「そんな中、マジ最強! な相棒の万丈龍我の活躍によって神父を撃破したビルドチーム」
「おまえね、なに変身しないで倒してくれちゃってんのさ。俺の大・変身が台無しでしょうが。前回のあらすじ紹介でもあれだけ変身について触れてきたのに、変身しただけで見せ場終わっちゃったじゃないの」
「でもよ、変身したんだからいいんじゃねーか?」
「よくないでしょ!? みんなが見たいのはかっこいい変身をする俺と、その戦闘シーンでしょうよ。なんで筋肉バカの戦闘シーンを見せられなきゃいけないのって話ですよ」
「はあ?! おまえこれよく見てみろよ!」
「はい、このシーンは早送りっと!」
「え? ああっ!」
「さて、バカは放っておいて、地下へと進む悪魔チームと地上に残ったビルドチーム」
「悪魔チームが向かう先には、彼らでは敵わないある人物が待ち受けている。この人物は赤龍帝である兵藤一誠に関わりのある人物で――おっと、先まで読み過ぎましたね。この先はまだ、皆さんには未来の話、でしたね」
「「誰!?」」
「我が魔王の話と間違ったあらすじ紹介に来てしまったようだ。私は私の役目を果たさなければ。では、失礼するよ」
「好き勝手言って行きやがった!?」
「なんなんだよこれ……」
よく、わからなかった。
テレビでよく見る万丈選手や、たまに話題に上がるけれど興味のなかった佐藤太郎。そんな人たちが部長に会いに来て、しかも堕天使の話を聞きたいだなんて、思いもよらなかった。
俺――兵藤一誠には、なにひとつ理解できなかった……。
万丈選手が来たときは、もしかしてこれまで試合に勝ってきたのは悪魔との契約のせいか、なんて邪推しちゃったけど、それは絶対にないって、いまなら言い切れる。
きっかけは、あの会話。
でも、俺にはどうしたってわからなかった言葉。
わけがわからない。
『誰かを助けることで見返りを期待したら、それを正義とは言わねえぞ』
……わからない。
誰かが救われたなら、それだけで正義だと思っていた。その後になにか美味しい目に遭えるなら、それで誰かを救えたなら、それでも正義だって思っていた。悪いやつさえ倒せたのなら、それが正義だと疑っていなかった。
けれど、それを今日出会ったあの二人は否定した。
夢はそのままでもいい。だけど、正義のヒーローになるには、そのままじゃダメ……?
「わかるわけないじゃないか」
だいたい、こうやって堕天使と戦うことになったのだってあの二人が来たからだし、俺の意思じゃない。なのに俺は、こんな危険なところに来ちまってるわけで。さっきだって、やばそうな神父がいたし、こうして地下に向かってるいまだって――。
「いや、こんなんじゃダメだ!」
「兵藤くん? どうしたんだい」
イケメンなのに俺にも気を遣ってくれる木場が声をかけてくる。イケメンなのに、どうして俺にも優しいんだろう?
小猫ちゃんは無言だが、その目は俺を見ていた。
そんな二人にまで気を使わせちまってるんだな……。
「悪い、二人とも。俺、ちょっと勘違いしてた」
あの二人のせいにしてなんになるってんだよ。堕天使と戦わないといけないのは、あの人たちだけじゃない。俺だって、例外じゃないんだ。だからきっと、いつかはこうなっていたはず。それを人のせいにするのは、らしくないよな。
こうして一緒にいてくれる仲間にも申し訳ない!
でも――。
「俺は正直、まだ戦うのが怖い。みんなみたいに普通に戦うなんて、たぶんできない」
一度死んで、もう一度は死にかけた。そんな相手に、今度は自分から挑もうっていうんだ。
怖くないわけがない。こんな短期間で克服できるほど俺は自分が強くないって知ってるから。だから、もしかしたら単に、理由が欲しかっただけなのかもしれない。
八つ当たりができる場所を求めていたのかもしれない。
間違った道を、選ぶところだったのかもしれない。
「うん、わかってる。だからキミの隣には僕がいる。小猫ちゃんもついている」
「……先輩は弱いですからね。少しだけ、力を貸してあげます」
それでも、みんながいれば、無理に戦う理由を得なくたっていいって思える。みんなは無理になにかを押し付けるわけじゃなく、俺の話を聞いてくれるし、必要なこともは教えてくれる。
「戦う理由を人に委ねたり、もらうなんて違うよな。よしっ!」
頬をひとつ叩くと、甲高い音が辺りに響く。って、しまった!? 俺たちが近づいてきてるのバレちまう!
「やべっ……」
「ふふっ、問題ないよ。どうせ、僕たちが近くまで来てることは筒抜けだろうから」
「そ、そう? ならいい……のかな」
「もちろん、問題ないよ。それで、吹っ切れたのかい?」
「おうよ! これは俺の戦い。俺の、俺とレイナーレの決着をつけるための戦いだ。俺がやる気出さなきゃ、どうにもなんないよな!」
でなきゃ、前線に出る意味がない。
「そうかな。なら僕たちは、キミが戦いやすい場所を作るとしようか」
「はい。先輩、頑張ってください」
「おう! ありがとう、二人とも!」
怖いのはなにも変わっていないけれど、それでもきっと。
まだ、あの人たちの言葉の意味はわからない。それでもいまはこれでいいと思えるんだ。
不安はあるけれど、だいじょうぶ。
「よし、行こうぜ!」
そうして俺たちは、聖堂の地下へと足を踏み入れた――。
おかしい。
なんか、悪魔成り立ての俺でもわかるくらいに、地下の雰囲気が変だ。
「なあ、木場。これ、どうなってんだ?」
「わからない。でも、異常だとは思うよ。はぐれ悪魔祓いはおろか、堕天使すらいないなんて……いや、気配を掴めないだけなのかな?」
「……いえ、少し前までは何人もの人がいたはずです。匂いも残ってますが、なによりあれです」
まだ、俺たちが突入してすぐのことだ。
俺の大声で察知されたんだとしても、誰もいないってのはまずないと思う。なにより、小猫ちゃんが指差した先には、人の衣類が散らばっている。
「なんだよ、これ」
「血痕もあるね……破壊痕もないし、仲間割れってわけでもなさそうだけどこうも人影がないのは不気味だね」
「だよなぁ……どうする? 部長に報告しに戻るか?」
「それがいいかもしれないね。あまりここにいる意味もなさそうだし、まずは部長たちと合流して、改めて調査した方が良さそうだ」
「です」
俺としても、長い時間ここにはいたくなかったし、木場と小猫ちゃんが賛成してくれたことに安堵しながら来た道を引き返そうとしたときだった。
「あら、もう帰るの?」
冷たい声が地下に響き渡った。
「――ッ!?」
背中に悪寒が走り、直感に任せたままに前に倒れこむ。他の二人は視界の端に捉えた程度にしか確認できなかったけど、左右に転がるようにわかれていった。
直後。
俺たちの頭のあった位置をなにかが高速で通り過ぎていった!?
同時に、これまで地下を照らしていた明かりがすべて破壊され、辺りが真っ暗になる。
「な、なんだ!? なにが起きたんだよ!」
「慌てないで、兵藤くん! まずは態勢を立て直すんだ! 小猫ちゃん、いまの攻撃をしてきた場所はわかるかい?」
木場に言われるままに、まずは立ち上がってなにかが飛んできた方向を睨む。
「方角はわかります。けど、位置が掴めません」
「くそっ、悪魔って夜目効くんじゃないのかよ!」
「それでもわからない相手みたいだね……これは、もしかしたらちょっとまずいかな?」
そう呟いた木場に向かって、光の槍が飛んでいく。
「くっ!? これは堕天使の!」
木場は剣で防ぐが、光の槍の威力が高かったのか、後方へと飛ばされていく。
「これは、思ったより強敵かな」
ダメージはないようで無事に着地するけど、マジかよ! あの木場が簡単に押されるなんて!
しかも、相手は堕天使? だとしたらレイナーレか? それともあのときのおっさんみたいに、あいつの仲間? いったいどうなってんだよ!
「あら、防ぐのね。そう……ならこれよ!」
再び女性の声が響く。
周りに音が反響して、後から何度も声が耳に届く。これじゃあ、他の音に集中できねえ!
「うわぁっ!?」
今度は俺ですか!? 同時に放たれた3本の槍のうち2本を躱し、残りの一本を籠手で受ける!
「ぐぅぅっ! ラァッ!」
少しだけ耐えられたけど、最後は後方に飛ばないと無理だった……光の槍は近くにあるだけで嫌な感じがするし、いまのも、槍に弾かれることで辛うじて避けれたってのが大きい。受ける角度が違っていたら、そのまま貫かれていたかもしれない……。
そんな中、木場が持ち前のスピードを活かして俺の横まで走ってくる。
「兵藤くん、ここは僕が時間を稼ぐから、部長と朱乃さんを連れてきてもらえないかな?」
「おま、相手がどんな奴かもわからないのに仲間を置いていけるかよ!」
どこから来るかもわからない攻撃に何度も対処できるのかよ……俺も籠手で受けたけど、正直なところ次は防げる気がしない。
小猫ちゃんは『戦車』の特性で平気かもしれないけど、女の子に攻撃が当たる瞬間なんて見たくない!
「兵藤くん、早く行くんだ。小猫ちゃん、キミも兵藤くんと一緒に!」
「……嫌です、私も残ります」
「小猫ちゃん……」
木場の目が語っている。レイナーレにだって負けないと思える程の木場が、そう言っている。俺になにができる? ここで残るより、部長と朱乃さんを呼んできた方がいいに決まってる。けど、その間に二人がやられたら? だったら、上にいる万丈選手を連れてくるか? 部長たちよりは早くに連れてこれるはずだ。
「兵藤くん、はやく行くんだ!」
木場が俺を見たその一瞬のことだった。
奥の物陰から、赤い目がこっちを見ているのに気付いたのは。既に新たな光の槍を用意していたそいつは、迷うことなく、木場へと光の槍を投げつけた!
気づけていない木場に、まだ俺たちとの距離がある小猫ちゃんにも同時に放たれてる。
「くっそぉぉぉぉっ!!」
俺を気にしたからだ! 俺が、この中で一番弱いから!
考えるより早く、体は行動していた。
籠手を前にして構え、木場の前へと躍り出る。
こんな俺でもできること、それは!
左手が熱くて仕方ないけど、そんなのは関係ない。さっきの攻撃を防いだ際に痛めたのかどうかなんてどうだっていい! ここでやらなきゃいけないことがあるんだよ!
この想いに応えやがれ、神器!!
「俺の仲間、やらせるかよ!」
眼前に、幾本もの光の槍が迫り、そして――――。
万丈が殴り倒してしまった白髪神父くんだが、埋もれちまった瓦礫から万丈が救出。瓦礫に埋もれたってのに、奇跡的にそれによる怪我は大したことなさそうで、殴られた怪我が一番酷そうだった。
まあ、バカなりに手加減もしたんだろう。気絶しただけで、あとは強打程度で済んでることだろう。
「どうする、俺たちも地下に行くか?」
白髪神父くんが無事だったことに一安心した万丈が、彼を縛ってから聞いてくる。
「行くしかないだろうな。親玉がいるのは地下みたいだし? もう終わってるのか、それとも続いているのかはわからないけど、どうなったかの確認も必要でしょうよ」
「よし、なら行くか! おい、急ぐぜ戦兎!」
「はいはい。というか、おまえが変身しないで倒しちゃったせいで、せっかくの俺の変身が台無しなんですけど! どうしてくれんだよこれ」
「いいじゃねえかよ! 無事に終わったんだし! そっちの方が大事だろ?」
「それはそうなんだけど……納得いかないんですけどー」
まあ、いいか。被害なしってのが一番の成果なわけだし。
こうして俺と万丈も、遅れながら地下への道を進み始める。
残していった神父の目が赤く輝いたことを知らないままに――――。