どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
拙い文章をお楽しみくださいな
イメージと違う
錬鉄の守護者。
数多の剣を作成して、正義を為そうとした男。
1人でも多くの人命を救う為にその身を捧げた。
自己を殺し、全てを救おうとした馬鹿な男。
正義の味方……。それを目指したその男の名は……、さて、何だったかな。
余りにも昔の事でよく覚えていないな……。
名前なんて、他人を判別するためのただの道具にしか過ぎない。
正直、生前の私にとっては、他人の事などまるで興味がなかった。
ましてや、名前なんてものが一番。
救おうとする対象が生きていれば、それだけでいい。
だから名前なんてものは、余り覚える癖を付けてこなかった。
──まぁ、私がこうなる以前は覚えておかないと、タダじゃ済まなかったのだがね……
だが、どういう因果か、また俺は人の名前を覚えて、かつ気を配ったりしなきゃいけなくなってしまったようだ……
はぁ……。また、忙しい日々が始まるのか……
その日もいつものようにバイトが入ってしまっている。というか、ほぼ毎日入っている訳だが。最早正社員のような扱いで、事実就職して働いてくれないかと打診は受けているが、返事は保留させて貰っている。背負う物が出来るのは、あまり好ましくなかった。
とはいえ、仕事をサボる選択肢はない。すっぽかすとオーナーが面倒臭くなるので諦めて出勤準備を始める。
やはり、料理というのは楽しいものだ。心の欠けた俺のような奴にも楽しさを見出すことが出来るのだからな。暇な時間と、材料さえあれば後は自分の力でなんとでもなる。
何も考えずに適当に作ったそれを食べ、さっさと洗う。
洗面台に備え付けられた鏡には、浅黒く焼けた顔が写っていた。いつの間にかこんな人相になってしまっていて、なんとも醜いものだ。
何はともあれ、支度の終わった私は時間に余裕を持って出勤するのがいつもの流れだ。早く行く分には悪いことは無いのだ。
自宅から歩いて15分位の所にあるライブハウス、CiRCLE。どうしてここで働く事になってしまっていたのかは、よく覚えていないが、ここが私の職場だ。
「お〜! 今日も早いね〜!」
「……早い事で悪いことはありませんので」
「うんうん! 仕事熱心で私は嬉しいよ!」
「はぁ……、そう言ってもらえて嬉しい限りです」
「じゃあ、今日も一日頑張って行こーか! エミヤ君!」
一応、俺という個人はそう名乗っている。エミヤシロウ。俺の残った記憶の内、魂に刻み込まれたその名前を忘れる事は、生涯無かった。
それは、俺の存在意義に大きく関わる事だからだろうな。正直言ってエミヤ、そしてシロウ。その二つの名前にどういう意味があったのかは最早覚えていないが……。
──だが、恐らく俺の義父の話になるので、今はしないでおくとしよう。
ちなみに、さっき話していた女性は月島まりな。このライブハウスのオーナーの娘だと。ここのオーナーは体が弱いらしく滅多にここへやって来る事は無い。つまるところ、彼女こそがここの実質的なオーナーになる。オーナーとはいっても私とはタメなので、あまり目上の人という感じがしないのだが……。
しかしあくまで年齢が近いというだけで、立場は明らかに彼女が優越している。万が一にでも彼女に失礼な態度を取ってしまえば、私の首は簡単に飛んでしまうことだろう。ここのバイトが俺の食い扶持になっているので、敬意を持って相手しなければならない。サーヴァントならば食事が必要ない事は皆様ご存知の事と思うが、そこにはちょっとした訳がある。
率直に言ってしまえば、俺の今の体はサーヴァントのものでは無い。訳は後日話すとしよう。
職務開始から30分ほどたった頃、本日のお客様方第1号がやって来た。
「あら、こんにちはエミヤさん」
「今日もよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
名前を覚えなければいけなくなってしまった要因その1。
実力派ガールズバンド、Roselia。
中高生の演奏とは思えないレベルの技術を持っている。この少女達がこれ程の技術を獲得するには、大量の時間と努力を重ねてきたのだろうと簡単に推察出来る。
しかしながら、その実力を手に入れる為に音楽以外の何かを削っている証拠だ。そのままでは、いつしか身体もしくは精神にガタが来るものだ。ソースは私。
中高生なら中高生らしく、もう少し余裕を持って遊んだっていいんじゃないのか?などと、彼女達の覚悟を踏み躙るような発言は、しないのだが。不必要に他人の中へ土足で踏み入る様な愚を犯しはしない。
──ん、私か? 当然だが、それどころでは無かった、とだけ言っておくよ。
「ところで、エミヤさん」
「ん、何かね。あと10分程で君達の予約時間になるが……」
「大丈夫よ、あなたがしっかりしていればすぐに終わるわ」
この流れは何度もやっているものだ。
正直このやり取りに俺は価値を見出すことが出来ないな。
「私たちの名前は覚えてくれたかしら?」
「……。…………。ふん、当然だろう。顧客の名前を覚える事すら出来ずにバイトは務まらん」
「なら言ってみなさい」
「…………」
「…………」
「……えっと、まずは……、ボーカルの湊友希那……だろう?」
「ええ、正解よ」
何故このような訳の分からないやり取りをしているのか。
「次は……、ギターの氷川……紗夜、だろう?」
「はい、よく出来ました」
それすらも忘れてしまいそうだが。
「……ベース、今井リサ」
「おぉ〜! 覚えられてる!」
「キーボード……、……白金……燐子?」
「えっと、はい。正解です♪」
この紫ツインドリルは……、たしか……。たしか……! あ、あこだ。そう、あこ。
「ドラム……、待ってくれ、ここまで出てきてるんだ……。えっと……あ、あこだな?」
「あこなんですけど、上の名前は?」
「……申し訳ない。まだ……」
「えぇぇ〜!! また下の名前だけですかぁ〜!?」
「あこちゃん落ち着いて……、覚えられてないわけじゃないんだから……」
「そうよあこ。次会う時には、きっと覚えていてくれるわ」
「友希那さんは良いですよね! 今回は覚えてもらってたんですから!」
あー、申し訳ない気持ちはあるが、下の名前覚えてるんだから良いだろう。もう少し寛大になってくれてもいいと思うのだが、きっとダメなんだろうな……。
「宇田川です! 宇田川あこ! 次は覚えてくださいね!」
「あ、あぁ、努力する」
「もう、このやり取りも4回目ですからね!」
「申し訳ない」
「宇田川さん、いつまでも話していないでそろそろ準備して下さい」
「あ、はーい! 分かりました! じゃあエミヤさん、失礼します!」
「あぁ、成果がある事を期待しているよ」
やはり、人と話すのは疲れるものだ。相手の事をいちいち考えないといけないとはな……。
Roseliaというグループは近寄り難い雰囲気があり、アレは最早威圧にも感じられる強いオーラがあった。と、思っていた。もう少しクールな印象があったのだが、他人とコミュニケーションを取る事を良しとするとは、少々見当違いだったのかもしれない。
彼女達の歌を聞いたことは無いが、少なくともポップな感じではない事は分かる。そこはイメージ通りだと信じたい。
彼女たちがライブをすれば、この小さい会場は直ぐに満員御礼になってしまうからな。人気も相当あることが伺える。裏打ちされた実力があってこそ、会場を埋める程の集客力が発揮されるというもの。この店が繁盛する事は、私としても好ましく思っている。何せ暇を持て余すよりは、な。
「人は見た目に限らず、ってところかな」
私は心のメモ帳にそう刻み込んでから、職務を再開させた。
今日はもう一組来る予定らしいが、面倒なことにならない事を切に祈るばかりだ。