どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ   作:メイショウミテイ

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おサボりマン参上、時間を頂いていく!






リーディング・ロール(主役は?)

Galaxyでのライブは、文句無しで成功と言えるだろう。4バンドが連続して作り上げた、途切れる事の無い熱狂の輪。会場のボルテージは常に最高の状態を維持していた。

 

 ――実際、音楽に関しては素人な私はそう感じた。実に見事な、彼女たちの全てが出し切られたライブだと。

 

 ヘルプに来てくれたサービスだと言われ、二階席の前列真ん中の席――ステージを一望できる好ポジションを宛てがわれた私は、終始熱気に包まれていた会場で振り返る。

 

 

 だが、どうも私の隣で手すりに前のめりになってだらんとしている奴は、そんなライブの何かが気に入らなかったらしい。楽しんでいなかった――というよりも、楽しみの為に来た訳では無いというのが、その態度からひしひしと伝わってくるようだ。

 

 「今日のライブは、不満か?」

 「……、いいえ。当初の予想通りだったけど、得るものはあったわ」

 「やはり、Roseliaか」

 「ええ、彼女達を目的に来たけれど、もしかしたらもっと大きなdiscover(発見)があるかも知れない。そう思っていたけれど……」

 「目が……、いや。耳が肥えていらっしゃる事で」

 「そうでも無ければやっていけないわ、ワタシの作る最っ強の音楽を奏でるparts(部品)を探すにはね」

 

 決意と希望に満ちた目で、4バンドが勢揃いしたステージを眺めるプロデューサー様。彼女の視線はやはり、一番端の黒と紫を基調とした衣装を纏っていて、重大な発表をたった今行った彼女たちに注がれていた。

 

 「ワタシにClassical road(王道)は要らない。ワタシが求めるものはカタにはまらない原石、One off(この世で一つ)の煌めきを放つ……。言わばAstray(道から外れたモノ)よ。今の停滞したつまらない音楽をぶっ潰せるだけの、AmazingでPowerfulなモノよ!」

 

 

 ──────────────

 

 

 「――そ、それでその後は……?」

 「さてな、私もそこで彼女と別れてしまってな。どうなったかは知らんが……」

 

 そこで一呼吸置いてから。

 

 「Roseliaが――ましてや自分の父の音楽を認めさせたいとか言って、後先考えずに突っ走っていた彼女が、そんな誘いに乗るとは思えんがね。……お待ちどう様、いつものだ」

 「うん、ありがと……」

 

 何だかんだで盛り上がったライブから3日が経って、私も元のCiRCLEでの通常勤務に戻っている。目新しい客が訪れることは少ないが、いつも贔屓にしてくれるお客様がいらっしゃるので、そこまで売上がどうとかいう問題にはならない。

 

 今日もその贔屓のお客の1組であるAfterglowの面々がスタジオを利用しに来ているのだ。が、何故かここには美竹しか居ないのは何故だろうか。

 まぁ、こっちに来れない理由でもあるのだろうな。深くは考えずに、目の前の人物に向き直る。

 

 「あのライブでの、あたし達の演奏は……、どうだった?」

 「ああ……。『いつも通り』良かったさ」

 「そ、そう……、ありがと……」

 

 そう言って彼女はいつもの、真っ黒い液体を喉に少しずつ流し込んでいく。

 

 「それにしても、主催ライブか……」

 

 カップの中身が半分位減った時、彼女は一息ついてから話のネタを投下してくる。ネタというかただの独り言だったが、私としてもそこは気になっていた所なので、突っ込んでみることにした。

 

 「Afterglowはやらないのか?」

 「あたし達は……、多分やらないかな」

 「ほう、どうして?」

 「そこまで興味が無いっていうのは、あるけど……。だけどそれ以上に――」

 「それ以上に?」

 「――つぐみがまた倒れそう」

 

 あー……。羽沢には本当に申し訳ないが容易に想像できるというか、彼女の性格的にそれは免れようの無い真実かも知れない。前にもそれで一回体調を崩してしまい、病院送りになっている前科があるしな。そこが彼女のいい所でも有るのだが、問題なのは加減を知らないという事だな。

 

 「まぁ、Afterglowらしいと言えば、らしいがな」

 「うん、あたしもそう思った」

 「ただ、二度と体調を崩して欲しくはないがね。こちらの心臓にも悪い」

 「あたしだって同じだよ、無理なんてして欲しくない」

 

 そうして美竹は飲み終わったコーヒーのカップをこちらに寄越して、おもむろに席を立つ。どうやら私のおサボりタイムと、彼女の休憩時間は終わりを告げているらしい。

 

 「じゃあ、練習終わりにまた……ね」

 「お会計が残ってるからな、当然だが」

 「……そういうとこ、ほんっと。……じゃあね」

 「ああ、無理をし過ぎないように羽沢に言っておけ」

 「うん、そうする」

 

 そうして彼女はこちらに手を振りながら、3番スタジオの扉の内側へと入っていく。

 

 

 

 「う〜んっ!お腹が空いたわっ!」

 「……だったら、なんだと言うんだね」

 「あ!スパゲティが食べたいわ!美咲も美味しいって言ってたもの!」

 「言うなと言っておいた筈だが……」

 

 おサボりタイムはどうやらアディショナルタイムを超えて、延長戦まで持ち越してしまったらしい。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 「凄いわっ!黒服さんが作ってくれるご飯よりも美味しいわ!」

 「きっとそれは気のせいだよ……」

 「いや、自信持ってくださいよ。お店開けるレベルで美味しいですって」

 

 こころのお世話係である奥沢も含めて、三人での談話――もとい職務怠慢と来た。美味しい美味しいと口にしながら、ミートソースを口にポンポン運んでいく弦巻を横目に、奥沢も私の料理を絶賛している。

 

 ちなみに2番スタジオからは未だにギターとベースの音が響いて来ている。防音であるはずなのにここまで音が届くとは、相当力強い演奏が行われているのだろうと思うが。

 

 ハロハピならば別だな、北沢と瀬田が遊んでるだけだろうから。それに付き合わされている松原には両の手を合わせておこう。

 

 「あ、そう言えば知ってますかエミヤさん」

 「ん、何がだ」

 「Roseliaが主催ライブするんですって」

 「ああ、知っている。というかその日はGalaxyにヘルプに入っていたじゃないか」

 「そう言えば……、そうでしたね」

 

 やはり共演者の重大発表だからというのもあるのだろうか、話題はそこになってくる。ましてや誰も予想していなかっただけに、驚きも大きいのだろう。それはRoseliaとほとんど関わりがないと言っても差し支えのない、ハロハピですら食いついて来るのだから。

 

 

『Roseliaの主催ライブ』

 

 

 力の付いてきたバンドが必ず行う、自分たちの実力を自分達が作り上げた舞台で見せ付ける。簡単に言うならばそんな所だろう。私だってそこまで詳しい訳では無いから、それくらいの説明しか出来ないが。

 

 なんにせよ、半端な覚悟と実力では執り行うことすらままならない一大イベントなのだ。

 

 「美咲ー、あたし達もやりましょう!」

 「いやあたし達はいっつもライブしてるじゃん……」

 「私からも聞きたい、ハロハピは主催ライブをする予定は無いのかね?」

 

 私が追求の態度をとると、あからさまに「えっ、知りたいんですか?」みたいな顔をされた。別に答えたくなければそれでいいんだが……。

 

 「うーん……。あたし達はハロハピとして地域の幼稚園とか、遊園地だったり、色々な所でワンマンライブを強行してきたので……。今更やる必要あるのかなーって私個人は思っていてですね」

 「――なるほどな。それはそうだ」

 

 ハロハピと言えば、この地域では知らない人は居ないというぐらいに知れ渡っている。それこそ、さっきまでここにいた美竹を含めた5人の幼なじみのバンド『Afterglow』にも勝るとも劣らない程のだ。

 彼女達が今どきの高校生達にウケているのならば、ハロハピは幼稚園などの小さな子供から中学生位までをターゲットにしている。人気の層は確実に違うが、どちらも人気があると言えよう。

 

 「分かったこころ?あたし達はこのまま地域でライブを重ねた方が、ハロハピらしいって事」

 「確かにそうね!それじゃあ、次のライブはいつにしようかしら?」

 「先を見るのが早いなぁ……。日程とか調整するのあたしなんだよぉ……?」

 「私だってそれに振り回されている側なのだがね」

 「いや、その節はホントにお世話に……」

 

 

 それから程なくして、ミートソースを平らげた弦巻を連れて1番スタジオへと戻っていく奥沢を見送って。

 

 「フロアの清掃でもするかなぁ……」

 

 やはり暇を持て余している私は、真面目に職務に励もうと努力するのだった。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 とある建物の裏路地。

 

 そこに2人の少女が向かい立っていた。

 

 一方は、黒と紫を基調としたゴシックを彷彿とさせる、可愛いとカッコイイを両立させたような衣装の、銀髪の少女。

 

 もう一方は、プラスティックのビール箱の上に小さな背丈を上乗せした、膝くらいまで伸びているピンク髪と猫耳を模したヘッドフォンを首に掛けている。

 

 「Why!どうして!?ワタシのプロデュースする音楽をあなた達が奏れば、何者にも負けない最っ強にCoolな音楽が作り上げられるのに!」

 

 激昴、憤怒、理解不能。

 

 ピンクの少女を駆け巡るのはそんな黒い感情と、まるで自分のプライドを否定されたような感覚。さらに、彼女が予想に反した返答を見せたことによる失望。

 

 「貴女の音楽は素晴らしいと思うわ、いつも購読している音楽雑誌にも貴女の名前があった。誰も聞いたことの無い、新時代のミュージック・クリエイター……。実力もあって行動力もある、未来を担っていくのはこのような人物だろう、と」

 

 銀髪の少女は、対面の彼女に絶賛の言葉を。

 

 だからこそ、なおさら意味が分からなかった。この女は何故私の実力を知りながら、その誘いの手を蹴るような真似をしたのか。

 

 「だったら……。だったら、なんでっ!?」

 

 だから自然と投げ掛けられる言葉は、語気の強い疑問の問いかけになってしまう。

 

 「……確かに私達も、頂点を目指しているわ」

 「…………」

 「でも、そこに私達5人以外の手が加えられてしまうのは、Roseliaの存在意義にも繋がるわ」

 「――!存在……意義……?」

 「私達は、この5人で作り上げたRoseliaで頂点を掴み取る。だから貴女のプロデュースは、要らない」

 

 キッパリと拒絶の態度を表す銀の歌姫に、プロデューサーは何も応えることが出来ない。

 

――でも、せめて。せめてこれだけは

 

 自分の目指す、理想の音楽を知らないまま逃がす訳にはいかない。ピンク髪の少女は羽織っていた学生服のポケットから、小型のUSBを取り出して既に立ち去ろうとしている彼女に手渡す。

 

 「なら責めて、ワタシの作ろうとしている音楽を聞いてみて!それで変わるかは分からないけれど、貴女には知っていて欲しい!」

 「…………」

 

 返答はなく終始無言だったが、その目からは肯定の意思が感じ取れた。やはり彼女も音楽に携わるものとして、何か思うところがあって受け取ったのかも知れない。それは何となく理解出来た。

 

 ――が、鬱憤が溜まっていないだとか、イライラしていないという訳では無い。

 

 「なんなのよーっ!!ワタシの音楽を評価してるクセに誘いに乗ってこないってどーゆう事よ!?Incredible(信じられない)!!」

 

 憎しみと苛立ちが込められた八つ当たりのキックが、近くにあった青いゴミ箱に炸裂する。横転するゴミ箱からは中身がぶちまけられている。一時の感情で行ってしまった事にハッとして、急いで元通りにゴミを回収してから。

 

 「あんなバンド……、ぶっ潰してやるッ!!」

 

 

 思えば、この裏路地から彼女達の全てが動き出したのかもしれない。そう考えずにはいられなかった。




お分かりの事と思いますが、チュチュと友希那の出会いのシーンは一部改編ってか、作者の気に入る形に作り変えてます。

ご了承くださいませ。




次回は……、1、2週間は貰いますね

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