「正しくは、本日より一週間前のことになります。より正しく言うのであれば、事前に情報が公開されており、それより前から多くの方が存在を知っていたことになります」
「なん、だと……いや、それよりキミはまさか」
「社長秘書のイズと申します」
「おい、またなんか出てきたぞ」
「あいつはなんでも祝えればいいのか? じゃないよ! はい撤収! ここおまえたちが来る場所じゃないから!」
「いいや、それは早計だ桐生戦兎。私は我が魔王からここに集合するようにと言われているのだからね」
「私も飛電或人様の本日の視察のため、ここでお迎えする手筈になっております」
「えぇ……ここ待ち合わせ場所じゃないんですけど」
「ここがあらすじの世界か……なるほど、大体わかった」
「あんたも呑気に珈琲飲んでるけど、関係者じゃないから! わかったならあらすじには出てくるなよ! ああ、もう全員撤収! 撮影場所違うチームは元のチームに戻りなさいよ! 役者いなくなって困ってるよきっと!」
「そういうわけで、第30話の始まりだ」
「今回は破壊者と創造者の邂逅ですね。目から映像を投影いたしますか?」
「おい戦兎、こいつ人間か?」
「私は飛電インテリジェンスが開発した秘書型AIアシスタントのヒューマギアです」
「は? よくわかんねえけど、なんだ?」
「ヒューマギア? つまりアンドロイドってことか?ここまで自然な動き、外見を再現した? ちょっと、詳しく話を聞かせてもらっても? あと機能についての説明も!」
「……物体認識成功。佐藤太郎。現在――」
「違います」
「……? けれど物体認証では佐藤太郎と完全に一致して――」
「いいえ、違います」
「やれやれ……ここも騒がしくなってきたものだね。我が魔王が来るまでこのままか」
「おう、おまえも大変そうだな。魔王は再びただの高校生に戻り、おまえとの縁も切れた、か?」
「いいや。彼は生まれながらの王。またすぐに我が魔王となるさ」
「……あらすじ紹介どこいったんだよ」
対面の3人が落ち着いたところで、珈琲を淹れてきたマスターも席につき、計6人が向き合う形となった。
正面に座る士と呼ばれていた男は受け取った珈琲にミルクと砂糖を入れた後、満足そうな顔をして口にしているが、その様子を見るになにかを説明するつもりはないらしい。
「で、これなんの集まりなわけ?」
俺、万丈、マスターの中で唯一事情を理解しているだろうマスターに話しかけると、懐から2つのフルボトルを取り出した。
そのボトルは、俺も幾度となく使用し、助けられてきたベストマッチのひとつ。
「タカに、ガトリング!?」
「おおっ! なんであんだよ!」
万丈と共に声を上げるが、マスターはひとつ笑みを浮かべたまま、視線を前に向けた。
当然、いるのは例の3人である。
「なんだ?」
「いや、それこっちの台詞なんだけど? おまえたちは一体なんなんだ?」
「仮面ライダーだよ。えっと、俺たちも仮面ライダーで、さっきマスターさんと一緒に戦ってね。で、その2つが敵から出てきて、ゲット! ってわけ。でいいですかね?」
真ん中に座る男に変わり、右隣に座る優しげな男の方が経緯を説明してくれた。
「は? マスター、またnascita襲われたのか?」
「いやいやいや、違うって。ちょっと失礼!」
マスターが席を立つと、俺の腕を掴み、強引に店の端へと引っ張っていく。
「お、おい!? 俺は?」
「おまえは座ってなさい!」
万丈は放っておき、店の奥へと来ると、マスターは改めて口を開いた。
「レイナーレちゃんが堕天使が街に入り込んだのを察してな。で、見に行ってみたらあの3人と戦っててよ。で、その敵がフルボトルを体に差し込んだんだ。いや、ウソじゃねえよ? 本当なんだって」
「……こっちでも同じことが?」
「同じこと?」
「ああ。今日の昼、駒王学園の生徒がフルボトルでスマッシュに変えられたんだ。犯人はわかってないけど、無関係とは思えない」
「マジかよ……とにかく、あの子たちも仮面ライダーってのはこの目で見てる。カメラを提げてる彼もだ。だから、そう警戒しなくていいと思うぞ」
共闘したからこそ、わかるものもあるか。
こればかりは、マスターを信じるしかないな。とは言え、マスターと協力したなら、なぜ学校で俺に会うようなことをしたんだ?
「……とりあえずはわかった。で、あいつらはこの先も協力してくれるのか?」
「いやー、それはどうなんだろうな? とりあえずおまえたちが帰ってきてから話を進めようってことになっててな」
まだ未定か。
仕方ない、もう少し詳しく聞いて見るしかないな。幸い、2人ほど色々話してくれそうな人がいるわけだし。
「ひとまず戻ろう。どうにも、なんらかの組織が動いているのは確定みたいだしな」
「ああ、わかった」
マスターと事情の擦り合わせを終えて席に戻ってくると、万丈とユウスケと呼ばれていた男が楽しげに話していた。
「なんだ、仲良くなったのか?」
「おう!」
「はい!」
マスターが声をかけると、同時に反応を見せる。
人の良さそうなところや、少しバカっぽいところ……どことなく波長が合うのだろう。騙されやすそうなコンビなだけに、今後共に行動することがあれば避けるべき組み合わせだとも思うが。
「相談は終わったのか?」
「おお、終わった終わった。さて、それでフルボトルをどうするかだったな」
士の問いかけに答えたマスターが、改めてフルボトルについて触れる。
というか、この言い方はまるで。
「フルボトルの所有権が俺たちにないみたいな言い方だな」
「そうは言ってないさ」
珈琲を飲みながら、余裕の態度な士。
「まあまあ、これは彼らの大事な物なんだし、数があればあるだけ力になるってマスターも言ってたんだし、いいんじゃないかな。この2つは彼らが持ってるべきだよ」
そして、どこまでもお人好しというか、正しくあれるというべきなのか。
ユウスケはタカとガトリングのフルボトルを俺に渡してくる。
「はい、これで解決!」
「あ、ああ……ありがとう」
「いやいや、俺たちこそ、マスターに助けられたわけだし。やっぱり仮面ライダーは手を取り合わないと!」
「俺の助けが必要だったかは微妙だけどなぁ」
ユウスケの感謝の言葉に反応を見せるマスターだったが、
「そんなことありません! 本当に助かりました!」
士を挟んで、ユウスケとは反対側に座る夏海? 夏みかん? が口を開く。
この子も仮面ライダーって話だけど、よくもまあ、美空とそう変わらないだろうに。
「というか、新世界には新しい仮面ライダーもいるんだな」
「どちらが最新かと問われれば、おまえたちだけどな」
「は? どういう意味だよ、それ」
「知らなくていいことだ。というよりも、おまえたちが知れるはずもない話ではあるんだが……それよりも、この世界の不安定さはどういうことだ?」
なんか避けられた気がしなくもないが、それよりも世界が不安定?
もしかして、新世界ができたばかりで、まだしっかりと世界として成立していないってことか? いや、けどそれならなんでこの3人にそれがわかる? 世界が不安定って言い方もおかしい。
既に新世界は世界として成立している。だから不安定なんてことはないはずだ。
彼らは前の世界では一切関わりもなく、恐らくファウストの実験にも関わっていない。なのに、非日常に身を置き平然としている。
「どうなってんだよ」
仮面ライダーが前の世界の記憶を持っているという前提条件はない。
それなら一海や玄さん、内海さんだって俺たちのことを覚えているはずだ。けれど、そんな様子は一切なかった。
俺や万丈のように、この3人はなにか特殊な立ち位置にでもいるのか?
「……まあいい。とりあえず、フルボトルは置いていく。俺たちも好きにやらせてもらうからな」
混乱している俺を他所に、話は終わったとばかりに立ち上がった士は一人、出口へと向かっていく。
「あ、おい士!? ああ、ごめん! また進展があったら伝えに来るから! それから、珈琲ごちそうさま!」
「もう、士くん! すいません、また今度! あと、ごちそうさまでした!」
つられるように後の2人も出て行ってしまう。
「なんだったんだ、あいつら? 慌ただしい奴らだったな」
「わからない……わかったのは、あいつらが俺たちとはまったく関係のない仮面ライダーで、恐らく協力してくれたことと、なにかを企んでいる組織がいる。これくらいだ」
「お、おう? そうか」
彼らについてわかったことはほとんどないが、ユウスケを見る限り、悪事に手を出すタイプじゃないことだけが救いだ。
不可解なのは士が朝俺に会いに来たことだがそれは話さなかったな。ユウスケたちが咎めていたことから、独断での行動なのは明らか。
「なーんか、あいつだけ行動が読めないし不安だな」
「そうかぁ? んなことより、フルボトル貰えて良かったじゃねえか」
「はいはい、そうだな」
どうせ考えても詮無いことだ。だったら、ベストマッチで揃ったフルボトルのことを喜ぶとしよう。
「胡散臭い組織が暗躍しているってわかったんだ。あって困るものじゃないしな」
「でもよぉ、惜しみなくフルボトルが使われているってことは、大多数はその組織が握っちまってるんじゃねえのかぁ?」
珈琲を煎れ直していたマスターが、俺も頭の片隅で思っていたことを言葉にする。
これまで倒したスマッシュや、それに準ずる強化された堕天使たち。そこから得られた4本のフルボトル。
「確かに、可能性としては高いと思う。ただ、戦闘に関しては苦戦していないことから、まだそこまで解明が進んでいない可能性もある」
「んな悠長に言ってる場合かよ」
万丈が口を挟んでくるが、当然悠長に言っていられる事態じゃない。
「余裕はないと思ってる。だからこそ、早急にマスターが戦った堕天使が所属している組織を探さないといけない――んだけど、残念ながら俺もおまえも、明日も教師と公務員の仕事がある。マスターも同様だ」
「つまり?」
「俺たちは前のようにひとつのことだけに集中していられないってこと。世界の在り方が変わったからこそっていうのもあるけど、これが普通なんだよ」
「……じゃあ、どうすんだよ」
どうしたものか。
教師になったばかりで休むわけにもいかないし、悪魔側との信用関係にもヒビが入りかねない。
希望的観測としては、士たち3人が自由に動ける身であり、かつ俺たちに協力してくれるってのが理想的ではあるんだが。決して悪い奴らじゃないのはわかっているんだが、中心人物だろう士が好き勝手に動きすぎるきらいがあるのは今日の会話でよくわかった。
当てにしすぎるのは危険だ。
だとしても、俺と万丈じゃ限界がある。いや、だからと言って、他に誰の協力を仰ぐってんだよ。
「もう、前の世界とは違うんだよ」
ここには、平和に暮らしていてほしい奴らがいる。
今更だ。
「まずは、悪魔側との協力関係をしっかり築いていく」
「それだけか?」
「それが重要なんだ。俺たちはリアスたちとの関係を持っている。けど、これがなくなれば完全に孤立する」
「なるほどなぁ。だから、まずは悪魔側との関係を確固たるものにしておきたいと」
万丈が首を傾げる中、マスターは合点がいったと手を叩く。
「もちろん、あいつらが通う学校が狙われているかもしれないからってのもある。けど、一誠たちの思いも知っているからな。こっちとしても、手を貸してやらないとって思える」
「若者には導く者が必要だってやつだな。よし! nascitaは俺に任せて、おまえたちはしっかり大人としての役目を果たしてこい!」
「マスター……」
「ここは喫茶店。お客さんから、なにかしら噂話も舞い込むかもしんねぇだろ〜? 余裕がなさすぎると、子どもは察するぞ?」
おちょくるような口調だが、そこにはしっかりしろよというメッセージが込められているのはすぐにわかった。
「わかってるよ。というわけで、俺は明日の授業内容を再確認しつつ、地下室設計の目処でも立てるとしますか」
大きく伸びをすると、これまでの緊張までほぐれていくようだ。
「よし! じゃあ俺は飯を食う!」
「おいおい万丈? 作るの俺なんだけどよぉ……ああ、それと戦兎! 地下室は快適な空間かつかっこいいやつね!」
冷蔵庫にある食材を確認しながらのマスターから指示が飛ぶ。
かっこいいやつ……確かにデザインは大事だよな。そこも凝ってみるか。
「お父さん、お話終わった?」
「急な買い出しだったので驚きました」
「ほら、言われた通りに買ってきたわよ」
設計図を手に取ったところで、いないと思っていた美空たちがドアを開けて店内に入ってくる。
どうやら、マスターからのおつかいに出ていただけみたいだ。
レイナーレはともかく、美空とアーシアには聞かれたくない内容だからなんだろう。
「たくさん買ってきたな。なに入ってんだ、これ」
「万丈のために使った材料だし。重いし、面倒だし、お金ほしいし」
「お、おう……悪りぃ」
文句を言われながらも、食材の入った袋を万丈が3人から受け取り、マスターの元へと運んでいく。
「おかえりー。3人のおかげでなくなりかけてた食材の補充できたよ、ありがとう!」
「いえ、これくらいいつでも行きます!」
「まあ、置いてもらってる身だし……別に料理も接客も嫌じゃないし」
アーシアとレイナーレも慣れてきたのか、楽しそうな様子が見受けられる。
そんな光景を見ていると気分も良くなってくるもので、俄然設計図に線を引くのが早くなっていく。
「戦兎はそれ、なに書いてるの?」
「これ? これは地下室の設計図。どうよ! この完璧な間取り、地下室へ続く扉の開閉ギミック! 凄いでしょ? 最高でしょ? 天っ才でしょ?」
「冷蔵庫が地下室への扉で、地下室に仮眠室? いや、意味わかんないし……」
ああ、早く作りたい! そして色々な機能を取り付けたい!
「話聞けし!!」
ゼロワンが始まりましたね。
2話時点でですが、作者は仮面ライダー作品の中でもトップレベルに好きです。
いつかゼロワンの話も書きたいですね。まずはこの話をライザー編に持っていくのが先なんですけれども。
そしてあらすじは安定の800文字突破……。