どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
あと、なんか凄い方から誤字修正きて、ちょっとびっくりしてます。
文章力は書いてるうちに上がってくると思うんで、多少は我慢してね。
えー、んじゃ、どぞ。
出来ることなら誰にも死んで欲しくはなかった。
その面では俺は爺さんとは違った。
六を救って、四を見捨てる。
爺さんはそういう人だった。
戦争だとか、テロだとか、そう言うのを理解した上で、
これ以上自分のような子供は生み出したくなかったから、
そして、全てを救う事が出来ないと分かっているから。
でも、あの時だけは違った。
人生の分岐点のあの出来事だけは……
──────────────────────
また、昔の夢を見ていたようだな……。
とても目覚めが悪い、吐き気を催す程だよ。
──職務中にうたた寝してしまっていたことは黙っていてもらえると有難い。
なので、化粧室にて顔を洗ってみる。
実際、顔を洗った所でほぼなんの意味も無い。
眠気が一気に覚める訳でもない。
そんな事は基本的に俺はしない筈だが……。
ま、要は気分の問題だろう。
顔を洗い終わってから、鏡に写る己の顔を見つめてみる。
「相変わらず、酷い顔だ……」
いつの間にかこんな無様な顔になってしまっていたのだろうな。
「さて、職務に戻ろうか」
自分のどうでもいい考えに区切りをつけて、仕事再開、という所で時間を確認してみると、
「1時間も寝てしまっていたのか、これは職務怠慢だな……」
バレていたら減給も覚悟しておこう。っと、そうじゃなかった。
Roseliaが入ってから1時間経っているということは、次のバンドの予約時刻まで余り時間は無い。
急いで、スタジオの準備を始める。各種機材のチェックが面倒なのでいつもの
誰も見ていない事を確認してから、長年の合言葉──今回は多少意味合いは違うが──を言い放つ。
「
生前の私が自らの可能性に気づくまでは、こっちの使い方だったが。
魔力を通してみて、途切れる事があればそこが何らかの異常を吐き出しているのだと分かる。
こんな事だけ出来ても、そりゃあ魔術師としてはへっぽこと言われるのも無理はないだろうな……。
「
結果異常は見つから無かったので、簡単にスタジオの清掃を行ってから退室する。
まだ、次の客は来ていないだろうと思ってロビーに戻るが、
「あ、やっと出てきた」
「も〜! エミヤさん遅いです!」
「君達の予約時間にはもう少し時間がある筈だが……?」
「ひーちゃんが早く行きたいって言うからー」
「モ、モカ! いいのそういう事は言わなくて!」
「まぁでも、事実だろ?」
「いや、えっと、そうだけど〜……」
「まぁまぁ、取り敢えず受付だけ済ませちゃおうよ」
「つぐはいっつも真面目だね〜」
「モカも少しはやる気出したら?」
次のバンド、Afterglowだ。正直言ってこの時間には予約を入れて欲しくなかったバンドだ。理由は、先に入っているRoseliaにある。
「よし、ではスタジオ2番を使ってくれ。機材に異常があれば直ぐに言ってくれ」
「分かりました!」
そう言って、5人はスタジオ2番へと入っていく。その直前で私に声がかかる。
「あ、エミヤさん」
「……何かね」
バンドのボーカル、美竹蘭。美竹、と言えばこの地域でも有名な華道の家柄だ。恐らくはその家系の娘なのだろう。
「1番ってどこが入ってるんですか?」
「Roseliaだ。一時間前には来ていた」
「……Roselia。教えてくれてありがとうございます。それじゃ」
「ああ、励んでくるといい」
そう言って、最後の美竹もスタジオに入っていく。
あぁ……休憩時間に鉢合わせたりしなければいいのだが……。
──その期待は無残にも打ち破られるのだがね。
それからさらに1時間後。
やる事も無くなってしまっているので、自宅に溜めてあった小説だとか、哲学書だとかを持ってきて暇を潰している。
ちょうど『功利主義入門』を読み終わった所だ。
ふと考えてみたのだが、功利主義は爺さんの考えと似ているところがあるんじゃないかって。
ベンサムが言うには、多数派が得を出来るのならば、少数派は切り捨てても良いと言う。『最大多数の最大幸福』というやつだ。
爺さんはそういった面では、ある種の功利主義者なのかもしれない。
そんな下らないことを考えていると、1番スタジオの扉が開き、Roseliaの面々がロビーへと流れてくる。どうやら休憩時間のようだな。
「休憩かね?」
「ええ、そうよ。コーヒーを貰えるかしら」
「了解した、席に座って待っていたまえ」
注文を受けて、カウンターに座るよう促す。
「ええ、そうさせてもらうわ」
湊は従って、席に座った。
ここのコーヒーはそこらのカフェよりも割高だが、それだけ上質なものを取り寄せてもいるし、自惚れではないが私の腕も良い、と言ってくれる客もいる。
──目の前の湊もその1人だ。
自分の作るものを楽しんでもらえるというのは、作り手からすればこれ以上無い幸福だ。さらに、良い評価を貰えたのなら冥利に尽きるというものだ。
ただ、一つだけ問題があるとすれば……
「待たせたな、どうぞ」
「ありがとう……。えっと」
「ん、あぁ。申し訳ない、すっかり忘れていた」
そう言って、私は角砂糖が大量に載った皿を差し出す。
そう、湊はコーヒーを頼むくせして、砂糖をたんまりと入れて飲むのだ。
苦いのが無理なら、最初からカフェ・オ・レにでもしておけば良いのに。
目の前でトポトポと、音を立ててコーヒーに吸い込まれていく角砂糖。
その数は6個……、ん? 6個だと?
「おい湊、前は9個入れていなかったか?」
気になった私は、率直に聞いてみる。
「あ……、よく気づいたわね」
「ほぼ毎日飲むのを見ているわけだからな、それ位は気づくさ。余り話したくなければいいがね」
「いえ、話すわ。そんな大した理由でもないし。……砂糖を入れ過ぎると、あなたの入れてくれたコーヒーの……、風味が損なわれる気がしたのよ」
顔を若干赤くしながら、そんな事を言う。
なるほど。クールな奴かと思っていたが、やはり可愛い所もあるじゃないか。
「それなら、今度はカフェ・オ・レを頼んでみるといい。あれはあれで風味と甘味が程よくマッチしている。自信を持ってお薦めしよう」
「……っ! 、そ、そう。なら次は頼んでみるわ」
やはり顔を赤くしながらそう答える。
そんな時、スタジオ2番の扉が開き、Afterglowのメンバー達が外に出てくる。
あー、面倒事にならなければいいが……。
大体休憩の時、美竹はこっちに来てコーヒーを頼むのだが、今ここにはあの湊がいるのだ。余りバチバチと火花は飛ばして欲しくないのだ。
案の定、美竹はカウンターに近づいてくる。そして、
「エミヤさん、コーヒーをお願いします」
「あぁ、少々待っていたまえ」
「はい、ここ座らせてもらいますね」
喧嘩にならない事を祈りながら、さっきと同じようにコーヒーを作っていった。
──────────────────────
コーヒーを頼んで、席に座る。
隣には湊さんが居て、ちょっと居心地が悪い。でも、湊さんの頼んでいるものを見て、思わず呟いた。
「湊さんも、コーヒーですか?」
「ええ、そうよ。やっぱりこの辺りのお店よりも、エミヤの入れてくれるコーヒーの方が美味しいもの」
「それは確かにその通りですね。つぐみの家のもなかなか美味しいんですけど……」
「羽沢さんの家……、羽沢珈琲店ね。確かにあそこのコーヒーも美味しいわね。でも」
「そうなんです。申し訳ないんですけど、やっぱりエミヤさんの方が美味しいんですよね」
結構若く見えるのに、どうしてここまで美味しいものが作れるのかな?
待っている時間、あたしはそれを考えていた。
──────────────────────
湊と美竹は仲が良さそうに話をしている。
意外なこともあるものだ。てっきり喧嘩でもしてしまうと思ったのだが。
まぁ、私の心配は杞憂で済んで良かったな。
「お待たせ、コーヒーだ」
「はい、ありがとうございます」
湊と違って、美竹は何も入れずにコーヒーを飲む。
それを見て、湊は驚きの表情を浮かべる。
「うん、やっぱり美味しいです」
「お褒めに預かり光栄だよ」
10分後、彼女たちはまた練習に戻るのだが、その顔は心做しか良いものに変わっていた。
一応解説しておくと、エミヤはノーマルと、オルタの中間位の性格って設定です。
エミヤの性格が、時間をかけて腐り出していく直前位って感じですかね。