時は流れ、季節は夏。日差しが強くなり、外で活動するのが億劫になる時期。エレメンツの屋敷がある森も姿を変え、咲いていた花は青葉に生え替わり、日中は蝉の音が響き渡る。
そんな中、冷房の効いた屋敷の中でエリアとアウスはソファーに腰掛け、ヒータとウィンはソワソワしながらとある物を待っていた。召喚獣達もヒータ達の足下で鳴き声を上げる。
「今日だよね!?」
「そう!今日だよ!」
「二人とも落ち着いて。動いたって届くのが早まるわけじゃないから」
「でも、待ちきれないのは分かるなぁ。待望の新しい杖だし」
そう、今日はアダマシアが製作した新しい杖が届く日。結局、製作費だけをアダマシアに支払い、使用素材からは考えられないほど格安で新しい杖を作って貰うことになったエレメンツ。
ただ、竜の素材を使用した物となると加工が大分難しいようで、納品までに時間が掛かってしまったのだ。
『すみません。納期を短縮するためにも現場に来て貰ったのに、結局お時間を頂くことになり・・・・・・。少しまけておきますね』
リーダーのライザから謝罪を受け、更に値段を安くして貰ったためエメレンツのお財布にはほぼノーダメージで製作された今回の杖。エリアもどこか落ち着かない様子だった。
まだか、まだかと待っていたその時、玄関の扉が開かれる。
「お待たせ、お届け物が届いたぞ」
「「待っていましたっ!」」
少し汗を掻いて屋敷に入ってきたのはお手伝いさんのヒカリ。その腕には四つの縦長の箱が握られていた。箱にはアダマシアのギルドマークが記されており、それが四人と四匹が待ち望んでいた物だとはっきりと分かる。
かけっこのようにスタートダッシュを決めるウィンとヒータ。そんな二人の後を駆け足で追いかけるエリア。やれやれと苦笑いを浮かべて彼女たちの後ろの歩くアウス。
自分の元に来た順番にヒカリはそれぞれの名前が記載された箱を渡していく。
「おぉ・・・・・・これがあたしの新しい杖!」
「なにこれすっごく軽いよ!?」
「なのに強度は前の杖の何倍にもなってるみたい。無限に使えそう・・・・・・」
「デザインはあえて前のままにしてくれているのがいいね。愛着が湧くよ」
各々が召喚獣の杖を手にして感動する中、召喚獣たちは杖の魔法石へと飛び込んで姿を消していく。彼女たちが嬉しそうにしている様子を見て、ヒカリも自然と微笑みを作っていた。
だが、浮かれている場合ではない。新しい杖を作ったら次にやることは依頼だ。未だに依頼を受けられていないこの状況に慣れてはいけないのだ。
「さて___新しい杖になったからといって、サボっている暇はないよ。次の依頼を探さないとね」
「その前にアウス。杖と一緒に二通手紙が届いたんだ」
「手紙? あたし達に?」
「一つはアダマシアさん達から。もう一つは、依頼だそうだ」
「ほんとっ!? やったぁ!」
先ほど杖と共に届いた二通の手紙をアウスに手渡すヒカリ。一通は杖が入っていた箱に刻印されていたアダマシアのギルドマーク。そしてもう一つは謎の刻印が記されていた。
一旦、そちらの手紙は置いておいてアダマシアの手紙を開けるアウス。中身は杖の領収書と写真が一枚入っていた。領収書の金額はアウスの想像以上に安く、最後の行に『特別値引』の文字が。その額が大きくアウス達は改めてライザに感謝する。
入っていた写真は、リツとベリルをセンターにしたアダマシアと相棒達が笑顔で写っている集合写真で裏面にはそれぞれのメンバーと召喚獣をデフォルト化したイラストが記載されていた。
写真にはそれぞれ手書きのメッセージが書かれており、ライザは『またのご利用をお待ちしております』。シークは『また一緒に冒険しような!』。サーヤは『これからも共に頑張りましょう』。リツは『本当にお世話になりました!ありがとうございました!!』と記されていた。
それぞれの性格が出たメッセージに皆微笑みを浮かべる中、アウスは領収書をファイルに仕舞って次の手紙を確認する。
その瞬間、アウスの身体が凍りついた。
「アウス?」
「嫌なんで訳が分からない本当になんでうちに何か理由があるはずだけどあるわけがない本当になんで」
「あ、アウス?」
呪文のようにブツブツとつぶやくアウスにエリアの声が聞こえていない。まだ何か言っている彼女からその手紙を取り上げ、エリアが確認する。
「・・・・・・え゛」
「エリアちゃん?」
「なによ、そんな声出して」
まだ封も開けていないのにエリアもアウス同様に可笑しな声を上げて固まる。まるで意味が分からないヒータとウィンもエリアに近づき、その手紙を見つめる。
封の表面には『エメレンツ様への依頼書』と記載されており、その文字の後ろに差出人の刻印が刻まれていた。
どこか既視感があるその刻印を数秒見つめたヒータとウィンは____
「はぁあああああ!!!!!?」
「こ、これって!? なんで!? どういうことなの!!!?」
二人揃って理解が出来ないと言わんばかりに叫んでいた。
四人が意味不明な行動を取り始め、流石にヒカリも気になってその手紙を見る。何か呪いでも掛かっているのかと思ったが、特にそのような気配はしない。
固まっているエリアから今度はヒカリが手紙を取り上げ、全員に何があったのかを確認する。
「誰も開けられないなら、俺が開けようか?」
「・・・・・・ウン、オネガイ」
「エリアはなんでバイドみたいなしゃべり方なんだ?」
ヒカリが封を切り、中身を確認すると一枚の手紙が入っていた。取り出しその内容を代弁する。
「エレメンツの皆様へ。此度は我らの拠点ペンタメローネにて依頼を貴女方に発注したく存じます。つきましては、ペンタメローネにお越しくださいませ。お待ちしております。創作ギルド ウィッチクラフト代表 ハイネ・・・・・・だそうだ」
「うぃ、うぃうぃうぃうぃウィッチクラフトよね!!? 本当に、そう書いてあるのよね!ヒカリ!!!」
「ああ・・・・・・どうしたんだ、ヒータ。そんなに慌てているのは珍しいぞ」
内容を読み上げてもヒカリは現状がサッパリ理解できない。ヒータは興奮気味に内容を確認してきたし、ウィンは完全に固まっているし、アウスは先ほど以上に早口で何かをつぶやいているしで、何も情報が入ってこない。
そんな彼にエリアはゆっくりと、現実だと噛み締めるように語り口調で説明し始める。
「ヒカリ君・・・・・・その、黒星って覚えてる?」
「ギルドの総合ランクのことだよな。アダマシアさん達は黒星6だったよな」
「・・・・・・創作ギルド ウィッチクラフト。その黒星は・・・・・・13なの」
「13? アダマシアさん達の倍以上って、すごいな」
「凄いっていうものじゃないんだよ。この世界に黒星13のランクを持っているのは、ウィッチクラフトだけ。プロファシー、エンディミオン、そのほかの国全てを探しても、ここしかない。いわば・・・・・・創作ギルドの頂点。それが、ウィッチクラフトなの」
それを聞いてようやくヒカリは状況を理解し始める。
つまり今の状況は、世界一のギルドが『何故か』非公式ギルドであるエレメンツに依頼を出すという、本当に意味が分からない状況なのだ。
「偽物という線は?」
「あるけど・・・・・・ウィッチクラフトの名を騙るのは余りにも命知らずな事なの。噂では、その名を騙ったギルドは全員宝石になって見つかったとか・・・・・・」
「・・・・・・恐ろしいな」
「とにかく、さっさと準備してペンタメローネに行こう。お待たせしたら、何をされるか分からないよ・・・・・・」
「ヒカリ・・・・・・ほんっっっとうに失礼の無いようにね」
アウスもようやく現実に戻ってきたようで、地の底から出た声でヒカリに忠告する。相手は世界一のギルド。もし粗相があれば、本当にエレメンツが潰されてもおかしくないのだ。
時間は昼前。なのに、この場の全員が空腹を忘れてしまっていた。
時刻は正午。エレメンツはプロファシーを経由し、創作ギルドの街『ペンタメローネ』へと転移魔術で到着していた。
ペンタメローネは大昔に海沿につくられた港町。公益が盛んで、街中には常に海風が吹き、今の季節では非常に頼りになる避暑地でもあった。
切り立った山や谷に守られ、周囲からの襲撃は少なく、成立ちの由来から創作ギルドが非常に多く、野生動物にも襲われることは少ない安全地帯の顔も持つ。
そんな夏が似合う爽やかな街に、エレメンツたちは冷や汗ダラダラで目的地へと向かっていた。
全員身体はガチガチに固まり、いつもなら楽しく会話を弾ませて冒険を楽しむところだが今は誰もがそんな気楽な心情ではなかった。
(本当になんでウィッチクラフトが私達に依頼を・・・・・・? ダメ、理由がまったく分からない!)
(というか、なんでウィッチクラフトがあたし達のこと知ってるのよ。それがまずおかしいわよねっ!?)
(なにかあったら、私達が解散させられちゃう!? 気をつけないと・・・・・・)
(冷静に冷静に冷静に冷静に・・・・・・なれるわけないだろぉ!? 世界一のギルドだぞっ!?)
(失礼がないように失礼がないように失礼がないように・・・・・・)
白いレンガで出来た坂道を上り、様々な店の前をスルーし続けて、とにかく急いで歩き続ける。途中、誰かが声をかけて気がするが答えられる余裕は全くない。申し訳ないが、無視して前進を続ける。
そうすること三十分程度。ヒータとヒカリを除いた三人が夏の日差しにやられてふらふらになる頃、青い屋根をした白い屋敷が彼女たちの目の前に現れる。
それこそが目指していたウィッチクラフトのギルドハウス。エレメンツの屋敷にもまけないほどの大きさに、ヒカリは小さく感嘆の声を漏らす。
「つ、ついたぁ・・・・・・」
「ちょ、ウィンっ!?」
目的地に着いたことで気が抜けたのか、ぐるぐる目になって前に倒れ込んでしまうウィン。咄嗟にヒータが手を伸ばすが上手くいかず、そのままウィンは地面に___付く前に、柔らかい物に着陸した。
「ぷえ?」
「あらあら、甘えん坊なお客さんですね? 大丈夫ですか?」
ウィンが見上げると、目の前には金髪翠目の美女が彼女を豊満な胸で抱き留めていた。緑を所々に取り入れた眼鏡をかけた美女はとても優しげな笑みを浮かべてウィンの身体を支え、そのまま奥の屋敷へと歩き始めた。
「・・・・・・誘拐か?」
「んな訳あるか、アホヒカリ。あの!もしかしなくても・・・・・・ウィッチクラフトの方、ですよね?」
咄嗟に剣を抜こうとするヒカリを小突き、ヒータは突然現れた女性に声をかける。彼女は無言で笑みを返し、歩みを進める。一旦それを肯定と受け取り、残りのメンバーも後に続く。
玄関の巨大な扉を女性は魔術で解錠し、後から来るヒータ達を笑顔で手招きする。そのまま流れるようにロビーを通り、客室へと案内された。
女性はソファーにウィンを横に寝かせると、奥にある冷蔵庫から瓶を取り出し、全員分の飲み水をコップに注ぐ。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございますぅ~・・・・・・ぷはぁ~生き返るぅ~」
「他の方もどうぞ。暑い中、ウィッチクラフトのギルドハウスまでありがとうございます」
「こちらこそお水を頂き、ありがとうございます。あの、ジェニーさん、ですよね?」
「はい、その通りですよ、可愛らしいお嬢さん達。今日はどのようなご用で?」
エレメンツが出会った女性の名はジェニー。いつも落ち着いた性格で何かと忙しいウィッチクラフトを裏で纏める大黒柱のような存在。
そんな彼女はどこからか取り出した団扇で未だ寝込むウィンを扇いでいた。
水を頂いた後、エリアから順に自己紹介を始め、ここに来た経緯をジェニーに説明する。すると、ジェニーは手を頬に当てて不思議そうに声を漏らす。
「うちからエレメンツの皆さんに依頼を? そんなことはないと思いますけど・・・・・・」
「で、ですよね・・・・・・。やっぱりこれは偽物ですよね・・・・・・」
「エリアさん、それを少しお借りしても?」
おずおずと差し出される例の手紙を受け取ると、ジェニーは封筒と本文の表裏を確認し、その真偽を見極める。筆跡、使われている紙、そしてギルドマーク。
全てを確認したジェニーは、変わらず不思議そうな顔で答えを出した。
「エリアさん、こちらの依頼書なんですけど、確かにうちの物ですね」
「ほ、本当にウィッチクラフトさんがうちに依頼を出したんですか!?」
「ええ。使われている用紙も偽物ではありませんでした。そもそも、うちを騙る人達は後で酷い目に遭いますし。ウフフ~」
「・・・・・・あの話本当だったんだね」
「少々お待ちください。話を通してきますね」
アウスが例の噂話が本当だったと知り震え上がる中、ジェニーは手紙を持って立ち上がると、一度礼をしてから客室を出て行く。
一旦緊張の糸が切れ、ヒータは足を開き身体を背もたれに預け、エリアは机に突っ伏し、アウスは天井に顔を向けて大きく息を吐き出す。ヒカリだけは失礼の無いようにと微動だにせず、無言を貫く。
しばらくして客室の扉が開くと、ジェニーともう一人の女性が現れる。身長は170cmを超えているであろう長身。栗色の髪で片目を隠し、冷酷さを感じられるその鋭い目に今一度エレメンツの背筋が伸びる。
「お待たせしました、エレメンツの皆様。私がウィッチクラフト現代表 ハイネです」
「お、お会いできて光栄です、マスターハイネ。私、エレメンツのリーダーを務めていますエリアと申します」
「ええ。話はジェニーから聞かせて貰いました。まずはわざわざプロファシーからお越し頂き、ありがとうございます。そして、この依頼書なのですが・・・・・・」
この黒い衣服で身を包んだ女性こそ、ウィッチクラフトの代表 ハイネ。手紙に記されていた送り主ご本人だ。彼女は自身が書いたであろう手紙を見て___冷酷さを秘めた雰囲気をぶち壊すかのように大きくため息をつく。
「・・・・・・私は書いた覚えがないんです」
「へ?」
「失礼な話ですが、エレメンツの皆さんのことも先ほど知りましたし、そもそも他のギルドに依頼をする理由もないんです」
「じゃ、じゃあ、やっぱり偽物・・・・・・」
「そこなんですよ。これ、確かにウィッチクラフトが使用している依頼書ではあるんです」
「?????」
ハイネの名前が記されているのにハイネ本人は書いていないという今回の手紙。では偽物かと言われるとそうではないらしく、実際にギルドマークが刻印されているこの用紙はウィッチクラフトで使用されている物だそうで。
エレメンツが全員疑問符を頭に浮かべる中、ジェニーは意味深に笑みを浮かべ、ハイネは再び大きなため息を漏らす。
「こんなことをする人物を私は一人しか知りません」
「その人物というのは・・・・・・?」
「ウィッチクラフトマスター・ヴェール・・・・・・このギルドの本来のマスターです」
ウィッチクラフトマスター・ヴェール。その名はヒカリを除いた全員が知っている。
凄まじい魔力と創作スキルを持ちながらも、その作品は片手で数えられるほどしか知られていない。創作者の頂点にして、究極のサボり魔。
現在はどこかへ姿をくらましており、ハイネが代理のマスターを務めている。
「あの人・・・・・・どっかに行ったかと思えばこんな訳分からないことをしてぇ~。今ですらお祭り前ですごく忙しいのにぃ~・・・・・・!」
「ハイネ、お客さんの前ですよ?」
「・・・・・・コホン!とにかく、うちのマスターがご迷惑をおかけいたしました。こちらから依頼はありませんが折角来て頂きましたし、ご一緒にお昼でもいかがでしょうか」
ジェニーに言われて冷静さを取り戻したハイネは優しい音色で緊張するエレメンツ達に提案する。その瞬間、ヒカリの腹の音が客室に響き渡る。
無言で顔を赤くするヒカリにハイネとジェニーはクスリと笑うと、全員を立ち上がらせてギルドハウス内の食堂へと案内する。
食堂はすでに配膳が終わっており、本日のメニューはカレーライスのようだった。久々に見た好物にヒカリはいつものように目を輝かせ、最近まともなものを食べられていなかったエレメンツもゴクリと唾を飲み込む。
「ハイネ姉・・・・・・じゃなくて、ハイネ様!お疲れ様です!って、そちらの方々は?」
「ギルド エレメンツの皆さんです。シュミッタ、申し訳ないけど、皆さんの分のカレーをお願い」
「わかりました!」
「私も手伝いますね」
ヘソ出しホットパンツの活発そうな赤髪の少女 シュミッタはとジェニーキッチンへと入り、全員分のカレーを用意して戻ってきた。
自分たちと同じ女性中心のギルドにウィッチクラフトのメンバーは興味を惹かれ、座ったエレメンツ達と交流を始める。
「貴女、あたしと同じ衣装だね! あたし、シュミッタ。ウィッチクラフトでは炎を使う武具を担当してるの!」
「あっと・・・・・・あたしはヒータって言います」
「敬語無くて良いから!あたし15だし。殆どタメでしょ?」
シュミッタは自身と似たような格好をしたヒータに仲間意識を感じて勢いよく話しかけ、
「あら、もしかして水の魔力をお持ちですか?」
「え、は、はい。多少、心得が・・・・・・」
「ああ。私はピットレと申します。塗料の調合や染色を仕事にしております」
「ぴ、ピットレさん!? あの、魔術塗料の第一人者の!?」
「あらあら、同い年の子にも知られているのは嬉しいですね」
武具や建築物に使われている素材の魔術耐性を高める『魔術塗料』。エレメンツのローブにも使われているその塗料の中でも最も優れているとされるのが『ピットレ塗料』。
その作成者であるピットレ本人を前にしてエリアは何時にもなくテンションが上がる。
「この子は・・・・・・ゴーレム? だけど、継ぎ目も殆ど無いし凄く精密で綺麗だ・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ、ご、ゴメンよ?」
「・・・・・・テラっていうの。私の友達なの」
「んごご」
ウィッチクラフト最年少である口数が少ない少女 ポトリーが生み出した小さなゴーレム『テラコッタン』を見たアウスはその完成度の高さに驚く。
普段粘土を取り扱い、焼き物やタイルなどを生産しているポトリー。自分が造り出したテラをベタ褒めされて、照れながらも嬉しそうに笑う。
「ウィンさん。体調は良くなりましたか?」
「ありがとうございます、ジェニーさん。なんとか良くなりました~」
ジェニーはウィンの体調を気にしながら食事を取る。どこか姉・・・・・・というよりも母のような錯覚を覚えたウィンは緊張がほどけ、どこか甘えん坊になっていた。
「エーデル、シードとマルカは?」
「シードはエンディミオンに出張中。マルカさんはここ一週間、自室にこもるって言ってたわよ」
「そう。とりあえず心配はなさそうですね」
ハイネは鉱石担当のエーデルにここにいないメンバーについて問いかける。魔術植物担当のシードと魔導書担当のマルカはそれぞれの事情で食堂には来ておらず、マスターを除いた全員の確認が出来たことに安心し、ハイネも食事を始める。
一方のヒカリ、無言を貫き通しながらもカレーを爆速で完食して次の指示を待っていた。
「___なるほど。ヴェール様がそんなことを・・・・・・いや、あの人ならするかなぁ」
「勝手にいなくなってなんで他の人を巻き込むかなぁ~あの人!!」
「らしいと言えばらしいですけど、なんで外部の方をわざわざ?」
「・・・・・・多分、誰も分からないと思う」
事情を聞いたシュミッタ、エーデル、ピットレ、ポトリーはそれぞれ声を上げるが、共通しているのは、『ヴェールならやりかねない』ということと『ヴェールはいつも面倒ごとをおしつける』という認識。
今まで何度かあったのか、彼女たちに理解はあっても驚きはなかった。
「ただ、ヴェール様が無駄なことをするとは思えないんですよね。ジェニーはどう思う?」
「私もハイネと同意見ですよ。ちなみにエレメンツの皆さんはヴェール様にお会いしたことは? 水晶のような透き通る髪の9歳くらいの少女なんですけど」
「・・・・・・9歳?」
ジェニーが説明したヴェールの外見にヒカリは思わずオウム返しで聞き返す。エレメンツも少女達の集まりだがそれでも10代は既に迎えている。それが、世界一のギルドマスターが二桁にもなっていない年齢なのはいくら何でもおかしいだろうと。
エレメンツ全員が必死に脳をフル回転させるものの、その言葉を理解することは出来ないが、とりあえずその外見の少女に出会ったことがあるかを思い出す。
「・・・・・・いや、ないですね。アウス達は?」
エリアに続いてアウス、ヒータ、ウィンが首を横に振る。変装をしていたならともかく、そのままの姿のヴェールに彼女たちは出会ったことがなかった。
そうなってくると、やはりヴェールの意図が読めない。無駄なことはしないのに、意図がさっぱり分からない。とはいえ、プロファシーに帰るのも何か違う気がする。
「いや本当に・・・・・・どうしたらいいんですかぁ~!? 外部の人まで巻き込んで!お祭り前で忙しくて!それでも通常業務はあるし!でも、この子達を返したら絶対マズい気がするし!うわぁああ~!!」
「・・・・・・ハイネ様が、爆発した」
「ハイネ姉、落ち着いて!」
頭を抱えて絶叫するハイネをシュミッタとポトリーがなだめ、エーデルは真っ直ぐにヴェールへと怒りを示し、ジェニーとピットレは混沌としたこの状況に苦笑いを浮かべるしかない。
「あ、あの・・・・・・私達はお暇させて貰った方が良いんですかね?」
「う~~~ん・・・・・・。もしかしたらヴェール様が戻ってくる可能性も、砂漠の砂粒くらいはあり得ますから、今日はここにいて貰った方がいいと思いますね」
流石に居心地が悪くなってきたエレメンツ。そんな彼女たちが持つ杖にエーデルは視線が釘付けになる。竜の素材で出来た杖はウィッチクラフトに所属して十年以上経つ彼女でも中々見たことのない代物。外見と僅かに帯びている魔力から素材を読み取るという神業なのだが、エーデル自身にその自覚はない。
(何あの杖・・・・・・めっちゃメロい!!素材をどうやって入手したのか。一体どこで作ったのか・・・・・・知りたいっ!けど勝手に触ったら失礼だし・・・・・・)
「あの~、もしかして、私達の杖が見たいんですか?」
「へ!?」
熱のこもった視線にウィンが気づくと、エーデルは取り繕うとするもの自身の好奇心には勝てず、小さく頷く。プロとしてプライドもあったが、一個人としての意思を優先してしまった。
その光景を見て、ならばとジェニーが一つの提案をする。
「エメレンツの皆さん、折角ですしうちの工房を見ていきますか?」
「はいぃ!!? い、いいんですか!?」
「今回はうちに非がありますし、エーデルも好奇心を抑えられなさそうですし。ハイネ、いいですよね」
「技術を口外しないのであれば問題ありません。ちなみに皆さんお宿は?」
「特に取ってないですね・・・・・・」
「それなら、ジェニー。彼女たちの宿を確保して上げてください。それから、シュミッタとピットレは業務終了後に街の案内を」
「わかりました!
「承りましたわ」
とんとん拍子で本日以降の予定が決まりつつあるエレメンツ。なんかとんでもないことになっている事に徐々に麻痺していた感覚が戻ってきた彼女たち。世界一のギルドの方々に宿を取らせたり、街を案内させたり、さらには工房を見せて貰ったりと至れり尽くせり過ぎる。いくら大金を積んだところでこんな待遇は受けられないだろう。
「あの・・・・・・ここまでして頂くのもかなり申し訳ないというか」
「いいのいいの!あたしもヒータとまだ話したいし!今回は任せておいて!」
「私もエリアさんと話したいですわね。聞くに、エリアさんも魔術書を制作されたとか」
「え、ええ。一応」
「・・・・・・アウスさん、ゴーレムに興味、ある?」
「え、うん。もしかして、教えてくれるのかい?」
「・・・・・・ん」
ヒータに自分から肩を組みにいったシュミッタ。エリアが作った魔術書に興味を持ったピットレ。テラコッタンに興味を持ってくれたアウスともっと話したいポトリー。
これはもう帰れる状況ではなかった。
「あの、エーデルさん。私、エーデルさんの作業しているところ見たいんですけど、いいですか?」
「大丈夫よ。この杖のことも聞きたいし、是非お願いするわ。ウィンさん」
ウィンもエーデルと約束を取り付け、あとはヒカリだけ。何もなければ街の観光でもしようかと思っていた時、ジェニーが何故か彼を笑顔で見つめていた。
何事かとヒカリがきょとんとしていると、ジェニーが自然に彼の隣に座る。
「ヒカリさん、良ければこの後街を歩きませんか?」
「ジェニー!? 仕事は!?」
「大丈夫ですよ。一時間以内は戻りますから。どうでしょうか、ヒカリさん」
「ジェニーさんがよければ問題ないです」
「では、皆さん。お昼からも頑張りましょう」
「ちょっとぉ!!?」
勝手にジェニーに締められて再び悲鳴を上げるハイネ。奇妙な手紙が引き起こしたエレメンツの非日常が今始まろうとしていた。
「では、行きましょうか」
「よろしくお願いします」
日傘を差したジェニーと共にヒカリはペンタメローネの坂を下りていく。ウィッチクラフトのギルドハウスからメインストリートまでは十分程度歩く必要がある。
その間、ヒカリはジェニーの後ろに付き、静かに歩いていた。その沈黙が圧となり、ジェニーはどうも居心地が悪い。
「あの、ヒカリさん? せっかくですし、何かお話ししませんか?」
「すみません。逆に失礼でした。その、私は異世界出身で、ウィッチクラフトがどんなギルドなのかよく知らなくて。何を話したら良いかと」
「うちを知らないのは逆に貴重ですね。では、この街の成立ちからお教えしましょう」
「街の成立ち・・・・・・?」
ジェニーは足を止めヒカリの横に並ぶと、この町『ペンタメローネ』が生まれたきっかけ。そして、ウィッチクラフトのルーツの現在の仕事について語り始める。
かつて昔、サンドリヨンと呼ばれる大魔女がある戦いが終わった後、自らの住居として選んだのがこの土地。そして、あの屋敷。
サンドリヨンは自信に弟子入りした女性達を一つにまとめ上げ、ギルドを発足させた。その名こそ『ウィッチクラフト』。
そして、それ以降多くの創作ギルドがこの地に集まり始め、ペンタメローネという街が生まれたのだった。
「___という訳です。私のお話、楽しかったですかね?」
「ええ。とてもタメになりました。ウィッチクラフトのルーツは大魔女のもの。だから世界一のギルドと呼ばれているんですね」
「確かに創始サンドリヨンの技術を受け継いでいるのもウィッチクラフトの強みです。ですが、そのことにあぐらを掻かず、日々自身の技術を磨き上げているからこそ、今も世界一と呼ばれるのです。現に、あの子達は全員個人の店を持っていますから」
ウィッチクラフトのメンバーはギルド全体以外にも全員が個人店を経営している。エーデルならアダマシア達と同じく鉱石加工やそれらを使用したマジックアイテムの開発。ポトリーなら家事お手伝いの簡易ゴーレムの販売など。
どのメンバーにもリピーターは存在しており、特に武具関係のエーデルやシュミッタは予約が半年以上は取れない程の人気を誇る。
「歳も自分と殆ど変わらないに、凄いんですね。皆さん」
「ええ。皆、ウィッチクラフトであることに誇りを持って日々取り組んでくれています。もちろん私も。伝統と誇り。それこそがウィッチクラフトを黒星13にたらしめている理由なのです」
「誇り・・・・・・」
優しくも強い意志がこもったジェニーの言葉に、ヒカリの胸はどこか熱くなる。全てを知れた訳ではないが、ウィッチクラフトの一端を知ることが出来て感動を覚える。
過去からずっと受け継ぐことがどれだけ難しいことか。ヒカリはかつての故郷を思い出し、実感する。
ジェニーの話が終わる頃、二人はメインストリートへと到着する。片側には創作ギルドの店舗が連なり、プロファシー以上に細かい装備を調えることが出来るだろう。もう片側は海で心地よい海風が通行人の熱を適度に奪っていく。
「さて、なんだかんだでメインストリートに到着しましたね。大体プロファシーと変わりないかもしれませんが、海風が気持ちいいでしょ?」
「海・・・・・・初めて見ました。湖と違って、独特な良い香りがしますね」
「海を見たことがない・・・・・・。ヒカリさんの故郷は山の中だったりしました?」
「そうですね。森の中でした」
海を見たことがないと告げるヒカリにジェニーは一瞬だけ驚き、すぐにいつもの微笑みに戻る。異世界出身である以上、自身の常識が及ばないことだってある。
そもそも『お手伝いさん』とは何ぞやと思い、ジェニーは彼について質問し始める。
元の世界はどんなところだったのか。なぜエレメンツに身を置いているのか。この世界に来てどんな体験をしてきたのか。
ヒカリは隠すことなく自身の体験を語る。突然エレメンツの屋敷にいたこと、そこから彼女たちに恩を返すためにお手伝いさんになったこと。何度か彼女たちの冒険の手伝いをしてきたこと。今は深夜にバイトを行っていること。
「ヌーベルズのお二人の元でアルバイトを・・・・・・」
「ご存じですか?」
「もちろんです。料理の創作ギルドは珍しく、人間以外も顧客に入っているギルドはあそこしかありませんから。私達も片手で数えるほどしか行ったことはありませんが」
「詳しいですね。夜営業の情報は大々的に広告していなかったはずなんですが・・・・・・」
「私、ウィッチクラフトの受注・発送を担当しているんです。色々な情報を取り入れるのが仕事みたいなものなんですよ。だから、ヌーベルズのお二人の正体も知ってますよ? フフ」
ヌーベルズのシェルとエルが悪魔と天使であることは表では殆ど知られていない事実。裏側まで知っているジェニーを見て、ヒカリは彼女を敵に回してはいけないと本能的に察知する。眼鏡を光らせ、真意が読み取れないその笑みは彼に警戒心を抱かせるには充分すぎた。
「その、ヒカリさん? あまり怖がらないで頂けると嬉しいんですけど・・・・・・」
再び後ろに下がってしまったヒカリに思わず苦笑してしまうジェニー。流石にやり過ぎたかと少し後悔するが後の祭り。今度は自分からヒカリの横まで歩くと、ジェニーは何か楽しい話題で会話を再開しようとする。
「そ、そういえばなんですけど、明日からお祭りなんですよ。今年は海開きも明日ですから、エレメンツの皆さんとどうですか?」
「お祭りと、海開き?」
「夜はここ一帯に屋台が並び、花火も上がるんです。私達の作品もその中にあって、とっても綺麗なんですよ」
「・・・・・・花火ってなんですか?」
未知のワードに首をかしげるヒカリ。思っていた以上に彼の知らないことが多く、ジェニーはどうしてもある事が頭に引っかかってしまう。
花火と祭り、海開きについて説明する彼女の話をヒカリは興味津々に聞いており、いつの間にか気楽な態度に戻っていた。
その外見よりも幼い反応に、内心精神年齢はポトリーと同じなのではと錯覚してしまう。
(マスター、本当にこの子が?)
ジェニーとヒカリの会話は続く。だが、彼女の疑問は消えることなく最後まで残り続けた。
なお、ジェニーとヒカリがギルドハウスに戻ったのは三時過ぎで、戻ってきた直後ジェニーは涙目になったハイネに抱きつかれて一騒ぎあったのは、また別の話。
「ねえ、アウス。あたし、夢見てるわけじゃないわよね」
「急に何を言い出すんだい」
夕方。エレメンツはジェニーが予約してくれた宿の一室から、水平線に消える太陽の美しさに心を奪われていた。
彼女たちの今日の部屋は四つのシングルベッドが配置されたベッドルームに、大きなオーシャンビューが楽しめるリビングルームの二つに分かれており、普段は聞くことのないサービスが付いていた。これを俗に『スイートルーム』と言う。
部屋に案内された瞬間、今後すぐに連絡が取れるようにと連絡先を交換していたジェニーにエリアが確認したが、返ってきたのは彼女の優しげな声。
『間違ってませんよ。ゆっくり休んでください』
「とは言われたものの・・・・・・。逆に落ち着かない・・・・・・」
「すごいすごーい!このベッドすっごく跳ねるよ、エリアちゃん!」
エリアの落ち着かない声の横で、余りにもふかふかなベッドに飛び込んでトランポリンのように遊ぶウィン。爆発した好奇心の赴くままに、この部屋を満喫していた。
ウィンみたいに楽しめたらなーと上の空のエリアは、突如入り口をノックされた音で現実に戻る。軽い返事をした後、のぞき窓でその相手を確認し、来訪者を部屋の中に招き入れる。
「みんな、いるだろうか」
「あ!ヒカリ君!いらっしゃ~い」
その正体はもちろんヒカリ。彼女たちとは別室の個人部屋だが、その豪華さはスイートルームと殆ど大差ない。彼自身も妙に落ち着かず、メンバーがいる部屋に来たようだ。
ヒカリの登場で一度メンバーがリビングルームに集結。明日以降の予定を一応確認する。一応なのは、自分たちではどうしようもない部分が多すぎるから。今日の出来事を踏まえて話を始める。
「とりあえず、ウィッチクラフトの誰かから指示があるまでは自由行動、ってことでいいんだよね。アウス」
「ああ。明日以降も指示待ちになってしまうけど、それ以外どうしようもないんだ」
「アウス、ジェニーさんから聞いたんだが、明日から海開きとお祭りだそうだ」
「海開き!皆で海行こうよ!」
「ウィン、遊びに来たわけじゃないんだってば。・・・・・・まあ、ホテルで缶詰っていうのもあたしは勘弁願いたいけどさ」
自分たちの屋敷までは底まで時間をかけずに帰ることが出来るが、ウィッチクラフト側から帰ることを止められているこの状況。今日でも身の丈に合わないほどのお持て成しや待遇を受けてしまっている以上、何か返したいところではあるのだがその方法が全く思いつかない。
昼間に見せて貰った工房も、高額すぎて名前だけは知っている素材や用途が全く分からない装置をこれでもかという程見せて貰ったり、体験させて貰った。非公式とはいえ一ギルドとして、何か少しでも彼女たちに貢献したいというのは当然の帰結だった。
「・・・・・・私達が考えてもしょうが無い、か。よし、明日は海に行こうか」
「あ、アウス?」
「エリア、もう考えたら負けだ。それに今回はウィッチクラフトさんたちの依頼でここに来ている。だから、自由時間があるならふんだんに使おうそうしよう」
善意の波に飲み込まれ、ついにアウスの中で何かが切れた。理屈や合理的な考えではどうしようもないこの現実から、彼女は逃げることを選択する。
そして、普段舵取りをしているアウスがこうなってしまった以上、もう暴走が止まることはない。ウィンを筆頭にこの街でやりたいことリストを作り始めた。
「海に行くなら水着買わないとね!」
「折角なら装備もなんか見ておきましょ。あたし、露店で売ってた腕輪が気になったのよねぇ」
「予算はこれくらいにしてっと。工芸品について書かれてる本とか買いたいかな」
「じゃ、じゃあ、私は雑貨を見たいな」
もはや旅行ではないのかとエリアの脳内に疑問が浮かぶが、他メンバーの楽しそうな姿を見てその考えは霧散する。雰囲気に巻き込まれ、彼女も自身の予定を考え始めた。
ヒカリもエメレンツに従い、広げられた地図をのぞき込んで興味のありそうなポイントを探す。
「ヒカリ君はどうする?」
「俺か。昼間は特に考えていない。夜はお祭りで屋台が並ぶそうだ。そこで色々食べてみたいとは思っている」
「食いしん坊ねぇ。でもお祭りかぁ。確か花火で有名なやつだったよね」
「ウィッチクラフトの皆さんの作品もあるらしい。花火、初めて見るから楽しみだ」
「じゃあ、明日はまず水着を買って、海行って、夜はお祭りだ!すっごく楽しみ!!」
「呼び出しがあったら、それ優先だからね。それは皆忘れないように!」
エリアが一旦その場を締めると再び全員が地図を見て、明日回れる場所を探し始める。何はともあれ今を楽しもうと、全員がそう思うのだった。
一方、ウィッチクラフトのギルドハウス。各員本日の業務を終了させ、明日の花火大会の最終確認を行っていた。
例年恒例となった花火大会。通常業務の横で一年に一回のイベントに備え、毎度良い作品を作り続けていた。
花火を取りに来た配達員に作品を渡して確認してもらうと、最後に伝票をジェニーが受け取って全ての準備が完了する。
「___はい、確かに受け取りました。明日、楽しみにしています!」
「夜遅くまでお疲れ様です、配達員さん。よろしくお願いします」
配達員が坂を下り、姿が見えなくなるまで見送ると、ジェニーは玄関の扉を閉める。そして、夕食の準備を進める他メンバーがいる食堂へと入室。
ウィッチクラフトのメンバー達はテキパキと夕食の準備を協力して進めていた。一人を除いて。
その一人 ハイネは机に突っ伏して、沈黙していた。
「ハイネ、どうかしました?」
「どうかしたも何も・・・・・・あの子達のことが心配で心配で・・・・・・」
「ああ、エレメンツの子達ですか」
「そう!ヴェール様に何かちょっかいかけられていないか、とか!変な事件に巻き込まれていないか、とか!!」
突っ伏していた身体を勢いよく上げ、手をワナワナと動かしながらハイネは早口でエメレンツ達の心配を述べ続ける。
自分たちの知る由もないが、主であるヴェールが恐らく巻き込んだ出あろう今回。万が一何かあれば、自分たちがやらかしたことに繋がり、気が気でないのだ。
そんな心配性な代表代理にジェニーは心配しすぎだと告げる。
「とりあえずあの子達にはペンタメローネを満喫して貰いましょう。何かあったときは、私達で対処すれば良いですし」
「・・・・・・最近起きてる、裂け目の発生でも?」
「それは・・・・・・」
その案件にジェニーは思わず口を閉ざす。世界中で起きている次元の裂け目の発生。それはこのペンタメローネも例外ではない。
港に停泊している船もここまでの海路で裂け目の被害を受け、納品が遅くなることも少なくない。
もし、ペンタメローネに裂け目が生まれ、そこから未知の敵対生物が現れたら。
「ゴメン。そんな顔をさせたかったわけじゃないんです」
「・・・・・・いえ。私も少々楽観視しすぎたかもしれません。ありがとう、ハイネ」
心配が杞憂に終わるようにハイネとジェニーは願うばかり。そして、未だに分からないヴェールの考えに頭をひねるのだった。
「海だぁ~!!!」
「いっやっほうっ!」
「準備運動をしなきゃダメだってばぁ!!!」
次の日、予定通りエレメンツ一行は海に来ていた。照りつける太陽、白い砂浜、そして目の前に広がる広大な海。
その全てがウィンとヒータのテンションを爆上げさせ、叫びながら海へと走って行く。その後ろでエリアが注意するものの、二人は全くお構いなし。水を掛け合い、海を楽しみ始める。
早朝、テンションが高めのウィンに起こされすぐさま水着を購入。ホテルの朝食を頂いて現在にいたる。
全員ビーチカバーアップで肌を守り、ヒータは更に麦わら帽子を被って日焼け対策は行えている。だが、まだ肝心の日焼け止めを塗れておらずそれを理由に二人をこちらに引き戻す。
「ヒカリ、荷物持ちありがとう」
「これくらい当然だ。まかせてくれ」
彼女たちが今朝購入した物は全てヒカリが運んでいる。初めは全員分担する気だったのだが、これくらいはお安いご用と彼が自主的に全ての荷物を持った。そんなヒカリは薄いワイシャツと膝下までのズボン兼水着にサングラスと、海への好奇心が抑えきれない格好。
とりあえず荷物を下ろし、シートとパラソルを展開。熱中症対策で買った飲み物はクーラーボックスにしまい、準備を整える。
「じゃあ、日焼け止め塗ろっか。ほらヒータ、横になって」
「えー? 本当に必要?」
「あのね、日焼けを甘く見ると肌がとんでもないことになるよ。シャワーとかお風呂入るとき激痛に襲われても知らないからね」
「・・・・・・ヨロシクオネガイシマス」
シートの上で横になったヒータとウィンにそれぞれアウスとエリアがまたがると、これも先ほど買った日焼け止めクリームを開けて彼女たちの身体に塗り込んでいく。
なお、その間見てはいけないモノだとなんとなく察したヒカリは、理由を考える前にその場から撤収。先に準備運動を始める。
「ひゃん!? エリアちゃんくすぐったいよぉ~」
「ゴ、ゴメンね? でもちゃんと塗っておかないとダメだから」
「ぴゃ!?」
「ご、ゴメン!」
エリアとウィンは慣れないながらも、仲良くクリームを塗っているのに対し、
「ちょ!? アウス勢い強っ!? ちょっと痛いしめっちゃくすぐったいってば!?」
「ヒータ。君は二つの罪状がある。一つはこの前勝手に私の寝起きを襲ったこと。そしてもう一つは・・・・・・」
「みゅあぁあ!!?」
「私の水着を勝手に選んだことだ。なんだいアレ!? ただのヒモじゃないか!!!」
アウスはヒータから受けた仕打ちをその手つきに込めて襲いかかる。
先ほど水着を購入する際、三人は試着し自分でデザインが気に入った物を購入。だが、アウスはそうはいかなかったのだ。
その理由は、胸。
『え、アウスのサイズに合う水着がこれしかないんですか!?』
『申し訳ありません、お客様!』
『じゃあ、これ買います!』
『ヒータぁ!!?』
と、ヒータが勝手に購入してしまったのだが、アウスからすればかなり布面積が少なく、しょうが無く薄手のシャツでも着ようかと思っていた矢先だった。
「だ、だってアウスだけ泳げないの嫌じゃない!」
「だからって、これは・・・・・・ううっ・・・・・・」
買った物を使わないのは勿体ないということで一応身につけたが、やはり羞恥心が勝る。ヒータは今回百パーセント善意の行動だったので怒るに怒れない。そのやり場のない(しょーもない)怒りをここで発散していた。
そんなこんなで四人全員が塗り終わった後で、ヒカリは自分で日焼け止めを塗って準備完了。早速、波打つ海へと足を踏み入れる。
ヒカリは初めての海。恐る恐る足を入れると、その冷たさで皮膚が萎縮する感覚がして半歩後ろに下がる。
「ヒカリ~はやく~!」
「・・・・・・海は敵じゃない。よし」
自分を呼ぶ声に勇気を貰い、ヒカリは海を走り始める。ぬれた砂の触感、足に当たる海水の温度、常に揺れ動く海面と波。海が『生きている』ように感じたヒカリはその全てを楽しむことに成功する。
子供のようにはしゃぐヒカリやウィンを現在荷物番であるアウスは微笑ましく見守る。
「ヒサビサノウミハイイデスネ。マスター」
「たまには海水もいいよね、バイド」
「さすがにコンは溺れたらマズいから海には入れないかな~。くらえ、エリア!」
バイドと共に海を楽しむエリアに向かってヒータは水をかける。だが、エリアに近づいた水は寸前で突然動きを止めると、そのまま直角に下へと落ちる。
唖然とするヒータに少し悪い笑みを浮かべたエリアの周辺に水の帯が発生。バイドはやっちまったと言う顔でヒータへと合掌していた。
「魔術込みとかズル!!?」
「水辺で私に勝負を挑むとは、良い度胸だね。ヒータ!」
「うひゃぁあ!!?」
水を二本の無知へと変形させてヒータの腰を掴ませると、そのまま彼女の身体を宙へと浮かせる。そのまま勢いよく左右へ何度か振ってヒータの平衡感覚を奪うと、そのまま海の中へぽーん。
ヒータが怪我しないようにある程度の深さがあり、なおかつ溺れないような箇所を狙った合理的な投げ。悲鳴を上げながらヒータは海の中へと姿を消し、数秒後海面から顔を出した。
「エ~リ~ア~!やったわねぇ!!」
「エリアちゃんエリアちゃん!私もヒータちゃんみたいに投げて!」
「え、いいの?」
「楽しそうだったから!」
怒るヒータを再び迎え撃とうとするエリアの元に、先ほどの様子に興味を持ったウィンが近づく。そして、自分も投げて欲しいとトンチンカンなことを言われエリアの動きが止まった。
目を輝かせているウィンの言葉が冗談だとは思えない。とりあえず先ほど同様に水の鞭を作ってウィンの腰へと巻き付けると、ヒータほどの勢いではないものの海面へとぽーん。
ドボンと大きめの水没音の後、ウィンがぬれた犬のように顔を勢いよく左右に振って、満面の笑みを浮かべる。
「エリアちゃん、これ楽しいよ!」
「本当に・・・・・・?」
「隙あり、エリア!___きゃあぁ!!?」
「ヒータには手加減なしね?」
再び襲いかかってきたヒータに手加減は不要。不意打ちを難なくかわし、再び水で腰をつかみ取ると、さっき以上に左右に勢いよく振ってから再びぽーん。その光景にウィンは無邪気な笑い声を上げる。
「エリア、その程度にして上げて。ヒータは絶対勝てないから」
「そうだね、フフ!」
荷物番をヒカリに変わってもらったアウスがエリアにそう告げると、エリアはイタズラっぽい顔で頷いた。一方、ヒータを投げたところから未だに彼女が顔を出さないことに不安を覚えたウィンが近づくと、その身体を水中へと引き込まれる。
「ひゃあ!?」
「ウィン~? よくもあたしの無様な姿を見て笑ってくれたわねぇ~?」
「そ、そんな笑ってないよぉ~」
歯を出して意地悪い笑みのヒータがウィンに組み付き、そのまま海中戦へと持ち込む。と言っても、ただ少し先ほどよりも深いところでじゃれ合うだけなので何も問題は無い。海の中を漂うように浮かぶ二人を確認したエリアとアウスもそちらへ向かう。
「楽しそうで何よりだな」
「こーん・・・・・・」
「コンは水が苦手そうだな。ここでゆっくりするといい」
「ばむばむ」
「ビィは海に興味津々だな。後で行ってくるといい。だが、どんぐりは置いていった方がいい。落とすと流されるぞ」
「・・・・・・ぷい」
「ぷーちゃんは冷静だな」
コンは海を見て恐怖で震え、逆にビィは興味がありそうに主人達を目で追い、ぴーちゃんはくだらないと言わんばかりに不貞寝する。
個性豊かな召喚獣達と共にエレメンツを見守るヒカリ。だが、彼が見ているのは彼女たちだけではない。
「あれ、あそこの女の子達かわいくね?」
「おお。ちょっと声かけに行って___っ!!?」
と、彼女たちだけの時間を壊そうとする輩に対して特大の殺気をぶつけることで撃退する仕事も請け負っていた。ちなみに依頼人はアウスである。
戦闘とは全く無縁の人物にすら感じられてしまうヒカリの圧。当てられた男達は冷や汗と身体の震えをプレゼントされて、どこかへ帰って行く。
(・・・・・・これでいいのか?)
「ぷい」
多少の疑問を持ちながらも、ヒカリはただ彼女たちのひとときを人知れず守り続けるのだった。
そして、日は落ちて遂に祭りが始まる。
エレメンツは昼食を海岸の店で取った後、一度ホテルに戻り昼寝。その後それぞれが行きたい店に向かい、予算内での買い物を楽しんだ。その時もヒカリは荷物持ちを率先して行い、お手伝いさんの職務を全うする。
彼女たちがホテルを出ると、そこは昼間とは別世界が広がっていた。
道に沿って並ぶ無数の屋台。町並みは装飾で飾り付けられ、大勢の老若男女が行き交う。夏と人の熱気が交わる独特の雰囲気。
これこそ『祭り』と呼べるものだった。
「おお・・・・・・」
「ヒカリ、興味津々なのは良いけど、あたし達からはぐれちゃダメよ」
「わかった。気をつける」
「じゃ、行こっか!」
はぐれないように気をつけながら五人は人混みへと入っていく。漂うソースのにおいにヒカリは右往左往するが、すでにそれは予想済み。彼に合わせて屋台に寄り、祭りの食事を楽しんでいく。
ヒータは焼きそば、アウスは焼きそば、エリアとウィンはリンゴ飴をそれぞれ購入し、ヒカリはそれらに加えてサイクロンポテトやフランクフルトなど、とにかく普段食べないものを購入していった。
「うまいな、全部」
「めっちゃ食べてるけど、ちゃんと食べきれるのよね?」
「当たり前だ。物を残すのはその命への冒涜だと教えて貰ったからな」
頬をパンパンに膨らましながら、ヒカリは口にした物をうまいうまいと言いながら食べ続ける。いくら男性といえどそんな量が一体身体のどこに入るんだと、不思議に思うヒータ。更に言うなら、食べながらでも自分たちとはぐれることなく歩けているのは何なんだと。
突然飛び出してきた子供も自然に避け、ぶつかってしまったときもスマートに身体を動かしているヒカリ。
「あんた、本当に技術が身にしみてるのね」
「身体の動かし方は戦闘の基本だからな」
一通り屋台や出店を見終わり、花火の時間までどうするかと五人が相談し始めた時、エリアの杖が突然点滅し始める。これは誰かからの通話が掛かってきた合図だった。
もしかして、と思いすぐに対応すると、彼女の予想通りの声が杖から聞こえてくる。
『エリアさん、聞こえますか? ジェニーです』
「ジェニーさん。もしかして、進展が?」
声の正体はジェニー。そして彼女から連絡があったと言うことは何か手紙について親展があったと言うこと。
アウス、ヒータ、ウィンもエリアの杖に耳を傾け、ヒカリはいつの間にか持っていた食事を全て食べ終わっていた。
言葉の続きを待っていたエレメンツだが、ジェニーはどこか困ったような声だった。
『それがですね、手紙については未だに動きはないんですけど。ちょっとお願いされて欲しくて』
「ウィッチクラフトの皆さんにはお世話になりましたから、可能な限りご協力させて頂きます」
『ありがとうございます。その、ですね。他言無用でお願いしますね?』
やけに慎重なジェニーの言葉に疑問を持ちながらも、次の言葉を待つ。
『・・・・・・花火が盗まれたみたいで』
「・・・・・・はい?」
『今日打ち上げる予定だった花火が、全て無くなっているみたいなんです』
ジェニーの言葉を聞いて全員が頭上に?を浮かべる。そして数秒後、この重大さにそれぞれ気づき始める。
ジェニーが説明するに、今日の夕方前。花火師が打ち上げる花火を指定された場所に取りに行ったところ、何故か何も置いていなかったそうだ。
配達員、置き場の管理者、今回花火を作った創作ギルド等関係者全てに確認したものの、誰一人その行く先を知らなかった。
このままだと祭りの目玉である花火が打ち上がらずに終わってしまう。その事実にヒカリはどこか落ち込んでしまっていた。
「とりあえず盗んだ犯人をとっちめて、奪われた花火を取り戻せば良いのね。やってやろうじゃない!」
「ジェニーさん、何か情報を頂けませんか? こちらとしても探すところの目星が欲しいです」
『今回、他の方々も探索に協力して頂いています。そこで、こちらで指定するポイントの調査をエレメンツの皆さんにお願いいたします』
エリアの杖から光が指すと、その先にペンタメローネの地図が表示され、ある一カ所に赤い丸が記されていた。それは、今彼女たちがいる位置から少し山に向かったところだ。普通に歩いて行けば三十分程度は掛かるだろう。『歩いて行けば』の話だが。
「わかりました。ギルド エレメンツ、この依頼をお受けします」
『花火が打ち上がるまであと二時間。それまでにご連絡をお願いしますね』
ジェニーとの通話を終わり、ウィンはすぐに全員に浮遊魔術を使用。そのまま空を飛び、指定されたポイントへと向かう。
全員の意思は一つ。奪われた花火を必ず奪還する。
一つ、だったのだが。
「もうやだ帰る」
目的地に着いた瞬間、そう行って空に逃げようとする人物が一人。ウィンが魔術を解き、ヒータが逃亡者の身体をホールドして固定。ヒカリとエリアは目の前に現れた廃屋をどう攻めるかを考え始める。
そう、帰ろうとしているのはあろうことかアウスである。
「アウスちゃん、ここで帰ったら花火見られないよ!」
「それにウィッチクラフトの皆さんを裏切ることになるんだから、頑張るわよ!」
「やだ帰る」
「アウス・・・・・・」
そう、アウス最大の弱点。それが『オバケ』である。
本物はもちろん、エンターテインメントであるオバケ屋敷も大の苦手。ヒカリが最初期に予想していたとおり、依頼もこういう箇所をなるべく避けてきたのだ。
彼女の顔から表情は消え、身体を引きずりながらも街へと戻そうとするアウスにヒカリは呆気に取られ、他の三人は彼女を取り押さえる。
「やだやだやだぁ!!絶対行かないから!!」
「アウス!しっかりしてっ!」
「このアウスも久々に見たわね・・・・・・。とにかく行くわよ!」
「オバケ屋敷にゴーゴー!」
「やだぁぁぁ!!!」
エリアとヒータがそれぞれアウスの手を。ウィンがアウスの背中を押し、廃屋に入っていくエレメンツ。
玄関から慎重に侵入し、ヒータが杖に炎を灯す。
「ワッ!!!」
「クケケケ!!!」
「うっっぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!?」
「アウスちゃん!!?」
その瞬間、二つの声が彼女たちの目の前に現れて、すぐにどこかへ消えてしまった。ヒータ達ももちろん驚いたのだが、アウスの声で上書きされてしまう。三人の拘束を振り払い、アウスは一人で廃屋の奥へと全速力で走ってしまう。
「い、今、オバケがいた・・・・・・?」
「ああ。白い布を着た奴とカボチャを被った奴だった」
「・・・・・・ヒカリ、あんたオバケ怖くない系?」
「ん? 驚かしたいだけだろ? 子供のいたずらと何の変わりもないだろ」
ウェルカム驚かしにも全く動じず、オバケを子供と同じと言い張るヒカリ。何か問題があったのか? と言わんばかりの顔になんとも言えない感情が湧いてくる三人。
そして、その光景を見たオバケ達『スペクター』と『ランタン』は物陰でコソコソと作戦会議を始める。
「あの男、全然怖がってないよぉ? ど~するぅ?」
「ソンナノ、コッチモ手加減ナシデヤルシカナイデショ!」
オバケ達のプロ根性に火を付けてしまったヒカリだが、もちろん本人は知る由もない。
他の三人も苦手というわけではないが、驚きはする。アウスは言わずもがな。
つまり、ここからエレメンツ達はこのオバケ達の本気を味わうことになってしまったのだ。
とりあえず、一階の奥へと消えていったアウスを追う四人。そのまま曲がり角を曲がったところで、突如上からナニかが降ってきた。
白い布に間抜けな顔が描かれたオバケ『スペクター』である。スペクターはそのままいつも以上に大きな声で彼女たちを驚かす。
「ばぁ!!!!」
「ひゃああ!!?」
「ひっ!!?」
「わあぁあ!!?」
ウィン、エリア、ヒータがそれぞれ大きな声を上げる中、ヒカリはただ首を傾けて、スペクターの顔をのぞき込む。
三人が尻餅をつく中、ヒカリは目の前に現れた廃屋の住民に声をかける。
「なあ、そこのオバケさん」
「え、僕~?」
「ああ。こっちに眼鏡をかけた女の子が来なかったか?」
「それなら~この奥だよ~。もっと驚かせてあげるからね~」
「そうか。ありがとう」
「じゃあねぇ~」
ヒカリは三人の手を引いて立ち上がらせると、そのままスペクターの教えて貰った先へと進もうとする。そんな彼にそれに『ちょっと待てぃ』と突っ込むヒータ。
「いやいやいや!!? あんた、何オバケと平然と話してるのよ!!?」
「いや、さっきも出てきた奴だし。特に敵意は無いから、話を聞こうと思って」
「ヒカリ君、オバケ屋敷は楽しめなさそうだね・・・・・・」
ウィンの言葉の真意が分からず、再び首をかしげるヒカリ。頼もしいのか、空気を読んでいないのか。どちらとも言えない感情を抱いたまま、屋敷を再び進み始める。
それからというと。
「ケケケ!!!」
「きゃあ!?」
「あ、さっきのカボチャの方」
背後から突然カボチャのオバケ『ランタン』に驚かされ、
「うおぉぉぉ~!」
「うわあぁあ!?」
「大きいな。でも、自分の家を壊すのは良くないと思う」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
壁を突き破って出てきた大男『シュタイン』に注意したり
「なんか、寒くない・・・・・・!?」
「ああ。あそこに女の子がいて、冷気を発しているみたいだ」
「・・・・・・なんであの人間私を確認できてるの?」
白髪の少女『雪女』に背筋を(物理的にも)冷たくされたり、
「ぴょーんぴょーん!あ、お客さんはっけーん!」
「ああ。ところで、眼鏡をかけた女の子を知らないか?」
「あっちー!ぴょーん!」
廃屋を巡回している『キョンシー』に道を尋ねたりと、全く緊張感のない探索を続けるヒカリと驚き続けるエレメンツ。
そうして、少し大きめの部屋にたどり着く。その部屋の隅にはいつの間にか呼び出していたビィを胸に抱きかかえ、小さくうずくまって震え上がっているアウスの姿があった。
「アウス、迎えに来たよ」
「ひゃああ!!? ・・・・・・え、エリアぁ~」
「ばうばう・・・・・・」
長時間抱きしめられていたようで、ビィは苦しそうに彼女の胸元から離れるとそのまま杖へと戻っていった。代わりにアウスはエリアの足に抱きつき、そのまま動かなくなる。
アウスを発見し、改めて探索を再開しようとするエリア達。だが、その身体は何故かアウス同様に動かなくなってしまった。
ただ一人、ヒカリだけを除いて。
「・・・・・・皆?」
「なにこれ、動けないんだけど・・・・・・!?」
「やっと来たわね、そこの人間!」
突如、聞き慣れない少女の声が部屋に響き、唯一動けるヒカリの目線は上へと向かう。その先には、黒衣を纏った金髪の少女の姿があった。
帽子、マント、そして箒から彼女が『魔女』であることは一目瞭然。勝ち気を隠す気配もない彼女は杖をヒカリに向けて怒りをぶつける。
「なんで驚かないのよ!他の奴は驚いたのに、アンタだけ驚かないからあたし達『ゴーストリック』が能なしみたいじゃない!」
「能なし? 何がだ?」
「かっちーん!もう怒った!ある程度驚かしたら『かえして』あげようと思ったけど、もう許さない!アンタを恐怖のどん底に落とすまで、絶対ここから出して上げないから!」
ゴーストリックと名乗った魔女は杖から魔法陣を複数展開すると、一斉にヒカリへと襲いかからせる。
直感的に当たったらアウトだと察したヒカリは連携を取れていないその動きに目視で対応。身体を転がし、時に飛び、回避行動を続ける。
「君、返すと言ったな。それは俺たちをか? それとも、花火をか?」
「ふふーん。そこが分かったのは褒めて上げるわ人間。そうよ!花火を盗めばそれを取りに人間がここに来るって教えて貰ったからね!」
(教えて貰った?)
回避を続けながら腕輪を操作するヒカリ。魔女からなるべく多くの情報を引き出そうとして質問をしたが、いきなり大本命を引いたようだ。
花火を奪ったのは魔女。ならば、この廃屋に花火があるはずだ。
「エリア!この屋敷に花火があるはずだ!探してくれるか!?」
「そうしたいのは山々なんだけどねっ・・・・・・!」
「身体が全く動かないのっ・・・・・・!」
「くぅ・・・・・・!」
「そいつらはとっくに私の魔術にかかってる!指一本動かせないわよ!」
魔女の使う魔術は『物体の停止』。しかも、魔女自身が生み出したオリジナル魔術だ。そのため、魔術解析を得意とするエリアでも未だに解除が出来ていなかった。
ふと、部屋の掛け時計を見ると時刻は既に廃屋突入から一時間が経過。早く取り返さないとリミットが過ぎ、花火を打ち上げることが出来なくなってしまう。何とかして魔女の魔術を解除させなくてはいけない。
「俺に非があるなら謝る。だから、彼女たちの魔術を解いてくれ」
「イ・ヤ・よ!そいつらが怖がってアンタが怖がるなら、絶対解いてあげない!」
ヒカリの謝罪も受け入れることもせず、魔女は複数の魔法陣で攻めることをやめ、一つの巨大な魔法陣を生み出す。それはこの部屋全てを覆い尽くせるほどの大きさで、回避するにはこの部屋から出るしか方法がない。
だが、ヒカリにその選択肢はない。魔女のこの一撃は必中と化した。いくらヒカリでも、魔術にあってしまえばもう動けない。その事実に満足した魔女は心から楽しげな声を上げて、彼を見下す。
「やっと当たったぁ!さぁて、どう怖がらせようかしら?」
「・・・・・・すまない」
「え、何? 今更謝ったって関係ないから!」
「違う。ここまで出会った他のオバケさん達に謝ったんだ。今、この時より俺はお前を___敵と見なす」
その瞬間、エレメンツの背筋が凍り付く。驚かされた時の恐怖とは比にならないほどの恐怖。それは、自分の命が脅かされた時のもの。
ヒカリの声色が淡々としたいつものものから、敵対者に向ける殺意のこもったものへと変化する。
「『決闘』。そして、ペンデュラム召喚」
ヒカリの宣言により、廃屋の空に光の軌跡が生み出した穴が生まれる。そしてその中から一筋の流星が屋根を突き破ってヒカリと魔女の間に降り注いだ。
その正体は、二色の眼の竜 オッドアイズ。その目に怒りを宿した竜は敵対者に殺意を隠すことなくぶつけ、彼女の身体を震え上がらせる。
「な、なによ!? 竜だって、あたしの魔術で___」
「オッドアイズ、奴を焼き払え」
廃屋のことを全く気にせずにヒカリは召喚獣に攻撃命令を下す。動けないため顔は俯いたままだが、チラリと見えるその目には、ただ敵対者の命を奪うという黒い意思が宿っていた。
咄嗟に停止魔術をオッドアイズに向けようとする魔女だったが、既に遅い。オッドアイズは口にエネルギーを既に貯め終わり、後は放出するだけの段階へと入っていた。
「ヒカリ、ダメだっ!」
アウスの静止の声も聞くことなく、オッドアイズは螺旋状のブレスを魔女に向かって放出。その一撃で部屋の壁一面が全て吹き飛ばされ、エレメンツ達に強力な風圧が襲いかかる。
身体が動けないため吹き飛ばされる心配は無かったが、それ以上に魔女への心配が勝る。
壁が消滅し、月明かりが部屋を照らす。先ほどの衝撃を感じた他のゴーストリック達も部屋に集まり、この光景に唖然とする。
魔術が解け、身体を自由に動かせるようになったエレメンツ。エリア、ヒータ、ウィンはこの惨劇にどうしたらいいか分からず、震え上がっていたアウスは今も沈黙するヒカリの行動を責める。
「ヒカリ、私達のことを思って怒ってくれたのはありがとう。だけど、ここまでやる必要は無かったはずだ」
「・・・・・・」
「ヒカリっ!」
アウスの叱責にもヒカリは動じていない。ただ廃屋の外に浮かぶ月を見上げているだけだ。
とりあえず魔女が奪ったであろう花火を回収しようとエリアは提案し、他の三人も一旦探索に戻ろうとする。その時、ヒカリが口を開く。
「まだ、何か来る」
突如、月が闇に覆われた。
森を覆う暗闇が一カ所に集まっていき、美しい月光をこの廃屋から奪い去る。闇は徐々に一つに集まっていき、再び月光が廃屋を照らす時、月の隣には一人の男が浮かんでいた。
集めた闇を自分の衣服として纏う白い体の男。彼こそヒカリが察知していた闇の魔力の正体にして、この廃屋『ゴーストリック・ハウス』の主 アルカードだった。
アルカードは音もなく部屋へと着地すると、静かにヒカリへと歩き始める。
オッドアイズにも警戒態勢を取らせ、いつでも戦闘を再開できるように構えるヒカリ。そして、突然現れた主にどうするか悩むエレメンツと他のゴーストリック。
そして、ヒカリの前へと移動したアルカードは___
「ご迷惑をかけて、すまなかった」
頭を深々と下げたのだった。
突然の謝罪に全員の気が緩むと、再びヒカリの身体が動かなくなる。この原因を彼は既に知っていた。
「魔女、やめなさい」
「だって、アルカード様!」
「やめるんだ」
アルカードの背後から現れた魔女は無事な姿で、彼に頭を小突かれてヒカリへの魔術を解く。
先ほどの攻撃が当たる直前に、アルカードは魔女の背後にテレポート。そのまま自身と魔女をマントで包み込み、闇の中へと隠れたのだ。
涙目の魔女は不服そうな顔でアルカード、そしてヒカリを睨むが、先ほどされた仕打ちを思い出し、再びアルカードの背後に隠れてしまう。
「すまない、お客人。お持て成しをするはずが、とんだ出来事に巻き込んでしまった」
「いや、俺も早計だった。この屋敷を壊してしまい、申し訳ない」
「魔女、彼らに盗った物を返すんだ。いいね」
「ハイ・・・・・・」
隠れている魔女が箒を振ると床に魔法陣が生まれ、その中から幾つもの木箱が現れる。その中には無数の花火玉が入っていた。
量が多いのであとでオッドアイズやバイドに運んで貰うとして、次に何の目的で奪ったのかを改めてアーカードに問いかける。
「我々ゴーストリックは人々を驚かすことが生きがいの生命でね。つい最近、この地に転移してきてからその機会が無かったんだ」
「転移・・・・・・。もしかして、次元の裂け目による影響、ですか?」
「そこら辺は君たちの方が詳しいだろう。話を戻すと、この子『魔女』は他のゴーストリック達のためにも、人をこの屋敷に招き入れるきっかけをつくろうとしたみたいだ。もっとも、盗みはイタズラの範疇を超えているが、ね」
「うっ・・・・・・。ご、ゴメンナサイ・・・・・・」
イタズラをし、人々を驚かすことを生きがいとするゴーストリックにとって、人が来ないことは死活問題だったのだろう。ただ、アルカードの言うとおり、盗みはイタズラでは済まされないことだった。
魔女もアルカードに指摘され、エレメンツ達に頭を下げる。それを受けて、ヒカリも魔女に頭を下げる。
「魔女さん。怖い思いをさせて済まなかった」
「べ、別に良いわよ・・・・・・。あたしだってやり過ぎたって今は思ってるし・・・・・・」
「なら、今回はこれで許してもらえないだろうか。お客人」
「ま、花火も無事ならあたしはいいかな」
「私も!今度はちゃんとしたときに来てみたいな!ゴーストリックの皆のお持て成し、もう一回受けてみたいもん!」
「わ、私はもう勘弁して・・・・・・」
「ギルド エレメンツ、異議はありません。それから、ミスターアルカード。損傷させてしまったお屋敷の件ですが・・・・・・」
エリアが心配そうに言葉を続ける前に、アルカードは指を鳴らす。すると、次に廃屋を見たときには完全に壁が修復されていた。まるで、先ほどの戦闘などなかったかのように。
驚くエレメンツ達にアルカードはイタズラっぽい笑みを浮かべ、マントを翻す。
「その驚き顔で私は満足だ。ギルド エレメンツ、またのお越しをお待ちしているよ」
そう言って、ゴーストリック達は闇へと姿を消していく。最後に魔女だけヒカリにあっかんべーをしてから姿を消すと、そこには探し物の花火だけが残った。
エレメンツが街に戻った頃、既に街灯は消えており、後は打ち上がるのを待つだけとなっていた。それぞれ沿岸に座った人々は、今か今かと空を見上げている。
ジェニーに回収した花火を渡し、依頼を完了させたエレメンツはハイネに案内され、周囲に人がいない空が開けた海辺へと案内される。
「皆さん、本日はお疲れ様でした。是非、花火を楽しんでいってください」
「ラムネ持ってきたよ!皆で飲もう!」
シュミッタが持ってきたラムネ瓶を全員が受け取ると、一つの火の玉が空高く打ち上がる。突然現れた光に全員が注目すると、漆黒の空に鮮やかな華が咲き誇る。
少し遅れて大きな音が鳴り響き、刹那の美しさにエレメンツは心を奪われる。
一つ、また一つと花火が上がり、感嘆の声を無自覚に漏らしながら、ヒカリはこの光景を脳裏に焼き付ける。隣で話すエレメンツやウィッチクラフトの声は脳まで届かず、ただ目の前に広がる花火に魅了されていた。
「すげぇ・・・・・・」
花火よりも光度が高いモノを戦場では多く見てきた。その明るさに嫌気がさすことは何度もあった。光り輝く事で感動を与えられるものなど、自分が大好きだった『銀河の眼』だけだと思っていた。
だが、それは思い込みだと思い知らされる。
目の前に広がる光の花畑は、間違いなく彼に感動を届けていた。
「見入ってくれていますね。今年も無事にお祭りが終わって良かったです」
「ふぅ・・・・・・。何とか今年も終えられて良かったぁ・・・・・・」
「お疲れ様、ハイネ姉!」
「ま、結局ヴェール様は来なかったけどね」
「ヴェール様、一帯何がしたかったのでしょうか」
「・・・・・・」
花火に感動し空を見上げるエレメンツの横で、ウィッチクラフトのメンバーは祭りの閉幕に安堵すると同時に、結局姿を見せなかったマスターの意図を見いだせずにいた。
そもそもの話、本当にヴェールがあの手紙を出したのか。それすらはっきりとしていない。ただ、消去法で恐らくそうだろうと思い込んでいただけかもしれない。
「考えても仕方ありません。今は花火を楽しむとしましょう」
思い悩むウィッチクラフトにジェニーがそう告げる。確かに考えてもしょうがない疑問。解決するにはこの場にいない本人に聞くしかない。
再び空を見上げる彼女たちを光り輝く空が迎え入れると、浮かび上がっていた悩みが消え去っていく。
来年もまた、これを。いや、これ以上の感動を創り上げる。
世界一のギルドはそう誓いながら、夏のひとときを楽しむのであった。
「では、おやすみなさい」
「おやすみ~、ジェニー姉~」
祭りが終わり、ウィッチクラフトのメンバーが全員床につく。普段、夜遅くまで仕事をしているハイネも緊張の糸が切れたのか、既に夢の世界へ旅立っていた。
祭りの熱気に当てられテンションが上がっていたシュミッタの話に付き合っていたジェニーもそろそろ就寝しようと自室に向かおうと思った時だった。
「___いらっしゃったみたいですね」
談話室の電気を消し、そのまま明かりのない廊下を歩くジェニー。導かれるようにたどり着いたのは既に人がいない工房。
明かりは付けず、窓から差し込む月明かりを頼りに奥へと進むと、そこには水晶のような美しい髪を月光で飾り付けた神秘的な少女の姿があった。
「お帰りなさいませ、ヴェール様」
「ん、くるしゅーない」
気の抜けたいつもの声に安心感を覚えながら、ジェニーは少女『ウィッチクラフトマスター・ヴェール』の前へと移動する。
半開きのその眼でジェニーを見上げるヴェールはけだるげに椅子に座り、ジェニーも彼女の前の椅子に座る。
「あのお手紙はヴェール様が?」
「そそ。ちょっと野暮用でね」
やはりジェニーや他のメンバーの予想通り、エレメンツに出された謎の手紙を仕込んだのはヴェールだったようだ。何の悪気もなく白状したヴェールにジェニーは困ってしまう。
せめて自分には教えてくれれば、もっと調べられたのかもしれないと少しだけ愚痴を言いたくなる。
「もしかしなくても、ヒカリ君。更に言うなら、オッドアイズですよね」
「へ~? 知ってたんだ?」
「マスターからお聞きしていましたから」
「あ~なるほどねぇ」
ヴェールの目的。それは高屋ヒカリが召喚するオッドアイズだった。別経路から情報を入れていたジェニーはなんとなくその目的を察し、自分なりに動いてみたがその結論は『よく分からない』だった。
得た情報と余りにも人物像が違いすぎて、何かが誤っているとしか思えなかった。
「オッドアイズを呼べるようにオバケ達にもちょっと手伝ってもらったんだ~。まあ、まさかぶっぱするとは思ってなかったんだけど」
「・・・・・・もしかして、花火泥棒に関与しました?」
「さぁて、なんのことやら~?」
そう言うがヴェールの顔は『私が犯人です』と書かれているかのようにうさんくさい。ヒカリがあの時違和感を抱いた魔女の言葉。
『あの人に教えて貰った』
ヴェールこそ、その『あの人』だったのだ。
更に言うのなら、ジェニーがエレメンツに指示したポイントもこっそりとヴェールがジェニーに教えていた場所だった。
「ま、結果としてはお祭りも無事終わったし、花火も上がったし。結果オーライだよね~」
「いえ、流石に花火泥棒はやり過ぎかと」
「・・・・・・ゴメンネ?」
まさか全部を奪ってしまうとはヴェールも考えていなかったようで、内心祭りが潰れてしまわないかヒヤヒヤしていた。最悪の場合、自分がゴーストリック・ハウスに突撃し、何事もなかったかのように花火を元に戻そうと思っていたほどには。
ヴェールの軽くも本気の謝罪に小さくため息をつくジェニー。次はない、と目力に込めながら次の言葉を待つ。
「ありゃ本物だわ」
「・・・・・・」
淡々と短く、それでも一番の重みが乗ったその一言。それが何を意味するのかをジェニーは分かってしまう。だからこそ、どうしたらいいかが分からない。
「手出しはしなくていいよ。私もまだしない。ただ___決着を付けるときはいずれ来る。それまで・・・・・・このギルドをよろしくね、ジェニー」
「かしこまりました。ヴェール・・・・・・いえ、サンドリヨン様」
僅かな人物しか知らない本名で呼ばれたヴェールは目を丸くするが、またいつものやる気の無い顔へと戻りジェニーへと背を向ける。右手を軽く振る主に従者は頭を下げ、旅立ちを再び見守った。
次にジェニーが顔を上げると、そこにはただ月光が差し込むだけ。誰もいなくなったこの部屋で、彼女は小さくつぶやく。
「・・・・・・私も、一旦ウィッチクラフトを離れないといけないかもしれませんね」
過去から続くその宿命は、あらゆるモノを飲み込んで収束する。
その事を、まだ誰も知らない。