どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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ちょっと短めです。


特に何もないんでどうぞ。




あ、違う。お題箱忘れないでね、活動報告の方にありますので。


切れない糸

 救ったものの数だけ、同じものをまた失う。

 

 

 結局の所、イタチごっこだったって事だ。

 

 

 

 しかもそれを自分の身も顧みず、なんの躊躇いもなく実行に移していた自分が恐ろしく感じるよ。自分の事を蔑ろにし過ぎていたな。

 

 

 それ程までに俺という存在に刻み込まれた信念が強かったのだろう。

 

 

『正義の味方』なんてな。

 

 

 

 何処かの誰か──知り合いのような感じがしたが、悪いが忘れてしまったよ──が言っていた。

 

『全体の後始末なんて押し付けられたら、最期には必ず燃え尽きてしまう』

 

 

 実際、燃え尽きかける寸前だったよ。あの自称慈悲深いクソ尼にも、結局辿り着けなかったしな。

 

 どんなに記憶を喪ってしまっても、最近の事すら覚えていなくても、それでも──

 

 

 

 ──それでも、殺すべき存在の事だけは……、しっかりと覚えているよ。

 

 ──────────────────────

 

 

 だが、こんな世界に来てしまって、殺害対象も何処にも居ないという。

 

 

『なら今の俺は、なんの為に生きながらえているのか』

 

 それは、俺がこの世界に受肉した時からの一番の疑問だ。

 

 自己を削り続けたが為に料理以外の趣味を持たず、趣味なんて以ての外だからな。

 

 趣味が欲しいわけじゃない。暇な時間が欲しい訳でもない。

 

 

 ただ、この俺に、中身が抜け落ちてしまった器に、何か意味を与えて欲しいだけなんだろう。

 

 

 信念があれば人は限界を超えて生きていけるだろう。信念でなくとも、それに準ずる『生存理由』を見出した奴らは、今も楽しく生きているはずだ。

 

 

 思考の末に、課題は結局自分の元へと帰ってきてしまう。

 

 

 俺は……、一体、どうして、

 

 

 

「おい! 蘭!」

 

 物凄い勢いで2番スタジオの扉が開け放たれ、一人の少女が外へと飛び出す。そしてそのままライブハウスの外へと走り去って行く。

 

 少し遅れてそれを追いかけるように、四人の少女がスタジオから姿を現す。

 

「ああくそ、何やってんだあたしは!」

「自分を責めるのは後だよ! 蘭を探さなきゃ!」

「でも、蘭ちゃんは何処に……」

「エミヤさん、知りませんか?」

 

 目がマジになっている青葉に問い詰められる。何処へ行ったか……。さすがに三十秒前の事は覚えているよ。安心してくれていい。

 

「外へ走っていったよ」

「ああクソ、やっちゃったかぁ……」

「自分を責めるのは後で! 蘭を探さなきゃ!」

「あたしはあっち探してくるね」

「わ、私は商店街を!」

「じゃあ私は公園の辺りを探してみるね!」

 

 と、彼女たちが危機迫っている顔でこちらにも助けを求めてきた。

 

「エミヤさんも手伝って貰えませんか!?」

「お願いします!」

 

 一瞬耳を疑ったよ。

 

 彼女たちAfterglowは仲が良い事を前々から教えて貰っていた。小さい頃から五人で一緒に遊んだりして、何をするにも五人一緒だったと。

 

 当然、彼女たちも喧嘩はする。しかし、そういう諍いを彼女たちは全て自力で跳ね除けてきた。彼女たちの中にある『絆の糸』を大きく、強く、次は決して避けないように編み上げて来た。

 

 そして、今回もまたその糸が切れかかってしまう事態になった。

 

 

 私は今回も自分達で上手く解決するのだろうと、半ば期待のようなものを向けていた。だからこそ──

 

 

 今の発言には、少しばかり……、腹が立ってしまった。

 

 ──まだ怒ったりできるって事は、まだまだ人間として生きられているんだろうな。もっとも、人に説教垂れることが出来る立場では無いのだが。

 

「悪いが、断らせて貰うよ」

「「「「!?」」」」

 

 目の前の四人の少女は驚きの顔を露わにする。直後、

 

「どういう事ですか。よく分からないんですけど」

 

 青葉が私に詰め寄って、胸ぐらを掴んでくる。む、意外と力があるな……。

 

「言葉の通りだよ。君達を助ける事は……、まぁ、致し方なくなった時に助ける事はするかもしれないが……。現時点で助けの手を差し伸べるなんて事は出来ない」

「ど、どうして!?」

「エミヤさん! 前は困ったら助けてくれるって……!」

 

 羽沢と上原もそんな言葉を投げつけてくる。宇田川は罪悪感を感じているようで、何もアクションは起こさない。だからといって、上の空という訳でもない。耳はこちらに傾けているようだ。

 

「確かに言ったさ。だが、今回は別だ」

「だからどうして!?」

 

 はぁ……。

 

 

「お前達のバンドの問題は、お前達で解決してみせろ! 今回もな!」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

「お前達が小さい頃から仲が良かった事は話を聞いたから知っている。喧嘩の度に自分達で仲直りだってしてきた。なら、何故今回はそうしない?」

 

「どうしても助けて欲しいと懇願されたら、さすがに助けないわけには行かない。だが、私が助けたとして、それでお前達がこれまで積み上げて来た絆だとか信頼は、果たして元通りになるか?」

 

「探して、探して、探し尽くして、それでも見つからないなら喜んで助けてやるさ。実際、美竹が今どこに居るかはある程度分かるしな」

 

 決して嘘ではない。受肉してから様々なスキルが弱体したが、千里眼と投影魔術に関しては何故かランクアップしている。美竹の居場所も半径100メートルくらいには絞り込めるだろう。

 

「この場面で私に助力を求めるという事は、所詮君達の絆とやらはその程度のものだったという事さ」

 

「「「「…………」」」」

 

 これまでの事は紛れもなく私の本心だ。単に面倒だったという面も否定は出来ないがね。

 

「……、それで、何か文句があるならば聞くが?」

「……」

「っ……」

 

 沈黙。ええい、ここでしょげてしまっても仕方ないだろうに……。

 

「……。ああ、やっぱりそうだよな。アタシ達は五人揃ってのAfterglowだ。今までも、どんな時も、協力して乗り越えてきた仲間だ!」

「うん、うん! そうだよね! 今も蘭ちゃんは一人で悩んでるんだ!」

「……、あたし達が助けてあげなきゃ、ね」

「うっ……、ううっ……。うんっ! 蘭は素直じゃないし、言葉も強いし、反応も素っ気ない……。でも、私達の事を一番に思ってくれる仲間想いの、私達の友達なんだから!」

 

 やっとその気になってくれたか。まったく、世話が焼けるよ。

 

「友達なら、美竹が行きそうな場所だって分かるだろう。早く行ってやるといい」

「あ、あぁ! 言われなくても! ありがとな、エミヤさん!」

「礼を言われるほどの事じゃない。そんな事をする前に早く行け」

「分かってる!」

 

 そう言って、宇田川を先頭に四人は飛び出していった。

 

 我ながら、らしくない事をしてしまったか……

 

 まぁ、そこも私の中で何らかの変化が起こっている証拠なんだろうな。

 

 

 

 

 

 後日、無事に仲直りを果たした彼女たちは、遅れてしまっている練習を行うため、CiRCLEへと足を運んでいた。

 

 

 が、予約時間の三十分前。

 

「……えっと、どうも」

「ああ、こんにちは」

 

 美竹蘭は一人でやって来ていた。どんな意図をもっての行動なのかは分かりはしないが。

 

「コーヒー……、ブラックで」

「承った、少々待っていたまえ」

 

 コーヒー豆を手動ミルの中へと移し挽いていく。最近は勝手にコーヒーを作ってくれる機械が出現しているようだが、やはりこのやり方でないとコーヒーを作っている感覚がしない。

 

「……この前は、迷惑かけたね。ごめん」

「喧嘩の事か」

「うん……。あれは、あたしのせいだからさ」

「……。私は君達の喧嘩の概要は知らないが、君にも仲間が居るということを忘れてはならない。一人だなんて思ってはいけないんだ」

 

 ──かつての私は常に独りだったから、少し羨ましく思っているのだろうか? 

 

「うん、そうだね。私にはみんなが居てくれるんだ」

「大事にするといいさ。助け、助けられ、人は成長していく。人としても、バンド全体としてもレベルアップが出来るだろう」

「その言葉、絶対忘れないでおく」

「ああ、そうしてくれ」

 

 話の終りと同時にCiRCLEに四人の少女が姿を見せた。

 

 そして、

 

 

「──蘭、今日も練習、頑張っていこうぜ!」

 

「──うん、そうだね巴。『いつも通り』頑張ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




kuufeさん、評価してくれてありがとうございます!


そして、お気に入り登録してくれた方々、いつも見てくれている方々、初めて閲覧して下さった方々。

皆様に最大の感謝を!




追記として、活動報告の方にお題箱と重大なお知らせがありますので、余裕のある方は是非ご覧になって貰えると嬉しいです。

書きたいことはそちらに書いてありますので、返信もそちらにお願いします。

それでは、また1、2週間後に会いましょう!

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