「戦い方はまだまだだったけどね」
「言うねぇ。流石主役ライダー。上から来るねぇ。nascitaへと戻って来た戦兎と万丈は、nascitaにいた面々が無事なことを確認。戦兎と石動は場所を移し、前の世界で二人が出会った場所で話始める」
「これ、どう見てもマスターがエボルトなんだよな。もしかしておまえ……」
「ふふふ、気付いちまったか……そう、『オレ』は」
「はい、ストップ! 気になる続きは本編で! どうなる第8話!」
「おいおい、焦らすなよ戦兎。別の俺の正体くらい今更明かしたところで」
「あー、はいはい。ダメだからね? もう早く本編行っちゃって!」
心のどこかで、仲間の記憶が蘇る可能性があるんじゃないかと期待していた。
美空の、一海の、玄徳の、紗羽さんの、お世話になった、救ってきた人たちの記憶がもしかしたら戻るなんてことがあるんじゃないかと、奥底では期待していないわけじゃなかった。
なのに――。
「ほんと、懐かしいよ。なあ、戦兎。ここは俺とおまえが最初に出会った場所だったよな」
神妙な顔を浮かべていたマスターは、ひとつ笑ってから、俺にそう言った。
瞬間、湧き出た感情は怒りか、焦りか。それとも別のなにかだったのか。その感情は、無意識のまま4つの音に乗せて体現していた。
「エボルトォォォォッ!!」
怒声が自分の口から漏れる。
けれど理性は冷静に物事を捉え続けており、左手にはビルドドライバーを握っていた。
「ちょ、ちょっと待てって! いや、本当に待て!」
「なにをだ」
だが、エボルトの様子がおかしい。
普段の飄々としつつ人をバカにした様子はなく、余裕も一切感じない。完全に狼狽えている。
感情を手に入れたエボルトは姑息で卑怯でいて、激情的な奴だった。けれど、こうも人間相手に慌てるのはあいつのプライド的にもできないことのはず。
「……エボルトじゃ、ない?」
「はあぁぁぁ……焦ったぁ。そうか、そうだよな。俺本人とおまえとじゃ前の世界じゃ話したことないんだし、あんな言われ方したらそりゃこうなるよな」
マジで焦った、と言いながらマスターがその場にしゃがみ込む。
表情が見えないが、下向いて笑ってたりしないよな? どうする? 一度ライダーキックかましてから話し合うか?
「戦兎、いま物騒なこと考えてたろ?」
「まさか。それで、あんたマスター本人ってことでいいんだよな?」
疑っていても仕方ない。
あとで装備を整えて、万丈と同じようにエボルトの因子がないか調べるしかないな。ってことで、俺は目の前の男が石動惣一本人と判断を下し接することを決めた。
「ああ、もちろんさ。俺は二度とおまえたちを裏切らない」
信じろとは言えないけどな、とマスターはこぼすが、こればかりは仕方ないことなんだと思う。
こればかりは、エボルトの残した爪痕がでかすぎる……。
「それで? 信じられないけど、あんたにはエボルトに憑依されていたときの記憶が残っているんだろ?」
そう。これまでの言動から察せていたことがひとつ。
俺との自然な遣り取りで忘れがちになるが、マスターは俺たちと同じ、前の世界での記憶を有している。
有りえない……とは言い切れない。想像できる事柄はいつ現実になってもおかしくないんだ。だから、エボルトのような存在だって広い宇宙にはいたりする。
もっとも、当のエボルトはこの新世界を創るための最後のピースとなって消えたわけだけど。
「まあ、それはいいか。で、マスター。答えは?」
「イエスだ。ちょっと長くなるが、聞いてくれ」
「……仕方ないよな。聞くよ、マスター」
俺は、nascitaをドーナシークと名乗った自称堕天使が襲撃してきたこと。
一海と三羽ガラスが交戦し倒れたこと。
狙いがシスター・アーシアだったことに加えて、神器という謎の物が存在していること。
そしてなにより、マスターがコブラロストフルボトルとトランスチームガンを所持していて、ブラッドスタークに変身できることを、本当に長い時間をかけて説明された。
「神器っていうのがなんなのかは、わからなかったのか?」
「あー……そういや、これを見てそんなことを言っていたな」
マスターが指し示すのは、トランスチームガンとフルボトル。となると、ライダーシステムもその類ってことになるのか? でも神器なんてもの、葛城親子のデータには一切の記載がなかった。
いや、そもそもとして、堕天使なんていう聖書の存在を名乗る集団がいるのがおかしい。
「マスター、あんたが相手をしたドーナシークって奴は、黒い翼が背中から生えてたか?」
「ああ、生えてた! よくわかったな!」
「実は俺と万丈も、女性の堕天使って奴と交戦している……と思う」
スマッシュではなかった。
格好はイカれていたけど、翼も確かに生えていた。まるで、最初からそのように作られた生物であるかのように。
「新世界になったことで生じた『なにか』ってことか? それとも前の世界でも出会わなかっただけで元から存在していた地球産の超常の生物?」
「さすが天才物理学者。本物はやっぱ頭良さそうな発想だらけだな」
「え? お、そう? まあ、俺って天っ才物理学者だしね。それよりマスター、こうして話すのは初めてになりますよね?」
「あーやめやめ。エボルトの中からずっとキミたちのことは見ていたんだ。だからあいつが憑依してたときと同じように、タメでいいよ。じゃないと落ち着かなくてさ。なまじあいつと過ごしていたせいか、キミたちは俺にとっても、大事な存在なんだよね」
「マスター……」
「そういうことだから、おまえはおまえらしく俺に接してこい」
負い目を感じさせない、感じない人だ。
俺にだって、エボルトを好きにさせた、戦争を引き起こした責任をいつも感じているのに、あの人がなにも感じていないわけがない。なのに、それをぜんぶ一人で背負って立っているんだ。
「そっか……エボルトなわけがない」
一人、そう納得するしかなかった。
せざるを得なかった。僅かに滲ませた、俺を見たときの悲しげな顔。なにかを決意した人のみがする顔。
目の前に立つ俺よりも大人なあの人は、間違いなく美空の父親で、俺がまだ知らないマスター本人なのだろう。
「それはそうと、おまえさんたちはいまどこで暮らしてるんだ?」
起きたことの話し合いを終えたマスターは、そう問いかけてくる。
誤魔化したところで意味はないので、そのままのことを答えるしかなく、俺と万丈が現在生活拠点にしている、昔パンドラボックスを隠していた場所のことを話した。
「はあ!? 世界の英雄さまがなにやってんだよ!」
「しょうがないでしょうが! ここじゃ俺たちは完全に異物なんだから!」
「異物?」
わけがわからない、と顔で語ってくるマスター。
「そうか……マスターはエボルトから解放されてからずっと寝てたから、どうなってこの新世界ができたのか知らないんだ!」
「そうだよ、なにも知らないんだよ俺」
「はあ……じゃあ、説明していくと――」
俺たちとエボルトの戦いの記憶。
父さんの望んだ世界。
俺たちが掴み取った、人々が平和に生きていける世界。
誰もが、スカイウォールの惨劇から辿ってきた物語を無くした、無かったことになった世界。
マスターが話してくれた今日の話よりも長い時間をかけて、あの日々を語った。
「…………そうか。だから新世界か」
もう、仮面ライダーがいなくても暮らしていける。
「はずだった」
「だった?」
「堕天使だ。よくわからないけど、妙な力を持っているのは間違いない。あれは人には脅威だ」
「そうだな。仮にも仮面ライダーだった男があっさりと吹っ飛ばされたわけだし?」
「一海はこの世界じゃ仮面ライダーだった経験も記憶もないよ。ともかく、個人で動いているにしろ、組織だって動いているにしろ、人の脅威が残ってるのはいい状況とは言えない」
対象が俺や万丈、覚醒したマスターだったからこの程度の被害で済んでいるだけだ。いや、もしかしたら――じゃないな。確実に、人間への被害はもう起きていると考えていいはずだ。
「今回で終わってくれればいいけど、シスターへの再度の襲撃は容易に想像できる。もしかしたら、次はもっと強い奴が来る可能性だってある」
「……なあ、戦兎。おまえと万丈、住む場所ないんだよな?」
「ああ。でもいまはそんなことを話してる場合じゃない」
「そうでもないぞ? 次もアーシアちゃんが狙われたら、うちの可愛い娘たちが危険に晒されるわけだろ?」
「娘たち?」
「美空はもちろん、うちで面倒見るならアーシアちゃんも俺の娘みたいなもんだろ。んで、俺ももちろん二人は守るが、最後の最後、頼りになるのはおまえたちなんだよ」
「わかってる。できるだけ毎日nascitaに顔は出すようにするよ。あ、だからちょっとはまけてよ?」
もちろん承知している。
マスターの言いたいことは当たり前のことなので、俺も異論はない。
「ん〜ちょっと違うな。俺はな、戦兎。あの悪夢から美空を守り、あまつさえ俺まで平和な世界に戻してくれたおまえらを放っておくことも、近くにいるとわかってて黙ってることもできないんだよ」
「はあ?」
「つまりだ。おまえと万丈、今日からnascitaで暮らせ。な、いいだろう? 移動時間も短縮できるし、アーシアちゃんも守れる。そんでもって、快適な暮らしだぞ? そうだ、地下室ももう一度作ろう! 男のロマンだし、隠れることもできる! これ決まりな!」
まくしたてるマスターは楽しそうに語る。
「いや、そもそも俺と万丈がいることで更に厄介なことになだって」
「関係あるかよ! おまえらは世界の異物なんかじゃない。この世界に生きる、平和を掴むべきただの人だ! おまえらだけが苦労を背負う必要がどこにある!? 本当なら対価を払うべきは俺だってのにおまえたちと来たらまるで当然のように平和を放棄して、それでいいわけないだろ。いいからうちに来い! そんでもって、俺にできる限りのことをさせろ!」
「でも――」
「でももくそもあるか! これは俺の自己満足! 俺の平和のためにすることだ! 愛と平和のために戦ったんならそれぐらいさせろってんだよ!!」
息を切らしながらも言葉を止めなかったマスターは、叫びながらも表情には笑顔が見える。
そうして、俺に手を差し出した。
「たかが居候二人だ。うちで養えない程度じゃない。だから来い!」
「言うじゃん。前は閑古鳥が泣いてたし、バイトしないとやってけなかったのに。――ありがとう、マスター。改めて、よろしく」
理由をもらってまで断れるほどじゃない。だから、きっとこれでいいんだと思う。
あの日と同じこの場所で、俺はまたマスターと初めて出会った。今度は、石動惣一としてのマスターに。
そうしてあの日のように、もう一度この人の手を取った。
でも、今度握ったこの人の手は、間違いなんかじゃないと思えたんだ――。
「なんかすげえ量の感想が溜まってんな。どうすんだ、これ」
「全部読むに決まってんだろうが! 中にはみーたんへの応援メッセージはあるかもしれねえんだぞ! 俺たちは新たな同士を迎え入れる寛容な心があるからな!」
「同士って……かずみんみたいなのがこれ以上増えたら暑苦しいだけじゃねえか?」
「あん? 筋肉バカ枠のおまえがそれ言うか普通」
「枠ってなんだよ!」
「ちょっと黙ってろ。もらった感想には必ず返信する。だからゆっくり待ってろよ。一度寝るからな」
「はあ? 寝てる暇あったら感想返せよ!」
「寝るほうが大事だ。明日もまた早くならnascita行ってみーたんに会うんだからな」
「おい、マジかよ――――もう寝やがった……」