは既にしっかり知られているので、今更味方同士で斬り合いしているという事実が知られようと知られまいとたいして現状は変わらないのだ。
だがしかし、知らぬが仏とあるように、アステラの人々はたしかに守られたのだ。知ったらますます遠巻きにしただろう。例の導きの星ハンターの獲物に「人間」が含まれる……とかいう噂の尾ひれまでついて。
しかし幸か不幸かそうはならなかったハンターは、帰還してから自分への慰めに新しい装備を作ってクエストボードの前で踊っただけだった。
もし噂が広まって、人間に仇なす反逆者として槍玉にあがったとすれば……クリアしたはずのゲームの新展開に彼はかなりテンションを上げてしまうのでバレなくてよかったのだ。
しかしそもそも殺しても死なないこのハンターをどうこうしようとする人間は現れるのだろうか。なにせ周りの人間と違ってシステムに守られたプレイヤーの魂を持つハンターなので何回死んでも蘇るのである。不滅なので主人公なのである。
そうなってくると、主人公だからなんでも許されてきた話になるのである。ともあれ考えたって仕方ないのだ。
「相棒、何かいいことあったんですか?」
「ブリゲイドの色変更が今世紀最大に上手い事いった。最高の色だ、我ながら」
「へぇー。あ、私の好きなキノコはですね、ドキドキノコ!」
「何言ってんだ至高はアオキノコに決まってんだろ。マンドラゴラなら許す」
「ふーん、クエスト受けます?」
「受けるよ、えーっと」
話が噛み合っているようで互いに互いに好きなことを言葉のドッジボールしているだけである。頭が痛くなりそうな会話に、隣のテーブルの五期団ハンターは、青い星のハンターにもし話しかけられてしまうような悲劇に見舞われたらかまど焼きで秘薬が出たことを一方的に自慢してやろうと誓った。
例の導きの星ハンターは相手の話をあまり聞いていないので適当にあしらえばいいと思ったからだ。特定の役割を持つ人間にしか基本的に話しかけないし、その相手にだってその役割を果たしさえすれば何を返事したってにこにこしている。
もちろん効率厨というほど効率厨ではなくとも普通の感性を持つ例のハンターはクリア後になってまでわざわざただのNPCに話しかけたりするような無駄はしないので難は逃れた。
一般五期団ハンターは例のハンターのせいでうかつに身動きが出来なくなったものの、根性と報奨金保険の両方の猫飯スキルの発動により、これは勝てるかもしれないとハイになって踊りまくるのを哀れにも目撃してしまい、例のハンター曰くの素晴らしい筋肉の躍動をしっかり目の当たりにするという反応に非常に困る目に遭ったが、今日はまだかなりマシな方だなと思う理性はあった。
例のハンターは非常に情緒不安定で、何があったせいで不機嫌なのか、何があって上機嫌なのか、突然なぜ暴れるのか理解がさっぱり出来ないのだ。
踊っているだけなら彼は貝のように大人しい日と言っていいだろう。この前春祭りや夏祭りで手に入れた樽花火をテンションの上がりすぎでアステラ内で火をつけ、美しい花火自体は美しく上がったものの大混乱に陥れられたのは記憶に新しい。
またあるときはあとちょっとで勝てたところでクエスト失敗してしまい、流石に憮然とした顔つきでそこら辺を駆け巡る例のハンターは腹いせの八つ当たりに一人ファッションショーインアステラ流通エリアとかいう大迷惑をやらかした。
ハンターに絡まれたくなければ決して反応してはならないし、完全な無視は無視で機嫌を損ねそうだという理由で曖昧な笑みをみんなして浮かべたのが懐かしいのである。表情筋に対するテロであった。
もちろん、いかなるときでも間違えても彼を押しのけて行きたい方へ進んではならない。プレイヤーだから、ということを本能で理解しているせいであるが、その事実以上に、単純に危険すぎる。
なのに彼は道の真ん中で決めポーズをしているのだ。邪魔すぎる。うっかり生姜焼きになりかけたプーギーですら空気を読んだ。機嫌が悪い例のハンターとか恐ろしすぎるのである。いくら彼の顔がよかろうが、いくら服のセンスがよかろうが、完璧にキマっていようが邪魔なものは邪魔なのだが。
しかしながら幸いにして、今日は本当にただただ機嫌が良いだけだったので例のハンターはさっさと指笛を鳴らして翼竜に掴まり、ひと狩りしにいったのでようやくアステラに落ち着いた空気が流れ始めた。
それでも、こんなのでも、少なくとも彼はモンスターではない。しかしながらモンスターなハンターであることは間違いではない。
例のハンターのオトモ
ハンターの一人ファッションショーについてスルーする特別な技術がある。
野良ハンター(女)
もしかしたら普通に女性だったのかもしれない。しかし救援でボイチャ垂れ流しのハンター(アバター女性)が女性だった試しは一度しかない。
ハンターたちの口調
基本的にロールプレイングのつもりなので外見に合わせて喋っているが、感情が昂ると本人のものが出てくる。例のハンターは一人称を意図的に使わないようにしているが長々語るとうっかり出てくる。外見に合わせて「俺」とか言うのはちょっと恥ずかしい。
ハンターさんの情緒不安定
本当に情緒不安定というよりもゲームなので好き勝手している結果。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
-
ゲームシステムによるもの
-
クエスト頻度、難度、クリア時間
-
イベント関連
-
メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
-
アナザーストーリー