どうして守護者がアルバイトなんてやってるのさ 作:メイショウミテイ
文化祭の顛末を語ろう。
あの後、私はバイクを投影し全力で花園を迎えに行った。それこそ、道交法を違反するかしないかギリギリをせめて、だ。黄色信号でも構わず吶喊し、狭く入り組んだ裏路地を利用した近道も進んだ。
しかし、それでも間に合わない事には全てが無駄である事を忘れていたようだ。
ヘルプの役目を終えた花園を会場前で待ち続け、終わった所をすぐさまピックアップして全力でバイクを飛ばした。騎乗スキルが無くとも生前に免許を取っていたし、それからも事ある毎にバイクを乗り回していた事もあり人並み以上には運転が出来ると自負していたが、それでも限界はあったらしい。
結果として、再び学園祭会場へと戻ったのはライブ行程が全て終わってしまった後だった。もちろん、最後にライブを行う予定だった一団体はキャンセルという形になってしまったらしい。
間に合わなかった。
残念だが、私では力不足だったようだ。
Poppin'Partyの面々からは気休めの言葉を頂いたが、寧ろ私の心に傷を残すばかりだった。そのような資格など、最初から私には無いというのに。
あっという間に文化祭から一週間が経ってしまった。あれ以来Poppin'PartyがCiRCLEに訪れる事はなく彼女たちが今現在どういう状況なのかは分からないが、考えてみれば普段は市ヶ谷の実家で練習をしているのだから、わざわざここに金を払ってまでやって来ることもないか。
「……貴方がそこまで気落ちする必要もないでしょう」
「分かってはいるんだ。所詮人間一人に出来る事など限られている事くらい」
「貴方が出来なかったのだから、他の誰がやってもきっと無理だったのよ」
「まさか、適任なら他に居たさ。その場に私しかいなかっただけで、その私が失敗したというだけさ」
「……」
個人で歌声の調整に来たらしい湊はそういってくれるが、やはり思ってしまった事はある。あの時、運転者が私ではなくライダーなら何とかなったのだろうか、そう考えずにはいられなかった。ヤツの騎乗スキルがあれば投影したバイクであっても、とんでもない速度が発揮できただろう。
――いや、違うな。
その前に俺が法定速度など気にしなければもしかしたら間に合ったかもしれない。知らずのうちに、自分の此処での生活と彼女たちのライブを天秤にかけてしまっていたのではないだろうか?
ライブの話で言えば、湊にも世話を掛けてしまったな。いきなりライブに出て時間を稼いでくれと、とんでもない頼みをしてしまったのに見事にやり遂げた。突発的だったから、他のメンバーはチューニングだってまともに出来る時間は無かっただろうに。湊自身、喉だって全く作れていない状態だったはずだ。
「改めてだが、突然の頼みを引き受けてもらってすまなかった。そちらにもいろいろ事情があっただろう」
「……その言葉、Poppin'Partyの子たちにも言われたわ。彼女達にも言ったけれど、『すまない』じゃなくて『ありがとう』と言って欲しいわね」
「……そうか。感謝する、湊。君たちには助けられた」
「ええ、それでいいのよ」
過ぎた事をいつまでも引き摺っても仕方がないか、そろそろ切り替えていかなければな。クククッ、そうじゃないか。……元はと言えば、俺には関係の無い話なのだから、な。このまま崩れていくにせよ持ち直すにせよ、私には所詮関係のない事なんだろ……?
「それで、私との約束はどういう形で守ってくれるのかしら?」
「約束……?」
約束とはなんだ……、約束……。
「その顔だと覚えていないようね」
「あぁいや、確かに言ったな。……時間稼ぎを引き受ける代わりだったな?」
「えぇ、その通りよ」
一瞬、湊の顔に凄まじい圧を感じた……!?思い出せなかったら、三途の川観光ツアーに連れていかれるところだった……。い、いや……それにしても、湊は最近ではよく感情が顔に出るようになったな、
ひと昔前は鉄仮面が剝がれる事など滅多になかったというのに、何がここまで彼女を変えたんだろうな……。
「う、ううむ。何か欲しい物だったりして欲しい事はあるか?」
「欲しい物、して……欲しい事……」
「お、おう……」
眼が怖い、色々な感情が混ざりに混ざった目をしている……。俺はなぜこのような眼光を向けられているんだ……、何故なんだ。
「……次会う時までに考えておくわ。明後日にはまたここで練習するのだし」
「そ、そうか。そう……」
「ふふふ……、何をしてもらおうかしら……」
「……」
ま、まぁいいか。そこまで鬼畜な頼み事にはならないだろうさ。そうだよな、湊?
自分の世界に入っている湊は放っておいて、こちらもさっさと頼まれたコーヒーを作ってしまおうか。いつもの手順通りにミルに豆を投入して、コロコロ磨り潰していく。バイトの中で一番心が落ち着く時間と言っても過言では無いな。
気分で適当に荒めに挽いた豆をフィルターをセットしたドリッパーへと移し替えてから、一旦蒸らす意味でお湯を投下していく。この手順を踏むことでコーヒーの旨味が引き出される……らしい。他人の受け売りだから、その人が言うにはになってしまうが。
そうしてドリップしていったコーヒーは、いつもに比べて気持ち香り豊かな感じがする。そういう気分的な感覚なのかもしれないが、こういう感覚は大事にしておいた方がいい。人生が豊かになると、学校に行っていた頃に家に出入りしていた親しい人から教えられたような気がする。――どうだったかな、よく覚えていないが。
「で、そのコーヒーに角砂糖がね……」
「何かしら、これでも前より数は減ったのよ」
「まぁ、楽しみ方は人それぞれだものな」
別に砂糖を入れる事に否定的という訳ではないが、それならミルクも入れてカフェオレにでもすればいいとも思う。コーヒーの苦みがミルクによって抑えられつつもコーヒーの良さはしっかりと残っている、だから苦手な人間でもコーヒーを楽しめるハズなのだが。彼女には彼女なりのそういう拘りがあるというのは、最早なんでもいい事だ。
自分の分のコーヒーを抽出し終わったので、ドリッパーを片づけているとカフェの出入り口に取り付けてある、来客を知らせる意図のベルがチリンチリンと鳴り響く。
「いらっしゃいませ。……ん、おや」
「え?……what?アナタなんでここに――隣に居るのは……ユキナ!?」
「お知り合いなんですかチュチュ様?」
「はぁ……」
知り合いでは無いが、印象に残っていた顔がやって来た。それとマジで全く知らない、髪の毛がとんでもなく蛍光色――ピンクと水色のツインテールの活発そうな女の子がやって来た。見ているだけで頭が痛くなってきそうな程だ、最近の流行というヤツだろうか。
「確か名前は……」
「チュチュ、と言っていたわね」
「That's right!えぇ、私はチュチュ!こっちは……」
「パレオはパレオです!」
「あぁ、そう……よろしく」
怒涛の急展開過ぎて頭の理解が追い付かないが、よろしくしたい事だけは分かった。まぁ、何にせよ……。
「今日は保護者が付いてくれていて何よりだ……」
「聞き捨てならないわねその発言!誰が誰の保護者よ!」
「しまった……」
思った事が口に出てしまっていたようだった。プリプリ怒る姿はやはり子供のようだが、実際の所はそうではないのかもしれない。
「ワタシとパレオは同い年!何ならワタシは飛び級してるから高校生!」
「流石ですチュチュ様~!」
「パレオは知ってるんだからいちいち反応しなくていいの!」
「コントでもやってるのか?」
「知らないわ……」
やって来たのは良いが、どういう目的があってここに来たのか、そもそも彼女たちはいったい何者なのか、色々知りたいことが浮かんでくる。だが、目の前のチビッ子お二方は良く通る声で好き勝手喋り続けている。どのような目的があろうが、一介のバイトである私には関係ないのだが。
「それで君たちの要件はなんだ?ここを利用したいのなら、事前の利用予約は済んでいるか?」
「No,No!今日は本当に偶然なのよ、曲作りに行き詰ったから散歩がてらにね」
「……なるほど」
そこまで深い意味がある訳でも無かったらしい。それはそれでいいが、気ままにライブハウスに入ってみようと普通の人間なら思わないのでは……、作曲しているならそういう事もあるのか。ただ、折角ここまで足を運んでもらった事もある、それが例えたまたまであったとしてもね。
「折角だ、休憩がてら何か出そうじゃないか」
「ちょっとエミヤ……」
「Really?本当に散歩のつもりだったから、cashなんて持ってきてないけれど……」
「気にしなくてもいい、こちらも試作品を作って感想を聞くだけだからな。未完成の品物で金は貰えんよ」
「……どうしますか、チュチュ様?」
「確かに、そろそろ疲れてきたのも事実ね……。Thank's!有難く頂いていくけれど、ワタシ味にはうるさいわよ?」
「フッ、望むところだとも。湊も食べていくか?簡単なスイーツを作る予定だが……」
「私は……。いえ、頂いていくわ」
そういう建前を作っておけば、遠慮せずに休んでいけるだろう。いらない気遣いかもしれないが、湊とチュチュと言った少女はどうやら知り合いらしいしな。何かしら話す話題でもあるんじゃないか、それこそ音楽の話とかな。*1
そう思って、私はカウンターを離れて裏のキッチンブースへと歩いていく。私が居ては話しにくい事だってあるだろう、存分に語り合うといい。どのみち私には理解の及ばない、ハイレベルな会話になるだろうからな。
これからどのように、どこまで話を作って欲しいか。是非ご回答下さいませ。
-
2ndシーズン終結+数本小話
-
3rdシーズン終結+数本小話
-
2ndシーズン終結後休んでいい……
-
3rdシーズン終結+鯖勢が消えるまで