「えっと……あ、この台本を読めばいんんですよね、戦兎さん」
「ちょっと待ってアーシア。これ録音してるから、アドリブはともかくいないはずの人を呼ばないで!」
「え? あ、はい、ごめんなさい。続けますね?」
「確認もいらないからね!」
「まあまあ、いいじゃねえか戦兎。1話くらいこんなあらすじ紹介があってもよ、安心しろ、俺とアーシアちゃんでなんとかしてやる」
「はうぅ……すいませんマスターさん。じゃ、じゃあ続けます。その悪魔から堕天使と神器についての話を聞くため、二人は悪魔との取引に応じようと考え始めた」
「ほう、悪魔とねぇ。俺たちが堕天使に襲われた次は悪魔か。これ、悪魔払いが乱入してきたりしなかったわけ?」
「悪魔払いですか? どうなんでしょう?」
「まあ、見てみればわかるか。ほら、アーシアちゃん、決めちゃいな」
「は、はい! どうなる第11話!」
「オッケー! いいぞアーシアちゃん!」
「この回はあらすじ紹介他のやつに代わってもらうか……」
万丈が相変わらずの第六感によって悪魔を召喚してから数十分。
目の前を歩く巫女服の少女は姫島朱乃と名乗り、人目のつかない路地裏を伝いながら目的地へと歩いている最中だ。
この前を歩く女の子だが、最初はイロイロ驚いていたけど、それも束の間。すぐに冷静な様子を見せるとそれ以降は歩くのみで、一言も話しかけてはこない。
「なあ、あいつ悪魔っつったけど、どうすんだ?」
「さあな。いまは話を聞かせてもらうしかないだろ。俺たちの持ってる情報だけじゃなにもかもが足りない」
ついでに言えば、この子は堕天使について確実に知っている。
万丈が最初に堕天使のことを聞いた際の反応からそれはわかっている。
おそらく、彼女から話を聞く際に俺たちについてと、今回の出来事について聞かれるはずだ。万丈にも教えて、これからの話す内容をあらかじめ制限しておかないとな。
「万丈、よく聞いてくれ」
「おう、なんだ?」
小声で話しかけると、万丈も声のボリュームを下げながら聞き返してくる。
「俺たちが新世界を創ったことと、前の世界で起きたことは聞かれても絶対に話すな」
「ん? なんでだよ」
「俺とおまえ、マスター以外は確認のしようがない出来事だからだよ。ついでに、もう実現不可能だろうけど、新世界の創り方がバレてみろ。絶対に面倒なことになる」
「よくわからねえけど、わかった。任せとけって」
「頼むぞ」
パンドラボックスは見つからず、エボルトも存在しないこの世界で、もう一度新世界を創り上げるなんてのは無理な話だ。実現するには足りないものが多すぎる。ジーニアスボトルも機能が完全停止したいま、この世界で起きたことを新世界でやり直すなんてこともできはしない。
それでも、人間よりも強い種が繁栄している可能性がある中で話せる内容じゃない。
実現できなかったとしても、その事実と方法がある限り、人にはない英知を用いて実現される可能性だってゼロじゃないんだ。
「もう、世界を壊す相手はいないんだしな……」
あの日々を戦い抜き、俺に新世界を創らせてくれた彼らは全員、いま笑顔を浮かべている。誰かを助け、ときに助けられ、みんな生きてくれている。
だから、もう一度はいらないんだ。
「さて、着きましたわ。あと少しですから、しっかりついてきてくださいね」
まだ直接話していない、懐かしい面々のことを考えていると、女の子が学園の前で一度立ち止まって声をかけてきた。
「ここって……」
「駒王学園ですわ。貴方がたの話は私の一存では決められそうにないことが予想されるので、この地を管理している方の元まで案内します」
硬い口調でそう言われた。
危険視されているのか、単に初対面時の印象から避けられているのか。それは置いておくとしよう。
「この地を管理って、ここ学校だぞ? 学生が管理してるってのかよ」
「バカ、教師がいるんだからそっちに決まってるだろ。学校で管理と来たら先生でしょうが」
「ああ、そっか、そうだよな」
彼女に連れられ歩いていくと、新しそうな校舎を超えて、古めかしい――旧校舎だと思われる建物まで連れてこられた。
「こちらです」
中に入り、とある一室へと招かれる。
「どうぞ」
扉を開けてくれたので、そのまま俺と万丈は招かれた教室へと入るが、
「なんだこりゃ!?」
俺のぶんまで万丈が声を上げてくれた。
なんというか、独特な部屋だ。
「ここはオカルト研究部ですよ。そちらのソファにかけてお待ちください」
ここまで俺たちを案内してくれた少女が部屋から出て消えていく。
オカルト研究部……どうりで、部屋の床や壁、天井に至るまで見たこともない文字が書き込まれているわけだ。それに、もっとも目を惹くのは部屋の中央に設置された魔法陣らしきもの。
悪魔と名乗るだけあるな。
「不気味な部屋だな」
「バカ正直に言うんじゃねえよ。もっとオブラートに包みなさいよ」
「じゃあなんて言うんだよ!」
「それはあれだよ……いまどきの学生が好みそうな部屋ですね、とかあるでしょ」
「最近の学生のことなんて知らねえだろ? おっさんがなに言ってんだよ」
「天才物理学者ですー」
軽口を叩き合いながらも、万丈の視線は鋭い。
部屋に入ってからずっと周りを警戒している程に。
「当然か」
連れてきてくれたからと言って、素直に相手をしてもらえるとは限らない。ここでいきなり「死んでもらう!」と襲われてもなんら不思議はない。
エボルトのときのように、相手が自信家で必ず倒せる自信があって招かれた可能性も捨てきれない。
「誰も居ねえな」
「みたいだな。待つしかない、か」
「なあ、やっぱり悪魔ってことはエボルトやスマッシュみたいに変な格好の奴がくんのか?」
万丈の中では既にイメージが固まっていそうだが、そうとも限らない。
「いや、どうだろうな? 俺とおまえが会った堕天使は人と変わらない姿をしてただろ」
「翼は生えてたけどな」
「まあな。でも、あれが堕天使本来の姿なら、人の姿でも不思議じゃない」
「でもよ、逆にすんげえ格好しててもおかしくねえだろ」
「……確かにな。どうせ姿は見れるだろうし、どんなのが現れても冷静でいよう」
待つ間は特にやることもなく、突然の事態に備える時間が過ぎる。
だが、廊下から聞こえてくるいくつもの足音に、俺と万丈は態勢を整える。
「お待たせしてしまってごめんなさい。私はリアス・グレモリー。貴方たちが、朱乃の連れてきた人たちね?」
どんな物騒な相手が入ってくるかと思えば、入ってきたのはこれまた先ほどの女の子と大差ない学生だった。
紅髪の少女。
ああ、でもわかる。この子からは俺たちに対する敵意が感じられない。
「だいじょうぶそう、だな……」
万丈も察したのか、構えを解いてソファに深く座り込んだ。
「フフッ、警戒させてしまったかしら? ごめんなさいね。なんだか重要そうな話だったから、それなりに準備をしてから聞いた方がいいと思って」
「……いや、だいじょうぶ。それで、俺たちの話は聞いてもらえると思っていいのかな?」
「ええ、もちろんよ。堕天使の話と、神器についてよね? できれば、なにが起きたのかを詳しく聞かせてもらいたいのだけれど――と、その前に。みんな、入ってきてちょうだい」
開いていた扉の外から、ぞろぞろと目の前の少女と同じように学生服を着た子たちが何人か入ってくる。
「彼女たちはみんな、私の仲間なの。今回の話を聞いてもらうために集まってもらったのだけど、このままいさせてもらってもいいかしら? 彼らは神器に関して説明するためにもいてもらった方がいいと思うのだけれど」
そう言って紹介されたのは、男子生徒が二人。
金髪の爽やかな雰囲気の少年と、茶髪の熱そうな少年。茶髪くんはシスターと会ったときに見かけたな。
「初めまして。木場祐斗です」
「兵藤一誠です!」
金色が木場祐斗で、茶色が兵藤一誠か。
神器に関しての説明で必要らしいけど、ほんとなんなんだろうな。とりあえず、必要なら問題ないか?
「わかった。説明してもらうのは俺たちだしな。キミたちも、よろしく頼むよ」
ひとつ頭を下げた二人は、紅の少女の後ろに控えるように下がった。
その二人は万丈のことをチラチラと見ながら、
「あれ、格闘家の万丈選手だよな?」
「みたいだね。まさかこんなところにくるなんて……それにほら、試合中のときのような目の鋭さだよ」
「かっこいいよなぁ。でもなんで俺たちのところに?」
「それはわからないけど、あの強さの秘訣はちょっと聞いてみたいね」
「部長との話が終わったら話しかけてみようぜ」
なんて会話を小声でしていた。
まあ、この世界のではないけど本人だし? ちょっと話し相手になってあげるぶんには問題ない――バカだし発言がなぁ。いや、だいじょうぶかな。なんなら新世界の万丈よりも格段に強いはずだし。
なんて隣の相棒のことを心配していると、異様な視線を感じたので視線を少し横にズラす。
すると、白髪の小柄な少女と目が合った。心なしか、その目が輝いているようにも見える。なんだ?
「えっと……」
「――佐藤太郎」
「え?」
この子はいま、なんて言った? サトウタロウ? 佐藤太郎!?
違う、俺は桐生戦兎でって言ってもこの顔ばかりはなぁ。ああ、もうなんで新世界の佐藤太郎はちょっとした人気者なんだよ!
「えっと、だな」
「ツナ義ーズの曲、いつも新曲が出るのを楽しみにしてます」
無表情ながらも表情には輝きがある。
これは……この無垢な子の心を守らないといけないのか!? そうだ、万丈!
「おう、やってやれよ、佐藤太郎」
万丈ォォォォォッ!!? なにそこで満足そうに頷いてんだよ!
目の前には純粋な目を向ける少女。隣にはバカ。ついでに白髪の子のせいで「お、有名人?」やら「やっぱり佐藤太郎!」なんて声が聞こえて来る。
くそ、最悪だ……。
俺の中にある佐藤太郎のイメージって、あれだけなんだよな。あれを、やるのか……。
「…………」
無言ながらもなにかを期待する目が俺に突き刺さる。
「最っ悪だ」
ソファから立ち上がり、少し離れたところで立ち止まる。彼女たちに背を向けたまま、意を決してあのポーズを取る!
大きく背中を反り返らせた、あのバカ丸出しのポーズを!
「夜は焼肉っしょぉ! フッフゥウウウウウウウウウウッ!!」
やけくそだったのか、自分でもよくわからないハイテンションのまま聞いた限りの彼の台詞を再現した。
「佐藤太郎!」
白髪の子は目が輝き、楽しそうな声が漏れた。
ここまで案内してくれた子は信じられないようなモノを見る目で、隣にいる男子組は一人は笑い、もう一人は「アハハ……」と反応に困っていた。
くっ、つらい……けど白髪の子の夢は守れたからいい…………。
「ふっ、ふふふ……ごめんなさい、貴方最高だわ! 日本は本当に楽しいわね。ええ、いいわ。貴方たちの依頼、私が受けるわ」
紅の子は気に入ってくれたみたいだ。明らかにリーダーらしい彼女が気に入ってくれたなら、恥をかいた甲斐もあるかもな。
俺は気を取り直し、ソファに座る。
「おまえ、やっぱバカだろ」
「うるさいよ。おまえの一言がなければなんとかなったかもしれないってのに。――それより、万丈」
「なんだよ」
これからおこなうのは悪魔との取引。これまでの雰囲気から危険があるとは思えないが、やっぱり不安は捨てきれない。
「万丈、悪魔と相乗りする勇気、おまえにあるか?」
だから、こいつに聞かずにはいられない。
「んだよ、今更だっての」
「なに?」
「俺がこれまで一緒にいた相手は、仮にも悪魔の科学者だぜ? 悪魔と相乗りする勇気? そんなもん、とっくの昔から持ってるっつーの」
「――――そうかよ」
なら、問題ない。そうだな、こいつはそういう奴だった。
「この依頼、受けてくれてありがとう。それじゃあ、まずは俺たちの話を聞いてもらった方がいいかな?」
俺は目の前に座る紅の少女に話しかける。
「ええ、そうね。では、話を聞かせてもらいましょうか」