「風邪になってよかった」と思う作品として完成した、とは思わなかったぞ。
べつに複雑な話ではない。
彼は至極単純な、もっとも最適な答えを導き出しただけだ。
ある世界から迷い込んだ人間たちにとっての、とっても冴えた、冷めきった答えを。
「ボクが破壊した。」
ただ一言。
その程度の言葉でしか、表現できないほど。
彼は迷い続けた。彼は選び続けた。彼は諦め続けた、彼は諦めなかった。
自分の命のため。できれば、死んでほしくない子供たちのため。
死んでも構わない人間が巻き込まれても、死んでほしくない人間が巻き込まれても、確実に死ななければならない相手を殺すために。
殺人にデュエルの力が必要ならば、デュエルの力を帯びた武器を使えばいい。
殺すべき誰かを殺すために、それが実現しうるカードの力を利用すればいい。
ただ、それだけのために。
「融合次元のアカデミアは、ボクが・・・・・・爆破した。」
少年は少年期を費やし。二度目の人生だからと腹を括り。
彼らが望んだ通りの『戦士』として、為すべきことを成し遂げた。
「ちょうどいい、『莫大なエネルギー』の貯蔵庫があったからね。
そこを軽く爆破して、制御不能にさせた。あとはガスホルダーが爆発事故を起こすのと同じ要領だと思ってくれていい。アカデミアはもう、存在しない。」
「・・・・・・は?」
デュエルを介さず、デュエルの異能を使用して、物語の結末をつける。
それだけであれば、彼らの物語にも何度か繰り返されるはずの未来だった。
だが、そうはならない。そうはなれなかった。
外套を纏った少年のようには、コートを纏う少年、”黒咲隼”も、また。
「どういう意味だ、説明しろ!」
「説明したとおりだ。ボクが、アカデミアを破壊した。
車のガソリンタンクに向かって、遠隔から火種を放り込んだのと同じだ。
あれはもう、誰も助からないよ。彼らは今頃、アカデミアとは別の軍部で『昇進』が認められている頃のはずだ。」
「そんなことを、聞きたいのではない」
少年に掴みかかる黒咲。
ああ、少年とて、彼の言わんとする望みは理解できる。
理解できるが、そこまで、でしかなかった。そこまでにするしかなかった。
憐れむべき事情があるわけでも、共感から許しを請える事情があるわけでもない。
「瑠璃は・・・・・・瑠璃はどうなった? 俺の妹を、どうしたと言った!?」
「ああ、噂の彼女か。
殺したよ。事故に巻き込まれていれば。」
「ふざけるなぁ!」
肉が、鈍器でも当たったかような音を響かせる。
静まり返ったリアル・ソリッド・ビジョンの世界。
デュエルの観客が大勢でなかっただけ、彼らにとっては幸いか。
奇しくも彼の暴挙によって、彼らが戦う場所、その世界において、誰も異世界からの脅威などという未知に脅かされることも、思い悩むこともないのだから。
「だったら、カードにされた、ハートランドの皆は!?」
「
アカデミアを自爆させた際に、1枚も残さず燃え尽きたはずだ。」
「・・・・・・そんな・・・・・・ことが、」
膝を折る黒咲は、握った拳を地面に叩きつける。
脳裏に浮かぶ思い出も、笑顔も、すべてが灰になった。
「認められるわけがない!
そんな方法で、こんな形で、アカデミアが滅びただと・・・・・・!?」
吐き出されるべき、突き出されるべき憎悪の拳も。
今となっては、風に吹かれて舞いそうなほどに、拳の内に隙間風を吹かせている。
この瞬間、彼らの世界に、デュエルが答えを導き出すことはなくなった。
ある男はつぶやいた。ならば彼女も死んだのかと。
ある少年はつぶやいた。もう、あそこに戻らなくていいんだと。
ある道化師は天を仰いだ。どうして、今さらになって、こんな形で。
こちらの世界では、いまだ、誰もカードへと封印されていない。誰も犠牲にならず、しかし、誰もが犠牲になってしまっている真実のうえで。
もう、踏み込まなくていいはずなのに。
榊遊矢と呼ばれた少年は、外套が伸ばす影に向かって。
口を、開いた。
何も知らないからこそ。
それを知る誰かでは、決して届かぬ居場所から。
ぬくもりが届くこともある。
前々から構想にあったものを、病み上がりで書く気になれました。
続きを書くかは、明日からの自分に投げます。
いろいろと「いそがしい」ので、長期間の計画立てた執筆は現状厳しくなっています。また会えたら幸いです。