どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
「久し振りだな、この感覚。この大人数を相手に料理が振る舞えるとは……、存分に腕が奮えそうだな」
遊び疲れた彼女達の夕食を用意するのは当然、私だ。その為に買い出しだって既にしておいたのだ。25人+αの期待が私の双肩に掛かっている……。
献立は定番のカレー。至って普通のメニューだが、そこでひと工夫を加えるのが私だ。カレーは辛さに応じて作り分けて、追加でロースカツを数枚揚げる予定だ。
調理開始……と、ここで。
「エミヤさ〜ん、手伝いに来たよー」
「何か手伝えることはあるかしら?」
Roseliaの仲良し幼なじみコンビがやって来てしまった。ここで私のワンマンクッキングライフは終わってしまった。が、まぁ……いいか。一緒に料理をするのは、不思議と懐かしい感覚がする……。
「はぁ……、休んでいろと言っていたはずだが?」
「私達はそんなに動いていないから、疲れていないわ」
「友希那なんて、大体の時間は作詞してたしね〜」
「こういった経験からも何か得られるかも、と思ったからよ」
「ふっ、まぁいい。30人分の量を作る予定だ、相当体に疲れが来ると思うが……、大丈夫か?」
「望むところよ」
「うんうん、そーいうこと♪」
「よし、それなら始めようか」
忘れる事は無いが、一応作っておいたレシピ表を二人に手渡して、甘口カレーの作製を指示してから私も調理を開始を始めていった……。
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今井の腕前は全く心配は要らないだろうが、湊に関しては未知数だ。何せ音楽しかしてこなかったイメージがあるからな。手伝いに来てくれた所悪いが、怪我などはして欲しくは無い。そこは何とか今井にカバーを頼む事になるだろう。
なんてエミヤは思っているのだろうけれど、音楽にしか興味が無かった私はもう、ここには居ないことをここで証明してみせる……、リサと一緒に練習したもの、リサの期待にも応えたいしね。
玉ねぎはくし切りにして置いて、じゃがいもは水洗いして芽の部分を取り除いてから、皮を剥いて一口大に切っていく。
よし、十分上手くできているわね。
「お、友希那〜、上手く出来てるじゃん!」
リサも満足そうに褒めてくれた。本当にリサには頭が上がらないわね、日常の色々な事から、学校での事、当然Roseliaの事もね。
「ええ、リサが教えてくれたから」
「あはは〜、まさか友希那から『料理を教えて欲しい』なんて言われるなんて思ってなかったよー」
「リ、リサ! そういう事はいちいち言わないで!」
こういうところは、やっぱり一言多いけれど。そんな事言っていると──
「ほう、やはり練習していたのか」
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「ほう、やはり練習していたのか」
私は湊が料理をする、などとは微塵も想像出来なかった。なぜなら、彼女の『Roseliaにすべてを懸ける覚悟はある?』という言からも分かるように、音楽ばかりしてきたイメージがあったからだ。
包丁の持ち方は分かっても、どう切ればいいかが分からない。それくらいのレベルを想像していたのだが。その予想を裏切って、レシピ通りに玉ねぎやじゃがいも、ナスまでも切り分けていくのだからな。
「そうなんだよ〜! 友希那から教えてなんて頼まれるなんて思わないでしょ〜!」
「リ、リサ! ちょっと!」
「ああ、まったくだな」
「エミヤまで……」
「だが、料理というものに興味を持ってくれたということでもある。私はそれが、純粋に嬉しいよ」
「っ!」
「あー……、あはは〜……」
途端二人とも沈黙してしまう。よく分からないが、何かしてしまったのだろうか?
「って、友希那! 鍋見て!」
「え? あっ!」
覗いて見ると、少し具材に焦げが生じてしまっていた。む……、無駄話が過ぎたかな。
「話が盛り上がってしまってたからな、仕方ないさ。それに、これぐらいでは誰も怒ったりしないだろう」
話が面白かった事と一緒に、失敗に対するフォローを入れておく。だが、それを除いても仕上がりは上々であった。
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それからはあまりたいした会話もなく、順調に進んでいって……。
「よし、完成だな」
「うん! こっちも終わったよ〜!」
計4つ、大小の鍋にカレーが出来上がっていた。そこからは他のメンバーに手伝って貰って、全員が入れる大部屋に机と椅子をセッティングして、手早く配膳を進めてもらった。
「Roseliaはあと紗夜だけだな……。紗夜にはこれを持って行ってくれ」
「は、はい……、分かりました。あっ……、少し待ってください……!」
「む、どうした」
「───────」
「───────」
「ごめんなさい、こんな事……頼んでしまって……」
「いや、構わないよ。むしろこちらの配慮が足りていなかった、直ぐに取り掛かろう。取り敢えずこれ持って行ってくれるか」
「はい、分かりました……!」
手伝ってくれている白金にそう言ってカレーの器を手渡す。さてと、これで全員分のカレーが行き渡ったはずだ。念の為、少し声を張り上げて呼び掛ける。
「注文通りのカレーが行き届いていない所はあるか?」
「ポピパ全員ありまーす!」
「Roselia、問題ないわ」
「ハロー、ハッピーワールド! も大丈夫よ!」
「Afterglowも全員分ありますよ!」
「パスパレもオッケーでーす!」
「セイバーが量が足りないって言ってるぞ〜!」
「ええい! 勝手にお代わりをさせておけ! では各自、しっかりいただきますをしてから、よく噛んで食べるように!」
『いただきまーす!!』
ええいセイバーめ……、少しの間も我慢できないとは……! アイツに関しては前よりも退化してしまっているじゃないか!
あぁ、それよりも。
向こうの方はどうなっているのだろうか?
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カレー。
様々な具材をカレー粉によって作り出される、パーティや大人数が集まる時にはもってこいの献立。
私はカレーがあまり好きではありません。理由は簡単、『にんじん』が入っているからです。昔は大好きだった物の筈なのに、いつの頃からか……、全く食べれなくなってしまっていました。
だから、今日のメニューがカレーと知った時はどうしようかと思っていました。思っていたんですけど……。
「私のカレー、にんじんが入っていない……?」
湊さんや今井さん、それだけじゃない。他のみんなのカレーにはにんじんが入っているのに、私のカレーにはそれが含まれていないのです。きっとエミヤさんが気を使ってくれたのでしょうけど……。
「それはそれで疎外感を感じてしまいますね……」
「んー、どうしたの紗夜〜?」
「いえ、私のカレーにはにんじんが入っていなくて良かった、と思っただけです」
「エミヤが作り分けていたのね」
「うん、そうみたいだねぇ」
「いやいやそうじゃなくって、紗夜さん! 良く見てくださいよ! 私たちのカレーも!」
どういう意味かしら……? 全く理解できないけれど、宇田川さんに言われた通りに隣に座っていた白金さんのカレーを見つめてみました。すると、どういうことでしょうか。
「にんじんが……、入っていない、ですね……」
「きっと紗夜はそう言うだろうって燐子が提案してくれたわ」
「い、いえ……、こういう時くらい、みんなで同じ物を……、食べたくて、ですね……」
「白金さん、皆さん……」
やはり私は……、ひとりじゃないんですね……!
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うむ、上手くいったようだな。白金にRoselia全員分のカレーを『にんじん抜き』にしてくれと言われた時、私は自分の考えの浅はかさを痛感したよ。あのままカレーを出していたならば、氷川のメンタルに色々と関わる問題になっていた可能性も否めない。白金には感謝だな。
「おいセイバー! そのカツは俺のもんだっつったろうがよ!」
「知りませんそんな事いただきます!」
「おいテメェ! バカヤロウ!」
「五月蝿いわよ駄犬! 大人しくなさい!」
「カルデアにいた頃も割とこんな感じでしたね」
「あぁ……、全く。風流の欠片も無いでは無いか……」
「佐々木、しれっと私のカツをパクらないで貰えるかしら……?」
「はて、なんの事やら……」
こいつらもこいつらだが……。
わざわざこんな場所にまで着いてきてくれたことに関しては、素直に喜ばしい事だな。
心の中で感謝の言葉を唱えつつも、私はカレーを口へと運んでいった。