どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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随分と長い休暇だったな…。クリスマスまでには帰れなかったよ…。




デモリッション

 ハッキリと言うが、私は薔薇という植物はあまり好きではない。奴らには色ごとに花言葉が付けられている事を知っているだろうか。

 

 私はその全てが好きではない。赤薔薇には『情熱』、白薔薇には『清純』、黄薔薇には『友情』と言った具合にどれもこんな腐れ切った私には似つかわしいとはとても思えないだろう? 実際、そんな事とは縁のないような私からしてみればこれらの言葉などは、所詮ただの虚構……、作られただけの、全く意味の無いモノだ。

 

 何故薔薇の話を持ち出したのか。

 

「エミヤ……? 大丈夫かしら?」

「……ふん。あぁ、何も問題は無いさ」

「何か思い詰めたような顔をしていたけれど……」

「気にすることは無いよ。それよりも、今日の朝食はどうだ」

「ええ、とても美味しいわ。流石はエミヤね」

 

 今日で3日目となった合宿の朝。

 

 健康バランスと活力の出るようなメニューを一晩掛けて仕込んでいたので、今日もしっかりと寝不足気味になっている。後で少し仮眠を取ることを決めた私に、湊に同調した声があがる。

 

「いや〜、ほんと美味しいですね〜。ほっぺが蕩けちゃいそー」

「市販の鮭がどうしたらこんな美味しくなるんですか……?」

「試行錯誤の賜物だな。暇な時は大体料理ばかりをしていたのでな」

 

 私の作った鮭のムニエルを美味しそうに平らげながら、感想を述べてくれる青葉と奥沢の二人。料理人の端くれとして、感想を伝えられる事はとても嬉しいものだ。作っている甲斐が有る。

 

「これなら皮まで丸ごと食べられちゃいますよね!」

「えぇ! 鮭の皮って食べられるの!?」

「なんだ、知らなかったのか。味を染み込ませてあるから食べやすいと思う。是非とも食べてみてくれ」

 

 驚異的なスピードで鮭とご飯を平らげていく宇田川に、意外にも鮭の皮を食べれる事を今の今まで知らなかったの牛込。私が料理をし始めたばかりの時によく作っていたので、相当長い年月を掛けて完成されたメニューなのだ。美味くないわけがない、当然皮にも旨みが染み込んでいるからな。

 

 

 

 薔薇の中でも、特に青薔薇だよ。

 

 青薔薇の花言葉。それは『夢が叶う』、『神の祝福』。

 ハハハッ……! 全く俺とは正反対の内容だろう? それだから俺は特に青薔薇が嫌いなんだ。

 

 幾度の戦場を越えて腐敗した俺の精神、時代に呑まれ風化した我が理想が遂に叶う事は無く。疲れ切った俺を神は祝福するどころか、あのクソビッチ聖女(殺生院)を差し向けてきやがったのだからな。何とも素晴らしい神の祝福だろう? これ程までに、神という存在を恨めしく思ったことは無い。

 おかげで今の俺には何も残っていない。あの女にまともな精神と、腐れ堕ちた理想すらも奪われた俺にはもはや何も……。

 

 まぁそんな事はどうでもいいさ、数少ない覚えている事でもこんな事はさっさと忘れてしまいたかったのだがな。

 

 

 だから俺はRoseliaというバンドとは余り関わり合いにはなりたく無かった。咲き乱れる青い薔薇は俺にはとても眩し過ぎて、俺とは正反対の奴らなんだ。仲間に恵まれ、理想を分かち合って自分たちを高め合っていく。

 仲間には見捨てられ、理想を奪われ、地に落ちた俺に彼女達を直視する事が許される筈がないのだ。いや、そもそも叶わない事だ。

 

「と、とっても美味しかったです!」

「うん、そうだろう? なんと言っても何年も掛けて完成させた一品だからな」

「あこは、このチーズのお肉? みたいなのが美味しかったな!」

「これはピカタと言うんだ。卵と鶏肉とチーズを使った料理だ。今度調べてみるといい」

 

 だが、それも今は関係がない事なのだろう。俺が苦しむ事は無い世界、争いなんて無い、魔術もだって、当然あのエセ神父だってな。

 

 だから今はいい。何も気にせず自由に生きるって、俺はそう決めたんだよ。多分それが、俺の魔術の先生(あかいあくま)だったり、妹のような存在(紫のラスボス系ヒロイン)が望んでくれた事なんだろうから。

 

 ──────────────

 

 

 先程も言ってあるが、今日で合宿の半分が過ぎた。という事で練習にもスパートを掛け始める良い時期であり、また自分達の腕を上げる為にもより一層、練習を突き詰めなければならない。

 

 当然、そのサポートをするのは私だ。今日も今日とて昼の軽食や水分などの準備を行っている最中。

 

「あの〜、今ちょっといいですか……?」

「ん、奥沢か。何か用かね?」

「あ、ちょっと用意して欲しいものがありまして……」

 

 どうやら湊から頼まれたらしく、はちみつティーを持ってきて欲しいとの事たった。その用件に関しては、練習前からこの時間に持って来て欲しいと頼まれていたので、軽食の時間と合わせて持っていく用意をしていたのだ。

 

「ふむ、用意は出来てる。だがもう少し待ってくれるか、軽食も一緒に持って行こう」

「ありがとうございます。それにしてはやけに用意が早くないですか……?」

「はちみつティーの事なら前々から頼まれていたのでな、それくらいの用意はしてあるさ」

「あはは……、頼んであるなら自分で取りに行けばいいのに……。あの人もどうも素直じゃないみたいなんですよね」

「やる時はしっかりとやる人間だからだろうさ。中途半端にはしないのが彼女の良いところだよ」

 

 そうさ、湊は曲がらない。昔ならば自分の限界を知って一人苦悩していただろうが、今は違う。彼女には仲間と掲げた目標がある、理想がある。彼女はその為に必要なことなら何でも取り組むようになったのだ。今回の合宿も、私は知らないがRoseliaの中で何かしらの目標を持ってやって来たと語っていた。ある種の尊敬を抱く程のな。

 

「エミヤさん、こっちは終わりましたよ」

「む、早いな。こっちももうすぐだよ」

「エミヤさんに頼まれたので頑張っちゃいましたよ……!」

「そうか……、それは頼もしい限りだよ」

 

 思考の裏ではしっかりと作業を進めていく。サンドイッチを、クッキングペーパーを下に敷いておいたバスケットの中に形が崩れないよう、丁寧に敷き詰めていく。そんな時、別の仕事を任せていた奥沢からお呼びが掛かった。どうやら仕事が終わったようで報告を寄越してくれたのだ。

 

 そのまま軽食入りのバスケットと飲み物を持って、スタジオへと向かう道中。奥沢が唐突に口を開いた。

 

「湊さんは凄いですよね。自分の目標の為、真っ直ぐ進んでいっているんですから」

「ああ、全くだよ。尊敬に値するよ」

「それと比べて、私は本当に頑張れているのかなって。この合宿中考えてるんです」

「…………」

「なんの目標も持たずに、ただこころに引っ張られるままバンドを続けて、本当にそんなんでいいのかなって」

 

 奥沢の言っていることも理解出来る。人間は基本的に何かしらの行動理念を持って動いているモノだ。かく言う私もその一人だった、というのはご存知のはずだ。

 

 そんな俺は理想に破れた結果、自らで命の幕を引いた。

 

 人間とはそれだけの小さな存在だ。尽くを否定されてしまっては生きる価値すら見い出せないようなか細く、小さな存在。

 

 

 でも、今は……──

 

「いいじゃないか、それで」

「……え?」

「後悔はしていないんだろう?」

「それは……、まぁ……」

「それなら、いいじゃないか。俺が言えた事じゃないが、今をもっと、純粋に楽しんでみればいい。まだこんな歳から何かを重く考えるような物じゃないさ」

 

 どうも、俺も何か異常があるらしいな。こんな事をアドバイス出来るような人間じゃないというのに。だが、これが彼女にとっての正しい道である事を俺は知っている。大層な理想を掲げても、それに見合う実力、そして精神が強靭でなければ、いつかは自分の理想に押し潰されてしまう。

 

 その危険性を最も知っているのは、他の誰でもない。

 

「なんだか……、意外です……。エミヤさんからそんな言葉が出てくるなんて」

「今の俺がその状態さ、今の俺に目標なんてものは無い。ただ生きているだけだからな。だが、それでも得るものはある」

「得るもの……」

「お前のバンドは世界を笑顔にするんだろう? お前がそんなしょぼくれた顔をしていては本末転倒というモノだ」

 

 ──これまでの自分の行動に後悔がないなら、自らの意思で進み続けろ。決して歩みを止めるな……

 

 

 

「あら、随分と時間が掛かったわね?」

「エミヤさんおっそ〜い、モカちゃんはお腹ぺこぺこなんですよー」

「あこもあこもぉ〜!」

「すまないな、少々チョココロネの調整に手間取っていた」

「チョココロネっ!?」

「りみ、慌てなくてもコロネは逃げないよ〜。ちょっ、りみ……っ、よだれ……」

 

 練習スタジオに着いた頃には、Aチームのメンバーは既に休憩時間を各々楽しんでいたようだ。青葉と宇田川は、新作が出たとかどうとか言っていた某大乱闘なんたらをやっている様で、所々で声にならない断末魔が聞こえる。

 牛込はベースの弦の張り替えをしている。どうやらつい先程切れてしまったらしく、時間も良い頃合いだったのでその流れで休憩に入ったようだった。

 で、残る湊はと言えば。

 

「にゃ〜ん♪♪ ふふふっ、にゃ〜お 」

「「…………。……?」」

 

 待機していた弦巻の黒服にダメ元で頼んでみたところ、なんと5匹のネコが野に解き放たれた……らしい。さっき黒服からそんな事を聞いたのだが、本当に頼めば何でも出せるのか……。

 

 

 ところで、さっきから寝転がってネコに埋もれながら鳴き真似をしている銀髪の少女は一体誰……? 

 

 隣をチラと見てみれば、一瞬前の私と同じような渋い顔をした奥沢が所在なさげに直立していた……。

 

 

 ──ちなみに……。今後何かしらで使えるかもしれないと思って、カメラを投影して写真に残しておいた、というのは内緒の話にしておいてくれ。




Twitterのアカウント変わりました。興味ある方はワシのページに飛んでいただければ、リンクが載っけてある筈ですので、そこからどうぞ。生存確認はそこで出来ると思います。

エクバ2の相方とかも受け付けてます、いや、知らへんがなって人はスルー推奨です。


えー、全くもって私事ではありますが、今年受験生である私はそろそろ本腰を入れて勉学に励まざるを得ない状況にまで切迫しております。ので、投稿ペースとかの問題では無く、いつ投稿出来るかは全くもって分かりません!

本当に申し訳!多分そこら辺もTwitterで色々呟いてるかもしれないけど…。

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