「なあ、そのなんでも天才ってつけるのやめねえのか?」
「はあ? 仕方ないでしょうが。物理学者であろうと、教師であろうと天っ才なのは変えられないんだから。おまえがなにやっても筋肉バカなのと同じだよ」
「ふーん……って、誰がバカだよ!」
「筋肉つけてやったんだから我慢しろよ。特大サービスなんだし?」
「お、そ、そうか? しょうがねえな。今日のところはいいってことにしてやるよ!」
「なんで若干嬉しそうなんでしょうか? あれ、完全に悪口ですよね?」
「夏海ちゃん、ストップ。それ以上はダメだって。口喧嘩が再発しちゃうから」
「いやいや、というか、呑気に話してるけど、誰ですか?」
「あ、俺はね」
「ユウスケ、ストップ! それは、第23話で説明します!」
「おい、戦兎! 俺の用務員合格の話ってどうなったんだよ!」
「落ち着けって。それは前回で受かったでしょうが」
「あ、そっか」
ラーメン屋、駒王学園と思わぬ出会いがあったが、無事に就職先も決定し、俺と万丈は気分良くnascitaへと帰ってきた。
「……そうか、帰ってきたのか」
「なに扉の前で止まってんだよ。さっさと入れよ」
「あ、ああ」
こいつに感傷に浸る時間とかないのだろうか? いや、あるまい。
でも、俺もいつまでもってわけにはいかないからな。気楽に、くらいがちょうどいいのかもな。
「ただいまー」
「やったぜマスター!」
あの頃と同じようにnascitaに入ると、
「あ、おかえりなさい。戦兎さん、龍我さん!」
「あら、帰ってきたのね」
「おう、おかえりー」
「おかえり、二人とも」
アーシア、レイナーレが駆け寄ってきて、珈琲をいれているマスターと、料理を運んでいる美空からもあいさつが帰ってきた。
しかし、マスターも美空も動いてたってことは、客がいたのか。
当時と今だと店の人気具合が違うからなぁ。前のノリで入るとまずいかもな。絶対に客から変な目で見られる。
「いや〜悪いね。あいつらここに住んでる仲間でさ。あまり気にしないでやってよ」
そんな目をしていた二人の客に陽気な声をかけるマスター。彼のおかげか、俺と万丈に向けられた目はすぐに逸らされた。
「いえ、こちらこそすいませんでした」
「そうだな。いまのは俺たちも悪かったよ」
と思いきや、普通に謝罪の言葉まで貰ってしまった。なんだ、この優しさの塊みたいな人たち。
「いや、営業中に家に帰るノリで入ってきた俺たちが悪い」
「まあ、なんでもいいじゃねえか。マスター、俺腹減ったー」
「自由すぎんだろ……あ、マスター、俺も珈琲」
「おまえら自由すぎるんじゃねえかぁ?」
マスターが文句を言いつつも食材を取り出しているので、万丈のためになにか作るのだろう。
この人も大概だな。
「それにしても、客以外の人が多いんだな、この喫茶店」
「そうみたいですね。あ、見てくださいユウスケ! このパンケーキかわいいですよ!」
「え? あ、本当だ! 良かったね、夏海ちゃん!」
恋人……じゃないな。そんな雰囲気には見えない二人組は、パンケーキについてで盛り上がっていた。
「あれ? nascitaにパンケーキなんてあったっけ?」
「最近できたんだよ。アーシアちゃんとレイナーレちゃんに振舞ってから、人気メニューになるって推されてな。で、そのパンケーキ初注文の二人ってわけだ」
なるほど。つまり俺たちが面接に行っている間にできた新メニューってことか。
喫茶店ならあるのが当然って思う人もいるだろうし、いい傾向なのかもな。とはいえ、いまならその気さえあれば、美空にアーシア、レイナーレでの客引きもできそうだけどな。
もっとも? やらせるつもりなんてないんですけど。レイナーレなんて他の堕天使に見つかったらどうなることやらって具合だし。
「んで? 面接はどうだったんだよ? 特に万丈」
「あーそれ気になる!」
マスターが聞いてくると、美空も食いついてきた。
しかも、真っ先に万丈にだ。
「あ? 受かったに決まってるじゃねえか!」
「「うそぉ!?」」
おーおー、二人して驚いてるよ。
でも、美空はいいとしても、マスターは確かに驚くよな。エボルトを介してとはいえ、俺たちを見てたんだから万丈のバカさも知っているはずだ。
「おい本当かよ戦兎! どうやったんだ? あの万丈が受かるなんて!」
「あー……」
「大金か!? 大金積んだのか!」
「待った、俺たちにそんな金はない!」
貧乏生活してた俺たちにそんな余裕あるわけないでしょうが。そもそも、駒王学園にいる悪魔って金になびくのか? いや、なびきそうにないな。雰囲気からしても金持ちっぽかったし、土地の管理を任されているんだからいいところの出なのは間違いない。
「というか、万丈が受かったのは用務員だぞ」
「は?」
「……え?」
マスターと美空が口を開けながら、万丈を見る。
「おう、用務員になった!」
そんな二人に自信満々に答える万丈。
「なんだ、教師じゃねえのかよ〜。でも安心したぜ万丈! それでこそおまえだ!」
「おう、ありがとな!」
「純粋ー……おい戦兎、おまえの相棒皮肉が効かないんですけど〜?」
まあ、万丈だし。筋肉バカに皮肉言っても理解しないで額面通り受け取りますし?
「凄いです、龍我さん!」
「バカにしてはよく受かったわね。その……おめでとう」
「おう、おまえらもありがとよ!」
更に純粋なアーシアなんかは普通に嬉しそうだから、この話はこれで終わりでいいだろう。万丈はともかく、あの子たちが笑っているなら余計なことは言わなくていい。
「ふふっ、楽しい場所ですね」
「なーんか既視感あるけどね、この感じ」
どうやら、客の二人からしても、それほど悪い光景ではないらしい。なんだか大事なものを見るような目をされているが、彼らの感性に響くものがあったんだな。
「で、聞くまでもないけどおまえは?」
万丈が美少女に囲まれている中、マスターが俺に聞いてくる。
「当然、受かったよ。いつからかは聞いてないけど、万丈の用務員の件も含めて連絡くれるってさ。あと、駒王学園は悪魔の経営する学校で決まりだ」
「そうか。良かったな。んで、天才様の推理通りってか?」
「まあね。でも、あいつらは大丈夫そうだよ。今度、機会を見てnascitaに招待してみるから、そのときに話してみてよ」
「了解。おまえと万丈がいいって言うなら大丈夫だろうよ」
「ほんっと、お人好しだよ……」
だからこそ、エボルトにも抗い続けることができたんだろうな。
で、時折俺たちを眺めては美味しそうにパンケーキを頬張っていた二人組はと言うと、俺たちの話がひと段落したのを感じたのか、自分たちの会話にと戻っていた。
しかし、珍しい人たちだな。少なくとも、新世界のnascitaでは初めて来た人たちのはずだ。
俺と万丈もそれなりに足を運んでいたが、そのときには1度として会っていない。
「ん? どうかした?」
そうして見ていたせいか、「ゆうすけ」と呼ばれていた男性に声をかけられてしまった。
「ああ、いや。なんでもないんだ。気にしないでくれ」
「そう? あ、それならついでってことで聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」
「ちょっと人を探しててさ。背の高い、首からカメラを提げた超偉そうな男を見たりしてないかな?」
なんだ、その性格破綻者らしい説明。
断言できるが、絶対にいいやつじゃないな。
「見てないな。俺たち、今日は駒王町に行っていてな。悪いが、この辺りにはいなかったんだ」
「駒王町?」
男性だけでなく、その隣で話を聞いていた女性まで会話に入ってきた。
「あの、私たちも駒王町にいて、そこで見失ったんです」
「そうなのか? あー、でもなぁ。俺と万丈が入ったのなんてラーメン屋と駒王学園くらいだし……キミたちの言う人は見てないな。ごめん」
「い、いえいえ! いいんです! 勝手にいなくなる士くんが悪いんですから」
「まあ、まあ夏海ちゃん。あいつが勝手に動くのはいつものことだって」
「それは――そうですけど。一緒に旅してるんですから、たまには色々話してくれたり、一緒に来てくれてもいいと思います……」
どうやら苦労しているようだ。
俺も万丈にはいつも苦労させられているしな。
彼らも、もしかしたら大事な仲間を持っているのかもしれないな。俺たちとは違うだろうけど、人にとって大事なものがあるのは、誰しも変わらないことだ。
白衣を纏い、首からカメラを提げた男が、その格好に似つかわしくない森の中を進んでいく。
「この世界も、俺に撮られたくないようだな」
時折、カメラのシャッターを切りながら、男は呟く。
森の中は静かなもので、男の発する音以外はなんの音も響かない。
「こんなんだったら、ナツミカンとユウスケも連れてくるべきだったか? ――いや、どうやらその必要はないらしいな」
彼――門矢士の眼前に突如として現れる、黒い鎧に包まれた禍々しい異形。その視線は、既に士を捉えている。
「迷い人か? ここに来るとは運がない。この先はあのお方の研究施設があるのでな」
「そっちから教えてくれるとは気前がいいな」
その様子をどこか面倒なようであり、しかし楽しそうに見据える。
「ったく、天才物理学者ってのは肉体労働が基本らしい。いいぜ、相手になってやる。ついでに聞きたいこともあるからな」
ディケイドライバーを装着し、ドライバーのサイドハンドルを引くと、中央のバックルが回転し、カードの挿入部が露出する。
「この世界も、来て早々手荒い歓迎だな!」
ライドブッカーに収納された多くのカードから1枚のカードを取り出す。
「そんなおもちゃでなにができる?」
その一連の様子を眺めていた鎧に包まれた異形が、バカにしながら鼻を鳴らす。
挑発とも取れる動きに、士は反応することなく、深い笑みを浮かべた。
「だったら試してみろ――変身」
取り出してあったライダーカードをバックルに差し込み、サイドハンドルを元に戻す。
『KAMEN RIDE』
『DECADE』
すると、戦兎たちが使用するビルドドライバーのように、音声が流れる。
士を囲むように幾重にも現れた色のない偶像が、彼を起点に重なっていき、やがてマゼンタへと色をつける。
「姿が変わった……貴様、神器の保有者だったのか。面白い、少し遊んでやろう!」
「神器? それはなんだ?」
「異な事を……自ら使っていながら、隠し通せると思っているのか!」
なにもない空間から現れた黒剣を握り、士の変身した姿――仮面ライダーディケイドへと駆ける異形の鎧騎士。
大きく横に振るった剣は、しかし。
甲高い音を立てながら、振るった半ばで止まることになる。
「情緒不安定な奴だな。おい、もう少し詳しい話を聞かせろ」
「貴様……ッ!」
展開したライドブッカーから伸びる剣によって攻撃を阻まれた鎧騎士へと、戦闘中にも関わらず質問をする。
しばしの硬直の後、敵が答える気がないと悟ったディケイドは、鎧騎士のがら空きの腹へと蹴り入れ距離を取る。
「神器……それはこの世界固有のものか? それとも、ビルドの世界では俺たち仮面ライダーのバックルをそう呼んでいるのか……この不安定な世界と言い、少し妙だな」
「なにをごちゃごちゃと!」
「気にするな。もう、おまえには関係のないことだ」
いくつもの世界を渡った。
何人ものライダーを、何体もの怪人を相手にしてきた。
それを今更、たかが異形の一人が立ちはだかったところで、それは壁でもなんでもなく。
「終わりだ」
剣を収納したライドブッカーから、再びカードを取り出すディケイド。
そのカードを迷わずディケイドライバーに投入する。
『FINAL ATTACKRAIDE』
『DE・DE・DE・DECADE』
音声が流れると共に、離れた位置にいるディケイドと鎧騎士の間の空間を埋めるように、カードがずらりと並ぶ。
「な、なんだこれは!」
「ナツミカンとユウスケと喫茶店に行く用事を思い出した。急いでるんでな、さっさと退きな!」
言うだけ言い残し、ディケイドが上空へと飛び上がり、跳び蹴りの体勢に入る。つられるようにして、ディケイド側のカードから順に、追随して斜めに一直線へと軌道を変えていく。
「勝手か貴様! くっ、おのれ!」
並ぶおかしなカードに違和感を覚えた鎧騎士が即座にこの場からの退却を始めるが、カードは依然、鎧騎士を捉えて逃がさない。
「なん、なんなのだ! くそ、くそぉっ!!」
横に、上に、斜めに、あらゆる方向に逃げても追いつかれる恐怖に、しだいに鎧騎士の精神が悲鳴をあげる。
「ぐっ、なんなのだ貴様は! その神器は、その姿は文献にもなかった! なんなのだそれはぁぁぁぁぁぁああっっ!!!」
最後の抵抗か、耐えきれなくなった感情の発露か。
鎧騎士は最後の最後で、己の拳を前に突き出す。
だが、その抵抗を嘲笑うかのように、カードの中を通り抜けてきたディケイドの蹴りが重厚な鎧ごと騎士の体を貫く。
「おの、れ……」
ディケイドの着地と共に敵の姿は崩れ去り、鎧騎士のいた場所には、ひとつの小さなボトルが残る。
落ちていたボトルを、変身を解いた士が拾い上げて掲げる。
「こいつは……カメラ、か?」
しばしボトルを眺めていたが、それを懐に仕舞い込むと、最後にシャッターを一度切り、また歩みを進める。
「俺にカメラとは、わかってるじゃないか。さて、先に進むのもいいが、それはあいつらもいるときにするか」
どこか機嫌の良さそうな彼は、今度こそ町の方へと向かい始め、その足は、彼の旅の仲間の元へと向かう――。
推しと推しを絡める。
いいことですね。そしてタイトルは普段から適当なので噛み合っていようといまいと構わない。
なんか話の1/3くらいを持って行かれた気もしますが、気のせいでしょう。というか登場率的には1/2程もってかれてるのでは? いいえ、これも気のせいでしょう。
なんとなくですが、アギト×絶対可憐チルドレンいけるのでは? と思い始めた今日の昼下がりでした。