どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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半失踪状態になってしまって、ホントごめんなさい!


ペースは上がりませんけど、失踪だけはしないつもりなのでまだまだお付き合い下さい!


感情乖離

 世界には二通りの人間が存在している。

 

『当事者』と『観測者』

 

 

 いや、観測者というよりも『傍観者』と言うべきかもしれない。

 

 どちらにせよ、私の成すべき役割には全く関係の無い話なのだが……。それなら何故この話を始めたのかと思うだろう。

 

 そう、君のような人間にはね。

 

 

 世界に『守護者』の役割を押し付けられ、呼び出された世界で私は幾度となくその役割を果たして来た。

 

 俺──エミヤシロウの奥底に秘められた信念、『正義の味方』という幻の虚像を履行する為に。

 

 数多くの笑顔を守る裏側で、その瞬間まで笑顔だった人間の顔を恐怖で捻じ曲げる──最悪の場合は、その命を奪う。

 

 

 守りきれずに失う物もある。何度も何度も、両親を失った小さなか弱い少年少女の悲痛な顔を俯瞰しては、己を傷付けた。

 

 見殺しにする事だって多々あった。行けば助けられる、だがそれよりも多くの人間が命を落とす。

 

 

 結局の所、私には世界の希望になる事などは叶わず。

 

 目の前の人間すら救えない。

 

 

 

 私は『当事者』ではなく、自分には人を救う事が出来る力があると思い込んでいただけの──ただの『傍観者』だったのだ。

 

 

 

 

 ──────────────

 合宿2日目の朝。30人余りの好き嫌いを把握し切っている私にとって、全員が最高の状態で練習できるようなメニューを立案し、作り上げる事は文字通り朝飯前だ。

 

 にんじんだったり、薄味が苦手だったりとか色々あるが。

 

 そういう様々な要素を頭に入れながら料理をするというのは、私にこの上ない悦びと嬉しみを与えてくれる。

 

 

 因みにだが、朝食は山吹が手伝ってくれた。感謝の言葉を述べさせてもらおう。なんでも山吹家でいつも朝食を作るのは、長女である山吹沙綾が行っているらしい、調理中にそう語っていた。そのいつもの癖で目が覚めてしまったのだろうが、こちらとしては助かっているよ。

 

 朝食後は各々のバンド毎に集まって会議を始めていた。といっても、セットリスト等は合宿前に決めてあるはずなので、情報の擦り合わせ程度のものだろう。

 

 程なくして、食堂には人っ子一人居ない状態になってしまっていた。なので、昼に軽く摘めるような軽食を作りつつ、ドリンクの用意もそれと並行させながら昼時の時間まで暇を潰していた。

 

 ──────────────

「そろそろ休憩したらどうだ? 差し入れを持ってきたのだが」

「あ、えっと……、ありがとう……」

 

 正午過ぎに例の差し入れを持って、練習中のバンドを訪問している途中。

 現在は美竹や瀬田、白鷺などを擁するDバンドに配達している最中である。

 

「それじゃこれで私は」

「おや……? そこにいるのはエミヤさんじゃあないか!」

「チィ……、絡まれたか……」

 

 美竹に渡すものを渡してさっさと立ち去るつもりだったのだが、一番喧しい奴に引っかかってしまったようだ。お前、普段はもう少し静からしいじゃないか、なんでこういう時だけは五月蝿いだか……。

 

「一体、何を作ってくれたんだい?」

「おにぎりとサンドイッチ、中身は適当だ。それとスポーツドリンクだな」

「なるほど……、中身は……いや、聞かないでおこうか。自分が一体何を引き当てるか、それもまた……!」

「儚い」

「ああ! 儚い!」

「薫、うるさい。早くお弁当をこっちに寄越しなさい。蘭ちゃんや沙綾ちゃん達が待ってるのよ」

 

 扱いに困る瀬田を、そこにやって来た白鷺は適当にあしらって弁当箱をかっさらって行く。そしておもむろに此方に振り返っては、

 

「エミヤさん、ありがとうございます。いただきます♪」

「──っ、あ、ああ」

 

 ファンではなくても軽く殺せるであろう、本気のスマイルを浮かべながら、そう言い放つ。そういうのは私にじゃなくて、君のファンの皆様にやってやればいいだろう? 

 

「貴方にも……、私のファンになって欲しいんです♪」

「心でも読んでいるのか君は……。早く弁当を味わってみてくれ」

「ええ、そうします」

 

 白鷺も瀬田とは違った扱いづらさがあるな、と再認識したところで……。そこに放ったらかしにされていた瀬田に向き直る。

 

「はぁ……、子猫ちゃんは私にはどうも当たりが強いな……。愛情表現なのだろうか……!」

「いや、そのお前のキャラがウザったいだけだろうさ」

「キ、キャラだって……?」

「気付かないフリをするのは勝手だが、状況は何も良くなりはしない。責めて白鷺の前でだけはお前の素面を出してもいいんじゃないか?」

「…………」

「いつか……、そのまま成長してしまえば『自分という存在』を見失ってしまうかも知れんぞ」

「……、善処しよう……」

「今はそれでいい、大事なのはこれからの未来だ。さぁ、こんな重苦しい話はお前には似合わない、昼食を摂ってこい」

「あ、ああ。そうさせてもらうよ」

 

 あいつも『自分という存在』に振り回されているだけなのだ。その状態で居れば必ず綻びが生まれる。いつかは誰かが、その綻びをしっかりと解いてやらなければ取り返しが付かなくなってしまう。無論、それをするのは私ではないがね。

 

「あ、薫さん帰ってきた」

「なんだい、私のことが恋しかったのかい?」

「いやそんなんじゃなくって……」

「ふふっ、やはり儚いものだね……!」

「これは全部貴女の分よ薫。さあ、しっかりと噛んで味わいなさい!」

「待ってくれ千聖! そんな大量に口に捩じ込まれてはっ……! 噛めないッ! (迫真)」

「千聖さん……、凄く気がたっているみたいですね」

「白鷺先輩ってこんなアグレッシブな人でしたっけ……?」

「いいえ、違うのよ沙綾ちゃん。ただ薫を見てると何だか無性に腹が立ってしまうだけなのよ♪」

「あ、あぁ〜、そうなんですか……」

「薫さんと千聖さんはやっぱり仲良しですねっ!」

「さぁ……! しっかり食べなさい……!」

「むごごごッッ! むごごぉッ!!」

「ちょっ、ちょっと待って。薫さん溺れる!」

 

 なんだ、割と上手くやれているじゃないか……。心配は無用だったかな。さて、改めてキッチンに帰るとしようか。

 

 そう思って、スタジオのドアノブに手を掛けた時。

 

 そう言えばここの見学をしていたはずのセイバーは何処に行ってしまったのだろうか、なんていう割と重要な事を思い出した。

 

「お前達、ここにセイバーが居たと思うのだが……」

「あぁ、セイバーさんならエミヤさんと入れ違いになる感じでスタジオの外に出て行きましたけど……」

 

 山吹の返答に戦慄を隠せない私。まさかとは思うが……。

 

「何処に行く、とかそういう事を言っていなかったか!?」

「えっと……、確かキッチ──」

 

 

 私は激怒した。

 何故最初に腹ペコキングの為に飯を作って置かなかったのか、と。

 

 若宮の返答の途中で勢いよくスタジオを飛び出して、私の王国であるキッチンへと全力で走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




言う言葉が見つからないです…。


ほんと遅れて申し訳無いです!それだけ!

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