身だしなみチケットの話。
「にゃんにゃんちゃん! ついに念願のアバター変更チケットが配布だよ!」
「ニャンて?」
「あ、ごめん、身だしなみチケットのことなんだ」
「……ニャンて?」
ご主人、とうとう気でも狂ったのだろうか。身だしなみチケットもなにも、日頃から身だしなみという身だしなみをチェックし微調整し、オトモは虚無猫の極意を手に入れる羽目になったというのに。チケットがなんだというのか。チケットがあってもなくても常に身だしなみチケットとやらの擬人化のようなもののくせに。
と、アルテラの人々ならオトモアイルーの心情を読み取れたが相手は素っ頓狂の例のハンターである。アイルーを抱き上げ、余念なくヒゲのないつるつるの顔でふわふわの毛皮に頬ずりしながら、テンションが振り切れているいつもの狂人である。何かを理解しているような様子はない。
オトモに限って彼にとっては真の相棒のため、理解する気がない訳ではない。のだが、現在しっかりはっきり目先のことに夢中になっていて理解する素振りはない。ただただ頭をスーハーしている。猫を吸いたいお年頃である。いくつになってもお年頃である。
行動のロールプレイ(筋肉質男性)が少し抜けているようだが、多少彼がカマくさく見える動きをしたところでこのハンター的には大人しい部類に入るので、むしろ普段からこの程度であってくれとみな願うだろう。ハンターは抵抗しないアイルーを思う存分吸った。もしかしたら通常運転かもしれない。
アイルーは大人しく吸われつつ、イカれた主人から逃れる方法はないこともはっきり悟っていた。拒否しなければしないほどこのハンターは早く満足するのである。オトモアイルーは賢かった。賢いから生き残れているのである。不死身のハンターのオトモとして五体満足でいられるのも賢いからである。
そんなハンターの手にはなるほど、言葉通りに一枚のチケット。そんな紙切れがこのハンターの何を喜ばせるというのか。各種宝玉と等価値の金の竜人手形ではないのに。
「それは何ニャ?」
「顔から性別まで変更できるチケットだよ!」
「ニャンと」
ご主人ハンター、ついに人間を辞める。オトモアイルーの頭にはそんな言葉がよぎった。性別を変えられるのか、と。魔法のようである。しかもそんな紙切れ一枚で! ハンターが
もちろんその時のハンターにはまだプレイヤーという魂が宿っておらず、とりあえず辻褄合わせのために存在する適当な過去が存在するだけだったが。
つまるところ、このハンターが五期団として推薦されるに相応しい適当な狩りの履歴やら、適当にハリボテとしてあるんだろうなーという程度の生まれ、親、知り合いを持ち、それ以外の情報はキャラメイクのときに初めてわかる性別、外見、一度しか呼ばれない名前のみなのだ。ハンターの人間らしさとはこの程度の話なのでもともと人間ではないのかもしれない。
しかしながら、一応このハンター、混じりけのない純人間ということになっているのでめんどくさいのである。いっそ竜人とかなら周りの目はマシだったのかもしれない。竜人への熱い風評被害である。
とりあえず間違いないのはハンターにめんどくさい書類をやった記憶はなく、性別まで変えられるチケットに喜んでいる事実だけがそこにある。
幸い、周りに人がいないので紙切れ一枚の効力について騒ぎにならなかったが。これがもし、素っ頓狂のせいでいろいろと寿命を削られストレス過多な総司令にでもバレたら、次の討伐対象は人間ではないという理由でハンターになったかもしれない。ソードマスターや大団長が止めようとも。
しかしながらこのハンターはどんなに複雑骨折するように乙っても死なない、部位破壊しない、尻尾は切れない、そういえば尻尾はそもそもない、乙ってもへこたれない、勝てるまで襲ってくるので実質戦う時がアステラの最期で、確定の負け戦である。
モンスターを狩るゲームなのに自分が討伐されそうになる新展開に気持ちよくなってしまったハンターが、滅亡シナリオを攻略しないように、今のように比較的大人しく、ただ無邪気に、嬉しそうに、一応人類に無害で生きているうちはただ捕獲準備くらいにとどめておいた方が良いのかもしれない。
捕獲といっても古龍と同じくハンターにも罠も捕獲用麻酔弾も効かないのだが。それでいて古龍よりも強いのでよほどめんどくさい。どうやって捕まえるかを考えるのは総司令の仕事である。実質クリア不可能クエストなので、知らぬが仏とはこのことである。
「カ〇コンからの贈り物、使わない手はない! ということで、ちょっとこれ使っていろいろ変えてくるから、外見変わってもよろしく」
「ニャン……」
「名前は変わらないし、装備もこのままで帰ってくるから」
ハンターは一方的にまくしたてる。オトモアイルーの気のない返事にも気にせずに、素晴らしく元気に満面の笑みを浮かべてその場で後ろにバタンと倒れた。
もちろんそれはただの日常茶飯事で、ログアウトによる魂の離脱にすぎず、とっくにアステラ居住の者には見慣れた風景だった。オトモは慣れたようにハンターの足を掴んで一生懸命引きずってマイハウスに運び込み、ルームサービスと共にベッドに持ちあげる。今日は帽子非表示ブリゲイドなので寝心地は普段よりずっと良さそうである。
一応、顔を覗き込んでみたが、まだ変化はない。ハンターのことだから変わったらすぐに起きるだろう。
例のハンター、言わずもがな着せ替え狂いである。男装備に飽きて、という理由で性転換してくる可能性に思い当たったアイルーは、ハンターが隣で二時間くらいポーズをとってナルシズムを極めているわけでもないのに虚無猫の顔になった。
ご主人様がお嬢様になっても特に今での行動は変わらないだろう、と既に悟りながら。安心安定のハンターである。何も安心できないようで、変化がないというのは一種の安心なのである。
ハンター自慢の中性的で整った顔立ちの寝顔はなんとなく生気があり、今日の寝顔は怖くないとオトモは感じた。それはもちろん、キャラメイクをやりなおしているので非ログインではなく、魂ここにあり、であるからにすぎない。実はたまに自画自賛のナルシストをするためにストーリーのムービーを見直している時もそんな感じである。
だが大抵、やることもなく待ちくたびれたオトモアイルーはハンターの隣に潜り込んですやすや眠っているので知らなかった。
「おはよう世界! おはよう愛しのにゃんにゃんちゃん!」
「おはようございま……ニャア?」
「どう、どう、かっこよくなっただろ?!」
「にゃあ」
髪の毛の赤みが、毎日顔を合わせているオトモにはわかる程度にほんの僅かに増し、眉が少し優しい曲線を描き、白い肌がよりなんかいい感じになった気がしなくもない。
以上である。一般論でいうとほとんど分からない。虚無猫になりながら、ハンターの「身だしなみチェック」の独り言を毎日聞かざるを得ないオトモだから分かるようなレベルである。しかしながら本人は幸せそうなので万事それで良いのだ。
「髪が赤くて、肌が白くていい感じニャ」
しかしオトモアイルーは見慣れていたハンターが、何度もキャンプ送りにしてきた宿敵にトドメをさせた時のようにきらきらした目をしていて、返事をしないわけにはいかなかった。
それに本当に少し確かにかっこよくなったので素直に頷く。とりあえず気づいたことを述べて、適当に同意さえしておけば面倒はないのだ。
「ありがとう! いいだろいいだろ、これで一層映えるから、装備集めが捗るな! うーん、素晴らしい。こんな顔なら後ろななめ四十五度から見ればうっかり性別間違えそうな中性っぷり、でも見まごうことなくうなる我が素晴らしい筋肉。間違いなく男、それだからいい。
世界観に反しない程度の赤毛、暗い色の装備とのコントラストの美しい白い肌、涼しい目元、どこを取っても完璧! 狩り中は武器と背中と尻しか見えないから特に髪の色は重要だ。我ながら完璧な仕上がりが昇華されたものだよ!」
「背中が大事なのかニャ?」
オトモは受付嬢と違ってハンターのまくしたてる話の六分の五くらい聞いてくれる優しい子である。残りは大抵メタ発言なのでオトモにはシステム的に聞き取ることが出来ない。そうでなければ単に早口すぎるのである。
「ハンターはね。自分の姿は普通にしてたら後ろからしか見えないじゃないか。にゃんにゃんちゃんは全身可愛くてサイコー! いつもはげましの楽器助かるよぅ!」
ハンターはそう言ってさっそく新しい顔でオトモの頭を吸った。そして顔がよくわかるように外していたブリゲイドを表示にして、嬉しそうにかぶる。
今日は全身シックな灰色に染めている。機嫌は完全に幸せオレンジだったが赤以外の髪の同系色は好まないのだ。赤が例外なのはもちろん、「カッコイイ」からである。適当である。
一方、オトモは自分の姿が見えるのは鏡か水面に映し出された時だけで、狩りの最中に見えるという意味で大事なのはハンターの前足(腕)と服ではないかと思ったが、言うのをやめた。
ハンターはかなりイカれた狂人なので、自分の姿を後ろから見ているらしい。どういう仕組みなのかオトモには理解しがたかったが、この素っ頓狂のことを理解しようとするのがそもそも間違っているのである。
「よーし、心機一転、ひと狩り行くか!」
「連れてってニャ!」
「もちろん!」
しかしながら、なにはともあれ狩りとなったら話は別である。このハンターは狂人と囁かれ、イカれた言動で、ナルシストが過ぎ、やることなすこと規格外であろうとも、アステラ的には最も強いハンターなのである。このアステラにとって主人公は彼なので。
つまりオトモアイルーとしてオトモであることは誉れなのである。……誉れなのである。誉れなんだってば。いくら普段のことでほかのアイルーに同情されても、狩りに行く時だけは本当に羨まれるのだ。誇らしいのだ。
あの導きの青い星の狩りを間近で見れるのだ。共に戦えるのだ。多彩な武器さばきを学べるのだ。そしてその動きは間違いなく素晴らしい。どんなときでも寸分の狂いもないのだから。
もちろん位置どりを間違えたハンターが吹っ飛ばされるのは目撃するが、どんな瀕死でもハンターはまったく型通りの完璧な動きをするのでお手本にするのにはちょうど良かった。当然システム上そういうものである。
なので、流石のオトモも狩りに行く瞬間は浮かれる。ハンターは、おおむねその期待には応え続ける。
オトモは新しい、だが見慣れた顔を見上げてニャンと鳴き、ハンターが微笑みながら渡してきたネコミミ麦わら帽子を装備した。
ハンターさん
このハンター、例のハンター、導きの青い星、星のハンター、導きの星ハンター、狂人ハンター、素っ頓狂、着せ替え狂い、着せ替え厨、ナルシスト。アステラでは「あいつ」で通じる。
身だしなみチケットによって顔を微調整をし、最高の自分になれた。オトモですら気づかなかったが、ついでにチケットなしでもできる修正として絶妙に髪の毛に隠れる位置に泣きボクロをつけた。ほんの少しまつげも増量した。ほとんど見えないところにも抜かりないこだわりをもっている。
なお、オトモの外見変更が出来るとしてもオトモが世界一可愛いアイルーだと思っているのでしない。
最近の一言「ゼノ・ジーヴァは宝玉より角落とせ」
アステラの人々
例のハンターの機嫌が異常に良いことには気づいたが顔の変化には気づかない。
ハンターのオトモ
その後連れていかれた歴戦四枠テオ・テスカトル(ソロ)に毒を入れたりタゲを取ったりと大活躍し、たくさん褒められてたくさん美味しいものを食べた。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー