どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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昔も、今も、変わらないもの

 ブリテンの騎士王。つまりは、『騎士王アーサー』の事である。諸君も名前ぐらいは聞いたことがあるはずだ。グレート=ブリテン島の諸部族を統一して、善政を敷いたとされる世界で最も有名な人物。まぁ、神話上の話ではあるが。

 

 白馬の王子様的な想像をする者もいるだろう。あながち間違いではないと思う。──以前の私であれば、その意見を持っていたさ。

 

 

 だが、実際のところ、アーサー王は…………。

 

 

 

 

 

「はむっ…………、むぐむぐ……、もっきゅもっきゅ……」

 

 こんなにも大食らいで、

 

「……っ、ふぅ……、シロウお代わりです! 次はカツ丼をお願いします!」

「はぁ……、分かった」

 

 男ではなく、女で、

 

「えっと、セイバーさん。口元に米粒が……」

「む、これは失礼しました。ありがとうございます、蘭さん」

「あ、えっと、どういたしまして……?」

 

 ──これほどまでに、残念だったものか……。

 

 ──────────────────────

 

 いつもと同じようにCiRCLEでのバイトに勤しんでいた私は、勢いよく扉を開け放ち食事を求めてくる彼女に全く反応ができなかった。

 

 そこには、あの時と何一つ変わらないセイバーがそこに立っていた。──それと美竹も。

 

 嬉しさ、戸惑い、懐かしさ……。様々な感情が流れ込んでくる。だが、そんな気持ちよりもまず、口から放たれたのは……。

 

 

「おかえり、セイバー」

 

 

「はい、ただいま戻りました。シロウ」

 

 

 そんな、俺たちにとっては何気ないいつもの挨拶だった。

 

 ──────────────────────

 

 

 そしてその後何事も無かったかのように食事を要求してくるセイバーに、適当な品を作っていた。それにしても、食べる量が昔よりもだいぶ増えた感じがするな。

 

 確かに聖杯戦争(Fate/staynight)の時は、私の魔力量が足りないせいだと思うが、その皺寄せが食費に現れていた。あの時は……、えっと、誰だったけか、よく覚えていないが、先生っぽい人が資金を援助してくれていたお陰でやりくり出来ていたが。

 

 だが、今セイバーは『現界』ではなく、私やランサーと同じような『受肉』している状態だと推測する。何故か、だと? そんなのは決まっているだろう。マスターがいなければ、サーヴァントは現界していられないのだからな。

 

 やたらと高笑いが腹立つ慢心王(人類最古の金ピカ)の事を例に出せば、聡明なる読者諸君は分かってもらえるだろう。

 

 ん、分からないって? ……、『Fate/Zero』を見てくださいな。

 一糸纏わぬ、金ピカの裸体を拝めるから。

 

 

 さて、話を戻していこう。

 

 私やランサーが受肉していたように、セイバーも受肉していたようだ。これまでは、財布の中身が空になるまで食べ歩いていたらしいが、そんな無計画に金を使ったお陰で、残金は脅威の32円。金を使い尽くしてからは、何も食していないという問題のある生活をしていたらしい。

 

 そのおかげで、近くにある公園のど真ん中で倒れていたらしく、それを発見したのが、バンドの練習終わりだったAfterglowの面々だったという。

 

 ひとまず、美竹家に厄介になっていたらしい。美竹曰く、「食べる量が半端無かった。あと、泣きながら食べてた」らしい。自業自得だよ……。

 

 確かに、サーヴァントの状態であれば食事は必要ないが、今は受肉している状態だ。食物を取らなければ、元は英霊であっても最悪死に至る。

 

 その事についてみっちりと説教してやりたい所だったが……、まぁ、こんなにも幸せそうな顔をして作った飯を食っているセイバーを見ていると、不思議と怒りは収まってしまう。

 

「あむっ……、はふっふっ……ぅむっ……。ふぅ……。ごちそうさまでした、シロウ」

「どうしてそう爽やかな顔が出来るんだ……、全く。改めて礼を言わせてくれ美竹。こいつを拾ってくれてありがとう」

「いえ、あのまま見捨てていても、こっちの気分が悪くなってしまいそうでしたから」

 

 美竹は普段は素っ気ない対応をしてくるが、心の中ではみんなの事をとても大切に思っている。他のバンドメンバーは口を揃えて、彼女の事をそう評価している。今回の件でそれがよく理解出来たよ。

 

「そう言ってくれると助かる。一応、お前の分のカツ丼も作ってあるが……、食うか?」

「さすがシロウです! もうお代わりが出てきましたね!」

「引っ込め」

 

 お前はもう食べただろうが。お願いだから静かに座っててくれ……。

 

「え、ホントですか! 是非頂きます」

「よかった。よく味わって食べてくれ。コイツみたいな食い方だけはしないでくれ……」

「言われてもしませんよ……」

 

 美竹の反応は割と良いもので、捉え方によれば『待ってました!』みたいな顔をしていた。

 

 そういえば、美竹は素直じゃないとも言っていた。きっと、本当は食べたがっていたのだろう。そう結論づけて、調理器具の片付けを初めていった。

 

 

 

「そういえば、シロウ。他にも……、いるのですか?」

 

 食後のデザートを作っている途中、セイバーから疑問を投げつけられる。

『他にも』というのは大方、他のサーヴァントは現界しているのか、という質問だろう。

 

「私が確認した中では、ランサーだけだ。それ以外は分からない」

「そうでしたか。ランサーが……。いえ、それはそれとして──」

「今食わせてやれるものは何も無いぞ」

「まだ何も言っていません!」

「おやつか何かを要求してくるのだろう? デザートがもうすぐ出来るから、それまで待っていろ」

「さすがはシロウです! 抜け目がありません」

「はぁ、本当に残念な奴だな……」

 

 適当にセイバーをあしらっておく。こんなやり取りですら懐かしさが溢れてくるようだよ。

 

 やはり、セイバーの存在は俺の中でも大きい存在だったようだな。生前の記憶の大部分が抜け落ちているはずなのに、セイバーに関することは結構覚えているのだから。マスターとサーヴァントの関係だった頃のことや、同じサーヴァントという存在として、肩を並べて戦った事までも覚えている。

 

「なんか、お二人は長年連れ添った夫婦……? みたいな感じがしますね」

 この中途半端な距離感の私達の間に、爆弾が投下されてしまった。

 

「ふぅっ! ふふふ、ふふふふふふ……!」

「美竹、そういう事は心の中でだけ思っていて欲しかったよ……」

「いえ、ちょっと無理でしたね……」

 

 しかし、そんなに間違いではないのだ。マスターとサーヴァントとして生死を共にしてきたし、同じマスターに仕えたりもした訳だから、付き合いは結構長い。

 

「蘭さん! な、何を言っているのですか! わ、私とシロウがそ、そんな……」

「そうだぞ美竹。そもそも、今日久しぶりに再会したんだ。セイバーとは何かあるわけが無いだろう」

「まぁ、そんなに知りたいわけじゃ無いんですけどね」

 

 やっぱり美竹は結構ドライだな。この場面では結構助かっているがね。他のメンバーであれば──特に青葉や上原の場合──こんな淡白な会話だけでは済まされなかっただろう。再度、美竹への感謝を心の中から送っておく。

 

 

「それでセイバー。これからどうやって生きていくつもりだ?」

「え、シロウが何とかしてくれるのではないのですか?」

「え、セイバーさん……、無職なんですか……?」

「……、はぁ……」

 

 私の住んでいるアパートは家賃が安い代わりに広くもない、だがキッチンやユニットバスが完備されているという割といい所だった。

 

 しかし、そこに二人の人間が住めるだけのスペースは無い。よって、何か策を考えなければならないのだが……。

 

「じゃあ、新しい家が見つかるまでウチに居れば?」

 

 美竹が全てを解決してくれる一言を放っていた。

 

「こ、これから少しの間ですがよろしくお願いします!」

 

 セイバーに至っては、既に住まいが決まったように振舞っている。……こいつ、昔よりも頭のネジが吹っ飛んでいるような感じがするな……。彼女が『かの有名なアーサー王なんです』って誰が信じられるものか……。

 

 い、いや、そうではなくて! 

 

「もし美竹の親が良いからと言っても、筋は通しておきたい。私も一緒に行って頼み込ませてもらう。構わないな、セイバー」

「仕方ありませんね、構いませんよ、シロウ」

 

 お前のためだって言うのに、なんだそのでかい態度は……。そんな子に育てた覚えは私にはありません! 

 

「えっと、それじゃ行きますか?」

「ああ、ちょうど職務時間も終わった。少し待っていてくれ、着替えと支度をしてくる」

「分かりました」

 

 

 という訳でその後。美竹家の住人へと『セイバーをしばらくの間、居候させて欲しい』という旨を伝え、何事も無く承諾された。

 

 それを見届けた私は早々に立ち去ろうとしたのだが、美竹家の玄関前にてセイバーに引き留められる。

 

「シロウ」

「なんだ」

「あなたに、また会えてよかった……」

「……っ、そうだな。私も会えるとは思っていなかったさ」

「また、あなたの顔が見れるなんて思っていなかった。またあなたの声をこの耳で聴けるなんて、あなたのご飯が食べられるなんて、あなたとこうして笑い合う事が……」

「…………」

「……ですが、結局私は何も成し遂げられてはいない。祖国の人々を救えていない、幸せに出来ていない。そんな私が、ここまで人に優しくされて、幸せになっても……、いいのでしょうか……?」

 

 そうだったな。セイバーは昔っからそんな奴だった。自分の為ではなく、自分の国の未来を変えるため、民の幸せを願って戦い続けていた。こんな歳から、王としての責務を果たすべく、たった一人で戦い続けて来た。

 

 結局の所、セイバーは救われていないのだ。冬木の大聖杯は既に汚染されていて、自分の求める聖杯ではなかった。どんな願いでも叶う程の魔力は秘められていたが、それを彼女はしなかった。

 

 冬木の地を安定させる為のリソースとしてしまった。私の預かり知らぬ所で彼女は一人、葛藤していたのは何となくだが分かる。

 

 

 つまり彼女は、『自らの理想を叶えることすら出来ていないのに、私はこの世界で楽しく、幸せに生きてもいいのだろうか?』そう悩んでいるのだ。

 

 その問いに、以前の私ならばキッパリと『No』と答えただろう。

 

 だが私は、

 

「いいじゃないか、それぐらい。私だって大層な理想を抱えて生きてきた。だが、今でもそれは叶っていない。だからと言って、幸せに生きていけないなんて決まりは無いんだ。私だって、今のこの生活をそれなりに楽しんで生きている」

「…………」

「それに、これは私の我儘なのだが……。私はセイバーの笑顔を見ていたい。お前にはそんな暗い顔は似合わないからな」

「……っ!」

「偶に昔の事を思い出したっていい。理想の事を考えたっていい。だが、笑顔で生きて行ってくれ。これは私の願いでもあるし、命令でもある。

 なんなら令呪を以て命じてもいいが、どうする?」

「……ふふっ、あなたもやはり、何も変わっていない様ですね。いいえ、令呪など必要ありません。私は、この世界で人並みの幸せを見つけてみる事にします。だから、あなたも……」

「ああ、もちろんだとも。気が向いたなら、また飯でも集りにでも来るといい。いつでもでは無いが、歓迎するよ」

「ええ、また伺わせてもらいますよ」

 

 どうも、私は何も変わっていないらしいな。この世界では、信念や理想などは何一つ叶えられないかもしれない。だが、私が本当に求めていたものは、こういった平凡な毎日だったのかもしれないな……。

 

「それで、お話は終わった?」

「え、ええ! 終わりましたとも!」

「それならご飯だってさ、エミヤさんの分もあるから、食べてって」

「では、ご馳走になる」

「よし。じゃ、行こ」

「はい、行きましょう、シロウ」

「ああ、今行くよ」

 

 

 

 

 

 俺は、誰かのこんな小さな幸せを守る事が出来ていたのかな? 

 

 

 ──じいさん

 

 

 

 

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