どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
ゆるされざるいのち
ほんと許し亭許して……!もっと早く更新する予定だったんや……!(大嘘)
はなくそほじくりながら脳を溶かして書きました。1ヶ月の成果がこれとは……
ライブハウスでの勤務が終わり、日も完全に落ち切った頃。
こっちに迷い込んだ時から使っているマンションの一室へと、かつかつと靴音を鳴らしながら歩みを進める。
ただ、一つ違うことがあるとすれば、今日は一人ではないという事か。
「何も無いところだが、勝手に寛いでくれていい」
「お、お邪魔します……」
普段とは少し違う、おどおどとした様子で私の部屋へと入ってくるのは。ハッキリ言わせてもらうが異常者だらけのガールズバンド、『ハロー!ハッピーワールド』のDJを務めているクマのミッシェル――というキグルミの中の人を押し付けられている奥沢美咲という人物だ。
サバサバとした性格で、余り他人に関心が無いように感じるその素振りだが、意外にも面倒見が良いのだ。おかげでなんて事ない、小さな事で知り合った3バカトリオを放っておく事が出来ず――というより為す術なく巻き込まれているという方が正しいだろうが、何はともあれ今はバンドの一員として落ち着いている。
――余談ではあるが、彼女も何だかんだ苦労人気質なので私とはそこそこ気が合う。というか、偶にいろいろ愚痴を聞かされたりもしている。
「荷物はそこら辺の、ソファの横にでも置いておいてくれ」
「はっ、はい。分かりました」
彼女はそれなりに大きなリュックを黒皮のソファの隣につける。何が入っているのかは分からないが、『ゴスッ』という鈍い音を響かせながら置かれたソレの中には、大量のモノが詰め込まれているというのは確かだ。
――もしかしたらミッシェルでも詰め込まれているのかも知れんな……。
私の下らない疑問はさておき、短針はそろそろ7時を回りかけている。ならば普通の人間の普通の食生活ならばこの時間は夕食の時間、という事で今日は珍しく客がやって来ているので、リクエストでも聞いてみようか。
「夜ご飯の時間には少しばかり早いが、何かリクエストはあるかね?」
「うーん、特には無いですね……」
「そうか、なら好きな食べ物とかは無いか?」
「好きな食べ物、ですか。うーん……、これと言って無いんですよね〜……」
「む、そうか……」
何を作るにしても、材料なら買い置きが十分にあるから何だって作れる。それなら奥沢が好きなものでも作ろうかと思ったのだが……、どうしたものか。まぁ仕方無い、シェフの気まぐれランダムコースでも――
「あ、私ファミレスに良く行くんですけど、そういう所の料理の味付けがわりと好きなんですよ」
「ふぅむ、ファミレスか。例えばどのようなメニューだ?」
「そうですね……、スパゲティとかですね」
「ほぅ、スパゲティ……。ひとつ尋ねるが、牛乳と卵にアレルギーはあるか?」
「アレルギーですか?無いですね」
よし、これで腹は決まった。
これまた意外だが、奥沢はファミレスとかの大衆に好まれるようなタイプの料理が好きらしい。もっとこう、お上品というか、薄味というか……。あまり主張の少ないような、そういうものが好きそうに感じたのだが。
人は見かけによらないって事か。
──────────────
「だからほっといてって言ってんじゃん!!」
電話を一方的に切断する。ツー……ツー……、と無機質な響きが耳に当てられたままのスマホから届けられる。
あーあ……、やっちゃったかな……。
きっかけはなんて事ない、ほんの小さな事だった。母さんが善意であたしの部屋を軽く掃除してくれていた時に、これまたなんて事ない何処にでも売っている一冊の本を間違えて捨ててしまった事。
それはあたしが小さな頃からずっと大事にしていた物で、まだまだ子供なあたしはそれを知って気を荒らげてしまって、母さんに強く当たってしまった。さっきだってわざわざ電話までして謝ってくれたのにあの対応……。
「美咲、何かあったのか?」
「え、ああエミヤさん……。はい、ちょっと……」
今日はハロハピの練習は無い日だけど、あたしはライブハウスに次のライブの予定を決める為に少し顔を出していた。
さっき声を荒らげて電話を切ってしまったから、時間も時間なので閑散としているカフェのカウンターで、豆を入れていないコーヒーミルを延々とグルグルさせて暇を持て余していたエミヤさんが気付かないわけが無かった。
「ふむ、なるほど。親御さんと喧嘩したのか」
「……はい。母さんはただの善意でやってくれたのに、あたしが子供なばっかりで……」
「誰だって大事なものを取られてしまったら、そういう態度にもなる。今回の件は仕方が無かっただろうさ」
「…………」
「今回は美咲だけが悪かった訳では無い。だが、美咲も悪い所はあった。それは事実だよ」
「だから、今回の過ちはただ認めて、次の糧にしてしまえばいい。それでいいのさ、それだけで君は大きく成長出来るだろうさ」
「……成長、ですか」
カフェカウンターの向こう側。ドリンクディスペンサーの隣に設置されてる、今となってはエミヤさんが私物化しているも同然なキッチン。
エミヤさんはそこに向かったままで表情を読み取ることはできない。きっといつものような仏頂面なんだろうな。……でも、それを語っている声は不思議と震えているように思えた。
「さぁ、今日も閉店だ。客足もそこそこだったし、私もそれなりに暇を持て余してしまった」
「あはは……、お疲れ様です」
その言葉で会話を終わりにして、あたしも帰ろうかと思った時。
グゥゥ〜……。
「へっ!?」
すごい、大きな音が。
すごい、身近なところから。
いや、あたしでしょ。
あたしも全く意識していなかったところで、腹の虫が食物を寄越せと唸りを上げてしまった。そう言えば今日は喧嘩してしまったから、お昼抜いて来ちゃったんだった……!
「ふっ!ははははははっ!」
カウンターの向こうの人間にも笑われてしまい、急速にあたしの顔が真っ赤になっていくのが自分でもよく分かる気がする。
「わっ、笑わないでくださいよ!喧嘩してから何も食べてないんです!」
「だったらもう少し早く来れば良かっただろう。何か軽いものでも作ってやったのに」
「むしゃくしゃしててそれどころじゃなかったんですっ!」
あぁぁ〜……!ほんっと恥ずかしい!まだ花音さんとかこころの前だったら、何も恥ずかしくは――いやちょっとは恥ずかしいかも知れないけど、異性の前ってなるとそれはもう最悪だよ……。
「それで、夜ご飯はどうするつもりだ?」
声を上げて笑っていたエミヤさんもようやく落ち着いて、話はまたご飯の元へ帰ってくる。そうだなぁ……。
「まだ、母さんとは会いたくない、ですね……」
「うん、まぁ無理もないだろうな」
「ファミレスでも行きますよ」
「金はあるのか」
「ちょっと確認を……。――あっ」
なんで今の今まで食べ物を口に出来なかったのか。そりゃお金があれば勝手に何か食べていたはずだよ。
「財布、家です……」
「……君は、そこまでおっちょこちょいな人間では無いと思っていたんだがな……」
こうなったらエミヤさんからお金を借りて――
「それなら、私の家にくるか?このまま返すわけにもいかないしな。なにかしらご馳走しよう」
あ、やっぱりお金なんて要らないです。どこまでも着いて行きます。
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牛乳、というよりクリームと卵を使ったスパゲティ。私が作ったものはその中でも王道を征く定番中の定番、カルボナーラだ。具材はベーコンのみ、ファミレスのカルボナーラは食べた事など無いが味は濃いめだと話は聞いている。
少し調味料を多めに投入して、作り上げたそれを。
「こんな本格的だと、ファミレスというよりも高級イタリアンじゃないですか」
などと文句を言いながらも、美咲はしっかりと全部食べ切り。
「ご馳走様でした、とっても美味しかったです」
彼女にしては実に珍しい、満面の笑顔で私のカルボナーラを絶賛してくれた。
「……無理をして仲直りする必要は無い、時間を掛けてでもいいからしっかりと話し合う事だ」
「はい、ありがとうございます。ご飯も、ご馳走さまでした」
「気にしなくていい、こんなのは私の自己満足なんだ。たまに誰かに料理の腕を振るいたくなってしまう、発作みたいなものさ」
「それでも、本当に今日は助かりました……」
ご飯の後は、時間も時間なのでさっさと家に帰りますと、美咲がそういうので見送りというより護衛をしながら、家路を帰っている。
「ここまでで大丈夫ですよ、もう近いので」
「いや、まだ危険だ。その短い距離に何があるか――」
「心配症ですね、エミヤさんは……。大丈夫ですよ、あたしもこれから、なんとか頑張っていきますから」
「――――」
「それじゃ、今日はありがとうございました。今度は、あたしがご飯、ご馳走しますから楽しみにしててくださいね?」
次は……、明日かな!
がんばりましゅ!
てかお腹減ったゾ……