「なあ、堕天使とかマスターが覚醒とか、なんかよくわからねえことになってるけどいいのか?」
「いいわけないでしょ! っていうかおまえね、あらすじ紹介に割り込んでくるんじゃないよ!」
「でもよ、マスターが覚醒ってどういう意味だよ! っていうかスターク!? やべえぞ戦兎、新しい敵なんかより、スタークの存在の方が危ねえじゃねえか!」
「うるっさいよ! 俺だってこの事態にいっぱいいっぱいだってのに。そうして、覚醒したマスターは決意と共に戦いへと身を投じる」
「なんで冷静にストーリー語ってんだよ! やっぱりスタークの正体ってあいつなのか!?」
「それは本編見ないとわからないでしょうが! というわけで、どうなる第7話!」
コブラフルボトルを用いて変身した石動惣一は、ブラッドスタークへと姿を変える。
顔や胸部にコブラの意匠を持つ、ワインレッドの仮面の戦士。怪人として暗躍していたことを知っている戦兎や万丈からすれば、「仮面の戦士」の名を名乗るのは到底有り得ないことなのだが、今この時だけは、彼は紛れもなく、その名を持つ戦士なのだろう。
「まさか、自分の意思でこの姿になる日がくるなんてな……にしても、この記憶、紛れもない俺なんだよなぁ」
ため息を漏らしながらも、仮面の下で笑みを作る。
「姿が変わった……報告にはなかったが、貴様もしや神器の持ち主か?」
「神、器?」
その言葉を知らない石動惣一――マスターはブラッドスタークの姿のまま首を傾げる。
「惚けても無駄だ。その力、神器でないはずがないだろう!」
「んなこと言われてもなぁ……これにはちゃーんと、正式名称があんだよ。もちろん、おまえさんに話すことはないがな」
「舐められたものだな。この私を、人間ごときが!」
マスターの言動に苛立ちを見せたドーナシークは、手元に光の槍を作り出す。
「おおっと、これ以上店を壊されちゃたまらないんだよ」
素早く動き出したスタークは、すぐさまドーナシークに肉薄すると、そのまま押し出すようにしてnascitaの壊された扉から外へと出て行った。
「アーシアちゃん、美空と一海くんたちのことよろしく!」
「え!? あ、はい!」
それだけ言い残し、二人の姿は消えていく。
残されたアーシアは一人、誰の目もないことを確認してから、手を美空へと向ける。誰も見ていない中、nascitaの中では淡い光が美空を包んでいた。
nascitaにいた面々の安全を確保したスタークは、そのまま勢いを殺さずにドーナシークを掴んだまま移動していく。
「この、貴様!」
「悪いね、あの場所はあいつらが帰ってこれる場所なんだよ! だいたい、これ以上備品壊されたらバイトしないとやっていけなくなっちゃうでしょうが!」
「そんなデタラメな理由があるかぁ!?」
「よっと!」
人気のない路地裏まで来たスタークは、ドーナシークを放り投げる。
「チッ!」
投げられた先に着地したドーナシークは、自身が反応できない速度を出したスタークを睨みつける。
取るに足らないと思っていた存在から、明確な敵へと認識を変えたのだ。
その殺気とも言える目を向けられたスタークはドコ吹く風、というわけでもないが、さらに恐ろしい存在と言葉を交わし、在り方を見せつけられ、それでも抗ってきたせいかドーナシークの目を見返していた。
「貴様、何者だ? その身のこなし、戦いに身を置いていた者か?」
「いいや」
スタークは首を横に振り、されど真面目な声で語る。
「俺なんて、どこにでもいる親以下の存在さ。娘を守れず、娘を守ってくれていた奴らを傷つけ、利用して……それを止められずにいいように使われた、ダメな親だ」
「…………」
「けどな、だからこそいまの俺にはあいつらを助けるために戦う義務がある。力がある。そしてなにより、償える平和な世界が続いている。そんな平和を、失うわけにはいかねえんだよ。ってなわけで、アーシアちゃんも渡せないな」
「だろうな。その意思はわかった。だが我々にも、あれは必要なのでな」
「はあ……まあ、退いてはくれないよな。なら悪いけど、あんたは倒す敵だからな。おじさん、手加減とかしないから覚悟してくれよ」
スタークはゆっくりと、自身の握るトランスチームガンを構える。
「わからんな。人間はわからない。もういいだろう、消えろ」
「消えるのは、あんたさ」
最早語る言葉はない。
同時に動き出した両者は、しかし。
「スペック高すぎたぁぁぁぁぁぁっっ!!?」
これまでなんとか制御していたスタークの動きをミスしたのか、接近しようとした敵であるドーナシークの横を通り抜け、スタークは背後の壁へとぶつかっていた。
「……貴様、ふざけているのか?」
「いってててて……ふざけてなんかねえよ。経験はあっても、実際に思考して動くのは違うってわけか。こりゃ、ちょっと特訓ってやつが必要かね」
ふざけている。
それがドーナシークがスタークへと抱いた気持ちだった。
本来、人間であれば脅威の対象となる堕天使である自分に対してこのようなおかしな行動を取るだろうか? まったくもって人を煽るのが得意なようだ、とドーナシークは決めつけた。
「己の神器を制御できないとは……惨めなものだな」
「はっ、そいつはどうかな?」
「なに?」
「俺がまだうまく動けないっていうなら、動かずに戦えばいいのさ」
言うや否や、スタークの胸部装甲から巨大なコブラが召喚される。
「なに? なんだ、それは! 魔獣創造ではないだろう!? なんの神器だそれは!」
「悪いね。こっちにはかわいいペットがいるのさ。さあ、頼むよ」
スタークの言葉を聞き届けた巨大なコブラはドーナシークを囲うように回り出す。
「はやく帰らないとかわいい娘たちの安否が心配でね。さあ、これでお別れだ」
「ふざけるな! この程度の包囲、抜けられんと思ったか!」
ドーナシークが冷静さを欠き、背中から翼を生やし、空へと単調な軌道を描き飛び上がる。
その直後、二つの銃声と共に彼の体が地面へと落下した。
「ガッ!? どういう、ことだ――貴様かぁっ!!」
翼を撃ち抜かれ、さらに地面への落下ダメージを負いながらも立ち上がったドーナシークはトランスチームガンを構えたままのスタークへと叫ぶ。
「ああ、俺さ」
これまでの言動含め、ドーナシークがイラついていることは手に取るようにわかっていた。だから、その苛立ちと、彼の知らない攻撃方法を取ることで生じる僅かな焦りを待っていたのだ。
多くの人と日々接し、そしてなにより、エボルトとして活動させられていたあの悪夢のような10年が、相手の心理を捉えることに一役買っている。
マスターは、スタークとしての自分の力量を過信も、信頼もしていない。だからこそ、より可能性の高い戦術を選んだ。
「心理戦は得意なんだ。あまりいい思い出じゃないけどな。さって、素直に言うことを聞いてはくれないみたいだし? とりあえず、ケジメはつけようか」
「ま、待て! 俺を殺せば、いずれ次の堕天使が襲いに来ることになる! それに俺なら、それらの情報を渡すことだってできる! 悪い条件ではないだろう!?」
確かな殺気を滲ませるスタークに、ドーナシークは話を持ちかける。
「あー、そうかい。でもなぁ、そうやって信念の欠片もないようなこと言う奴に限って、後々裏切るんだよ。これは経験談だけど、本当に信じられる奴ってのは、必ず一本筋の通った奴なんだなこれが」
剣状の武器、スチームブレードを取り出したスタークは、それをトランスチームガンと合体させ、ライフルモードへと移行する。
「俺は戦兎や万丈のように甘かないぜ。あいつらができないことをやってのけるのが、若者を支える大人の役目でもある。それに、あいつらならなんだかんだで、話の通じる愉快な仲間を、この世界でも見つけるさ。だから、あんたはもう眠りな」
ライフルモードのスコープの先に映るドーナシークに告げながら、スタークはトリガーを引く。
フルボトルの力を使用して撃ち出された一撃は、コブラに阻まれ逃げ場のないドーナシークへと命中。エネルギー弾の持つ威力を余すことなく食らったドーナシークは、その場で消滅した。
「やっぱり慣れねえなぁ……ったく」
変身を解いたマスターは、手元に残ったトランスチームガンとコブラフルボトルを一瞥し、陽気な雰囲気を取り戻してからnascitaへと戻っていった。
俺――桐生戦兎は、公園での一戦を抜け出し、万丈と共にnascitaへと戻ってきていた。
「無事か、美空、マスター!」
「おい、だいじょうぶだろうな、アーシア!」
二人同時にnascitaへと駆け込むと、すでに扉は破壊され、辺りにはガラス片が飛び散っていた。
「なっ!」
「はあ!?」
だが、店の中の様子は明るいもので、美空、マスター、アーシアに加えて一海と三羽ガラスの7人が壊れた椅子や机、店内にも散らばったガラス片なんかを総出で片付けていた。
「ん? おう戦兎、万丈! 忘れ物は見つかったのか?」
「え? あ、ああだいじょうぶです、見つかりました。それよりマスター、お店どうしたんですか? なにかありました?」
「あー……まあ、ちょっとな。詳しい話は後にして、まずは片付けからかな」
確かに店内は酷い有様だが、店の中がここまで荒れたって言うのにどうしてマスターたちは傷ひとつ負っていないんだ?
だいたい、ここにいる人たちでは俺と万丈が公園で会ったような奴相手に勝てる見込みはない。
俺がほとんど知らない人となるとシスターであるアーシアだが、彼女に人と戦うことができるとは到底思えない。
「どういうことだ?」
「あん? どうしたんだよ、戦兎」
「どう考えてもおかしい。俺たちが戦ったあの女の仲間があいつと同じような存在なら、nascitaを襲撃されているなら誰も生き残っているわけがない……」
「っても、全員いんぞ? あと、よくわからないけどかずみんたちもな」
そう、万丈の言う通りだ。マスターの言葉からも、なにかがあったのは間違いない。ならば、誰がそれを解決したかなんだが……。
「おい、おまえらも常連客か? なら手伝え。みーたんのいる最高の店がこのままでいいわけがねえ。変な奴に荒らされちまったんだけどよ、マスターが追い払ってくれたし、せめて俺たちで店を直そうぜ」
「かずみん……」
「なんでおまえがその呼び名知ってんだよ、コラ。勝手に呼んでんじゃねえぞこのエビフライ頭」
「エビフライのどこが悪いんだよ!」
「いや、悪くねえけど、おまえソースぶっかけんぞ」
「やってみろよ!」
「ああん?」
「はあ?」
一応、この世界だと話すのは初めてだと思うんだけど……っていうか、マスターが追い払った? 変な奴!?
俺はマスターへと視線をやると、当の本人はため息を吐きながらこちらへと近寄ってくる。
「悪い、ちょっと外すけど、ここ頼んでもいいかな?」
「だいじょうぶです!」
「ここはまかせちゃってよー」
「いつもうまい珈琲飲ませてもらってるからな」
三羽ガラスが返事をし、マスターは俺の肩を叩いてから外に出て行く。
万丈は――一海と話し込んでるし放っておくか。
そして俺は、マスターと最初にであった場所まで連れてこられた。とは言っても、それを覚えているのは俺だけなんだけど。
「懐かしいなぁ」
「え? なにが、ですか?」
マスターの言葉の意味はわからなかった俺は問いかけるが、マスターはひとつ笑って、こちらへと向き直った。
「ほんと、懐かしいよ。なあ、戦兎。ここは俺とおまえが最初に出会った場所だったよな」
「なあ、この作品、日間4位まで上がったときがあったらしいぜ?」
「ふーん」
「ふーんって、もっと驚けよ!」
「いや、十分驚いてるって。でもさ、続けてくとタイトル考えるの大変なんだよなぁ」
「そこは天才物理学者がどうにかしろよ!」
「いや、物理学者になにを求めてるんだよ」
「あー、こういうときだけ物理学者持ち出しやがって! とにかく、日間4位ありがとな!」
「ああ、読んでくれている人たち、ありがとう!」
『まあ、ぜんぶ俺が仕組んでいるんだけどな……』
「「――っ!?」」