「あ? 前から着てんのになに言ってんだよ? なあ、戦兎」
「ばっか、おまえ! いいか、ここは新世界なんだぞ? 今の美空はごく普通の女の子なんだよ。みーたんじゃないの。わかるか?」
「あっ、そうか。そうだよな」
「ちょっとあんたたち! なにコソコソ話してるの!」
「「なんでもないです!」」
「本当に? あんまり隠し事ばかりしてると……刻むよ?」
「なあ、あいつ本当は記憶あるんじゃねえか?」
「いや、俺もちょっとわからなくなってきた。あれどう見ても俺たちのよく知ってる美空だぞ」
「でもなぁ……」
「まあ、いいか。そんな美空の秘密には迫らない第19話」
「はっじまるよー!」
「おま、こんなとこだけ持っていきやがって!」
ビルドとクローズのライダーキックを受けた堕天使レイナーレは、その身からライトフルボトルを排出。
当の彼女は状況がわかっていないのか、辺りを見渡し、そして自分を抱えている万丈を見て、黄色い声を上げていた。
「それにしても、やっぱりどう見てもフルボトルだよな?」
拾ったフルボトルを確認してみるが、やはりライトフルボトルで間違いない。
俺と万丈の各ボトルが存在している以上、他の何十本ものフルボトルが新世界に残っている可能性は確かにあった。けれど、まさか堕天使に使われているなんてな。
こうなってくると、悪魔側にも使っている奴がいるのかもな……けど、祐斗はフルボトルを知らなかった。あれは演技じゃなく、本当に知らない顔だった。とすると、リアスたちは白だな。
「おーい、戦兎! どうする? こいつなんにも覚えてないみたいだぞ!」
とりあえず確保したフルボトルをしまうと、万丈が堕天使を抱えてやって来た。
「あの、ここは……というかこの状況はいったい……」
鋭い殺気を放っていた先ほどまでとうって変わって、おどおどとした、悪い言い方をすれば強い者に怯える小動物のような態度を見せる堕天使。
「いや待て、違いすぎるだろ」
「だろ? 滅茶苦茶怪しいぜ、こいつ!」
と言いつつも、既に戦う気はないのだろう。万丈は普段のバカっぽさが滲み出てるし、彼女を敵と認識していない節が見受けられる。
「怪しいのは賛成だが、少なくとも戦う意思は俺たちにも彼女にもない。なら、戦いは終わりだよ」
「まあ、そうなるよな。悪い、降ろすぞ」
俺たちは頷きあい、万丈は堕天使――レイナーレを地面に降ろす。
ビルドドライバーに挿入されていたボトルを抜き取り、ドライバーから機械音が鳴ると、俺たちの変身が解けた。
「終わったな」
「おう、俺たちの勝ちだな!」
勝ったには勝った。けど、今回の一件を企てていたはずのレイナーレからはなんの情報も得られそうにないとなると、これは問題だな。
教会の中をくまなく回ったとして、なにかが見つかるとも――いや、ここでなにかをしていた以上、設備くらいは見つかるかもしれない。
「万丈、おまえはそいつを見ててくれ。俺は教会の中を探ってくる」
「ん? おう、任せとけ」
快諾してくれた万丈を置いて、俺は教会の中に――
「待ってください!」
――といったところで待ったがかかった。
「勝手に話を進められても困ります。まずは堕天使レイナーレの処遇についてを」
「悪いな、そいつはなにも覚えてないってよ。聞くだけ無駄だ。というわけで、俺はこの一件について調べるために教会内を探索して来るから」
朱乃の言いたいこともわかるが、得られるものがないことに時間をかけるのは間違っている。それに、朱乃たちのリーダーであるリアスは話のわかるタイプだと思う。だから、きっとレイナーレの話をまともに聞いてくれるだろう。
それなら、あとはもしものための万丈を置いていけば心配はない。
と、ここまで計算したところでの行動だ。
「リアス、少し外すけど、すぐに戻る。この場は万丈にも任せてあるから、いいか?」
「はあ……本当ならレイナーレはすぐにでも消すべきなのだけれど。いいわ、彼女の様子もおかしいし、貴方たちの本来の目的はここの捜索だったものね。いってらっしゃい、戦兎」
話した内容を覚えてくれていたのか、簡単に許可された。
悪魔と一概にいっても、想像していたのと実際に会うのとじゃ随分印象が変わるものだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ええ。私たちはその間にイッセーの傷を治しておくわ」
「ああ、頼んだ」
万丈やリアスたちに背を向け、出てきたばかりの教会内へと足を踏み入れる。
後方で「凄え、傷が治ってるじゃねえか! すげえ、どうなってんだよ!?」なんてバカっぽい声が聞こえてきたが、誰のものかなんて問うまでもない。
さて、俺は一人、教会内の探索と行きますか。
と意気込んで入ったものの、さっき見た場所が急に変化しているわけもなく、既に見た景色が続く。
「白髪の姿もないし、やっぱりうまく逃げたか。万丈の拳を受けてこうも逃げれるとなると、なんか神器でも持ってたのか? それとも、見た目人間なだけで、悪魔や堕天使のような異形だったのか……確証も持てないし、こっちは後回しだな」
地下も異常なし。
精々が、前から置かれていたと見れる装飾品や嗜好品の品々があるだけ。
少なからず武器の類もあったが、そのほとんどが人間が使うことを前提に考えられている武器ばかりだ。
「実験に関係のあるものはない、か……」
ここが根城のようだし、アーシアをどうにかする予定だったなら、そのための設備があるはずと考えていたんだけどな。もしかして、ここは中継地的な扱いだったのか? この地でアーシアを手に入れたらすぐに撤退する予定だったと考えれば辻褄は合う、のか?
ダメだな。前後関係が把握できていないせいで情報が足りない。
「けど、伏兵もなし、敵のリーダーの撃破となれば、これ以上は事も起きなそうだな。この一件はここまでか」
目立った物もないし、嘘か本当か事の記憶がない堕天使のリーダー。
この状況で事の進展を図れる程、俺は探偵や刑事脳してるわけじゃない。だったら天体物理学者の閃きで――といきたいところだが、異形に対しての知識が浅すぎるな。
俺一人では、思った以上にわからないことが多いみたいだ。
「仕方ない、戻るか」
ファウストのような実験施設があるのかと思っていたが、そんなものは影も形もなかった。
明らかに拠点ですって雰囲気だったし、普通の組織はこんなものなのか? ファウストが、ひいてはエボルトが用心深かっただけで、世間一般から見た悪役ってのは俺が思っている以上に杜撰なのかもしれない。
欲を言えば、他のフルボトルがあったりしないかといった個人的な部分もあったんだけど、それも期待はできないな。
思えば、レイナーレがフルボトルがどういった物かを理解して使っていたかも怪しい。それ以前に、自身でフルボトルを発見したかも……嫌な予感がするな。
仮に、レイナーレにフルボトルを渡した相手がいたとしたらどうだ?
暗躍している他勢力。もしくは堕天使、か?
「そうなってくると、レイナーレは利用されただけの可能性が高い。少なくとも、今夜の戦闘は流してやるか」
記憶ない時点で、元々そのつもりだったんだが、これで理由ができちまったな。
教会内と、念のためみんながいる方向と逆の外の様子も確認してきたが、予想通り、収穫はなし。
で、戻ってきてみれば。
「い、いやよ! いやったらいや! どうして私が知らないことで殺されないといけないのよ!!」
「おいおい、あんまり物騒な話すんなよ。こいつだって記憶ないんだからよ」
「けどね……言いたくはないのだけれど、恐らく堕天使側は今回の事を貴女の独断と切り捨てると思うわ。そうなると、悪魔側の処置として消される可能性が……」
「い・や・よ!!!」
「どうしようかしら…………あら、戦兎。捜索はもういいの?」
ぎゃーぎゃーと騒ぎながらも、しがみついて決して万丈から離れないレイナーレに、警戒してか、その周りを囲む祐斗たち。その様子を冷静に眺めながら話すリアス。
「ああ、まあ収穫はなしだけどな。で、予想はついたけど、これは?」
唯一声をかけてくれたリアスに尋ねると、彼女も頭を痛そうにしながら、事の経過を話してくれた。
なんでも、レイナーレに今回の一件の話を聞いていたところ、とある聖女の神器を抜き取り自分の物とする、という彼女の目的までは話してくれたそうだが、その後の記憶が曖昧らしい。
そればかりか、彼女は最後には聖女――つまりアーシアを犠牲にするやり方を否定したんだとか。
だが、その後は気づけば万丈に助けられていた。
で、ここで問題になったのが今回の落とし所ってわけだ。
「レイナーレは覚えのない罪を問われ、悪魔側は断罪するしかなく、堕天使側は動かず、ね……それじゃあこうなるのも無理はない」
「そうなのよね……個人としては、イッセーの気持ちも汲んであげたいのだけれど」
「とは言え、彼女は利用されていた可能性が高い。聖女を犠牲にする方法を否定した奴が、一誠を殺しに来ると思うか?」
「それは――……そうよね。けれど、仮にレイナーレが誰かに操られていたとして、その相手の目的が見えないわ。聖女の神器を欲していたなら、こんな面倒な手段は取らないはず。それにイッセーを殺す理由がないわ」
どこまでが仕組まれたことで、どこまでか当初の計画なんだ? 第一、この推測が間違っていたなら、すべてが瓦解する。そうなれば法則は成り立たない。
「難しいな。まるでパズルのような……いや、待てよ」
この感じ、前にもどこかで。
それにこのところどころ隙があるようでいて、隠すべきことのなさそうなオープンさ。まるで実験でも行っているかのような――。
「実験……?」
「戦兎? 実験ってなんのこと?」
「そうだ、実験だ! これは実験なんだ。フルボトルや記憶、他人を操るための!」
だとすれば納得がいく。
目的なんて、最初からなんでも良かったんだ。ただ、付け込む隙さえあればそれでよかった。
「あれ? ばれちゃいました? そうでござんす、ぜぇんぶ、実験だったんですよ。弱い上司さまについていくのは大変だったけど、おかげでいい計測結果が取れましたっと。いやー感謝だね? 感激だねぇ」
俺たちの会話に混ざるような気軽さで割り込んできた、ひとつの声。
「おまえは!」
レイナーレに向けていた剣を即座に声のした方向へと向ける祐斗。
小猫も声で誰か把握できたのか、拳を構える。
リアスと朱乃は、そんな二人の様子から声の主が敵だと判断したみたいだ。
「ああ! おまえ逃げたんじゃなかったのかよ!」
万丈は突如現れた男に指差しながら叫ぶ。
いや、それにしても驚いた。
「万丈に殴られて、もう動けるなんてな」
「んー……そこは俺様も予想外ですよ! まっさかただの人間の拳があそこまで効くとは想定外! でもまあ? 俺様そんじょそこいらの人と違って強いですから。この通り、ピンピンしております!」
話し方にまったく一貫性のない調子で続けるのは、俺たちが教会に踏み込んで最初に出会った白髪神父だ。
力を隠していた、とは思えないが、この短時間でここまでの回復を可能とはーー神器ならできるのか?
それなら納得がいく。
「なんのために出てきた? このまま逃げることだってできたはずだ」
俺の問いに、考えるそぶりを見せた白髪神父は、懐を漁りながら答える。
「逃げてもよかったんだがねぇ……でも、念のための口封じは常識っしょ!」
ふざけた言葉遣いのまま、いきなり光弾が放たれる!
その狙いは、
「レイナーレか!」
「おらぁっ!」
俺の言葉と、万丈の叫びが重なる。
白髪神父から放たれた光弾は俺の真横を過ぎて、闇の中へと消えていった。
「って、危ねえだろ」
まったく。筋肉バカと違って、天才物理学者の俺の体は繊細なんだから。
とはいえ、結果オーライか。
「いきなり何しやがる!」
光弾を容易く弾いた万丈が、レイナーレの前に立つ。
「ほっほー? やっぱりおたく、規格外すぎるっしょ? いまのは俺様でも当たれば大怪我だってのに……チッ、失敗したんで撤退ですわ! ってことで、ばいちゃ~。そのくそ上司はあんたらにプレゼントってねー」
「あっ、待てこの野郎!」
逃げ足は早いらしく、不利と悟った瞬間には行動に移していた。
これは無理だな。
「なんだったのかしら……」
「さあな。わかったのは、レイナーレが消されかけたことだけだ。保険のつもりだろうが、それでもレイナーレの記憶が戻ることを恐れたか?」
だがあの逃げっぷりだ。仮に戻ったとしても支障はないか、決して戻らないか。
「はあ……なんか疲れたな。それで、レイナーレはどうするんだ?」
リアスに問いかけるが、しかし。
「なあ、狙われてて行き場がねえなら、nascitaに連れてけばいいんじゃねえか?」
それより早く、万丈が提案してくる。
有りか?
「駒王町に置いておくのは政治的に良くなく、むしろ断罪するしかない。けれどレイナーレを消すのは思惑通り進むようできな臭い。だったら、外でひっそり生きててもらうのが最善のように思えるけど、どうだ?」
瞑目して考え込むリアスだが、何度か俺たちに視線を向け、その度に瞑目を繰り返す。
そうしたことが何度か繰り返されたのち、彼女は大きなため息をついた。
「いいわ。消すのは得策じゃなさそうだし、思っていたより大きなことが起きていそうだもの。ここは貴方たちを信じるわ。ただし! なにかわかったら私たちにも教えてちょうだい。その代わり、この先、私たちからも望む情報を出来る限り渡してあげる。どうかしら?」
リアスが手をこちらに伸ばす。
「乗った!」
その掌を軽く叩くと、彼女も笑みを浮かべる。
「良かったわ。レイナーレはしばらくお願いするわ。時期を見て、私たちも会いに行くから。そのときは、イッセーと話させてみようと思うの」
「そうだな。まだ、あいつの中では決着がついてないだろうし」
「ええ。ーーさて、今夜はここまでにしましょう。本当は送っていきたいのだけれど、イッセーの容態もあるし……大丈夫かしら?」
「気にしなくていい。それより、イッセーと……祐斗のことも気にかけてやってくれ」
「……? ええ、わかったわ。朱乃、お願い」
地面に魔方陣が展開していき、その中に悪魔のみんなが入っていく。
「今日はありがとう。また、いつでも来てちょうだい」
「仮面ライダービルド、かっこよかったです」
「……お二人の言葉、少し、考えてみます」
イッセーを見ていた朱乃が最後に手を振り、その直後、彼女たちの姿はなくなっていた。
「帰ったのか?」
「だろうな。俺らも帰るぞ」
「おー! って、待てよ。また三人だぞ! バイクに乗れないじゃねーか!」
その心配かよ……。
「あら、私は飛べるのだけれど?」
「あ? ああっ! そうか!」
「なに忘れてんだよ……レイナーレ、俺たちについてくる形で飛んでくれ。悪いな、本当は堕天使のところに返してやりたいけど」
「わかってるわ。帰っても、向こうで消される可能性が高い……なら、こっちで生きる方がマシよ」
それ以上は語らず、空へと舞っていく。
「……行くか」
「おう」
俺たちもマシンビルダーに乗り込み、深夜の町を走り抜ける。
「変わった奴らだったなー」
「そうだな。今日だけで世界が一変したみたいだ」
「新世界作ったやつがなに言ってんだよ」
そういやそうだった……。
「にしても」
「なんだよ?」
こいつは本当に決まらないな。
「なあ、万丈」
「だからなんだよ!」
「ズボンのチャック全開だぞ」
「え!? うそ、いつから?」
「アーシアと会う前から」
「そんな前から!? どうして言ってくれねえんだよ!」
「人様の前でどうやって言うんだよ、このバカ」
「俺たちしかないときだってあったじゃねえか! しかもバカって言いやがったな、おい! 筋肉つけろ!」
「だあーっ、このバカ! 運転してる最中に暴れるんじゃねえ!」
ちょっとした騒動もあったが、俺と万丈、そしてレイナーレはnascitaへと帰ってきた。
「今さらだけど、いいのかしら?」
「気にすんな。ここのマスターならきっと受け入れてくれるさ」
ひとまず、事情はメールで送っておいたし、なんとかなるだろ。返信みてないけど。
慣れた扉を開けると、そこには珈琲を入れていたマスターの姿。
俺たちを視界に納めると、口許を緩めて笑みを浮かべる。
「おかえり」
「……ただいま」
たぶん、つられたんだと思う。
いまの俺は、きっと笑顔を浮かべているんだろうな。