「なあ、こうやってまともな職に就くの久しぶりじゃねえか?」
「はあ? 俺は天才物理学者として、東都先端物質学研究所でパンドラボックスの解析してましたー」
「いや、でもよ……おまえの職場やばかったじゃねえか。上司は撃たれるし、同僚は消えるしで崩壊してたんだろ?」
「それは……それだよ」
「いや、どれだよ! やっぱりまともな職場じゃなかったんじゃねえか!」
「それ言い出したら、今回だって悪魔の経営してる学園だぞ。絶対になにかあるはずだ。リアスたちのことは信じていいと思うけど、おまえも小さなことも見落とさずに見とけよ」
「話逸らしやがって!」
「ということで、無事に新生活を開始する桐生戦兎と万丈龍我の前に、ある人物が通りすがり始める!」
「なあ、俺のところには誰も来てねえぞ?」
「…………どうなる、第24話!」
「おい、俺の質問に答えろよ戦兎!」
――一通り騒いだ客が帰った、身内だけとなったnascitaの店内。
先日来た男女の二人組には独特な雰囲気があったけど、最後まで関係性がわからなかったな。仲良いのは確かだったけど……っと、人様の関係を探るのは良くないな。
悪魔や堕天使と出会ってから、周りの人を観察するようになっちまった。
そんな日から一週間が経ち、俺と万丈は正式に駒王学園に起用されることが決まった。
「スーツって慣れないんだよなぁ」
「いいじゃねえか。ずっとパッとしない服装してたんだ。たまにはビシッと決めてこいよ!」
「お父さんかよ」
「歳的にはギリギリセーフかねぇ」
マスターがおちゃらけた声で答えるが、どうにも浮かべた笑みが消えることはない。
「戦兎を養子にか……どう思う、戦兎?」
「真面目に考えることかよ。それに、んな関係を作らなくても、俺はここにいるんだしさ。それだけで十分だよ」
「……だろうな。よし、じゃあ行って来い!」
「りょーかい。いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
そうして、俺はnascitaから外に出る。
出た先には、先に準備を終えていた万丈の姿。こいつも今日だけはスーツを着用しており、明日からは私服での行動となる。
前の世界での変装が役に立っているのか、ある程度の服装なら着こなせているな。よし、これでこいつもスーツでも問題なしだ。
「おう、遅かったな」
「ちょっとな」
「ふーん? そっか」
「少しくらい興味持ちなさいよ。さあ、行くか」
マシンビルダーの隣で座り込んでいた万丈も立ち上がったので、そろそろ向かうことにしよう。なんせ、今日から生徒たちとの授業の日々がスタートするからな。
「戦兎が先生やってる間、俺は駒王学園のいろいろなことをやるんだよな?」
「だろうな。精々、その無駄にある体力を有効に使えよ」
軽口を叩きながら、徐々に駒王学園が見えてくる。
まだ早い時間だと思ったが、ちらほらと登校中の生徒が目に映った。
「部活動かねぇ。若いっていいな」
「俺らも十分若いけどな!」
「はいはい、おまえは能天気な上に元気でいいな」
「おうよ!」
さも当然のように笑いやがって……こいつは本当に。こういう奴だから、周りぜんぶ巻き込んで笑顔にできるんだろうな。
「でもやっぱりバカだな」
そうしているうちに、俺たちは駒王学園へとたどり着く。
原因はマシンビルダーなのか、万丈との二人乗りなのかはわからないが、生徒たちからの奇異と興味の視線に晒される。
「なあ、なんかすげえ見られてるぞ」
「朝早くて良かったな。遅れてたら大勢の生徒に囲まれてたかもな」
というか、個性的な生徒が何人も見受けられた。
さすがは悪魔が経営する学園。もしかしたら、悪魔じゃない神器保有者や特異な子たちも集められているのかもな。
そうして保護してくれているのならいいんだが……。
「あいつらならだいじょうぶか」
マシンビルダーから降り、放っておくと迷子になるか生徒に捕まりそうな万丈を連れて他の先生方へのあいさつも終えた。
なぜか最後に生徒会長にあいさつをするという謎のイベントが控えていたのだが。
「で、生徒会室に連れてこられるとはな」
「なあ、普通は校長にあいさつしに行ったら終わりなんじゃねえのか?」
「忘れたのかよ。ここはリアスたち悪魔がいる学校だぞ。普通なわけないだろ。前回の面接と言い、この駒王学園を経営しているのはリアスか生徒会長の家なんだと思う。だから、実質のトップは彼女たちってわけ。あと、普通最初にあいさつする立場の人だからな、校長先生とか上の立場の人って」
「そうか?」
俺の話を聞いていた万丈は難しい顔をしていたが、半分も理解できていない気がする。
大方、腹が減ったとか考えてるんだろうなぁ。
もう放っておいて、生徒会室に入るとしますか。
「失礼します」
「あ、おい! 失礼します!?」
先に入り扉を閉めようとすると、慌てた様子の万丈が駆け入ってくる。
「なんで先に入んだよ!」
「おまえが真剣な顔して『腹減った〜』とか考えてたからでしょうが」
「なんで俺の考えてることがわかるんだよ!」
「本当に考えてたのかよ……」
冗談で言ったはずなのにこれか。こいつの思考回路はどうなってるんだか。
と、こんなことしている場合じゃないな。
既に遅いのはわかっているが、生徒会室を見回すと、何人かの女子生徒と、男子生徒が一人。それから、集団の中心には先日会った生徒会長の姿。
「お久しぶりですね。随分と仲の良いことで」
「どうも。でも、こいつとは仲良いわけじゃないんで」
「勘違いするんじゃねえぞ!」
俺と万丈の声が重なり、同時に返答する。
「……ふふっ、やはり仲が良さそうですね」
これには黙るしかない。余計なことを言っても面倒な事態に持ち込まれそうだ。
「さて、それでは最初に。ようこそ、駒王学園へ。我々は貴方たちを歓迎します。無論、生徒としてですが、悪魔としても」
妖艶な、と表現するのがいいのだろうか。
まさにそれといった笑みを浮かべた生徒会長より歓迎の言葉を述べられた。
「先日のお話で既にわかっているはずですが、この駒王学園では悪魔が人と変わらない生活をしています。お二人は事情を理解しているということで伝えておきますが、昼の間の駒王学園は普通の学校と変わらないので、私たちと会ったとしても、その手の話は控えていただけると助かります」
当然と言えば当然か。
ここまで人間社会に浸透しているんだ。つまらないことでボロは出したくないだろうし、個人の主観によるところが大きいが、この子たちは学園生活を楽しんでいるんだろう。元人間の悪魔もいるわけだし、当たり前だよな。
そういうの、全部まとめて守ってやらないとな。
「わかった。教師と生徒の関係を守らせてもらう」
「生徒と用務員の関係もな」
隣で万丈も同意するが、生徒と用務員の関係がすぐに思いつかなかったのか、この場にいる生徒全員が困惑した顔を見せる。
時々とんでもないこと言うよな、こいつ。
「要するに、都合のいい大人をうまく使えってことだ」
仕方ないので、万丈の言いたかったことを、言葉を変えて伝える。
「ん? 合ってんのか、それ」
「合ってる、合ってる。安心して、この天才物理科学者に任せなさいって」
「なーんか怪しくねえか?」
「だいじょうぶだろ。用務員なら、生徒と仲良くして、そんでもって彼女たちの言葉に耳を傾けてやれよ」
「お、おう。そうか? そうだな!」
周りの学生たちが唖然としているが、いいだろう。こいつの無駄に多すぎる体力や愛嬌は有効に使われるべきだしな。放っておくと間違ったことしそうだし、主導権を生徒に与えて実行してもらった方が、こいつの長所も正しく使われるはずだ。
「な、なんだかだいぶ言っていることが変わったような気がしますが」
「気のせいだ。言いたいことは変わってない。どう捉えるか、だな。とにかく、万丈には常人以上の体力と単純さがある。ただ、それらに極振りしているせいか、頭が残念な程に悪い……だから、たまに手を貸してやってくれ」
「……わかりました。元より、この駒王学園の用務員は特別枠ですから。私たち生徒会の方でも、いろいろお願いする予定です。安心してください」
「助かる、頼む」
これで俺がいない間の万丈も問題なしだな。
戦闘関係なら放っておいてもいいんだが、この新世界でこいつを放っておくのは愚策な気がするんだよなぁ。
「もし困ったことがあれば、私たち生徒会にも報告してください。生徒たちのより良い学園生活のために、協力をお願いします」
「ああ、もちろんだ」
俺たちが困ったら、他の教師に相談するのが良いようにも思えるが、常識が通用しない奴らだしな。この世界にも、ひとつくらい異常で正常な学校があってもいいだろう。
「そういえば、リアスたちは俺と万丈が駒王学園に来ているのを知ってるのか?」
「はい、リアスと朱乃は知っていますよ。他の子たちには知らせていないと言っていましたから、彼女なりのサプライズ、といったところでしょうか?」
「そうか。なら、せいぜい乗ってやるか……」
にしても。
改めて見回してみても、ほとんどが女子生徒なんだな。生徒会って聞いたけど、これじゃ活動するにしても男手が足りないんじゃ……いや、悪魔だから余裕だったりするのか? でもなぁ。
「ん? ああ、それで万丈か」
「おう、なんだよ?」
「ああ、いや。おまえが雇われた理由がなんとなくわかったというか、なんというか。とりあえず、頑張れよ」
「任せとけって! 大活躍してやるからな!」
万丈の宣言に、目の前の生徒会長が笑みを浮かべた気がした。どうやら、俺の予想も大きく外れてはいなそうだ。
唯一、生徒会の男子生徒のみが万丈にお祈りを捧げていたのが印象的だった。
生徒会メンバー全員と一通りのあいさつを終えた俺は、万丈と別れ、職員室の自席で授業の準備をしていた。
一コマ目は化学も物理もないようで、俺は職員室で準備にとりかかるだけだ。
「高校生レベルって、こんな感じなんだな。これなら数学も教えてやれそうだけど……機会があれば見てやるか」
なんて、初授業の準備なんて特にないので、職員室にいても意味がない。
授業で使うこともあるだろう準備室にでも行ってみるか。隣には科目専用の教室もあるだろうしな。
「小さな実験くらいなら行う許可もらえんのかな? 教室に早くついた生徒たちには楽しい実験でも見せてやろうかな。そうとなれば、さっさと行きますか」
情報を集めることも目的のひとつだが、せっかくなら、次の世代のためにも、楽しい授業をしてやりたいと思うのは悪いことじゃない。
しかし、敷地内のどこかでなにかしらしているだろう万丈のこともそこそこに、準備室に向かう途中のことだった。
横でシャッターをきる音が鳴ったのは。
「なんだ!?」
「ああ、悪いな。気にすることはない――なるほど、やっぱり間違いじゃなさそうだな。さて、どうしたもんかな」
「なんの話を……」
「気にするな、これは俺のやるべきことだろうしな。まったく、この世界はなんだって……まあいい。じゃあな、また会おう」
勝手に人のことを撮っておいて、一方的に立ち去っていく、白衣をまとった男性。
というか、あの特徴的なカメラは!
「ちょ、ちょっと待て!」
廊下の角を右に曲がって行った男性を追いかけるが、曲がった先には誰もおらず、生徒のいない空き教室のみが視界に広がる。
「いない……けど、あのカメラは前に俺と万丈を撮っていたカメラのはず……」
なにより、あいつの言葉だ。
まるでなにかを知っているような、それでいて、俺の正体もわかっている風だった。
「この世界がなんだってんだよ……」
俺の問いかけは答えが見つかることなく、頭の中で何度も同じ疑問が浮かぶだけだった――。
いくつかクロスオーバー考えていましたが、仮面ライダークイズを書くのも楽しそうだな、と思っていたりするalnasです。
他には、「ウィザード×絶園のテンペスト」や「エグゼイドor鎧武×デジモン」とか、「ドライブ×デアラ」なんかも考えていました。こう、書き始めればある程度の形になるけど、というのがありますね。
とりあえず、いまは推しと推しは交錯してる今作を進めなければ……早く通りすがってくれ。