どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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気まぐれエンカウント

 はぁ……、朝は嫌いだ……。

 

 

 眩しい太陽の光――言うまでも無く最悪だ。

 

 響き出すエンジン音――当たり前だが最悪だ。

 

 上の階の子供がドンドンと跳ねている――これが一番最悪。

 

 

 多くの人間が一斉に活動を開始する時間なんだ、当然騒がしくもなるだろう。ただし、限度ってものがあるはずだ。

 私は朝か夜かと聞かれれば、間違いなく夜の人間だ。朝は寝床である、この殺風景な部屋で朝を越すのが一番似合っている。私はそう思っているけど、実際のところはどうかな。

 

 簡素なベッドから降りて、冷蔵庫に貯蔵してある水の入ったペットボトルを一本取り出す。銘柄はいつものボルヴィッツだ。キャップを開けて口に流し込む。なんの味もしない液体が喉を通り過ぎていく感覚を味わいながら、今日一日の予定を考える。

 

 「――まぁ、どうだっていいか……」

 

 寝巻きに使っている白い着物を脱ぎ捨てて、いつもの薄い紺色の着物を慣れた手つきでさっと着込んだ。半分にまで減ったペットボトルを冷蔵庫に再び叩き込んでから、そのまま玄関へと。

 

 ちゃんと赤い革ジャンも忘れずに。

 

 あー…、たしかアイツも言ってたっけか…。なんでそんな和洋折衷が微妙に計れてない奇妙な格好をするのかって。そんなの着物に慣れちゃったのが大きいし、それ以外に着る気にならないんだよな……。ていうよりも、ぶっちゃけ服なんかどうだっていいんだ、着たいものだけを着れればいいじゃないか。

 

 編み上げのブーツを履いてから革ジャンを羽織って、玄関の重い扉を抜ける。鍵は持ってない、てか失くした。そんな他愛ない事を思い出しながらも、また一つ。そういえば、と。

 

 ――あー…そっか、アイツなら持ってるんだったよな……。

 

 

 ──────────────

 

 

 季節感もクソもへったくれも無いような格好――私は気に入っているが――で外へと出る。私の部屋に時計なんてものは無い、精々固定電話が勝手に時報を読み上げるくらいでしか、現在時刻を知る方法は私には無い。

 

 ま、そんな時間がどうだとかの概念は気にもならない。こんな……、終わりのない世界に意味なんてないのだから。

 

 「よ、邪魔するぜ」

 

 「あ、式さん!いらっしゃいませ!」

 

 「頼んでたもの、あるか?」

 

 「もう少しで用意できるので、もうちょっとだけ時間貰えますか?」

 

 「分かった。じゃあそれまでは、店内をうろつかせてもらうぜ」

 

 「はい、どうぞ見ていってください」

 

 確かに意味は無い。だけど、ここの人との生活は存外興味をそそられるような面白い事で満ち溢れていた。それは私にとっても、こんな何も知らないような人々も不利益にはならない。

 

 この世界の死を俺は『視ている』。けど、そんなつまらない事をしても仕方が無いだろ?だから私は、このあるがままに今を俯瞰するだけ、そういうスタンスでふらふらとしている。

 

 「ふーん…、こいつなかなか美味そうじゃないか」

 

 「それ、新作なんですよ」

 

 「道理で見たことが無いと思った訳だ。これ、なんてヤツなんだ?」

 

 「クイニーアマンって言うんですよ。知ってます?」

 

 「いや、興味無いな。だけど、美味そうだから買う」

 

 「お買い上げありがとうございます♪」

 

 店内をぶらついていれば、見たことないようなパンを見つけた。見ただけで分かる……、甘ったるそうなパンだ。まぁ、一回食ってみれば分かるか。

 

 「で、サーヤ。オレのご注文の品は?」

 

 「はーい、用意出来てますよ」

 

 「よし、会計だ。いつものに加えてこの、クイ…、ク……。何だっけ?」

 

 「クイニーアマンですね。これも一緒にお会計しますね」

 

 「ああ、頼んだ」

 

 俺がサーヤと呼んだ女は選んだパンをトレーに持って、レジへと向かって行った。私もそれに続いてレジへと向かう。

 

 

 

 

 「ありがとうございましたー!また来てくださいね〜」

 

 「ああ、近いうちにまた来るよ」

 

 買ったばかりの特製塩パンを頬張りながら、店を出る。

 

 うん…。やっぱここの塩パンは私の口にぴったりと合うな……。しつこくない味わいなのに、ちゃんと主張してくる塩っけが絶妙なんだよな。ここのパン屋で一番好きなヤツだな。

 

 

 そのまま太陽が雲に隠れてしまっている商店街を、何かしらの目的を持たずうろつく。

 

 「あ?それは沙綾ちゃんとこのパンじゃねぇか」

 

 「ああ、そうだぜ。って、お前職務中だろ。サボってていいのか?」

 

 「はん!道行く通行人と話してるだけでサボりになるわけねぇだろ」

 

 さっきのパンに齧りつきながら魚屋の前を通りかかれば、水色の魚屋特有の前掛けエプロンが良く似合う、サバサバした性格の高身長・青髪の青年――周りに気を使いながらも『新鮮な魚!』とプリントされたのぼり旗を、それはもう高速でブンブンと振り回していた。

 

 「あ、そうだ。これからも暇なんだけどさ、どこか暇を潰せそうな良い場所は無いか?」

 

 気が向いた私は、その青年にこれからの私の予定を決めさせる事にした。

 面白くない事でも言うものだったら……、その時は『直死』が唸るかも知れないけど。

 

 「これからもってお前なぁ……」

 

 呆れ顔をしながらもそいつは、『この近くにあるライブハウス兼カフェ』の場所を教えてくれた。私はここに喚び出されてから、そう時間は経っていない。現に、さっきの自称魚屋から他数人の情報を伝えられたが、未だにこいつしか会ったことは無い。

 

 別に断る理由も無いし、今日は日が出てないから私の気分もそこそこ良い。それに割と楽しめそうだったから、その提案の通りに辺りを散策しながら、件の『ライブハウス兼カフェ』を探してみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───────」

 

 「よぉ、色男」

 

 結果として、また面白い人物と巡り会うことが出来た。ありがとな、自称青タイツの魚屋さん?

 

 驚いてる顔がこれまた面白いじゃん、そんな顔も出来たのかお前。

 

 

 ──────────────

 

 

 「まさか、お前までもがこちらに来ているとは……」

 

 「ああ。オレとしても予想外だった。青タイツが居るってことは、他にもいるんだろ?」

 

 「まぁ、な。で、ここには何故?」

 

 「青タイツの推薦を受けてな。ここに行けば面白くなるってさ」

 

 「呪ってやるランサー……。はぁ、出会ってしまったのも何かの縁だろう。料理でもご馳走しよう」

 

 「お、気が利くじゃないか色男。お前の飯は何食っても美味いからな、久し振りに食えるのは、素直に嬉しいな」

 

 「……色男は辞めてくれるとありがたいのだが」

 

 「じゃあなんて呼べばいいんだよ」

 

 「前と同じでいい……」

 

 「分かった、色男」

 

 ギリリ、と音が聞こえてきそうな歯軋りをこちらに向けつつ、色黒の頼れる背中が光る青年は、「これでも飲んで待っててくれ」という言葉と共に紅茶を差し出してくる。そのまま奴は、カフェに併設されている厨房へと引っ込んで行った。

 

 「――ふーん……」

 

 なかなか美味しい。向こうに出張していた時と何ら変わらない味が、口の中全体に広がっていく。これまた良い茶葉を取り寄せてるっぽいな……。あいつ、そういうこだわりは強いんだよな。

 

 あ、そうそう。こだわりと言えばだ……。

 

 「おいエミヤ、お前の作ったっていうあの二振り。ちょっと見せてくれよ」

 

 「あのな……。ここは喫茶なんだぞ、そういう危ないものはお取り扱いしてない」

 

 「ちぇ、まぁいいや」

 

 「そんな事より、ほら。出来たぞ、簡単なものだが」

 

 赤いエプロンを付けたエミヤが、料理の載った皿を私の前に届ける。

 

 「ふーん、オムライスね…」

 

 「どうぞ、召し上がれ」

 

 似合わないお辞儀を丁寧にやってのけるエミヤ。はん、気持ち悪いったらありゃしないっての。

 

 

 「――む」

 

 その癖料理は美味いと来たから、余計に腹が立つってものだ。ケチャップライスは含まれている具材とトマトの風味が絶妙に整えられているし、外の卵だってふわふわのとろっとろだ。

 

 やっぱりこいつの洋風メニューは、いつ食っても美味いな……。ま、和食は負ける自信が無いけどな。一応言っておくが、こいつの和食が特段不味いわけじゃない。むしろ世間一般からすれば十分に美味い。

 

 「今度、私にも和食をご馳走してくれるんだろう?」

 

 「はん…、ほざくな」

 

 誰が作るか誰が。料理は別に好きでも嫌いでもないけど、途轍も無く面倒臭いのは確かなんだ。そんなものは誰かに任せておけばいい。

 

 

 それからも紅茶を嗜みながらも会話していると。

 

 「エミヤ、コーヒーを貰えるかしら」

 

 壁に3つ埋まっていた扉のうち、真ん中の扉が開く。中からは美しい銀髪に蝶の髪飾りを付けたちっこい女が出てくる。そうなると……

 

 「あら、あなたは?」

 

 そこまで親しげにはしていなかったが、いろいろ話しているのを見られてしまったので、知り合いか何かと思われてしまっているみたいだな。正直、人付き合いは苦手――というか嫌いなので接待はこいつに任せて、私はそのまま紅茶を飲み下す。…

 

 「……ああ、彼女は……。両儀式という、特に覚える必要は無い」

 

 「両儀さんね、よろしく」

 

 「そんなかしこまる必要は無いぜ。なんせそんなに深い関わりになんかならないだろうからな」

 

 というより、私がそういうのを避けたいと思っているのだが。

 

 「じゃあな、色男。気が向いたら、また来るぜ」

 

 「――ああ。飯が食いたくなったら、また来るといい」

 

 「そっちの銀髪もじゃあな。何やってるのかは興味無いけど。ま、頑張れ」

 

 「え、ええ……。」

 

 そんな感じで、そそくさと奴のカフェを後にする。

 

 さて、これからどうしようか。またそんな事を考えていれば、時間はいつの間にか過ぎ去っていたらしい。

 

 

 ――今日もまた、時間を無駄にしたかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 




らっきょ大好き。








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