天才物理学者と筋肉バカの新世界より   作:alnas

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「前の世界にはいなかったはずの仮面ライダーたちと邂逅を果たした仮面ライダービルドである桐生戦兎は、華麗な話術によってタカとガトリングのフルボトルを手に入れる」
「なーにが華麗な話術だよ。ユウスケがくれただけじゃねえか!」
「そこまで導いたのが俺ってわけ」
「また適当言いやがって。それより、なんかまともにあらすじ紹介するの久々じゃねえか? っていうか最近俺の影薄くない?」
「ニャー」
「黒猫もそう言ってるしよ」
「言ってないでしょ。だいたいお前の影が薄くても問題ないしな。それより、その黒猫どこで拾ってきたんだよ」
「こいつか? ジョギング中にnascitaまで案内してくれたんだぜ!」
「そんな万丈と黒猫の出会いは描かれない、第31話をどうぞ!」


オーサーの羽休め

 ――眠い。

 日の光が窓から差し込んでくることで一夜が明けたことがわかった俺は、机にゆっくり体を沈み込ませる。

 一眠りしてからnascitaを出るべきなんじゃないだろうか? いやいや、もうこれは今日は休みでいいんじゃないか。

「なに変なこと考える顔してるわけ?」

 寝かける体を起こし、声のした方を向くと、美空が呆れ顔を浮かべてこちらを見ていた。

「いや、ちょっと地下室の設計図を調子乗って書きすぎたな」

「もう……ほら、調度いいからそのまま起きるし」

「えぇ、俺寝てたわけじゃないんですけど。あ、でも無理は体に悪いしちょっとくらい寝ても――」

「いいから起きる。そのままだと本当に寝ちゃうかもよ?」

 再び机に体を預けようとすると、美空から忠告が入る。

 確かに、このまま寝てしまえば授業にも間に合わず、起きる頃には昼過ぎになるだろう。

「状況的にも起きてる以外の選択肢なしかよ」

 前の世界では毎日決まった時間に決まった事をするなんてこと滅多になかったからな。これから習慣づけていかないと、教師としてやっていけなくなりそうだ。

 まずは生活時間の改善からしていかないと。

「うおっ、眩しい……おう、戦兎、美空。昨日早く寝たせいか起きるのも早かったぜ。ちょっと走ってくるわ!」

 あいさつしたかと思えばすぐさま外に出て行く万丈。やはり体を動かしていないと落ち着かないのか?

 あいつは俺よりも適応が早そうだな……流石、考えるよりも先に動き出す単純バカなだけある。

「しばらくは研究もゆっくりとしたペースに控えないとだな」

 けれど、それとは別にそろそろ解明しておきたいこともある。

 本当なら、神器も研究してみたくはあるけれど、どうもあれは宿主と深い繋がりがあるみたいだからな。下手に研究すると取り返しがつかないことになるだろう。

「っと、そうじゃない」

 思考が明後日の方向に向いてしまう前に打ち切り、考えを修正する。

 神器に興味があるのは事実なんだが、俺たちのビルドドライバーのように簡単に取り外せるような代物でもない。

 リアスたちから聞いた限りなら、取り外すなんてことをしたら、その宿主の命はないはずだ。

 だからこそ、気になることがひとつ。

 マスターは、トランスチームガンとフルボトルを所持していた。

「ありえない……」

 俺たちが持っていてマスターに渡したのならわかる。けれど、万丈は論外としても、俺だってトランスチームガンは所持していない。なにより、新世界でマスターに渡すわけがない。

 だとしたら、マスターが持っている物の出処はどこなんだ?

 nascitaを襲ったドーナシークという堕天使はそれらを神器だと言っていたらしいが……俺たちのライダーシステムを神器だと言われたことはあっただろうか?

 俺と万丈のライダーシステムと、マスターのトランスチームガンは完全に別物扱いをされている?

 システム的な問題ではなく、発生源的な問題として?

「――っ、だとしたら!」

 いや、落ち着け。そもそも、そうなること自体がおかしい。神器として成り立ってしまえば、この仮説が説明できてしまう。

 けれどそうなってしまえば、存在そのものが確立されなくなるし、公式が成り立たない。

「はあー……なんなんだよ」

「おう、どうした? 浮かない顔してるじゃないか」

「……マスター」

「はい、おはよう。ほれ、どうせ朝まで起きてたんだろ? 目覚まし代わりの珈琲」

 手前に珈琲を入れたカップを置いていき、キッチンへと入っていくマスター。

 既になにか作業を進めていた美空の隣に並び、彼女と話し始める。

「そういやよ、万丈はどこ行ったんだ?」

「万丈なら走りに行ったよ」

「ほお、やっぱり体動かしてないと落ち着かないってやつかねぇ」

「いや、ただバカなだけだと思うけど」

 あいつに対する遠慮のない言葉。否定はできないので黙っていよう。

 ついでに、マスターの持つトランスチームガンについても、いまは話すときじゃないな。なにが正しのかをハッキリさせてからじゃないと、説明もつかないし。

 やること増えた感じはあるけど、いずれぶつかる問題だったわけだし、仕方ないか。

 今日の放課後にリアスたちからもう1度神器に関して詳しく聞いておこう。もしくは、もっと詳しい人を紹介してもらうか? いや、駒王学園に通う彼女たち以外の悪魔が善良とは限らないしな。下手打ってなにかしらを要求される恐れもある。

 こういうときだからこそ慎重に動くべきだ。

 気になることは多いけど、考え過ぎてもいけない。

「悪魔が朝強いとも思えないし、いま行ったところでいないよな。なら、やっぱりまずは朝食でしょ! マスター、今日の朝はなに?」

 となれば、必要なのは美味しいご飯と緩い時間。

「んー、さっぱりしたものがいいよなぁ。あ、美空。そこ変わるから、アーシアちゃんとレイナーレちゃん起こして来てくれる?」

「りょうかーい」

 美空が出て行くと、マスターの調理する音だけが響く。

 珈琲を飲みながらマスターの様子を観察するだけの静かな時間。こうしていると、ただ喫茶店に立ち寄った気分になれる。

 ……またここで暮らしているっていうのも不思議な気分だ。

「戦兎ー、今日の朝は卵焼きどうする?」

 聞きながら、マスターの手は既に砂糖に伸びている。習慣だろうな。

「いつも通りでー」

「あいよー」

 そんなことを思っているなんて知らないだろうマスターが日課となりつつあるお決まりを聞いてくるので、同じように、変わらない答えを返しておく。

 そうしてまた静かな時間が戻って来る。前の世界でもたまにあった、ゆったりした日々。こんな毎日が続けばいいんだけどな。

「ただいまー! 腹へったぁ……マスター、飯は?」

「おう、おかえり万丈。いま作ってるから、もう少し待ってろよ」

「おう! じゃあもうひとっ走り行ってくるぜ!」

 思った途端に騒がしくなり、帰ってきた万丈が慌ただしくまた出て行く。

「台風かよ……」

「元気があっていいじゃねえか」

「子供に対する感想じゃん、それ。いや、知力は子供だから間違ってないけどさ」

 言えば、マスターは顔を背けた。

 肯定も否定もしないのは優しさと、ちょっとの狡さだ。

「万丈の分は温め直しかねぇ」

「二十分もすれば戻ってくるんじゃない? あいつの走る速度ならそれくらいでしょ」

 その頃にはアーシアとレイナーレも席に着いてるだろうし。

 朝食の準備時間としては十分なはず。

 気づけばまた大所帯になったなぁ。

「んぅ……おはようございます」

「アーシア、顔洗ってきなさい。あと、パジャマも着替えてきなさいよ」

 ぼーっと料理風景を眺めていれば、アーシアとレイナーレが起きてくる。黄色と水玉のパジャマ姿のアーシアはまだ眠そうで、隣のレイナーレが世話を焼いていた。

 まるで姉妹のようで微笑ましい。まあ、順番的に石動家の長女は美空なんだけど、レイナーレの方が長女向きだよな。

 再び裏に戻っていく二人を見送り、美空だけがマスターの手伝いに入る。

「おい戦兎! 見ろよ、黒猫だぜ!」

 大きな音を立てて戻ってきた万丈は真っ黒な猫を連れて帰ってくる。

 抱えているわけではなく頭に乗っているから、猫の方から万丈に引っ付いてきたんだろう。

「万丈、おまえ……」

「あ? なんだよ。猫連れてきて悪いかよ」

 不満そうな顔を覗かせる万丈だが、

「文句なんかねえよ。あ〜猫ちゃんかわいいでしゅねぇ」

 取り出したビルドフォンで撮影を始める。

 黒猫も心得たもので次々にポーズを取り、万丈の頭から肩に降りて姿勢を変えていく。

「……賢いな」

「だろ? 俺が迷ってるときに案内してくれたんだぜ!」

「いや、猫が案内してくれるかよ。それは偶然だろ」

 にしてもいい毛並みしてるな。

 勘違いだろうけど万丈が世話になったみたいだし、ミルクくらいあげないとかわいそうだ。

「マスター、猫にミルクあげたいんだけど余ってない?」

 聞けば、深皿を取り出す美空の姿があった。

「猫ちゃんがお客様でくるのは初めてだよ。ミルク余ってるからあげていいぞー」

「はい、これ」

 許可が下りれば、すぐに美空が皿を渡してくれた。

 猫のそばに置いておいて、後は見てない方が飲みやすいかもな。

 なんてしていれば、アーシアとレイナーレが身嗜みを整えて戻って来た。

「おはようございます、皆さん!」

「おはよう」

 彼女たちがマスターから皿を受け取り、テーブルへと並べていく。

 俺と万丈が手伝う暇もなくスムーズに動くので、万丈と揃って見ているしかない。

 これが普段の給仕で培った慣れってやつか。

「天才物理学者でもこれは無理だな」

「プロテインの貴公子でも無理だぜ……」

 出番なしだな。いや、なくていいんですけどね? こう、なにもしないってのはあまり気持ちのいいものじゃない。

「戦兎、広げた紙束片付けて!」

 手持ちぶさたにしていれば、美空からお声がかかる。

 地下室の設計図広げっぱなしだったな。

「すぐに片付けます!」

 散らばった紙をまとめていく。

 これ、実現させるのにまたスペース作って出入り口の設定もしないとなんだよなぁ。前と同じ空間にするか、どうするべきか。

「おい戦兎、もう準備終わるってよ」

 考え込んでいると、万丈の声が耳に届く。

 両隣にアーシアとレイナーレが座り、真ん中の万丈は少しやりづらそうだ。左右から世話を焼かれて大変だな。

 席に着くとすぐにビルドフォンが震える。

「ん? 朝から連絡なんて珍しいな」

 連絡はリアスからだった。

 メールには今日の部活動で悪魔側の来客があることと、その時間は部室に来ない方がいいだろう旨が書かれている。

 個人としては駒王学園に通うリアスたち以外の悪魔に接触したいところだけど。

「こうやって忠告してくれるのは親切心だもんな」

 わざわざ出向く必要はないか。

「戦兎、食べながら携帯見ない!」

「ああ、悪い。さて、いただきます」

 美空に注意されたので思考を打ち切り、目の前の料理に集中する。

 後のことは学校に着いてから考えるとしよう。

「うまっ!?」

 前の席で騒ぐ万丈。美少女二人からあれもこれも口に詰め込まれてるのに全部処理してる辺り凄いな。

「万丈さん、たくさん食べますね」

「胃袋ブラックホールじゃない。ほら、これも食べておきなさい」

 ……いや、本当に甲斐甲斐しい。ちょっと微笑ましいまであるじゃないの。

 お、卵焼き甘くていいな。

 こうした時間のためにも、しっかりしないといけないか。考えることは多いし、敵の正体もわかってない。いざってときのためにも念入りに地下室を作ってセキュリティもかけよう。

 あとは時間があれば万丈のための道具と、あとはマスターからボトル借りて成分の抽出でもしてみようかな。

「さて、ごちそうさまでした。じゃあ、俺たちは駒王学園にいってくる」

「おう、お粗末様。今日も頑張ってこいよ」

 教師として、楽しい実験を始めようか。

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