天才物理学者と筋肉バカの新世界より   作:alnas

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「天才物理学者である桐生戦兎と、相棒の万丈龍我は石動惣一の好意の元、nascitaで再び生活を始めることとなる」
「なにが始めることとなる、だよ。俺たちいま駒王町に向かってる最中じゃねえかよ」
「いいんだよ! 帰ったらnascitaでの生活始めるんだから。というか、あらすじ説明の前にオチだけ言うんじないよ……」
「あ? あ、ああ。そうだった」
「はあ、じゃあオチわかっちゃったけど、あらすじ紹介続けるぞ。戦兎は自分たちの身に起きたことと、マスターたちを襲った相手の正体から、今回の事件の謎を解く鍵は駒王町、そしてその中にある教会が関係しているという結論に至った」
「だからこうして向かってんだよな」
「あー! 最後まで言わせなさいよ! そして事件解決のため、戦兎と万丈は駒王町へ――」
「戦兎、駒王町着いたぞ。さっさと行こうぜ」
「うそーん!?」
「さあ、このまま行くぜ! どうなる第10話!」


遠回りのチャンス

 俺と万丈は再び駒王町へとやって来たが、町の様子はさっき来たときとやはりなにも変わっていない。

「おい戦兎、教会はあっちじゃなかったか?」

 教会とは反対の方向に行こうとする俺を呼び止めた万丈に答える。

「ああ、それで合ってる。でもまずは、そこ以外も探ろうと思ってな」

「そこ以外? どこがあるってんだよ!」

「それはわからない。けど、いきなり教会に行くってのもなぁ。なにより、俺とおまえの顔はもう敵にバレてるわけだし? それなら、教会が怪しいと思われていない行動をして、後で落ち着いた頃に奇襲するのがいいでしょ」

「はーん? わからねえけど、おまえが言うならそれでいいか」

 納得してくれたらしく、万丈は俺の隣を歩く。

 そう、ここはもう新世界だ。俺と万丈とは違う歴史を歩んできた世界。この世界で味方は現状マスターのみ。もしかしたらが有り得る世界なんだ。

 もちろん、堕天使に逃げられるのは論外だが、町を一周してからでも遅くはないはず。

「確認したいことはふたつ」

「なんだよ」

「この町の人たち全員が実は堕天使で、そうした種族の町があるかどうか。そして、もしそうなら全員がシスターを狙う敵かどうかだ」

「なるほど。だからいきなり戦わないってことか。ならさっさと話聞いてこようぜ!」

 なにを思ったのか、万丈は近くでチラシを配っている女性に向かって走り出した。

「ちょ、バカ……最悪だ」

 素直に聞いて答えてくれるのかよ……だいたい、敵だったら俺たちもう多分顔ばれてるってのに。

「おーい、悪いんだけど、ちょっと聞きたいことがあってよ」

「なんでしょうか? あ、お願い事でもあるんですか? これ、よければどうぞ」

「あ、おう。じゃあもらっとくわ」

 万丈がチラシを受け取る。なんだか怪しいようなそうでもないような、絶妙なラインをいく女性だ。

「あ、それでよ。あんた堕天使ってやつ知ってるか?」

「バカ、おまえ本当に直球で聞くんじゃないよ! すいません、こいつちょっと頭弱くて……」

「あん? なんだよ頭弱いって!」

「筋肉はつけねえからな」

「しかも人の台詞取りやがって! だいたい、おまえが調べたいって言ったんじゃねえかよ! だから俺が聞いてやってんのに!」

 人を人見知りみたいに言うんじゃないよ。

 そんなツッコミを飲み込みつつ、話していた女性の様子を確認する。

 最悪、ここで戦闘か――。

「堕天使、ですか? よくわかりませんけど、漫画でも書いてるんですか? この町で題材が見つかるといいですね」

 ひとつ微笑まれ、チラシを渡してきた女性は去っていった。

 反応はなし、か。

「よくわかんねえけど、関係なさそうだったな」

「みたいだな。いきなり聞かれたのにあの反応ってのは、どう考えても白だろ。それより、そのチラシは?」

「おう、それが変なこと書かれててよ」

 万丈はもらったチラシを渡してくる。

 内容は確かにおかしなものだ。『あなたの願いを叶えます!』という文面と、見たこともない魔法陣が描かれている。魔法陣自体、あまり見たことないけど。

「願い事ねぇ……新世界もできて、みんなが平和に暮らしているいま、願いなんてないしな」

「そりゃそうだ。あ、だったら堕天使について聞いて見るってのはどうだ?」

 なるほど、一理ある。

「って待てよ。こんな紙に願い事を叶える力があるわけないだろ? 怪しいだけだって」

「紙に願うだけならタダじゃねえか。よし、おまえがやらないなら俺が願ってやるよ!」

「またおまえは……せっかくやるなら、ありったけの力で願えよ?」

「おうよ!」

 チラシを握った万丈が目を閉じ、「堕天使について知りたい、堕天使について知りたい……あれ? 他にもなんか知りたいことあったよな、戦兎?」と目を開けた瞬間だった。

 突如としてチラシが光り出す!?

「え? なんだよこれ!?」

「うそーん!?」

 は? ちょ、なんか光りだしたんですけど!?

「どうすんだよ!」

「俺が知るわけないでしょうが! 第一、光らせたのは俺じゃない!」

「あ、こんなときだけ逃げる気かよ!」

 などと遣り取りをしているうちに、光はチラシにあった魔法陣とまったく同じものを作り上げた。

「どうなってんだよこれ……」

「普通に考えたら、悪魔との契約時に用いられる召喚の儀ってところか……?」

 既に事遅いのだろう。今更この魔法陣をどうにかできるとは思わない。

 堕天使の捜索に来たのにこれか。

「万丈」

「なんだよ。言っておくけど、逃がさねえからな」

「逃げねえよ。それより、変身する準備だけはしとけよ」

「――おう」

 俺も万丈もビルドドライバーを腰に巻き、俺は両手にフルボトルを。万丈はグレートクローズドラゴンとフルボトルをそれぞれ構える。

 これでなにも出てこないで終わることはないはずだからな。

 待っていると、魔法陣が一際輝きを増す。

「あなたたちでしょうか、私を呼んだのは」

 これまで魔法陣があった場所には、巫女服らしき服をまとった少女が一人。

「――なんだ、こいつ」

「わけわかんねえ……」

 どれほど凶悪な見た目のモンスターが出てくるのかと思えば、現れたのは女の子。なんだ、この展開は。

 というかどちらさま?

「えっと……」

「誰だ、あんた」

 人が聞きにくいことをストレートに聞いていけるのは流石だな。よし、もうぜんぶ万丈に任せ――ると面倒ごとになりそうだ。どこかで変わってもらうか。

「え? あの、呼ばれたから来たのですが……もしかして、なにも知らない方たちなのでしょうか?」

「あん? 俺はただ、堕天使のことについて知りたいって願っただけだぞ?」

「堕天使!?」

 女の子が明確に狼狽した。これはなにか知っているな。

「あなたたちは、堕天使側の人間なのですか?」

「堕天使側の人間? なに言ってんだ?」

 堕天使側……派閥みたいなものか? 側と言えるからには、それなりに大きな組織が堕天使にはある可能性も浮上してきたな。もう少し情報が取れそうだけど、どうするべきか。

 まずはこの子のことから聞くべきな気もするけど。

「一旦落ち着け、万丈」

 このバカを止めてから聞くしかないか。

「まず初めに、俺たちはこのチラシがなんなのか、キミがどういう存在なのかを知らない。そこから説明してもらえると助かるんだけど?」

「え? あ、はい。私は姫島朱乃と申します。人との契約のために。つまり、あなた方の願いに呼ばれて来た悪魔です。いまのあなた方のような、願いを持つ方たちのためにこうした仕事をしています」

 堕天使に続いて悪魔と来たか。

 悪魔……巫女服着てるけど悪魔か。なるほど、新世界はどうやらだいぶ変わった発想が許された世界みたいだ。

「悪魔っていうのは、堕天使とは関係ないのかな?」

「ありませんわ。ええ、一切ありませんから」

「そ、そうか。ところで、悪魔が願いを聞きに来るってことは、俺たちは相応の対価が必要だったりするのかな?」

「はい、そうなりますね。今日は初回ということで、少しサービスさせていただきますが、どのようなお願いを?」

 長く伸びた艶やかな黒髪を揺らしながら聞いてくるその仕草は、警戒心を緩ませるための動作にも思え、それでいて、世の中の男性であれば、一発で堕ちそうだ。まあ? この天才物理学者にはプロデュースしてきたアイドルがいるので効きませんけど?

「だったら堕天使の情報を貰うしかねえだろ。なあ、戦兎」

 これまた一途な男はまったく彼女を気にしておらずですよ。ああ、ほら女の子の方も「あれ? もしかして全然気にされてない?」みたいな顔しちゃってるじゃないの。

「あ、あの……え? 情報? そんなこと聞かれたことないんですけど、あの……普通男性の方なら撮影会やお悩み相談とか、富や女性を求めたりするんじゃ……」

「いや、別に。いまするべきことがあるし、なにより大事なのは愛と平和だからね。それで、できれば堕天使と神器について聞きたいんだけど、いいかな?」

「――……わかりました。お話致しますわ。ですが、そういうことなら一度移動しましょうか。できれば、あなた方のお話も聞きたいことですし。堕天使のことを知っていて悪魔のことを知らないのは不思議ですからね。よろしければ、ゆっくりお話できる場所に案内しますよ?」

 堕天使を知っていて悪魔を知らないのはおかしいのか。つまり、その辺りは完全に一連の事象として存在しているわけで。これ、なんなら天使がいても不思議じゃないな。エボルトやベルナージュのような存在がいたんだ。今更、変なのがいてもおかしくないか。

「おかしいのは、新世界でここまで謎の存在が多いことぐらいだな」

「おい戦兎、そいつ返事待ってんぞ?」

「え? あ、ああごめん。じゃあ、案内よろしく」

「頼むぜー」

 とりあえず返事だけしておき、俺はまた考えをまとめ始める。

「はあ……男性に呼び出されてここまで相手にされないのは初めてです。自信をなくしそう……」

 

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