『これまでの仮面ライダーディケイドは』
「もう犠牲なんて出させやしない!」
「お、なんだよ、成分の採取できてるじゃねーか」
「最っ悪だ……これは、人のためになる科学じゃない」
「俺も、了解です。松田を狙ったってことは、また誰かが狙われるかもしれない。そんなこと、俺は許せません!」
「……おまえたちがこの前行ってきたって言う喫茶店だ」
「「……怪しい」」
「ここが前に来たっていう喫茶店か?」
「そうそう。雰囲気いいし、珈琲もパンケーキも美味しかったよ」
「はい。士くんも気にいると思います!」
「まったく……人気店なのか寂れているのかよくわからん立地だな。本当に合っているのか?」
「合ってるって! 入ればわかるよ、ほらほら!」
「おい、押すなユウスケ! 入るなら、おまえから入れ!」
「え? ちょ、うおぉぉっ!?」
「ユウスケ!?」
「よし、俺たちも行くぞ」
「士くん!? え? この流れで始めるんですか!? 待っ――」
『世界の破壊者・ディケイド。いくつもの世界をめぐり、その瞳は何を見る?』
nascitaには少し前から二人の少女が増え、順調に客足を増やしていた。
そんな中でも人の様子をよく観察していたマスターが、以前来てくれたお客さんの顔を覚えていたのは、ある意味当然と言える。
居候組の戦兎と万丈とよく話していたので、他のお客さんよりもより印象に残ったのだろう。
と言うのも、男女の二人組だったのだが、どちらも美形だったのだ。もう少し身長差があれば、それは絵になるなぁとマスターが思ったのも仕方がない。
nascitaにいる男性陣は顔はいいのだが、変人かバカなのだ。
普通に美形である優しげな人物の方が好印象なのはどうしようもない。
「にしても、まさかまた来てくれるとはねぇ」
もっとも、マスターがその記憶を引き出せたのは、ひとえにその二人がまた来店したからなのだが。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。いやーまた来てくれるとは思わなかったよ〜。あれ? そっちは初めてだね」
「はい。以前うかがった際にはいなかった、探し人です!」
嬉しそうに話す二人の客――夏海とユウスケ――の笑顔を見ながら、マスターが最後に入ってきた長身の男性を見やる。
スラッとした長い足に、ホスト然とした佇まい。首からは特徴的なカメラをかけている。
ここまでなら普通にいい男で済むのだが、どういうわけか。
「なんで白衣……?」
「気にするな。そういう設定なんだそうだ」
「はあ?」
マスターが質問すると、長身の男は流すように答えた。
訝しげな視線を送ると、彼の両隣に来た夏海とユウスケが、彼に肘を入れる。
「士くん!」
「あまり変なことを言うなって」
士と呼ばれた彼は、その後もじゃれあうように肘を何度か入れられたが、うっとうしそうにするだけなので、本気で入れられているわけではないのだろう。
その様子を眺めながら、仲がいい子たちだ、とマスターは優しげな目を向けていた。
けれど、おふざけを続ける3人に近づく小さな影は、不安げに声をかけ、
「あの、席に案内を……」
その不安げな声に気づいた一行は、ようやくじゃれあいを終わらせる。
「ごめんね、騒いじゃって。もうだいじょうぶだから、案内を頼んでもいいかな?」
一行に声をかけた金色の少女に、優しげな笑みを浮かべて対応したのはユウスケであり、その笑顔に安心したのか、金色の少女――アーシアが元気良く返事をして、席へと案内する。
アーシアが一人でも平気そうなことを確認したレイナーレは、マスターに教わりつつ、初勤務から帰ってくる戦兎と万丈のために夕飯の下ごしらを再開していた。
「良かった……」
美空は美空で、その一連の様子を眺め、他のお客の対応をしているのだが、その姿を一瞥した士には気付かなかったようだ。
士は士で、先に席に向かっていた夏海とユウスケに急かされ、二人の待つ席へと向かっていく。
来店した3人が全員席に着いたところで、アーシアが注文を取り、内容をマスターへと伝えに向かう。
「士くん、ここのパンケーキはかわいいですよ!」
「は? パンケーキは愛でるものじゃないだろ。とうとうここがイカれたか?」
隣に座る夏海の言葉に怪訝な表情を見せながら彼女の頭を突つくと、今度は前に座るユウスケが前のめりになって口を開く。
「そうだよ士! 夏海ちゃんの言う通り、ここのマスターさんが作るパンケーキはかわいいんだって」
「おまえもか。揃いも揃って……」
とはいえ、こうして本当に楽しそうに笑う2人を見たのはいつぶりだろうか。
そう、ふと思った士は、談笑している2人の姿をそっとカメラに収める。
なにを興奮しているのか、話に夢中な彼女たちがそのことに気づくことはなく、士の見た笑顔はそのままフィルムに収められることとなった。
「パンケーキはともかく、雰囲気は悪くない。それに、どっかの探偵と行った店に比べて足が自由なのもいい」
どこか満足気な士は、そのことを悟られる前に仏頂面を作り、2人の会話に混ざる。
足を組もうと組み直そうと、窮屈にもならないことがいい。
まさかの発言ではあったが、嬉しそうに士に何事かを言って反応を見せる夏海とユウスケ。
「いやー青春の匂いがするねぇ」
3人の様子を眺めつつ珈琲の用意をするマスターは、会話こそ聞こえないものの、楽しそうな若人にご満悦だ。
「青春って……そういう年代よりは少し上に見えるけど?」
「そう? まあ、レイナーレちゃんにはまだ少し早いかなぁ。こうして喫茶店のマスターやってるとさ、色々と人の感情が見え隠れするっていうか、雰囲気を読み取れるようになるわけよ。それに、青春に年齢は関係ないって。思っちまったら、それはもう青春だよ。さて、アーシアちゃん、これお願いね。多いから、2回に分けてでいいよ」
「は、はい! 頑張ります!」
「その意気だよ〜。任せた!」
レイナーレの疑問に答えつつも、アーシアに指示を出す。
パンケーキと珈琲を運ぶアーシアを尻目に、マスターはレイナーレに丁寧に調理の手順を仕込む。
「そうそう、で、ここに切れ目を入れてね」
「ふぅん……料理って思ったより複雑なのね。それで、ここはどうすればいいいわけ?」
「そこはね――」
既に現在来ていた注文の品を作りきったマスターは、一息吐きつつレイナーレの方へと集中する。
片付けや客の相手をしている美空とアーシアも慣れたもので、技術が向上するのはいいことだと言わんばかりに好きにさせていた。
もっとも、アーシアに「営業時間中に好き勝手しない!」とツッコム余裕がないのも事実ではあるが、彼女としてはぶっきらぼうな言い方なりに楽しんでいるレイナーレを気遣ってもいるのだが。
「お、お待たせしました〜」
どことなく危な気な足取りからして、やはり余裕がないことの方が割合は多いのだろう。
「ゆっくりでいいよ、アーシアちゃん! こうして話している時間も楽しいからさ!」
そうしたところが庇護欲をそそるのか、もしくは単に見ている側も危なっかしいのか。彼女の雰囲気が無害そのものであるからこそなのだが、ユウスケもまた、優し気な声で彼女に話しかける。
「はい、ありがとうございます! こちらパンケーキになります。すぐにもうひとつも持ってきますので、少々お待ち下さい」
「ありがとうございます!」
「ありがとね! はい、夏海ちゃん。それに、士も!」
パンケーキを受け取ったユウスケは、迷うことなく二皿を眼前に座る者の前へと置く。
一方は嬉しそうにフォークとナイフを手に取り、もう一方は困惑しつつも目の前に出された皿を眺める。
「おい、どういうことだ?」
士がニコニコと自分を見ている者たちに聞くが、彼らこそ、どういうことだ? と首を傾げてしまった。
「どういうって、パンケーキだよ。ああ、俺は後できたのでいいから、士と夏海ちゃんは先に食べててよ。ほらほら! あ、ほら士、このメープルがいいんだって!」
「ほら士くん! このバニラアイスもいいですよ! 前回と少しトッピングも違っていていいですよ?」
やれこれがいい、美味しかった、ここが違っていたと楽しそうに説明されるが、士が聞きたかった答えは一向に出て来ない。
別に、誰が最初に食べるかやら、どんなトッピングかを疑問に思ったわけではない。
「待て。俺がいつ頼んだ?」
「最初に私が頼みました! 3人分ですよ!」
得意気な夏海の顔を見て、士はそれ以上の追求をやめた。
背もたれに体重を預け、店内の天井を見上げる。
そうした小さな動きや話が積み重なっていくうちに、誰もパンケーキに手をつけないまま、3人ぶんのパンケーキと珈琲が並ぶ。
「ごゆっくり」
アーシアが最後に一言残して去っていくのを見届けてから、夏海とユウスケの目が士に向けられる。
「――…………食えばいいんだろう」
ざっくりと切り分けた一欠片を口に放り込むと、詰め寄ってきそうな勢いが目に宿る。
居心地の悪さを感じながら口に含んだパンケーキを咀嚼していく。
こいつら食べ終わるまで見ているつもりじゃないだろうな? と思いつつも口の中に広がる甘みを噛みしめる。
「……いいんじゃないか」
早口に告げた後、次を切り分け、また一口放り込む。
その様子を見て、顔を合わせて笑みを浮かべた夏海たちは、自分たちもパンケーキに手を伸ばす。
やっと食べ始めた二人を見て、士も人知れずに笑みを浮かべていたが、最後まで誰にも気付かれることはなく、その事実は彼の中だけに仕舞われることになる。
ゆっくりパンケーキを堪能した3人は、珈琲のおかわりを頼みながら、新しい話を始めた。
「そういえば、士は前回どこに行ってたんだ?」
「ああ……少し森の奥までな。科学者らしく足を使ってみたんだが、まあまあの収穫だった」
「いや、科学者は足より頭を使うべきじゃ……」
「それより、なにがあったんですか?」
「少し、この世界のことがな。あと、カメラだ」
「「カメラ?」」
聞いていた2人が同時に士の首からさげられたカメラを凝視するが、本人からの「違う」の一言で斬って捨てる。
「あ、もしかして、写真がしっかり撮れたとか!?」
「まさか!」
「それも違う……拾っただけだ」
「「カメラを?」」
その結論にたどり着くのは仕方ないのだが、いかんせん話が噛み合わない。
言葉足らずなのだから当然のことと言えるはずなのだが、そんなことはなんのその。
「そろそろ行くか」
自分勝手な方針を立てつつ、士が席を立とうとする。
「はいはい、行きますよ」
続いて、ユウスケと夏海が。
慣れたもので、突然の行動にも対処は簡単にできるようになっていた。
「お会計をお願いします」
ユウスケが会計をしている間に、マスターに近寄った士は、
「悪くなかった。また来る」
そう言い残し、一足先に店から出て行った。
「ったく、あいつは。すいません、気に入ったみたいなので、また来ます」
「士くん、口は悪いですけど、素直じゃないだけなんです!」
最後にフォローして、出て行った士の後を追っていった。
慌ただしいなぁ。と呟いたマスターは、しかし。
次のレイナーレの言葉に、顔色を変える羽目となった。
「なにか……入り込んだわね。近くの公園かしら?」
「レイナーレちゃん、いまなんて?」
「だから、悪魔でもない、堕天使でもないナニかが入り込んだみたい。ちょっと、私じゃよくわからないものみたいね」
顎に手を当て考える素振りを見せるマスターだが、もう片方の手には黒色の銃型のデバイスを握っている。
「レイナーレちゃん、留守を任せていいかな?」
「え? ああ、はいはい。わかったわよ。この子たちの盾くらいにはなれるんじゃない?」
「いや、そこはなにかあったら3人で逃げてよ。じゃあ、行ってくる」
戦兎からの提案もあり、レイナーレには近くの様子を探るようにと言ってあったこともあり、彼女の違和感を放っておくわけにもいかず、エプロンを放り、出かけようとする。
「お父さん?」
「美空、お父さんちょっと買い出しに行ってくるから、その間、3人娘で頼んだよ!」
「ちょっと!? もう、なに買いに行くのよ!!」
質問もロクに聞かずに飛び出すように出て行ったマスターに手を伸ばす美空だが、その手が彼を掴むことはなく、外へと駆けて行ってしまう。
「なんなの?」
「さあね。特売でもあったんじゃない?」
「慌てていましたね。今日ってそんなに安いものがあるんですか?」
そう言われても、特にチェックはしていない美空とアーシアではわかるわけでもなく。仕方なしに、今日届いた広告を大真面目に広げるのだった。
一方、nascitaを出て公園に向かったマスターは、そこで信じられないといった表情を浮かべていた。
「うそーん……」
そこにいたのは、マゼンタ、白、赤の3人の仮面の戦士。
彼らの前に立ちはだかる、スマッシュのようであり、けれどマスターも出会ったことのある堕天使の羽に酷似した翼を背中から生やした鎧の戦士。
「貴様ら……各陣営の者ではなさそうだな」
「なんだ? この世界では国取りでもしてるのか?」
「……惚けるなら結構。どの道、ここで貴様ら全員消すまでよ!」
鎧の戦士は手の甲から鋭く伸びた爪をマゼンタの仮面の戦士に向ける。
「これどういう状況だよ! レイナーレちゃんが感じたってのはどっちだ? ああ、でもそうだな……よし、あっちのスマッシュっぽいのからか?」
混迷する事態の中、後方で様子を窺っていたマスターも、静かに動きだす。
『コブラ!』
「――蒸血」
その目に、確かな意志を宿しながら。
op侵食ならぬあらすじ侵食をしたかった(したかっただけ)。侵食どころかすべて乗っ取られたまである。
いままでは半々くらいだったのに、この回は侵食率100%ですね。
それはそれとして、この話は本文より前書き部分のあらすじの方が気合入っている率が高い気が……まさかね。