天才物理学者と筋肉バカの新世界より   作:alnas

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「天才物理学者である桐生戦兎と相棒の万丈龍我は、駒王町で出会ったシスター、アーシア・アルジェントと共に教会に向かい、そこで教会の現状を知る」
「なんでマスターがあらすじ紹介してるんだよ」
「いいだろ別に。俺だってそろそろ出番が欲しいんだよ。だいたい、おまえだって俺に参加してくれって言ったじゃんか」
「第1話から出てるでしょうが! 自重しなさいよ。マスターに頼んだ原稿はこれじゃなくて、俺と万丈が作った話の方!」
「えぇ……と、隙あり! 教会の現状を知らされたアーシアを見た戦兎は、彼女を自分が信頼できる場所nascitaへと案内することを決める。なあ、信頼できる場所ってのは嬉しいけど、なんで信頼できるんだ?」
「え? それはあれだよ。長く暮らしていればよく知ってるし」
「暮らす? 長く? 戦兎たちがうちに通いだしたのって一月前からだよな? あれ? もしかしてもっと前から来てた? お客さんの顔は覚えているつもりだったんだけどなぁ」
「せ、戦兎と万丈は、それぞれのルートでnascitaへと向かいだした! さあ、どうなる第4話!」
「おっかしいなぁ……」
「もうその話はいいでしょう? ほら、本編始まっちゃうよ」 


セイントの居場所

 駒王町から出て、nascitaへとシスターを連れてきた俺は、店に入ることなく万丈の帰りを待っていた。

 バスには無事に乗れたはずだが……。

「遅いな」

「だいじょうぶでしょうか?」

 シスターも万丈が戻ってこないことに不安なのだろう。

 でもだいじょうぶだ。

「あいつはこの世界で魔王にも等しいからな。バカだけど、優しいし強い奴だよ。あ、これあいつには内緒ね」

「は、はあ? わかりました」

 にしても、バスならそろそろ来てもいいころなんだけど――。

「戦兎ぉッ! おまえ、バス停からnascitaまでめっちゃ遠いじゃねえかよ!」

 叫びながら、万丈が走ってこちらに向かってくる。

 そうか、バス停からnascitaまでの距離……そっかー、計算に入れてないわー。

「ごめーん」

「ごめーんじゃねえよ! おまえ、俺めちゃくちゃ走らされましたけど!? なんで毎回走るの俺なんだよバイクもう一台作れよ!」

「作ったところでボトルがないでしょうが」

「なら普通のバイクでいいっつうの!」

 普通のバイクなら買えばいいでしょうが。なんで既にある物を苦労して1から作らないといけないわけよ。

 だいたい、変形するのが大事なんだよ。

「だからその意見は却下」

「はあ!?」

「その代わり、いずれおまえが驚くようなやつを作ってやる」

「お、そうか! いやー、めちゃくちゃかっこいいのにしてくれよ!」

 この天っ才物理学者さまが作るんだから、かっこいいに決まってるでしょう。

「ふふっ、お二人は仲がいいんですね」

 なんていつものやり取りをしていると、シスターが初めて笑った。人を癒す笑顔っていうのは、彼女のことを言うのかもしれないな。

「なんだよ、普通に笑えるじゃねえか」

「みたいだな。いや、それにこしたことはない」

 笑えないなんて辛いしな。

 とにかく、これで全員揃った。

「行くか」

「だな。あとはマスターしだいってわけか」

「問題ない。さあシスター、入ろうか」

「は、はい!」

 緊張した足取りでついてくるシスターを若干不安に思いながら、慣れた様子で万丈からnascitaへと入っていく。

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃーい。おう、お二人さん。おや? 今日はかわいいお嬢さんも一緒かい?」

 美空とマスターが俺と万丈、シスターを見て声をかけてくれる。

 ここに他人として入ることに毎回のように寂しさはあるが、それでもこの二人は相変わらず温かく迎えてくれるんだよな。それがわかっているから、つい頼ってしまうのかもしれない。

「とりあえず珈琲と、あとこの子に紅茶を」

「あ、俺はパスタも追加で!」

「え? え、あの……え?」

 俺と万丈が普段と変わらず注文をし、シスターはわけもわからずカウンター席に連れて行かれたせいか周りを見ては声を上げている。

 ひとまず万丈に丸投げしておこう。

「んで、そっちのお嬢さんは二人の妹さんかな?」

「いえ、この子はそういった関係の子じゃないんです」

「ほほう? それはおじさん気になっちゃうなぁ」

 マスターが早くも興味を持ったのか、俺に話を振ってくる。前のときも思ったけど、マスターってどこか鋭いっていうか、見逃さない嗅覚があるんだよな。いや、俺の知っているマスターはエボルト要素しかないんだけどね。

 それでも、あれもマスターだったのは間違いない。

 少なくとも、あの日――石動惣一が俺の中で死んだあの日から止まったはずだった時間は、世界を超えてまた動きだしている。あの幻影を追うだけでなく、いまのマスターのことも知っていかないといけない。

「ちょっと複雑な話になるんですけど、いいですか?」

「もちろん。さあ、話してみなさい」

 マスターがひとつ笑うと、つられて自分の頬が上がるのがわかった。

 人の良さそうな笑みも、こちらを受け入れる雰囲気も、以前となんら変わらない。だから、俺が知らないマスターであっても信じられるのだろう。

「実は――」

 

 

 

 シスターであるアーシア・アルジェントのことを話し終えた俺は、話し込んでいる間に美空に怒られたマスターが、話を聞きながら煎れてくれた珈琲を一口飲む。

「しっかし、一人なにも知らされず日本までとはねぇ。あーやだやだ、最近の大人ってのは身勝手なことだ」

 マスターはシスターの様子を眺めながらそうこぼす。

 ちなみに件のシスターは万丈と頑張って身振り手振りで話を成立させようとしているが、どうやら天然気質らしいシスターとバカの万丈とでは相性が悪いらしい。

「なにやってんだか……」

「あの子、日本語は得意じゃないんだっけ?」

「みたいです」

「ふぅん」

 そっか、といった感じで頷いたマスターは万丈とシスターの間に割って入る。

「失礼、お嬢さん。紅茶は美味しいかな?」

「あ、はい! とってもおいしいです」

「でっしょう? いやー、お客さんに最初は珈琲だけと思われちゃってさ。ついつい紅茶にまで手を伸ばしちゃったらこの出来よ。あ、よかったらもう一杯飲んで」

「はい、ありがとうございます!」

 会話成立してるし……あ、万丈も驚いてる。

「凄えなマスター」

「まあな。いい珈琲を淹れるにはこだわった豆が必要なんだ。いい豆を栽培するには、いい声といくつもの言語が必要なのさ」

「いや、いい声とか言語とか関係ないでしょ」

「あるんだなぁ、これが。まあ、それはいいか。それで二人は、その子を連れてどうしてうちに来たんだ?」

 真面目な顔になったマスターの視線が俺と万丈に向けられる。

 ここで言い方を間違えれば、どうなるかはわからない。よし、慎重に――。

「こいつをここに置いて欲しいんだよ」

 ――あのバカ!

「まあ、話の流れからそうなるよな。いいぞ」

「かるっ!?」

「うそーん、いまのでいけるの?」

「ちょ、お父さん!?」

 万丈、俺、美空の声が重なる。

「まあ落ち着け若人よ。俺も一端の大人であり、娘を持つ父親ってやつだ。それが、こんな行く当てのない少女を放り出すなんてできると思うか?」

「いいこと言ってるけど、下心とかあったら刻むからね?」

「怖いこと言うなよぉ……俺の心はいつでも美空だけでいっぱいよ?」

「――……きもいし! お父さんのそういうところ、本ッ当にきもい!」

 カウンターに立てかけてあったうさちゃんのぬいぐるみが美空によって振り回され、マスターの背中に何度もぶつかる。

「なあ戦兎、どうでもいいけどよ。マスターの顔であんなこと言われたらエボルトの野郎思い出さねえか?」

「嫌なこと思い出させるんじゃないよバカ。気持ちはわかるけど、ここにいるのは間違いなくマスターだよ」

「わかっちゃいるけど、なーんか落ち着かねえっていうか」

 エボルトはマスターの姿で暗躍していたからな。

 いいように手玉にとられていた俺や万丈からすれば、当時を思い出すのも無理はない。割り切っていても、俺たちの心にはあいつの姿が色濃く残っているんだから。

「おー、いてぇ。娘が反抗期とは……いつもお父さん、お父さんって笑ってくれてた娘が」

「はあ?」

「ごめんなさい……」

 凄みのある笑みを浮かべられて素直に謝るマスター。

「あ、あの……結局なにが起きたのでしょうか?」

 そんな中、事態に置いていかれたシスターが小さく手を挙げる。

 念のためマスターに確認の意図も込めて目で合図を送ると、問題なさげに頷かれた。

「シスター、よく聞いてほしいんだけど、キミさえよければ、ここで働かないか?」

「はい?」

「キミはあの二人と一緒にここで働きながら暮らす。幸い、美空はキミとあまり歳も変わらないし、マスターはキミと話すことができる上に、優しく面倒見のいい人だ」

 隣で「お、照れるねぇ」なんて聞こえてくるが、満更じゃなさそうだ。

「私、喫茶店で働いたことなんてありませんよ?」

「だそうだけど、マスター?」

 そこで振ってみるが、

「世間ではバイト経験のない学生がバイトを始めるのは当たり前のことだよ。経験がないとダメな世の中になったら、誰も働けないって」

「お父さんがまともなこと言ってる……」

「そうかぁ? よくわかんねえこと言ってるようにしか聞こえないんだけど」

 美空と万丈がそれぞれの反応を見せる中、俺はそのことをシスターに伝える。

「私、ここにいてもいいんですか?」

「もちろん! あ、そうだ。美空とアーシアちゃんの二人でネットアイドルやらない? そこの二人の話に対抗して、ツインボーカルで歌って踊ってさ。どうどう?」

「絶対やらないし!」

「えぇ……流行ると思うんだけどな……」

 なんか、どっかの誰かさんが喜びそうだな。

 シスターに話しかけるマスターが、美空の言葉も中継して伝えながら3人で話し始める。

 平和な光景に温かい気持ちになるが、瞬間、外から殺気を向けられたのがわかった。

「戦兎!」

 万丈も持っていたフォークを落とすほど驚きながらもすぐさま立ち上がる。

「お、おいおい、どうした?」

 マスターが俺たちの行動に驚きの声を上げる。

 仕方ない、か。

「すいません。ちょっと駒王町に忘れ物をしたみたいなので、取ってきます。戻ってくるまでシスターのことお願いしてもいいですか?」

「あ、ああ。それはもちろん構わないけど、急だな。なにか大事なもんでも忘れてきたのか?」

「そんなところです。行くぞ、万丈」

「……おう」

 俺たちは互いに、もしものことを考えてビルドドライバーを手にしながら扉へと向かう。

「あれって……どこかで見たような――――」

 扉のすぐ外には人の気配はない。

「出るしかないか」

「だな。どうする?」

「出てすぐ、左に走るぞ」

「わかった」

 小声で確認しあった後、扉を開く。そのまま外に出てすぐさま扉を閉め、手筈通り駆け出す。

 なにもアクションを起こしてこないのをいいことに広い公園まで来てすぐ。

「おい戦兎! なんか公園の周りが覆われてんぞ!」

 万丈がよくわからないことを言い出した。

「覆われてるって、なにもないぞ?」

「はあ!? なんで見えないんだよ! ほら、あれ見ろって!」

 万丈に言われるがまま目を凝らして見ると、やっとのことで透明な幕のようなもので公園中が囲われていることに気づけた。

「おまえ、よくわかったな……」

「ん? まあな。よく目はいいって言われてきたからな」

 それだけだろうか?

「へえ……ただの人間かと思ったら、もしかしてこちら側かしら? でもいいわ。どうせすぐ死ぬんだし」

 女性の声が辺りに響いた瞬間。

 無数の光が、俺たちを襲った――。

 




「そういや、日間ランキング(加点式・透明)で1位になったって報告があったぜ?」
「俺たちしかいないのに、誰から報告なんて来るんだよ」
「さあ? 投稿者の名前なんて――あん? おい戦兎、これ見てみろよ。投稿者のところ、名前の代わりに蛇の模様が描かれてるぜ? さてはこいつ、バカだな!」
「蛇の模様……ちょ、バカ! おまえそれよく見せろ!」
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