強敵に勝った話。
「はわわ美人、是非お近づきになりたい」
ハンターの標準的に低い男性の声は外見に似合っているが、内容はあまり外見に似合っているとは言い難い。しかしながら、ちょっとテンションが高いだけでただの通常運転である。
もちろんお近づきになりたいのは鏡の中の自分である。既にゼロ距離なのでお近づきになっている。
「にゃー」
「頭ダイバー重ね着のマスクすげぇよ、マスク美人の理論が成り立って、横顔とかどこからどう見ても美女じゃん、でも正面で見たら性別不詳の美人だぜ? え? なにこれ、最高に美しい。男性の顔のゴツめの骨格が隠れて完璧な中性さ」
「ニャン、横顔をどこからどう見たら正面にならないで横顔に留まるのかニャー」
「ドラケン重ね着にダイバー頭、これ最高の組み合わせだな。体の線もきっちり隠せてますます中性的、装備の違いによって性別がわかるもののひたすら美人。うーん美しい。装備はかっこいいのに圧倒的に美しい。これが美の化身、わたしはここへ至った」
「ニャーン」
着せ替え厨ハンターは、今日も素敵な紫のブリゲイドからドラケンに着替えていた。
ハンターはついにやったのだ。例のイベントクエストの開催時期も半ばをすぎた頃、相性の良い野良と巡り会って野良たちと意気投合し、負けてもキャンプ拠点へ舞い戻っては挑むのを繰り返し、とうとう討滅戦を制した。
前半戦は賊タンクで、そして途中からDPSチェックを恐れるあまりヘビィボウガンを投げ捨てた大剣ヒーラーとなって決死で戦ったのだ。
例のハンターは被弾の多いプレイヤーなので、いっそのこと開き直って被弾前提でガチガチ構成のタンクになったわけである。頭に各種散弾をぶち込み、ベヒーモスから決して目をそらさず、コメットから付かず離れずを維持するお仕事である。
ハマり役という程でもないが、タンクのくせに乙ってしまうほど下手なわけでもなく、普通のプレイングスキルをもった一般プレイヤーだったのでなんとかしたのである。後半は転身と体力の装衣と、気合いと、試行回数で何とかしたわけであるが。火力スキルはフルチャージのみで生存に特化した。
そして最終エリアは別の人がタンクを入れ替わるようにやってくれた。野良なのでスタンプコミュニケーションだけでよくやれるものである。
ようは、運もメンバー運もかなり絡んだのである。クリア済の戦士が一人いたのも大きい。
五度にわたる全滅後、メンバーを維持してベースキャンプへの鮮やかな舞い戻りっぷりを受付嬢に披露しながら繰り返して戦い、とうとう勝った時は、そりゃあもうテンション最高潮、胸のときめきは人生最高潮、喜びは笑顔に変換された。
野良ハンター一同喜びを全面に押し出し、残った爆弾を一斉に並べては狂った様に巻き込まれに行って起爆、閃光弾を花火如くバカスカ打ち上げ、解散するその瞬間まで嬉嬉として踊り狂ったがそんなことはもう、過ぎたことなのだ。
勝った、その事実だけで彼の胸は喜びにときめくのだから。胸がドキドキしてときめきが止まらず、ハンターは思い出すだけでこんなにときめくものだから、うっかりベヒーモスに恋を……してしまうところだった。
そしてアステラに帰還してからも、半日にも渡って最高に全身を使って流通エリアで舞い踊り続けることで喜びをアピールし、アピールにもようやく疲れが出始めた頃、彼はふっと思い出した。
宿敵に勝ったということは、新たな着せ替え、もとい重ね着が手に入ったということだ、と。
彼は早速二期団の親方のところへ向かい、光の速さでミラージュプリズムを納品すると自慢の顔がすりおろせそうな重ね着、ドラケンを、とうとう緊張にガタガタ震えながら手に入れたのだ。
ドラケンはあらゆる点で素晴らしかった。単に自分の強さを誇示して見せびらかせるだけでなく、心の中にときめく憧れが自分の手の中にあるのは何にも変え難いかけがえのないものだった。美しい金属光沢、どの色でもキマる麗しの全身鎧。
しかし、それにはただ一つだけ不満があった。頭装備をすると顔がよく見えないのだ。自慢の顔ですら隠したい心境の時ならともかく、今は果てしなく上機嫌である。ハンターは、慎重に慎重を重ねてキャラメイクした顔をドラケン同様見せびらかしたいお年頃であった。
頭装備を非表示にするのも一つの手だったが、頭だけただのポニーテールというのもなんだか寂しい。別の重ね着を採用することにしたのは自然な流れだった。そして熟考の末、ダイバー頭が一番世界観を壊さず顔が見えるだろうと判断されたのだ。
それも顔の下半分を隠すが、ドラケンと合わせるとどことなくSFチックな装いになるのでハンターの心にクるものがあった。
そして、顔を半分隠すとハンターには自分の顔がどうにも割増に美人に見えたのだ。男性の骨格なのでどう足掻いても顔のゴツさが否めないところがあるのを、重ね着ダイバーはすっきり解消する。それどころかまつげの長い涼しい目元を強調し、暗い色の装備は肌の白い滑らかさをよりはっきり強調させる。
このハンターにとって、これは理想的なマスクであった。もともとの美人はマスク美人にもなれるのだ。性のない天使にこがれるように、中性的な美の化身が自分であるということにこれ以上ない幸せを感じるハンターは、早速全身の色を調整し、満足できる色合いになるとあちこちズームして、見惚れる。そして顔に行き着くとまじまじと自分の顔に酔いしれたのだった。
と。これだけならちょっと激しいだけのいつものようなナルシスト行為だが、こんな馬鹿なことをハンターはかれこれ五時間は続けているのだ。隣のオトモは虚無猫を通り越してニャーとしか鳴かない、でろでろに溶けた何かになっていたが、まだまだ止まりそうにない。ドラケンの美しさにまだまだ感激も感動もひとしおなのだ。
ちなみにルームサービスは自分の耐性を考え、身の丈にあったハンターと付き合いをするべく早々に諦めてハープの下で耳を塞いで丸くなっている。オトモアイルーはアイルー一倍真面目だったのでそうはなれないのだ。忠誠心は身をも滅ぼす。一途なアイルーにそんな仕打ちをするハンターが全部悪いが、制裁を与えるような命知らずはいない。
なにせ狂人が最高難度のクエストをクリアしてしまったのだから、ますますハンターとして箔がついたのだ。つまりもう誰にもとめられない。ハンターが自分に見とれてうっとりしていたいならさせておけ、ということなのである。プレイングスタイルは自由なのだ。オトモに有給休暇を。
「はぁ……好き……」
「ニャンニャー」
どこぞのメンヘラ女ではない。彼は大真面目に自分の顔に恋をしていた。よく考えてみれば、ベヒーモスはどう足掻いても上半身ムキムキ強面マンである。麻痺すれば人間のような唸り声をあげ、眠らせても目はガン開きの怖いやつである。
ハンターの脳内では恋の相手として美意識が自分の方がいいと囁いている。ベヒーモスは自分のような優美な美しさを持つ美青年ではないのだ。ハンターは「美」を並べれば良いと思っている語彙力欠乏馬鹿だった。つまり、ハンターは馬鹿なので恋の相手が自分でも何も気にしなかった。
幸せならそれでいいのである。彼は間違いなく幸せであった。
「ふう……」
「ニャー」
しかし、ハンターはハントするからハンターなのである。ひと狩り行こうぜが合言葉である。
そしてこのハンターも、頭のネジが大方ぶっ飛んでいても狩りに行くのでハンターなのである。導きの青い星は伊達ではないのである。一応、ナルシズムによって心をどこかへぶっ飛ばしていく時間よりも狩りについて考えたり、狩り時間の方が長いのでまだこれでもセーフなのである。
ようやく、思う存分鏡を見つめることで一時的に己のナルシズムに満足してひと段落着いたハンターは、なんとなくこの重ね着を着て狩りをしに行きたくなった。いや、なんとなくではない。せっかく手に入れたのだから使わなければならないという強い意志である。
そしてふと、思い出す。なんとしてでも勝ちたくて、プロハンターを参考にして作った拡散ヘビィ装備のことを。それにはネルギガンテの玉が二つも必要で、両方マカ錬金してもらったことを。
ハンターは冷静になると、素材不足の深刻さに人並みに嘆き、とろけたアイルーを優しく拾い上げるとネギ狩りに出発した。
とろとろに溶けてニャーとしか言わなくなったアイルーにはおすすめ定食をひと口食べさせるとすっかりネコの形に戻ったのでハンターは安心してネギ狩り出発! この指とまれ! とアステラのハンターたちに触れ回った。
もちろん誰も目を合わせようとしなかったが、ハンターは気にすることなくソロにしよう、気が向いたら救援信号を飛ばそう、二戦目からは救援参加にしようと切り替えるとオトモの装備を本気の構成にしてひと狩りしに行った。
ハンターは、運を味方につけつつ腕を磨き、宿敵を倒すことは出来ても、玉を手に入れる運はまだまだないようである。剥ぎ取りもリザルト画面でも無残にもなし。激運チケットも効果なし。
惨憺たる結果による悲しみの遠吠えは、アステラ中に響き渡り、人々はつい身震いしたが、まだハンターの標的はモンスターの方へ向いていたのでつかの間の平和を享受することになったのだ。
自分の顔が好きなハンターさん
顔には酔いしれても自分の実力に酔いしれたりはしない。
人並みに謙遜するので勝ったことも「運」と「慣れ」と野良ハンターたちのおかげだと主張する。
顔については自分の美しさを理解しているので一切謙遜しないが、基本的に独り言以上の自慢はしてこない。同意されると喜ぶ。
自己完結したナルシストは幸せ者だが、オトモが溶けていることには気づけない程度の気遣い力しかないので今まで勝てなかったのではないか。
基本的に注意散漫。回復中に追撃食らって乙るのが基本。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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アナザーストーリー