「新年だぜ、新年!」
「新世界初の年明けだな。思えば色々なことがあった一年だったけど、俺たちも心機一転、この世界の住人として生きて行くことができそうだな」
「おう! そういや戦兎、これもう録音始まってるんじゃねえか?」
「え!? うそーん! っても、新年だしそういうの抜きでいいんじゃないの?」
「テキトーかよ。いいのか?」
「いいの、いいの。去年は俺たち大、大、大活躍したんだし、世界の危機も何度か救っただろ? 新年くらいゆっくりしようぜ」
「そっか。そうだな。じゃあ、本編いくか〜」
「一気にダルけすぎかよ」
本当なら、ベストマッチで戦いたいところだけど、現実はそう甘くもない。
でも、苦いだけが現実じゃないことはもう知っている。
「仮面ライダービルド。ライオンタンクフォーム、ってね? 以後、お見知りおきを」
葛城巧の口上だけど、まあ借りてもいいだろ。
本当は、ここでビシッとベストマッチで決めたい感じはあるけど、多種多様な戦闘スタイルを取れるのがビルドの強みなので、そこはご愛嬌!
「もうおまえの攻撃は通じない!」
「いや、初めから通じてなかったよな?」
堕天使に聞こえるように言ってみたが、後ろにいた万丈からツッコミが入る。
確かにこいつは最初から攻撃なんて効いてなかったし? もちろん、万丈よりも強くてかっこいいこの天っ才物理学者であり仮面ライダービルドの俺にも一切、一切効いてなかったけど?
「それでも言わないといけないときがあるでしょうが! ここで姿変わって威圧感出した上で相手より格上ってことを分からせれば、もしかしたら戦わなくて済んだかもしれないのになんで余計なこと言うわけ!」
「お? おお、なるほどな!」
「なるほどじゃねぇよ……ほら、見ろよあのお姉さん。おまえのツッコミのせいでありえないくらいの怒り顔浮かべてるじゃねえか」
いまどき見てわかるくらい青筋立てて顔真っ赤にして怒るとかいう明確なまでの怒りは見たことないぞ。そもそもストレスを溜め込みすぎなんじゃないですかね。いや、そんなこと言ってる場合でもないのか。
「俺のせいかよ! おまえだって失礼なこと言って相手のこと下に見たばかりだろ!?」
「いーや! あの顔はおまえの心無いツッコミのないだね!」
間違いなく、彼女が怒っているのは万丈のせいだ。
「あんたたち二人ともに決まってるでしょうが! さっきから何度も何度もバカにしてぇぇぇぇぇぇっっ!!」
ここまで攻撃してこなかった堕天使が、まさかの怒号を上げて急降下してくる。
「ほら見ろ、やっぱりおまえじゃねえかよ」
ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべながら俺に指を向ける万丈。
「人のこと指差すんじゃないっての。っていうか、あれおまえのことも言ってるからな?」
俺に向けられた万丈の手を降ろさせながら、迫ってくる堕天使に対して備える。
「ハッ、今更なにをしても無駄よ!」
いいや、無駄なんかじゃないさ。ときに無駄と思ってしまっても、諦めなければ勝機は絶対に掴める! というよりも、ごめん。高速程度なら多分、もう慣れが先行しちゃって捉えられるみたいだ。
「よっと!」
それなりの速度で迫ってくる堕天使に、即座に右腕を突き出す。
右腕からはボトルの力が出力され、エネルギーとなって射出され、見事にそこに突っ込んだ堕天使を後方へと吹き飛ばした。
「久々に使ったけど、一発の威力は結構あるもんだな」
とはいえ、ベストマッチじゃない以上、これ以上は望めないし、エネルギーの循環もできない。
「でもまあ、充分かな」
いくら相手もフルボトルを使っていると言っても、経験は俺の方が上だ。ついでに言えば、まず間違いなく、ハザードレベルも、な。
俺たちの世界のレベルでの話なら、負ける要素はないんだが……なぜかフルボトルを持っていたような存在だ。決して油断はできない。
「どうなったんですか……?」
いまだ逃げようとしない祐斗が訪ねてくるが、
「わからない。動きはないみたいだが」
地下でも立ち上がってきたからな。いままた、先ほどのように悠然と立ち上がって襲いかかってきてもおかしくはない。
けれど、立ち上がってこないなら都合がいい。
「いまのうちに退くぞ。一誠はまだだいじょうぶだな?」
「は、はい!」
「呼吸は安定しています。緊張が切れただけだと思います」
一安心か。
ライオンフルボトルの力を使って吹き飛ばしたのが時間稼ぎ的にも良かったかもな。
「よし、行くぞ!」
俺は変身を解くことなく、先頭を万丈が、その後を一誠を背負った祐斗、小猫と続き、最後に俺が後方を確認しながら進む。
やっぱり最後のあれが効いたのか?
「……追って来ませんね」
祐斗が振り返り、声をかけてくる。
「追ってこないならいいさ。おまえたちだって結構きついだろ?」
「それは……」
「無理しなくていい。それに、俺たちは負けてない。これは戦略的一時撤退だ」
「長えよ! もっと簡単に言えっての!」
バカが叫ぶけど知ったことじゃない。というか覚えなさいよ、これくらい。
「それにしても、その姿はいったいなんなんですか?」
小猫が小さな声を発する。
その姿――ライオンタンクのことを言っているんだろうな。
赤と青のラビットタンクから途端に色もフォルムも変わったんだ。疑問に思うのが普通だろう。若干、目が輝いているのは、この子の趣味趣向が関係しているんだろうけど、いい趣味してるな。
「ビルドはこのドライバーに入れるボトルによってフォームが変わるんだ。で、さっきまでのが基本のラビットタンク。いまはラビットを差し替えて、ライオンタンクフォームかな」
「多種多様なフォームチェンジ!」
「お、わかる?」
「わかります」
こくこく、と何度も頷いて理解を示してくれる。
「最っ高だろ?」
「最高です」
うん、やっぱりよくわかってる。
こういった理解者って前の世界でもいなかったから貴重なんだよなぁ。美空も最初は正義のヒーローって喜んでくれてたのに、フォームチェンジや強化形態にそこまで興味はなかったし。
美空の場合は、ビルドそのものの存在に強い意味があったのはわかってるから、仕方ないけどな。そういう意味では、ビルドの最高の理解者はあいつなのかもしれない。
「俺たちで創ったビルド、か……」
もしこの新世界で、マスターのように記憶が戻るようなことが起きたとき、この世界で平和に暮らしているあいつはなにを思うんだろうか。前の世界と違い、平和の中にいる美空は、耐えられるのか?
いや、過程の話に意味はないか。そもそも、記憶が蘇る確率はあまりに低い。大丈夫、だよな。
「おい戦兎、小猫! ぼさっとしてないで行くぞ!」
「ん? おう、あんまり先走って迷子になんなよ!」
祐斗を連れて先を歩く万丈の足取りは軽く、みんなを気にかけてはいるものの、体力の差なのか、思慮の深さの差なのかはさておき、だいぶ歩みが早いのだ。
小猫は歩幅狭いし、祐斗は一誠を背負っているうえに怪我や疲労もある。現状だって、俺たちがいるものの、周囲を警戒していることから気の休まる暇もないだろう。
「ここは俺がしっかりしてやらないとな」
ライオンなら遠距離でもなんとか対応できるし、念のため出しておくか。
左手に形成される、ブレードモードのドリルクラッシャー。こいつには何度も世話になったな。エボルトとの最終決戦は言わずもがな、最初期から俺を支えてくれた。
「これで近距離もオッケー、と」
正直、これ以上あの堕天使の女性が立ち上がってくるとは思えなかったが……。それでも、警戒を怠ることなくリアスたちがいるはずの方向へと向かっていく。
背負われている一誠の意識が戻る気配はなく、もしかしたら話に聞いたアーシアの力なら治るのかもしれないが、ないもの強請りに過ぎない。
そんな中、
「おい、あいつらいたぞ!」
先頭を行く万丈からリアスたちを発見した知らせが入る。
これで祐斗たちも一息つけそうだな。
「あら、龍我。思ったより早かったわね。そっちは事が済んだのかしら?」
カラスの羽らしきものを2枚持つ朱乃を控えさせながら、リアスが万丈に声をかける。
「いや、まだだ。それよりも、こいつらを頼む」
「こいつら? っ、イッセー!? この怪我……堕天使レイナーレの仕業かしら」
「あー……そういやそんな名前だったっけ?」
堕天使レイナーレ。
俺と万丈、そしてリアスたち悪魔が追っている女性堕天使だな。万丈には少し難しかったみたいだけど、それで合っている。
「祐斗、イッセーを連れてきてくれてありがとう。この子は私が治療するわ。それで、その……」
イッセーの側に寄るリアスが、こちらに注目する。
「小猫の隣にいるのは誰かしら? 変わった姿をしているようだけれど」
「ん? 俺か?」
「その声……もしかして戦兎なの?」
お、俺ってわかるのか。やっぱり人を導くリーダーなだけあって、声はもちろん、容姿や特技に癖なんかもすぐ覚えるんだろうな。把握は大事だし、当然か。
「おう、俺だ。桐生戦兎だ」
「やっぱりそうなのね。へぇ……いいわね、その格好。かっこいいじゃない、戦兎」
リアスは笑みをひとつ浮かべると、興味深そうに腕や複眼を触り始めた。
「この感じ、前にどこかで……なんだか不思議な力ね。私たちの知ってる力とは違うのかしら? それとも、人間の手が加えられた新しい術式なの?」
悪魔なだけあって、知識には貪欲なのかね? それとも小猫のように感性に働きかけるものがあるのか。まあ、どちらにしろ受け入れられているなら十分なんだけど。
「部長、一誠くんはどうしますの?」
「……ごめんなさい、朱乃。みんな、一度旧校舎に戻りましょう。まずはイッセーの安全の確保をしないといけないわ。それで、堕天使レイナーレは倒せたの?」
「わかりません。戦兎さんが迎撃してくれましたが、倒せたのかどうかは……」
「そう……良くて中級堕天使のはずなのに祐斗に小猫まで退ける相手だったなんて予想外ね。やっぱり一度体勢を立て直すわ。戦兎と龍我がいるから、私たち用の移動手段は使えない。全員で急いでここを出るわよ!」
横にされた一誠を介護しながら朱乃がリアスを呼び戻すと、彼女たちは撤退の用意をしていく。
再び一誠を背負う祐斗は、前後を朱乃と小猫に守られながら走り出す。
「貴方たちも急いで!」
楽観視せず、考えられる最悪を想定して動く。リーダーとしての資格も十分だな、本当に。
「行くぞ、万丈」
「おう。あいつらを守りきって、そんで次はあいつを倒す!」
倒せてない前提かよ。
とは言え、恐らくそれは正しい。俺が一撃叩き込んだ際の感触からしても、あくまで時間稼ぎにしかならない気がするんだよなぁ。いや、でもあの程度ならあれでも脅威になっているはず、だよな?
『あら、もう帰るのかしら?』
なんて思ったせいか。
咄嗟に握っていたドリルクラッシャーを振り抜くと、光の槍を数本まとめて弾き飛ばした! 備えあれば憂いなしってね。
「さて、俺の天才的推測が当たっちまったわけにるんだが」
顔を上げれば、夜空に浮かぶ赤い目が、俺たちを捉えて歪に歪む。
どういう訳か、先ほどまでの姿と違い腕や脚に外装が取り付けられ、その外装は黒く鈍い光を放っている。これまでと異なる、明らかなパワーアップってことか。
『もう負けないわ。私は更なる高みに昇りつめたのよ? あんたたちには到底達することのできない、遥かなる高みにねぇ!』
三度現れた堕天使相手に、祐斗がいち早く動くが、
「くっ……まだ動けたのか! 小猫ちゃん、兵藤くんを頼むよ。部長、みんな、ここは僕が食い止めます! だからその間に撤退をしてくださ――」
「バカ野郎」
「何様だこの野郎」
右から万丈、左から俺の拳が彼の頭を叩く。
「――いたっ!? 敵が目の前にいる中でなにをするんですか!」
「おまえこそなにやってんだよ」
万丈が今度は軽く祐斗の頭を小突く。そして、続きを促すように俺を見る。そこまで言ったなら自分で言いなさいよ。言うけどさ。
「悪いけど、犠牲を強いる戦いは嫌いなんだ。まして、自分から犠牲になる奴の姿なんて、仲間は見たくないんだよ」
「だったら、だったらこの状態でどうしろって……」
「頼れよ。ここには俺も、万丈もいる。頼っていい奴がいるなら頼れ。なんでもかんでも自分でやろうとするのは強さじゃない。それは身勝手な弱さだ」
「そんなの、わかるわけがない……」
「そうか。なら、いずれわかるときがくる」
祐斗の肩をひとつ叩き、朱乃に彼を預ける。
「あの――」
彼女はなにかを言いたそうにするが、俺と万丈は共に並び、前へと進む。
「ここは俺たちに任せろ」
「おまえらは隠れてろよ。ここからは、俺たちのステージだ!」
拳を鳴らし、やる気を見せる相棒につられ、ラビットフルボトルを取り出す。いまの相手に対して決めるなら、ベストマッチにしないと効かないだろうな。
『覚醒!』
『グレートクローズドラゴン!』
既にドライバーにセットされていたグレートクローズドラゴンにボトルが差し込まれる。
『ラビット!』『タンク!』
『ベストマッチ!』
俺もライオンフルボトルからラビットフルボトルへとフルボトルを変更する。
『『Are you ready?』』
「変身!」
「ビルドアップ!」
変身は即座に完了し、
『ウェイクアップ クローズ! ゲット グレートドラゴン! イエーイ!』
『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イエーイ!』
グレートクローズとラビットタンクフォームが立ち並んだ。
奇しくもと言うべきか、当然と言うべきか。堕天使と出会ったときとまったく同じ構図が出来上がった。
だが、ひとつ違うことがあるとすれば。
「万丈、あいつの強化が気がかりだが、これで決めるぞ!」
「おう! いまの俺は、負ける気がしねぇ!」
「勝利の法則は――決まった!」
同時にドライバーのレバーを再度回し、レイナーレへと駆ける。
『『Ready Go!』』
俺は左脚で空中へと跳躍し、レイナーレをも超えて上空に到達すると、エネルギーがグラフを模した滑走路になり、レイナーレへと一直線に伸びる。
万丈は右脚に蒼いエネルギーを纏い、
「誰か、俺を空まで飛ばしてくれ!」
まさかの人頼みである。たしかに、空中にいる相手には届きにくいけどさ……なんて思えば、小猫が万丈を堕天使に向けて投げ飛ばした。
それに合わせて、空中で体勢を整えた万丈は、
『グレートドラゴニックフィニッシュ!』
堕天使に必殺の一撃を叩き込む。その一撃に外装は悲鳴をあげたのか、ヒビが入り、欠片が舞っていった。
さあ、最後はこれで決まりだ!
『ボルテックフィニッシュ!』
俺も続くように滑走路を沿っていき、その先にいる堕天使へとライダーキックを放つ。
万丈の攻撃に加え俺の一撃も彼女を貫き、外装は完全に破壊され、一切の抵抗も許さずに堕天使は地に堕ちていく。
「と、セーフ!」
のだが、地面に激突する間際に万丈が彼女を受け止めるのだった。
それと同時に、俺たちの見知った物が彼女の身体から弾き出される。
――ライトフルボトル。
着地してすぐに拾い上げたそれは、やはり見間違うことがない。俺たちの世界に存在していたフルボトルそのものだった。
「ん……ここ、は――……?」
強化された外装がダメージを吸収してくれたのか、堕天使本人はすぐに目を覚ました。
万丈のことだから、彼女も助けるのは想定の範疇であり、俺もそれが悪いとは思わない。話を聞いて、理解しあうことだってあるしな。
それはそれとして。問題は山積みなことに変わりはない。
さあ、真相を解き明かす時間だ。
新年です。
感想読めてますが返せてなくてすいません。次の更新までにすべてに返答できたらと。みなさんありがとうございます、書く気力になってます!
なんとか映画も観に行けました。ただ一言、仮面ライダーが好きでよかった。
あ、今年も宜しくお願いします。