どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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多分これが最後の更新かも。

これから受験勉強で忙しくなるから、終わり次第また戻ってきます…。


幸運Eは伊達じゃ無い

 五匹の猫に埋もれていた湊にとても良く似た銀髪の少女がボーカルを務めているAチームが昼の休憩に平らげた食事を片付ける途中。

 

 

 カァン……、カカッ……、カッカァン……、と。

 

 

 スタジオとは違う場所から何かがぶつかり合っているのだろう、甲高い音が何度も響いてきていた。片付けの途中ではあったのだが、どうも気になってしまって。気づけば私はふらりと、音の鳴るほうへと歩みを進めてしまっていたのだった。

 

 

 弦巻邸別荘、その広大な土地のおよそ三分の一が宿泊施設などの建造物で占められている。そういう訳なので、その他の三分の二は基本的に未だに開拓されていない──ものだと思っていたのだが。

 

「遅いなッ!」

「ふっ! まだまだですね!」

「なかなか素早いではないか……!」

「そちらこそ! 何時ぞやの時よりも腕を上げたようですね!」

 

 その三分の二の土地には野外でも遊んだりする為の設備が、どうやら色々と作り出されているようだった。遠くの方では数台の重機が今まさに建設事業を推し進める真っ最中なのだ。

 ──なんだあれは……。観覧車のようなモノが見えるのだが……? 

 

 なのだが……、その重機が作業している場所にて。

 

 

 和服を纏った自称雅な男(佐々木小次郎)洋服の自称大食いキング(アルトリア)が何を血迷ったか、作業区画の中心で木刀をカンカン打ち合っているのだ。偶に重機の作業によって砂埃が巻上がる中で、所々で大きく打ち合い、風が巻き起こる。相当な気迫で仕合っているらしく、遠く離れたこの場所にまで風圧が届いている。

 

 さながらあの夜の柳洞寺の戦いの様ではあるが、両者共に顔は笑みを浮かべているので、喧嘩が原因という訳ではなく、遊びだとか鍛錬などが目的なのだろう。わざわざこんな所に来てまでやることでは無いだろうがな。それならば、彼女達の演奏でも聞いてやった方が為になるだろう。というかその為に連れてきたハズだったが……? 

 

 いや、まぁ何にせよ。

 

 勝ち負けや試合展開については全く興味は無いし、厄介事には巻き込まれたくないタチなのでそそくさとその場を後にするのだが、私の背後からは未だに打ち合いが続いている事を示す様に、重機の作業音の中から木材特有の音波が届けられるのだった。

 

 

 ──────────────

 

 

 さて、要らない寄り道をしてしまったな……。正直あれを見たあとでは他のサーヴァント共が何をしているのかとても気になるところではある。キャスターやライダーは割と大人しくしていそうだが、ランサーは怖い。しかしながら、一応私にも仕事があるのでね。それをすっぽかしてまで見に行きたいと思うほどの意欲は無い。断然料理に励んでいる方が愉しいだろうさ。

 

 所変わって、ここは洗面所兼風呂。もはやちょっとしたコインランドリー程の大きさを保有する洗濯室とそこに併設された脱衣所、と言うよりも更衣室の方が正しいだろうか。つまり、浴室もそのすぐ隣という訳だ。しかしこの更衣室、ひとつ気になる所がある。この一つしか更衣室がないのだ、それに加えて男女の隔ても無い。これでプライバシーやら何やらは守りきれるのだろうか……? 細かい所が若干雑になっているのはどうなのだろうか……。

 まぁ、今は気にするところでは無いな。

 

 この洗濯室には25人の可憐な少女達と、他数人の巫山戯たアホ共の洗濯物がこの場所に集約されているので、その量は膨大となるのも必然。しかし家事サーヴァントと化した私には、この量を捌くのは造作もない事。

 

 部屋ごとに纏められて集められたので、6つの洗濯カゴが私の前に屹立としている。これのカゴの中身を更に2つに分けて、それぞれを洗濯機へと投入。適当に投影した洗剤やら何やらを適量注ぎ入れて安心と信頼のおまかせコース(脱水・乾燥つき)で作業開始。

 

 ──今を思えば、この時に気づいておくべきだったのだろう。この部屋の構造に……。

 

 とりあえず今のところは仕事が終わったので、自然と体の力が抜けていってしまい、それと同時に私は強烈な眠気に襲われてしまった。まだやる事はあったのだが、どうやら連日の夜中にまで及んだご飯の仕込みが祟ってしまったらしい。

 

 人間の三大欲求である食欲、性欲、睡眠欲。これらはひとつが欠けるだけならば割と我慢が効くものだと聞いたのだが、その話は真っ赤な嘘だったか……。

 

 そうして私はとても堪えることが出来ずに、約1時間後に終わる洗濯の間だけまで、と。既に運転を開始している洗濯槽に寄り掛かって少しの間、仮眠を取る事に決めたのだった。

 

 ──────────────

 

 

 その頃。

 

「あぁぁ〜……。疲れが抜けていくぅ〜……」

「あら、だらしないわよひまり!」

「それこころんが言える事ー?」

 

「た、楽しそうですね……。こころちゃん達……」

「は、はい……、そうですね……」

 

 弦巻こころがボーカルを務めているBチームは、スタジオでの練習を早めに切り上げてお風呂──というよりも、温泉といって差し支えない大きさを誇るのだが──で汗を流していた。練習が順調に進んでいるのかは知らないが、少なくとも松原と白金は共に入浴はしているものの早くも危機感を抱き始めていた。

 のだが、目の前で脱力しきっている3人を見ていると、「やっぱり少しくらいは休んでも大丈夫だよね……」という全く根拠は無いがそう思えてくるのが不思議だった。

 

「この温泉は小さい頃にあたしが掘ったのよ! すごいでしょう?」

「えー? それってホントー?」

「絶対嘘でしょ〜!!」

「その時の写真も残ってるのよ! 後で見せてあげる!」

「それすっごく見たい!」

「なんかるんってしてきそうな感じだよー!」

 

 後々細かく聞いた話では、なんでもまだ幼いこころが沖縄へと襲来した頃、宿泊していた場所で穴を掘って遊んでいたというのだが、火山帯でもないのに源泉を引き当ててしまったのだと。そこでこころの親父殿は宿泊地を含めた周辺の土地を買収。結果として、この別荘が建設されたという話らしい。どうやら昔からラッキーガールだったようだ。

 

「あ、そうだ。燐子ちゃんは何がきっかけでキーボードを始めたの?」

「あ、その……、私はもともとピアノをやっていたんですけど……、その時、あこちゃんが……私をRoseliaのキーボードに、推薦してくれて……、それからですね……」

「ピアノやってんたんだね、それならキーボードも直ぐに弾けるように?」

「は、はい。少し勝手が違ったりもしたんですけど……」

 

 先程の3人とは別の話を繰り広げている白金と松原は、同じ様な性格同士だからか、上手く波長があっているようで話が自然と盛り上がっていた。どちらも大人しく、一歩引いた所に居るような感じの人間ではあるが、それでも心にはしっかりとした目標を持っている。どちらも今の自分を変える為にバンドに参加している、彼女達はそういう所からも似通ったモノがあるのだ。

 

「そんな端っこで何を話しているのかしら?」

「そうだよー! もっと一緒に話そーよ!」

「ふぇぇぇ……、こころちゃん危な──」

「ちょ……、ちょっと日菜さ──」

 

 残念ながら落ち着いた時間はこれまで。氷川・弦巻のアホ2人のダイビングヘッドが諸に直撃した松原と白金は、しっかりと受け止めながらも水面へと沈んでいった。

 結果、そこには「あれ? 私も行った方が良かったかな?」なんて可愛らしく首を傾げる上原だけが取り残されたのだった。

 

 ──────────────

 

 

「あー、すっごい気持ちよかったねー!」

「日菜先輩はほとんど温泉浸かってなかったじゃないですか」

「ひまりの言う通りよ、日菜はもう少し落ち着いた方がいいわよ!」

「あうぅ……、クラクラします……」

「大丈夫燐子ちゃん……? もうちょっとゆっくり歩こっか」

 

 五人はあれからも少し温泉に浸かったり(?)、お湯を掛け合って遊んでいたりしていたが、途中から白金の様子がおかしくなり出していた。やたらと顔が、というか体全体が赤く火照り始めていたのだ。

 つまりは、のぼせてしまったのだ。

 

 なのでお風呂はこれまでとして、更衣室で着替えてから自分達の部屋で白金を介抱すると言う事で、四人の意見は纏まっている。まぁ、それに加えて褐色の頼れる背中の男(エミヤ)がいれば、正しい処置を施してくれるだろうという望みも、多少は含まれているらしい。

 

「か、花音さん……、ここからは一人で……」

「う〜ん……、本当に大丈夫?」

「はい、大分調子が良くなりましたから……」

「そういう事なら……。で、でも! 無理はダメですよ?」

 

 浴場と更衣室の渡り廊下を渡り切る頃には白金の調子は大分良くなっていて、一人でも歩いて行けるほどにまで回復していた。と、白金自身ではそう思っていたのだが。

 

「あ……、ぁぁぅ〜……、やっぱり……グラグラします……」

「り、燐子さーん!」

「やっぱりダメだったじゃないですかぁ〜! 燐子先輩!」

 

 弦巻が更衣室のドアを開いたと同時に、バタリと。大きな音を立てて白金燐子ダウン。慌てて近寄る上原と松原。触れてみるとすぐに分かったらしいのだが、白金の体はまだまだ熱いままなのだ。ちっとも快方に向かってはいなかった。

 

「……今の音は……、なんだ……?」

 

 と、そこに。全く空気の読めない声が掛かるのだった。

 

 ──────────────

 

 

「ありがとう、シロウ。貴方が私のマスターで、本当に良かった……」

 

 彼の国の騎士王は俺にそう賛辞を述べて、光へと消えていった。

 

 

「私ね、ロンドンに行くのよ。ええ、その時計塔で間違いないわ。多分3年くらいは帰って来れないと思う」

 

 俺に魔術を教えてくれていた先生は、そう言って俺から離れていってしまった。

 

 

「先輩……、私、暫くはここには帰って来れません。弓道部も忙しくなってきてるし、何より姉さんが居なくなっちゃったから私がこの土地を支えないといけないから」

 

 よく料理や家事を学びに来ていた妹のような後輩は、そう言って自らの道を進み始めた。

 

 

 みんな、いなくなった……。いや、違うだろう。

 これで元通りになったんだろ。また何も考えずに学校に行けて、一成だったり、蒔寺率いる三人衆だったりと楽しく生活が出来るじゃないか。

 

 命を狙われる心配だって無いだろ。

 

 これが普通、これが平穏。

 

 そうやって心では理解しているつもりでも。

 

 

 どうして……、

 

 俺は流れ出る涙を押し留める事が出来ないんだろう……? 

 

 

 ──────────────

 

 

 バタリ、と。普段普通に過ごしていれば聞くことはほとんど無いであろう異音が響いた。それに続いて耳に響くような音なのか、声なのか。いや、どちらにせよ目覚ましにはちょうど良い。

 

「……っ、なんだ……?」

 

 まだ寝ぼけている脳味噌と、硬くなって動きが鈍くなっている体を手で解しながら、立ち上がろうとする。……、目がしょぼついてしまっていて、とても違和感がある。やはりもう少しだけ何もせずに眠っていたい……。

 

 いや、しかしさっきの異質な物音がやはり気になってしまう。少しだけ様子を見てみるとしようか……。ついでにチラりと洗濯機を見てみたが、まだ20分しか経っていないようだったな。何が起こったのかを確認したら、また眠りにつこうか……。

 

 そう考えながらも、現場に急行。

 

「……今の音は……、なんだ……?」

 

 ただの独り言のつもりで吐き捨てたその言葉に答える者は居ないと思っていた、が。

 

「ふぇ……?」 ある者はまだ状況が飲み込めていない様子で。

「あれ?」 ある者は小さく首を傾げながら。

「あら!」 ある者は心の底から嬉しそうに。

「あー!」 ある者は待ってました、と言わんばかりの笑顔で。

 

「…………?」 そしてある者は何が起こったのか分からずに、ボーッと床に横たわりながら。

 

 

 そして全員に共通して言えることはというと……。

 

 

 身に付けている衣服が何も無く、バスタオルを体に巻き付けているのみ。白金に至っては倒れ伏しているからタオルを身に付けておらず、その……なんだ……。

 

 体のラインが凄い。

 

 いやそれを言ったら上原もなんだが、って待て! 俺は何をしみじみと感想を──

 

「きゃあぁぁぁぁ! エミヤさんのエッチーッ!!」

「うげぇ……!」

 

 次の瞬間には、ピンクのパンチで壁に叩き付けられる。火事場の馬鹿力というやつで即座に意識を刈り取られていたのだと。私は何故事実を確認しようとしたのかを、どうしようもないとは思いながらも、後悔したのだった。

 




て事で、如何でしたか。

書きかけの原稿を急ピッチで仕上げたんで、若干展開とか雑なあれだけどお許しください!

前書きの通り、多分受験勉強で忙しくなるのでこれが最後の更新になってしまうと思いますが、時間と余裕があればまたちょっとだけ戻ってきたりもしますので、見捨てないで居てくれると此方としてはとても嬉しい限りです。


それでは、また、いつの日かお会いしましょう、じゃあね。

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