どこの世界でもない、人が知り得ぬ空間にて。
1人の青年と1人の少年が、カードゲームを嗜んでいた。
「なんでだ、なんでだ、なんでだよっ!
なんでモブキャラ風情がモンスター1体で、こんな強えんだ!?
なんでアド獲得すんの弱いカードも使わねぇ、なんで墓地発動できる時代遅れでガチなのばっかり使ってくるんだ、【BK】なんて古いカテゴリーなんかで、どうして俺が・・・・・・?」
名も無き青年は、理解ができないと喚き続ける。
遊戯王デュエルモンスターズ・オフィシャルカードゲーム、通称【遊戯王OCG】はカードゲームである以上、どうしてもカード・アドバンテージという概念がつきまとう。
カード1枚の消費でどれほどの利益を得るのか、カード1枚の消費でどれほどの損害を与えられるのか、そしてカード1枚の消費でどれほどの戦略を編み出せるのか。
手札の枚数だけ遊戯王OCGのカードゲーマーに可能性を与えるとされる一方、墓地で発動できるカードの数だけ可能性を得ることもできるという側面も持つ。
ここが遊戯王OCGの持つ、通常のカードゲームでは珍しい多様性の一端だ。
つまり、遊戯王OCGにおいて、単純に戦略を数多く編み出す方法のひとつにして筆頭としては、より多くの手札と大量の墓地のカードを得ることが挙げられるのだ。
そういった意味では、現在の遊戯王OCG大会環境のトップクラスに立つ遊戯王OCGカードゲーマーが使用するデッキとは、この方法を選んだデッキであることが非常に多い。
それらは相手に与える損害を一定値、毎ターン与えつつ手札と墓地を増やすことができるという、攻撃性と耐久性のバランスがよいデッキであるとも言える。
特に1枚のカードで手札、フィールド、墓地を含めた、複数回のカード効果の使用が見込めるカードを使用できるデッキなどは最たる例だ。
青年が使用するデッキには、それらを含め、モンスターの召喚自体を妨害するというカードも何枚か入っていた。彼は遊戯王OCG大会環境トップクラスのカードゲーマーと言えるかは別として、それなりに強いデッキの使い手ではあった。
しかし、だからこそ。
そのようなデッキを使うプレイヤーが、極めて多かったからこそ。
「そういった損害を殆ど受けない、モンスターの耐久力に物を言わせるデッキ」
というものが、かつて遊戯王OCG大会環境に食い込んだこともある。
青年の相手をする少年が使用するデッキは、そちらであった。
「んっ、んんンッ!
素晴らしい、いいデュエルだよ
青年の目の前に立ちはだかる、人型のモンスター。
そのモンスターの名前は、《BK拘束蛮兵リードブロー》。
全身を拘束具で縛り付け、身に纏い、ひたすら「破壊する」という効果や戦闘に対して二度も受け付けず、その戦闘能力を破壊されかけるたびに強化していく剣闘士のドMモンスター。
ただのドMカードと侮るなかれ、確かにその攻撃力は、かつて遊戯王OCG大会環境を斡旋した2400台の上級モンスターの攻撃力にこそ「始めは」劣る。
しかし、戦闘や効果による破壊を受ければ受けるほど攻撃力は上昇し、「一度目」には通常モンスターと呼ばれる効果を持たないモンスターの最高打点3000になり、「二度目」にはそれすら上回る3800、神のカードと呼ばれる伝説のカード群の攻撃力4000に並ぶ脳筋モンスターに化けるのだ。
このモンスターの拳は、あとほんの少し。
ほんの少しでも何かしらの補助を与えれば、たやすく神をも砕く攻撃力を秘めている。
そう。このモンスターは。
《BK拘束蛮兵リードブロー》は――――神をも屠る、
そして、二度も破壊を受け付けないということは、破壊を行うカードを最大で三度も相手に無駄遣いさせることができる、ということでもある。
もちろん、遊戯王OCGにはカードの効果による破壊に対して、ある程度の妨害が行えるカードは数多く存在する。中には、前述したように「墓地でも発動できる」というカードも何種類か含まれる。
これらを100%使いこなし、徹底的に効果を防ぎ切ると何が起きるのか?
リードブローを含めた、たった二枚のカードでも最大5回も効果による破壊を受けきれる、すなわち最大5枚も相手の手札を使わせることができるのだ。
遊戯王OCGにおける最初のドローを除く初期手札は5枚なので、ほぼ相手の手札を使い切らせる計算となる。どれほどの相手の利益も、たった1体のモンスターを倒すためだけに溶かさせてしまうというわけだ。
何より、これは遊戯王OCGにおいて、例えるならばFXで有り金を全部溶かしてしまうかのような損害でもある。
リードブロー召喚に必要な手札は基本的な召喚方法では最大で2枚まで、初動が終わってからは最大効率で実質手札が1枚というだけでも十分にはなる意外なリーズナブルを誇るが、その自分の手札1枚を使って、通常の手段では、何度も言うが相手の手札3枚を使わせた計算になるのだ。
初動から召喚していれば、消費させるカード枚数は倍の6枚になる。相手の初期手札など一気に溶け切ってしまう。
そのくせ自分は、初期手札から計算しても残り3枚分の手札の余裕を確保できる。
そのような蛮行が実現できるのが【BK】、バーニング・ナックラーなのである。
はっきり言おう、そりゃ大会環境を一時は斡旋するハズである。
だが、ここに初期手札にあと数枚、同じく墓地でも発動できる対除去効果用の妨害札を混ぜ込んだ場合、その耐久力と相手に消費させる手札枚数は飛躍的に上昇し続ける。
結果、リードブローを操る少年と戦う青年は、すべての手札と戦術を溶かしきったのだ。破壊ではない除去効果さえも使い切らされ、対処する手段は残っていない。
「君のデュエルは、まさしく圧政だった!
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》によるカード効果の発動妨害、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》による複数枚破壊、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》による複数回攻撃と打点10000オーバーでのワンショット・キル!
あらゆるモンスター効果による相手フィールドへの弾圧と波状攻撃、連続召喚と連続破壊はまさしく圧制者となるにふさわしい転生者のデュエルだった、しかし・・・・・・」
リードブローを操る少年は、リードブローとくらべて筋肉量はそう多くない。
極めて普通の痩せ型よりは、少し筋肉をつけている程度。
肌はリードブローと同じ色ではなく、むしろリードブローの肌の色のほうが人間に違和感を抱かせる青白いもの。とてもではないが、筋肉な魔物を操るデュエリストと呼ぶには少々程遠いものを感じさせる。
数多くのモンスターが舞うデュエル・フィールドにおいて、本来ならばデュエル・マッスルと呼ばれる筋肉質な肉体が必要となるため、その程度の筋肉量では自分に頼りなさを抱き、モンスターを見て多少なりとも恐怖感や劣等感を抱くはずである。
それでも、彼の表情は、笑っていた。
デュエリストとして、明らかに劣勢であったはずの状況からの逆転を実現したことに、そして相手の全力を使い尽くさせたデュエルタクティクスに誇りを抱いていた。
少年は、笑っていたのだ。
カードゲーマーとしてではない、たったひとりのデュエリストとして。
相棒である《BK拘束蛮兵リードブロー》とともに、笑っていたのである。
「このボクを倒すには、程遠いんだよねぇ!
攻撃力3800の《BK拘束蛮兵リードブロー》で、効果が無効となり攻撃力が0となった《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に叛逆の一撃を与える!」
「ちくしょうっ、なんでだよクソッタレ、イカサマでもしたのか!?
カードの精霊が応えた的なチートか? カードを書き換えた的なチートか? 俺の手札を全部見てたとか、俺の考えを読む的なチートでも持ってたのかよ!?
なんで俺が負けるんだ、どうして俺が!!!」
「その戦闘のダメージ計算前に、《BKカウンターブロー》攻撃力を1000ポイントアップ、合計4800の【即死ダメージ】を、我が愛を受け給え!
《
「う、うわあああっ!?」
拘束蛮兵リードブローによる、もはや《
神をも屠る一撃により、青年の身体は宙を舞う。
それは青年が生前、トラックに轢かれた際に味わった衝撃よりも重く。
死してなお、カードゲームでも戦闘ダメージでも【死】を味わうことになった青年は、何度もアスファルトの上を跳ねては転がり、跳ねては転がり続け、ようやく止まった頃には首が背中へと向き、二度目の旅路を迎えていた。
誰もいない、ただデュエルをする場所という概念しかない空間にて。
少年は天を仰ぎ、たった一言だけ、大きな声で吠えた。
「――――
【Fate/】作品のスパルタクスを見て、何となく宝具が《BK拘束蛮兵リードブロー》っぽいなーとか思っていたら、そういえば元々の使い手も生前剣闘士じゃねーかっつうか、ある意味で英霊じゃねーか! と、気がついた始末、
スパルタクスのファンで【BK】使いのデュエリストが完成してました、愛゛ッ!
なお、これの続きはありません。