どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
予告しておきますと、次は文化祭2日目。つまりポピパの乱です。
なんだかんだで、学校という施設に足を踏み入れる事になるのは随分と久しぶり……、いや初めてかもしれない。
そこら辺の判断はなかなか難しいものだ。
守護者として限界した私は、顔の無い一般市民の総意によって喚び出された存在、言わば何か特定の伝説があるわけでもなければそもそも名前すら無いのだ。
一応大元の人間──と言っても半ば反転あと1歩手前というところだが──は存在するし、その人格が表に出てきているのもそう。しかし、その人間の記憶も完全に保持しているという訳でもなければ、多くの顔の無い存在をひとつに纏めるのだから多少の記憶の齟齬も起こる。
──つまり何が言いたいかといえば、学校はあまり居心地が良いものではないという事だ。
いつも贔屓にしてもらっている5バンドの皆々様から、しっかり忘れることなく文化祭への招待状を貰ってしまった私は渋々といった感じで足を運ぶ事にしたのだ。
普段よりも相当足取りは重いが、チラと顔を出してサッと帰れば何も問題は無いだろうから、そのつもりで学校の続く坂道を上り進めている。
あくまで私自身はそれで良かった。
「シロウシロウ!楽しみですねブンカサイ!」
「……、はァ……」
一人で行くのであれば何も考えずに、バンドの子達だけを見つけて軽く話をして帰れたのだが、今回は残念な事にセイバーのお守りも兼ねてしまっている。
少し前から新たなバイトメンバーとして加わったセイバー。
いつも仕事を少しずつサボりながら5つのバンドの面々と会話をしていた所に、セイバーがあたらしく混ざるわけだから。
当然2週間前にあった会話もバッチリ聞かれていて、説明をした流れで連れて行けとなるのはセイバーの性格上仕方の無い事だとは思う。
その場面で一人で行けとは、言い出せずに結局連れ添って歩みを進めている。
「あまり子供みたくはしゃぐな、ちゃんと前を見て歩け……」
前をクルクルと回転しながら小走りしているセイバーに向けて注意を飛ばす。
外見は麗らかな少女ではあるが、中身は相当な苦労を積み重ねて来て子供らしい欲も長いこと禁じられて来た身分だったのだ。その反動がここで来ても、それは何ら不思議ではないし仕方のない事だろう。
聞いた話に拠ると、聖杯戦争にてマスターに喚び出された英霊はその戦争終結後に『英霊休暇』なるものが発生するらしい。もしかすれば訳も分からずに現界しているこの期間は、第5次聖杯戦争のそれになるのかもしれない。
しかしまぁ、そういうものであれば期間がちゃんと決められていたりするものだろう。
「あっ!見えてきましたよシロウ!あれが学校でしょう?」
「あぁ、そうらしい……」
まぁ、アレ以外無いだろうな。
校門にもしっかり『花咲川女学園』という時代を感じる石のプレートと、その横に『本日文化祭!!』と、ご丁寧に立て看板も。
辿り着いた学校では今もなお、多くの客や学生たちで賑わいを見せている。
えー。
そして、おそらく屋上に括り付けられている、私としては見慣れた生き物……、着ぐるみ……である、ピンクのデブ熊ミッシェル。
それを精巧に模したバルーンもふよふよ浮いている。
「あのミッシェルは、この学校の御旗のようなものでしょうか?」
「馬鹿言え、あんなの御旗にする学校が何処に……。──やりかねんな……」
まずは屋上に行きましょうシロウ!とグイグイ腕を引っ張っていくセイバーに引き摺られて、先ずは屋上へと。
その道中で『武士道コロッケ喫茶』という、クラスでの話し合いの末に妥協に妥協を重ねて生み出されたのであろう業の深い出店で、コロッケバーガーを購入したり、居合斬り体験なるものをさせてもらったり。
「エミヤさん!また来てくださいね!」
「おいしーコロッケーー!!あるよーーー!!食べてかなーい!!!」
「コロッケ美味しいですねシロウ!」
「……多分、二度と来ない……」
学校の一室を借りて設けられた、出張やまぶきベーカリーに寄ったり。
「いつもありがとうございます、セイバーさん」
「いえ、こちらこそですサアヤ。こんなに美味しいモノを食べさせてくれて、感謝の言葉もありません」
紆余曲折を経て屋上へ。
屋上にはテーブル席などが設置されて、青空の下でのんびりと休憩をしている客も結構居るようだ。
「いい風が吹いていますね、シロウ」
「風がどうこうとかは、特に私には分からないが。君が言うならそうなんだろうな」
「ええ、今日は良い日です。付き添ってくれるシロウには感謝しかありません」
突然照れくさい事を言うセイバー。ニカッと屈託のない笑顔が太陽とかぶって眩し過ぎる程だ。
「──私も、彼女たちに来いと半ば命令のようなものを受けている手前、行かないと何を言われるか分からん。今日がたまたま、いい機会だっただけだろう」
「……ええ、今日は。とても良い日ですよ……」
二人して屋上の鉄柵の前で賑わう学園の姿を見下ろす。不思議と懐かしさを感じるが、自分の記憶かどうかも分からない思い出が自然とリフレインされてしまうようで少し恐怖を感じ体が強ばってしまう。
私が、私達が守った世界とは、果たしてこの世界なのだろうか。
聖杯戦争で、人理を守る戦いで、世に蔓延る悪を滅ぼす為、何度も体を燃やして戦って。
その度に最後まで守りきれずに倒れて、信念を貫く事も叶わずに斃れて。
その先にあったのが、深い闇。
「なあ、セイバー」
「……はい、なんでしょう」
「オレたちが守った世界ってのは、この世界なのかな。それとも、また別の知らない世界なのかな」
小さな気の迷いがセイバーに疑問を投げかけてしまった。そんな事セイバーが知るはずも無いのに。
「いや、忘れてくれ……。ちょっと疲れているのかも──」
「私には、それは分かりません」
遮るようにセイバーが口を開くが、その答えは予想通りのものだった。
「でも、たとえこの世界でなくても、貴方が世界を救うために、誰かを助ける為に動いていた事実を、私は一生忘れません」
「────」
「シロウ、貴方が何に悩み苦しんでいるか。私にはそれは分かりません、恐らく話をされても大半が理解出来ないでしょう。しかし、あなたの行為は決して無駄ではなかった、それだけは断言できます」
意味があった、それだけで。それを知る事が出来ただけで十分だったのかもしれない。
オレの存在を肯定してくれる人が居るだけで、それだけで良かったのかも知れない。
心のつかえが自然と溶けていったような、身体が不思議と軽くなったような。
「そうか……。そうかな……」
「きっとそうですよ、シロウ」
彼女の言葉はやはり、優しく心に響くものだった。
「──さぁ、もう少し学校の中を見て回ろう。今日はその為に来たんだからな」
「はい、お供してくださいね、シロウ」
ここからもう一度、足を踏み出そう。
その決意が、ようやく出来た。
今後の予定を決める為に、というかどこまで書けば良いのかが知りたいので。
今回は投票というよりアンケートを初めて設けます。
是非ご回答ください。
これからどのように、どこまで話を作って欲しいか。是非ご回答下さいませ。
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2ndシーズン終結+数本小話
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3rdシーズン終結+鯖勢が消えるまで