これにて、完結です。
先生が放つ暴風を、弔くんは正面から受け止めた。指が変な方向に折れ曲がりつつ受け止めた暴風はたちまち崩壊をはじめ、パキン、と何かが割れる軽い音とともにぴたりとやんだ。僕は弔くんの折れた指を治そうと個性を発動させた瞬間に、上から先生に押さえつけられた。
「凶夜の弱点は、意識しないと個性を発動できないということだ」
「ぎっ……」
言葉とともに、僕の腕が何かで地面と縫い付けられた。見ると、僕の腕には巨大な釘が刺さっていた。それを見た瞬間一気に熱と痛みが襲ってきて、たまらず声にならない悲鳴をあげる。
「ほら。弔の指を治してあげないとかわいそうだろう?」
「くっ!」
痛みに耐えながらうめく僕を救ってくれたのは弔くんだった。僕の上に乗っていた先生をどかし、僕の腕に刺さっていた釘に触れることで一瞬で崩壊させた。容赦ないな先生、と思いながら弔くんに「ありがとう」と言った僕は直後、突然目の前に現れた先生に殴り飛ばされた。
「かっ」
壁に叩きつけられた僕は、弔くんを掴み上げる先生の姿を見た。すぐに個性を発動させて弔くんを僕の近くに転移させ、先生を警戒して睨みつけながら僕と弔くんの傷を治す。
「やぁ」
睨みつけていたはずの先生は、僕たちの後ろにいた。すぐに個性を発動させると得体のしれない光の嵐は僕たちを襲うことなく空間を焼き、弔くんはその隙に先生に近づいて最短距離で触れるために腕を伸ばした。しかしその腕は先生に容易く掴まれると、次の瞬間弔くんが全身から血を噴き出してその場に倒れこんだ。
「なっ弔くん!」
「動揺は君の敵だよ、凶夜」
僕の動揺と同時に、暴風が吹き荒れた。暴風は僕と弔くんを高く打ち上げ、瓦礫を巻き込みながらその規模を大きくしていく。辛うじて意識が残っているのか弔くんが必死に腕を伸ばすが、いつの間にか弔くんは先生の足元にいて、その腕を先生に踏まれていた。
「……!」
先生の猛攻に、朦朧とする意識の中個性を発動して暴風を打ち消す。幸福にも僕を襲っていた暴風は柔らかな風となって、ふわりと僕を地面に下ろしてくれた。もちろん僕の個性によるものなので、決して先生が手心を加えてくれたとかではない。そうだったらどれだけ楽だったことか。きっと今先生に踏みつけられている弔くんだって、僕の隣で無事でいたに違いない。
「思えば、君たちは負け続けだったね」
先生は弔くんを踏みつけることをやめてその腕を掴み、僕に向かって放り投げた。受け止めながら弔くんの傷を治すと、先生は一度笑ってから続ける。
「久しく『負ける』ということを忘れていたんじゃないのか? なにせ最後が勝った記憶で終わってるんだ。きっと今まで勝者のつもりでいたんだろう……どうだ、思い出せたかい? 伴侶のように長年連れ添ってきた『敗北』の味を」
「……先生。僕たちは一度たりとも負けたことを忘れたことはないよ」
「俺たちはその『敗北』の上に立ってるんだ。忘れようと思っても忘れられないさ」
USJを襲撃した時の敗北、宣伝に成功した保須市での敗北、エリちゃんを仲間にできた死穢八斎會での敗北……思うに、僕たちは『敗北』でこそ成長しているんだと思う。なにせ負け続けてきた人生だ。敗北なんてなんのその。大事なのはその敗北で何を学ぶかだ。僕たちは、いつだって『敗北』の中で何かを掴んできたつもりだ。
「僕が、僕たちが今ここに立ってるのは他でもない『敗北』のおかげだよ。弔くんの言う通り、忘れるなんてとんでもない」
「むしろ、今俺たちは『またか』って思ってるくらいだ。最後の記憶が勝った記憶なんてとんでもない。俺たちの根本は敵で、いつもどこかで負けてるんだ」
「そういえばこの前エリちゃんが部屋に来た時、先に話しかけられた方が勝ちっていう勝負をしたときは僕が勝ったしね」
「エリが膝の上に乗った通算は俺の方が多かったって知った時のお前ときたら、今まで見た中で一番絶望した顔してたな」
「凶夜さん、弔くん!?」
僕たちがボコボコにされてるとき止めようか止めまいかと慌てていたエリちゃんが同じく慌てながら僕たちの名前を呼ぶ。顔が赤くなっているのは、僕たちに愛されていることがわかって嬉しいからだろう。
「ちょっと、気持ち悪い……」
「!!?」
「……」
「弔、凶夜。君たちは愛情が少し行き過ぎているということを自覚した方がいい」
「だってエリちゃん可愛いし……」
「先生。先生は俺たちのことが可愛いだろ? そういうことだ」
「確かに君たちのことは可愛いが、それを自分で言うかな……」
「それが僕たちだから」
開き直り、ゆっくりとエリちゃんの方に歩いて行った。エリちゃんは顔を赤くしたまま固まっており、ゆっくり近づく僕から目を離さずぼーっとしている。まるで、お姫様が王子様を待っているかのような。エリちゃんはお姫さまで間違いないけど、僕が王子様なんていうのは何の冗談だろうか。よくて賊だろう。敵である僕らしい。
「エリちゃん、心配しないで。僕たちは絶対に勝つから。エリちゃんのためなら、なんだってできる気がするんだ」
「凶夜さ、ん!?」
驚くエリちゃんを力いっぱい抱きしめる。まず思ったのは、もうこんなに大きくなったのか、という驚きだった。そして、女の子特有の甘い香りと柔らかさが僕に伝わってきた。当たり前だけど、エリちゃんはもう女の子なんだって嫌でも認識させられた。
「だから、安心して。絶対に勝ってくるから」
「凶夜、さん」
「まぁぁぁああああ!! もう僕たちが勝ったんだけどねぇええええ!!?」
エリちゃんを抱きしめていた腕を離して、高らかに勝利宣言。空気に流されて動かなかったエリちゃんと先生は見事にしてやられたな! そう、これは僕たちのどちらかがエリちゃんを抱きしめれば僕たちの勝ちっていう勝負。つまり今僕たちはエリちゃんに、先生に勝ったんだ!
「やったよ弔くん! これで僕たちの勝ちだ!」
「……あぁ」
喜びを分かち合おうと弔くんを見ると、なぜか額に手を当てて天を仰いでいた。天は見えないけど。なんでそんな「やっちまったな」みたいな仕草をするんだろうか。今僕たちは確かに勝ったのに。弔くんの奥にいる先生も、弔くんと似たような仕草をしている。こうしてみると本当に似てるな、二人とも。
「……凶夜さん」
「ん? なんだいエリちゃん。これで僕たちは授業参観に行ってもいいんだよね?」
「……しらない」
「え? エリちゃん?」
顔を真っ赤に染めたエリちゃんは僕の横を通り過ぎると、綺麗な姿勢のまま速足でエレベーターに乗ってしまった。どうやら上に上がるようなので手を振ってみると、ぷい、と顔を背けられてしまう。え?
「なぁ月無。お前は本当に月無だな」
「え、僕は僕だけど、どうしたの? 弔くん」
「育て方を間違えたか……」
「え、確かに僕は間違って育ったけど、どうしたの? 先生」
どうしたの、と聞いても二人は結局教えてくれず、エリちゃんは僕を無視して。
そんな状態のまま、授業参観当日を迎えた。
覚悟はしていたけど、嫌な時間が、きてしまった。
「エリちゃん! エリちゃーん!」
「おい静かにしろ月無。俺がうっかりお前が邪魔すぎてバラバラにしちまったらどうする」
「僕の命よりエリちゃんの応援の方が大事だ! そんなこともわからないの弔くん? ぷーくすくす。きっと仕事のやりすぎで脳がちっちゃくなっちゃったんだね。え、奥さん、どうしたんですか? あぁ僕の左袖? 弔くんが警告として崩壊させただけなのでお気になさらず」
代表として教壇に立つと、凶夜さんと弔くんがよく見える。凶夜さんは左袖がないけど、二人ともぴっしりとスーツを着込んで髪をセットし、とってもおしゃれにカッコよくキメている。敵連合にいるときはあんなにだらしないのに、外に行くとなるとあんなにもカッコよくなるんだからずるい。
「さ、エリちゃん。どうぞ」
先生が私に感謝の手紙を読めと死刑宣告。あぁ、なんで私はあの日凶夜さんに抱きしめられてしまったんだろう。私から吹っ掛けた勝負なのに、その敗北条件を忘れてしまうなんて。でも仕方ないと思う。あんな空気で、凶夜さんの抱擁を拒否することなんて私にはできなかった。
原稿用紙を見て、凶夜さんと弔くんを見た。凶夜さんはだらしなくでれでれとした笑顔で私に手を振って、弔くんは落ち着いた笑顔で私を励ましてくれる。内心は凶夜さんと一緒だろうけど、態度だけ見るとこうも違うなんて、流石No.1とNo.2。上下が見てわかる。
「……」
二人を見て笑って、私は原稿用紙を裏返して教卓に置いた。先生が心配そうな顔をするのが視界の端で見えるけど、構わない。だって、原稿用紙を読んでも読まなくても、内容に変わりはないんだから。
凶夜さんが私にカメラを向けているのに気が付いた私は、凶夜さんを一睨みしてから、口を開いた。
「──私は、あまりいい生まれではありませんでした。それは、裕福だとか、貧しいだとか、そういうことでなく。個性上不幸を強いられてしまうような、そんな環境で過ごしていました。助けてくれる人もいなくて、楽しいことも、面白いことも、幸せなことも知らなくて。暗い部屋で独りぼっちで。そんな私を救ってくれたのはヒーローではなく、
教室中の視線が、凶夜さんと弔くんに注がれる。凶夜さんはその視線にピースで返し、弔くんは私に微笑んだ。
「私を救ってくれた
私に言ってくれた張本人は、弔くんに「ねぇ、あれ僕のこと?」と聞いている。こういうのって案外本人は覚えていなかったりするんだ。でも、構わない。これは私の大事な記憶だから。
「だから、私ワガママを言ったんです。ヒーローたちの前で、私のヒーローは、その人なんだって。その人は
えへへ、と笑うと凶夜さんの顔がだらしなくゆるんだ。元々だらしなかったのにこれ以上だらしなくなると溶けてなくなるんじゃないかな。そうなっても個性で元に戻せばいいだけだけど。
「その人が連れて行ってくれたところ……『
凶夜さんが泣き始めた。地味に弔くんも涙ぐんでる。泣くの早すぎない?
「スピナーさんは服のセンスがすっっっごく微妙で、とっても不器用で、とっても繊細で、でもとっても優しくて。直接話しかけてはくれなくても、陰でいつも私のことを見守ってくれているいいお兄ちゃんで」
思えばスピナーさんは敵連合の中で一番良識があったかもしれない。常識もあった。そして、努力の人だった。いつも敵連合のために、より良い未来のためにって汗を流してた。小さい頃の私は、そんなスピナーさんが大好きだ。
「コンプレスさんはいつも私にマジックを見せてくれて。ずっと一人でいた私には魔法みたいで。いつも違うマジックをしてくれるんです。それがもう面白くて面白くて。私もいくつか教えてもらってマジックできるんですよ」
ほら、と言って原稿用紙を丸めて握った手の中に入れ、それを開くと原稿用紙はもうそこにはなかった。先生が焦っているのは後で提出しなきゃいけないからだろうけど、大丈夫。種も仕掛けもあるから、なくなってはいない。
コンプレスさんはマジックが好きで、マジックを見せるのが好きだった。私がわかりやすく喜ぶからやってただけなんて言ってたけど、実は私に気を遣ってくれてたんだと思う。少しでも楽しいことを、少しでも面白いことを私に教えるために。私はそんなコンプレスさんが大好きだ。
「黒霧さんは保護者みたいで、ちょっと厳しいけどすごく優しくて。いつも外に連れて行ってくれるのは黒霧さんで、やりすぎたら怒ってくれたのも黒霧さんでした。怒られたことは何回もあったけど、あんなに温かく怒ってくれたのは黒霧さんが初めてでした」
凶夜さんと一緒に外ではしゃぎまわって、黒霧さんに怒られて。はしゃいでる時も楽しかったけど、私は黒霧さんに怒られるのが好きだった。本当に私のことを想ってくれている気がして、とても温かい気持ちになれて。私はそんな黒霧さんが大好きだ。
「荼毘さんはカッコよくて、クールで、でもやっぱり温かくて。私とよく遊んでくれて、炎で絵を描いたり、文字を描いたり、お空に連れて行ってくれたり。一歩間違えれば人を燃やせてしまう個性なのに、とっても優しい使い方をして私と遊んでくれました」
荼毘さんはモテるっていうのがよくわかるくらい優しくて、温かい人だった。そのくせ、私が荼毘さんの炎で喜ぶのを見ると安心したようにほっとするから、今思うと可愛くてずるい。私はそんなカッコよくて可愛い荼毘さんが大好きだ。
「マグ姉はお母さんみたいな感じで、お風呂に入れてもらったり、一緒に寝てもらったり、お話したり。私を敵連合に連れて行ってくれた人も笑っちゃうくらいマグ姉に甘えてて。でも私は二人でマグ姉に甘えてる時が落ち着いて、温かくなって、大好きでした」
マグ姉ほど包容力のある人は見たことがない。みんなからマグ姉と呼ばれているだけある。子どもたちにも人気だし、楽しい人だし。……マグ姉に甘える子どもを見て小さい頃の私を思い出し、恥ずかしくなるのは秘密だ。私は、優しくてお母さんみたいなマグ姉が大好きだ。
「トゥワイスさんは面白くて、いつも私に構ってくれて。タバコのにおいがちょっと嫌だったけど、それを知ったらすぐにタバコを甘い香りのものに変えてくれて。私の頭をぐちゃぐちゃにしたり、ほっぺをこねくり回したり。私が猫だったら近づかなくなるくらいの可愛がりも、私は大好きでした」
凶夜さんがいつか言っていた「親戚のおじさんみたいだね」というのは当時の私はわからなかったけど、今の私ならその通りだと笑って同意する。確かに、あの頃のトゥワイスさんは親戚のおじさんみたいに私を可愛がってくれた。可愛がりすぎていたくらいだ。でも、私はそんな親戚のおじさんみたいなトゥワイスさんが大好きだ。
「ヒミコお姉ちゃんは可愛くて、綺麗で、ちょっと嫉妬しちゃうくらい私を敵連合に連れて行ってくれた人はヒミコお姉ちゃんのことが大好きで。でもそれ以上に私を可愛がってくれて、いつも膝の上に乗せてくれて、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなって、いつも思ってました」
ヒミコお姉ちゃんはいつも私を撫でまわして、「可愛い」と褒めてくれた。ちょっと照れ臭かったけど、私はその優しさと温かさが大好きで、時々混ざろうとする凶夜さんも面白くて。私は、可愛くてお姉ちゃんみたいなヒミコお姉ちゃんが大好きだ。
「ジェントルさんとラブラバさんはいつも一緒で、その姿がちょっと羨ましくて……べ、別に私が誰かとずっと一緒にいたいってわけじゃないんですけど、とにかく仲が良くて。でも私を見ると二人とも笑顔で受け入れてくれて」
優しい顔で「紅茶、飲むかい?」と聞いてくれるジェントルさんと、隣でいそいそと紅茶の準備をするラブラバさんは本当にお似合いで。私もいつか二人みたいに凶夜さんと仲良くなれたらなぁ、って何度も思った。私は、そんな仲良しなジェントルさんとラブラバさんが大好きだ。
「マスキュラーさんは筋肉でブランコ作ってくれたり、行き過ぎた高い高いをしてくれたり、みんながやりすぎだって言うくらいやりすぎた遊びをしてくれましたが、私は敵連合にいっておかしくなってたみたいで。そのおかしすぎる刺激が面白くて」
今の『敵連合』になってからよく顔を合わせるようになったマスキュラーさんは、怖がらない私を気に入ってくれたみたいでよく遊んでくれた。しかもマスキュラーさん自身が遊具になることで。マスキュラーさんがやってきたことを知ってる人からしたらなんて命知らずな、なんて思うだろうけど、私は行き過ぎたマスキュラーさんが大好きだ。
「ステインさんは寡黙で、落ち着いてて、私が近づいてもお話はあまりしてくれないけど、私が落ち込んでるときにそっと近寄って何かあったか聞いてくれるんです。ちょっと不器用だから、励まし方もへたくそですけど、私はそれが嬉しくて、何度も何度もステインさんにお話ししちゃって」
私に何かあったか聞いてくれたくせに、私が泣いたりしちゃうと決まってうろたえていたのが面白くて、笑っちゃって、ステインさんは不機嫌になって。そうなってると凶夜さんが決まって「あー! 先輩がエリちゃんを泣かした!」と乱入してきて。めんどくさそうにステインさんが凶夜さんをあしらって。私は、そんな不器用で優しいステインさんが大好きだ。
「先生は、おじいちゃんみたいで。みんなが忙しい時、いつも相手してくれるのは先生でした。先生の大きな体が、大きな手が私を安心させてくれて。世間からすると悪の帝王、なんて認識ですけど、私からすれば優しいおじいちゃんで」
今回だって、先生は助けてくれた。凶夜さんが予想外な行動をとったから負けちゃったけど、きっと先生はあえて見逃したんだと思う。この状況が必要なことだって思って。私は、おじいちゃんみたいな先生が大好きだ。
「弔くんは……うぅ」
今まで言った人はこの場にいないからなんとか言えたが、流石にこの場にいる人となると恥ずかしい。弔くん珍しくにこにこしながら私を見てるし。ええい!
「弔くんは、ぶっきらぼうで、捻くれてて、むっつりで。でも優しくて、温かくて、私を膝の上に乗せた回数が一番多いなんて自慢するほど私のことが大好きで。年の離れたお兄ちゃんみたいな弔くんは、私が困ってるといつも助けてくれます。いつも難しい顔してるのに、私が話しかけると優しい顔で笑ってくれます」
弔くんが静かに泣き出した。凶夜さんも弔くんの肩に手を置いてしきりに頷いている。男同士仲がよさそうで何よりだ。
「そして、私を敵連合に連れてきてくれた凶夜さんは……」
顔が熱い。なんで私は今教室の後ろで顔をぐちゃぐちゃにして涙を流している人を好きになったんだろう。……いや、そういう人だからこそ好きになったんだ。敵のくせに、優しくて、カッコよくて。そんな凶夜さんだから。
「いつも私の幸せを第一に考えてくれて。ほんとに、自分のことは後回しで。私の笑顔、私の個性、私の幸せ、私、私、私、エリちゃんエリちゃんエリちゃん! どんだけ私のこと好きなのって何回も思いました。今も号泣してるし。……凶夜さんは、底抜けに優しいんです。いつだって人のためで、自分のことは後回しで、一回死にかけたのにそこはまったく変わらなくて。いや、ちょっと自分勝手なところはあるけど……でも、とっても、すごく、温かくて。昔も、今も、これからも」
号泣する凶夜さんを見て、仕方ないなぁなんて思って笑ってしまうのは何でだろうか。きっと弔くん辺りに聞いたら惚れた弱みなんて言ってからかってくるんだろう。
「──凶夜さんは、私にとってのヒーローです。私は、そんな凶夜さんが大好きです」
教室の後ろの方から「ぐぅぅぅうううう!!」という誰かが何かを耐える声、つまり凶夜さんが声を出して泣くのを耐える声が聞こえてくる。弔くんは呆れながら微笑んで、そんな凶夜さんを見守っていた。
「私がここを卒業すると、住む場所も敵連合じゃなくなります。でも、私にとって敵連合で過ごした毎日は大切で、優しくて、楽しくて、温かくて。敵連合があるから今の私がある。前を向いていられる。幸せでいられる。そんな、私がずっと大好きな、居場所。それが」
私の『敵連合』です。そうやってしめると、大きな拍手とともに凶夜さんが大声で泣きながら崩れ落ちた。
……あの様子じゃ、私の告白にも気づいてないかな。肩を竦めて「許してやれ」と目で語る弔くんに、私は仕方ないなぁ、と笑って返した。