「カメラの男!? なんだよそれ! 駒王学園ってカメラの妖怪でもいんのかよ!」
「落ち着きなさいよ。だいじょうぶ、ちゃんと人間だった――……いや、そういえば追いかけたら、隠れる場所がないはずなのに姿を消してたっけな」
「なんだよそれ! どうなってるんだよ!」
「だから落ち着きなさいって。その男は消える間際、桐生戦兎に気になる言葉を残していった。それは、この世界に関することで。とはいえ、俺もなんのことかさっぱりだけどな」
「ふーん? ああ、つまり今回は、その男と世界について迫る話ってことだな!」
「…………さあ、万丈の言ったことが本当かどうかがわかる、第25話!」
「え? おい、なんで答えないんだよ!」
接触してきた謎の白衣の男の行方を追って、学園を一回りしてきたものの、それらしい影は一度もみかけなかった。
「どうなってるんだよ……あの一瞬で消えるとか、有りえないだろ」
おまけに気になること言うだけ言ってくとか性質が悪いにも程がある。
とはいえ、見つからないものは見つからないか。
「手がかりはあのカメラか。カメラ……そういえば、つい最近もカメラについて聞かれたような――」
「あ? 戦兎じゃねえか!」
もう少しでなにか思い出しそうになったところで、聞きなれた声が耳に届いた。
声のした方向を向けば、やはり。
「よう、万丈。なんだ、こんな旧校舎の隅にいたのか」
「それはこっちの台詞だっての。おまえ授業してるんじゃなかったのかよ?」
「それは次の時間から。それより万丈、白衣を着た、胸にカメラを提げてる男を見てないか?」
「いや、見てねえけど」
こっちには来ていない、か。
逃したものは仕方ないな。次会ったときに確実に話を聞けるように場を整える方法を考えるべきか。あとは、現場をもう一度調べてみることくらいだな。
「もしかしたら、知らされていない他の悪魔だった可能性もあるわけだし……やっぱりリアスたちとゆっくり話す時間を取るべきかねぇ。ところで万丈」
「なんだよ」
「おまえ、なにやってんだ?」
万丈の両手には、スコップとバケツ。それから離れたところにはリヤカーときた。
いや、本当に学園内でなにをしているんだこいつは。
「花壇だよ。なんか、学園内に花を植えたいらしくてな。段々増やしてたみたいだけど、そのうちの一箇所を任されてよ。何年も先になるだろうけど、学園内に桜も植えてやろうと思ってさ」
「……そうか。しっかり育つといいな」
「おう。ってなわけで、他の花も植えてくるわ」
やるぞー! と気合を入れながら駆けていく万丈。
あいつもあいつなりに、頑張る気らしい。
よし、俺もまずは授業から頑張りますか! 目の前のことに集中できないんじゃ、生徒たちにも悪いしな。
教室に戻る前に、例の男が消えた廊下を調べて回ったが、収穫はなかった。リアスたちが転移能力を持っていたことは記憶しているので、後で悪魔関係で白衣の男が学園にいるのかを聞いておこう。
準備室と繋がっている実験室に実験器具を運び出し、そこで細かな実験をしながら時間を潰していると、授業の終了を告げる音が鳴った。
「1限終了か。ってことは、次は俺の初授業だな」
実験器具を準備室へと戻し、実験室に入ってくる生徒たちの様子を、こっそりと準備室から伺う。
初授業のクラスの名簿は準備してあるので、来る生徒たちの名前と顔はわかっている。それでも様子を隠れて見ているのは、ひとえに登場する時間を見極めているからに過ぎない。
と言っても、この時間の授業は特にサプライズとかできないんだけどな。
「今日から先生変わるんだよな?」
「どんな先生だろうな。美人ならいいよなぁ!」
待っていると、男子生徒二人がそんなことを話しながら教室に入ってきた。
ごめんな、美人じゃなくて天っ才イケメン教師で。男子高校生の期待を早くも裏切ってしまったようで申し訳ない。
「そういえば、今日からでしたね」
「そうね。彼の初授業となると、少し楽しみだわ」
今度は聞き覚えのある声だな。思ったより早く来たもんだ。
「なになに、二人は新しい先生のこと知ってるの?」
「二人の知り合いってことは、すっごくかっこいいか綺麗な人なんじゃないの!?」
勝手に盛り上がっていく、隣の実験室。
これは……相当期待されてるな。
「そうねぇ……かっこいいとは思うわよ。私から見ても」
「あら、そうだったの? ふふっ、私は面白い人だとは思ったけれど……」
「うそ、二人からの評価いいんだぁ。これは、期待しても良さそうだね」
「あの二人が……くそっ、今度の教師はイケメン確実かよ! 許せねぇ! よりにもよって、あの二人と知り合いだなんて!」
おいおいおいおい、男女間の評価で差有りすぎだろ。
でも仕方ない、そろそろ時間みたいだし、行きますか。
授業開始と共に実験室に入った俺を待っていたのは、リアスたちのいる3年生のクラス。
「初めまして。今日から駒王学園で教師をすることになった、桐生戦兎だ。担当は物理と化学。キミたちには楽しい実験を提供したいと思っている」
いままでの職場って大人ばかりだったからなぁ。
こうして少年少女しかいない場に立つと、みんな初々しい感じだな。
「佐藤太郎?」
「えー? でも、佐藤太郎ってもっとおバカキャラっていうかさぁ。あの先生、頭良さそうだし、似てるだけじゃない?」
「でも、佐藤太郎が髪型おとなしめにして静かにしていればあんな感じじゃないかな?」
…………ここでも佐藤太郎か。いや、こればっかりは避けては通れないか。
元は、彼も俺のせいで犠牲になった人だ。
俺が恨まれこそすれど、俺が彼を恨むのは間違いだな。
「悪いが、有名人とは別人だよ。期待した人には申し訳ないけどな」
それでも、同一人物とされることには不都合しかないからな。俺にも彼にも、行動の制限をかけかねない。
「あら、小猫が知ったら悲しみそうね」
「あらあら、うふふ……」
お姉さまお二人がなにやら言っているが、気にしないことにしよう。
他の生徒からも、確かに、佐藤太郎とはキャラ違いすぎるしね、などの意見も聞こえたので、恐らくわかってもらえただろう。しかし、姿は同じだからな。
完全には理解されないんだろうなぁ。
本当は佐藤太郎ですよね? とか聞かれたら、さっきの信念がへし折れそうだ。
「とりあえず、俺の授業では、わかりやすく、それでいて科学って楽しいってことを知ってもらいたい。少しでも興味を持ってくれたら嬉しい」
できることなら、未来の物理学者が出てくれるといいんだけど。でもまずは、楽しんでもらわないとな。
今日行う予定の実験器具の説明や、実験内容を記したプリントを配り始める。
「さあ、楽しい実験を始めようか」
疲れた……。
学生って、思ったより質問飛んでくるんだな。今回は初授業だし、リアスたちが最初から関係を仄めかしていたのも効いたな。
まったく。先生と生徒の関係性とは聞いていたが、これはアリなのかよ。
「お疲れ様、戦兎」
授業も終わり、準備室で休もうとした直後。自分たちの教室に戻るはずのリアスが隣に控えていた。
「おう、お疲れさん。どうしたんだ? 教室に戻らないと次の授業始まっちまうぞ?」
「ええ、すぐに戻るわ。ねえ、戦兎。貴方――いえ、なんでもないわ。初授業、楽しかったわよ。じゃあね」
なんだ? 感想を言いたかったのか?
それにしては……とはいえ、既に廊下に出て、教室へと向かってしまった彼女を引き止めるのも気が引けた。
「なんだったんだかな。まあ、いいか。で、次の授業はっと。ああ、次は一誠のところか。で、祐斗のクラス、あとは1年生のクラス2つで終わりか。小猫は明日だな」
学年ごとに定められた範囲と、クラス単位で出る進みの差も把握しないといけないわけか。
思ったよりも工数多いな。
「これは万丈には無理だな。あいつの頭じゃ処理が追いつかないだろうし」
生徒会長もいい配置をしてくれたものだ。
さてさて。とりあえずは次の授業の準備だな。一誠はリアスたちから俺が来てることを知らされていないだろうし、万丈に似て、真っ直ぐで単純な性格だ。
リアスの期待通り、いい反応を見せてくれるんだろうな。
「俺の方は大丈夫そうだな。こうなってくると、あいつは花壇以外になにをするんだか。肉体労働じゃないとあまり力にならないからな。校舎の補修や備品なんかの運び出しとかかねぇ」
「失礼しまーす。リアス部長から、準備室に行けば面白いものが見れるって聞いて――ええっ!?」
「ん? おう、一誠か」
「佐藤太郎!? ちょ、まだ昼間ですしマズいですよ! この前みたいに俺たちに会いに来たなら、放課後か夜にしてもらわないと! っていうか、不法侵入ですって!」
なるほど、事情を知らないとこうなるのか。
まあ、普通に考えたら佐藤太郎が教師をできるとは思わないもんな。
「落ち着け。ほれ、これ見ろ」
「はい? 桐生、戦兎……って、教師のネームプレート!?」
「そうそう。今日からおまえらの先生だから、よろしくな。あと、佐藤太郎は別人な」
「え? うそぉ!? いやいや、それにしては似すぎですって! おかしくないですか!?」
意外と突っ込んでくるな。
完全に別人なのは間違いないが、外見だけで判断されると言い逃れるのも難しいか。
でも、桐生戦兎と佐藤太郎には、やっぱり違いがあるわけで。
「おかしくはないさ。俺が教師としてここにいること自体が、なによりの証拠だ。普段の佐藤太郎を知ってるんだろ? あいつが教師をできると思うか?」
「それは…………無理そうですね」
「そういうことだ。ほら、次授業だぞ、実験室に行っとけよ」
「あ、はい! 失礼しました!」
一誠の誤解も解けたのか、彼も言うことを聞いて隣の実験室に移っていく。
「はあー……これは、万丈も生徒に見つかったら大変かもな」
まだ決まったわけじゃないけれど、この世界の万丈も人気あるみたいだしな。あいつは俺みたいに機転も利かないだろうし、万丈龍我? なんて聞かれたら返事するだろうしな。
「変装させれば良かったか? まあ、これまで街を歩いていても平気だったわけだし、いいか。とりあえずは一誠たちの授業をしますか」
あの後も授業をおこない、いまは昼休み。
「で、なんでおまえがここに居るんだよ」
「いいだろ、別に。教師にだって、昼を食う場所の自由くらいある」
「なんだよそれ」
隣で弁当を広げる万丈を横目に、俺はお茶の準備をする。
いまいるのは、職員室でもなければ、準備室でもない。ここは、万丈――用務員のために用意された個室だ。
所謂、用務員室、だろうか?
旧校舎の近くに建てられた、小さな建物。これが用務員室だと言うのだから、やっぱり金がかかっている学園だな。
用具や植物の種、土などが保管されているにしても、広い。
「マスターが弁当作ってくれて良かったよな!」
「そうだな。アーシアとレイナーレもマスターから習うって言ってたから、そのうちあの子たちの弁当もあるかもな」
「美空は作らねえんだな」
「どうだろうな? 二人に感化されて習いだすかもしれないけど」
要約すると、今後の話をするために、万丈のいる部屋まで昼食を取りに来たわけだ。
「初授業はどうだったんだ?」
「あー……若者のパワー恐るべしって感じだな」
「まあ、おまえはおっさんだしな。高校生にはついていけねえってか?」
「まだまだ若いっつーの。そうじゃなくて、知らないことを知ろうとするのは、子供の方が適してるなって感じただけだ」
おにぎりを齧りながら、互いに初日のことを聞いていく。
お、卵焼き……うん、やっぱりうまい。
「そうだ、今週中のどこかで、放課後にリアスたちに会いに行くぞ」
「おう、わかった」
軽口を叩きながら、緩やかに時間が進んでいく。
はずだった。
『おまえ、松田になにしやがったんだぁぁぁぁッッ!!』
この声は!
「戦兎!」
「ああ、行くぞ!」
昼食を中断し、声が聞こえてきた旧校舎の方へと向かう。
切羽つまったような、それでいてかなりの怒りを感じる叫びだった。嫌な予感がする……。
「松田! おい、松田!!」
「イッセーくん、危険すぎる!」
旧校舎の裏側に来てみれば、案の定だ。
そこには、傷だらけの一誠と、それでも立ち向かおうとする一誠を引き止める祐斗。
そして、スマッシュの姿があった。
「スマッシュ!? おい、どういうことだよ!」
万丈が困惑の声を上げるが、俺にだって説明できない。だが、レイナーレがフルボトルを使用していたときから、こんなことが起こる予想はしていた。していたけれど……。
あって欲しくはなかった!
「よくわからないけど、行くしかない。やるぞ、万丈!」
「お、おう!」
昼休みとはいえ、いつ生徒が騒ぎに気づくとも限らない。
悪魔の奴ら以外の、本当に無関係の人たちが傷つく前に、目の前のスマッシュを倒す!
『ラビット!』『タンク!』
『ベストマッチ!』
ビルドドライバーの音声が鳴り響く。
『覚醒!』
『グレートクローズドラゴン!』
それは隣にいる万丈も同様で。
『『Are you ready?』』
「「変身!」」
駆けながら、仮面ライダービルドとクローズへと姿を変える。
『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イエーイ!』
『ウェイクアップ クローズ! ゲット グレートドラゴン! イエーイ!』
直後。
一誠と祐斗を越え、先にいるスマッシュへと、俺たちの拳が放たれる。
久々の普通のスマッシュ相手だ。特に踏ん張られることもなく、その体は後方へと吹き飛ぶ。
「待ってくれ! あいつは松田なんだ! 戦兎さん、万丈選手、待ってくれ!」
「イッセーくん、キミはもう動いちゃダメだ!」
だが、一誠からの反応は悪い。
「松田……一誠といた友人か」
「あん? 知ってんのかよ?」
「授業で接した程度だけどな。それでも、一誠が戦っていた理由はわかった」
それなら尚更、さっさと助けてやらないとな。
「だいじょうぶだ。おまえの友達は、絶対に救ってやる」
「その通りだぜ! だからおまえも、俺たちを信じろ!」
「松田は、助かるんですか?」
一誠の目が、俺と万丈を映す。
「俺、松田のことを助けられると思って……でも、全然ダメで。木場まで巻き込んで、俺は……俺は弱い自分のことが情けない!」
「それでも、おまえはあいつのために戦ったんだろ? いまはそれでいい。誰かのために戦える奴が、弱いわけないんだよ。――以前、身勝手で、他者のことなんてなんとも思わない奴がいた。そいつは確かに強かった……最初は俺たちも歯が立たなくて、敵わないとさえ思った。でも、それでも――助けを求める大勢の誰かを守ろうと必死になった人がいた。倒れた俺たちと違って、あの場でただ一人折れなかった人が。あの人がいたから、俺たちもいま、ここにいる」
「まあ、強かったよな、本当に」
「そうだな。だからな、一誠。その心の優しさと強さを持ってるおまえは、弱くなんかねえよ」
「おまえが踏ん張ったから、他の奴らは誰も巻き込まれてねえだろ? こんな学校の中だ。放っておいたら、関係のない奴らが大勢襲われてたかもしれない。でも、おまえが守った。だから、あいつは俺たちに任せとけ」
「そういうこった。おまえの友達は、俺と万丈が守る」
「――――…………お願い、しますッ!」
「ああ!」
「おう!」
再び駆け出す俺たちだが、戦いの最中にありながら、俺の頭の中にはひとつの疑問が浮かんでいた。
いったい、この新世界でどうやったらスマッシュを生み出せるのか、と――。