TS転生者「不死鳥は 再び墓地より 舞い戻る」 作:ししゃしょしぇい
原作:遊戯王
タグ:R-15 オリ主 アンチ・ヘイト 転生 性転換 遊戯王ZEXAL TS 勘違い 主人公最強 原作改変 独自解釈 アニメオリカ 原作効果
なにコレ、めっちゃ使いたいんですけど。
でも原作には関わりたくないんですけど。
そんな矛盾した欲求を抱えたコミュ障TS転生者が、アニメ遊戯王ZEXAL世界で「平穏な生活」を目指す話。
なお、秒で失敗した模様。
まさか、OCGでヲーがラーになってしまうとは読めなかった。このリハクの目をもってしても
言い訳させてほしい。
私に原作ルートを破壊するつもりは一切なかった。
つもりはなかったが、人には抑えられない「
遊戯王世界に転生し、前世で親しんだカードたちが手元にあったなら。
誰もが、きっとこう思うだろう。
フェイバリットカードを、この世界で使いたい。
この世界では曰くつきだとしても、使用を完全に我慢するのは普通に嫌。
だから、少なくとも私の中では、筋が通っていたのだ。
原作は原作で勝手に進行してもらう。
自分はその外で好きなカードを使って、気持ちよくなる。
そういう、我儘な考えが。
*
「──無冠の女王だぁ?」
「そうなんスよ、
きっかけは些細なことだった。
曰く、同学年の一部から『最強』呼ばわりされている女がいる。
取り巻きがそんな与太話を口にした。
無冠の女王。
公式戦の実績なし。大会に出たという話も聞かない。
そのくせ、学園の実技で負けた回数はゼロ。
他人と馴れ合わず、いつも一人でいるらしい。
それすらもいいように解釈されて、「孤高」だの「女王」だのと言われているのだとか。
「……気に入らねぇな。イラっとくるぜ」
自然とそう口にしていた。
どうせ、分不相応に持ち上げられているだけのデュエリスト気取りだ。
鼻っ柱を折ってやれば、さぞスカッとすることだろう。
その日の夕方、幸先よくその女を見つけた。
学園から帰路につく人混みから離れたところでひとり歩いている。
黒と白に分かれた突飛な色のロングヘアーがよく目立つ。
モノクロツートン。わかりやすい見た目で助かったぜ。
「よお。最近、ずいぶん持て囃されてるらしいな。無冠の女王様」
俺が声を掛けると、ヤツはゆっくりと振り返った。
「…………神代くん。どうかしたの」
翡翠の瞳が俺を見上げた。
無愛想。無表情。眉ひとつ動かしやしねえ。
「神代凌牙」といえば、札付きの不良。
自慢じゃないが、このハートランド学園で俺の名はあまりにも有名だ。
その俺を相手にこの態度、上等だ。
「大会にも出ねぇ臆病者が最強気取りってのは、冗談きついだろ?
だから、俺が化けの皮を剥ぎに来てやったんだ」
取り巻き二人に顎で指図する。
それだけで、慣れた様子で二人は女の背後に回った。
これでこいつに逃げ場はないってわけだ。
「へへっ……シャークさんがお前みたいな根暗女に胸を貸してやろうって言ってんだ」
「そうだそうだ。感謝しな」
「デュエルしたい……ってこと?」
ただデュエルするだけだと思ってんのか。呑気なもんだ。
ちょっと脅してやるか。
「ああ──ただし、互いのデッキを賭けたアンティでな」
「いいよ」
「あ?」
……「いいよ」だと?
しかも即答。聞き間違いか?
「……今なんつった」
「デュエル、する」
「お前……ちゃんと意味、理解してんのか?」
「アンティでしょ。負けたほうがデッキを失う」
強がっているようには見えない。
大仰な二つ名は伊達じゃないってか?
「…………チッ。まあいい。話が速いヤツは嫌いじゃねえ。ついて来な」
向かうのは駅前広場だ。見世物にしてやるには丁度いい。
そうして始まったデュエル。
先攻は俺。手札もすこぶるいい。
「──エクシーズ召喚! 深き水底から浮上せよ! 《潜航母艦エアロ・シャーク》!」
────────────────
《潜航母艦エアロ・シャーク》攻撃表示
ランク3 水属性 魚族
攻1900 守1000
────────────────
こいつが俺の主力モンスターの一体だ。
無冠の女王、余裕そうな面してられるのも今のうちだぜ。
「『エアロ・シャーク』の効果発動!
オーバーレイユニットを一つ使うことで、俺の手札一枚につき、400ポイントのダメージを与える!
エアー・トルピード!」
「シャークさんの手札は四枚!」
「先攻1ターン目から1600ポイントのダメージだ!」
全十六発の小型魚雷がヤツへ殺到する。
黒煙の向こうでヤツがどんな顔をしているか想像して、俺はほくそ笑んだ。
どうだ?
デュエル開始早々に大きくライフ差がついた。
これでいい加減、自分が相手しているのが誰なのか、思い知っただろう。
そう思っていた。
だが、煙が晴れた先、ヤツは相変わらずの無表情で佇んでいた。
いや、それだけじゃない。
「…………何だ、そいつは?」
敵陣に、アヌビスのような頭を持つ粘体の巨人が聳え立っている。
「私がダメージを受けたことで、《ガーディアン・スライム》の効果が発動。このカードを手札から特殊召喚した」
>無冠の女王:LP4000→2400
────────────────
《ガーディアン・スライム》守備表示
星10 水属性 水族
攻0 守0
────────────────
ただの守備力0の雑魚モンスターではない、気がする。
退かせてやりたいところだが、先攻1ターン目に攻撃はできない。
「……リバースカードを二枚セットして、ターンエンドだ!」
「私のターン。ドロー」
さあ、どう来る?
「《ガーディアン・スライム》をリリースして、EXデッキから《
────────────────
《神・スライム》攻撃表示
星10 水属性 水族
攻3000 守3000
────────────────
「……ほお」
入れ替わるように出てきたのは、銀白色の巨人。
攻撃力3000。
ヤツのエースといったところか。
こうもあっさり召喚に漕ぎつけるとはこの女、思ったよりは本当にできるらしい。
「墓地へ送られた《ガーディアン・スライム》の効果を発動する。デッキから《古の呪文》を手札に加える」
召喚コストになることが、サーチ効果のトリガーにもなるのか。
ムカつくが、無駄のないプレイングだ。
「そのまま《古の呪文》を発動する。デッキから『■■■■■■』を手札に加える」
「…………あ?」
今、こいつ、なんて言った?
聞き取れなかったのに、全身に怖気が走った。本能的に。
「《巨大化》を《神・スライム》に装備する。
自分のライフポイントが相手を下回っている場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる」
>《神・スライム》:攻撃力3000→6000
チッ。今はデュエル中だ。呆けている場合じゃねえ。
俺は自分のデュエルディスクに視線をやった。
ヤツのモンスターの攻撃力が6000まで膨れ上がったが、リバースカードでいつでも対処可能だ。
ここは様子見が吉だ。焦るな。
「《神・スライム》は3体分のリリース──いや、
「……はあ?」
3体分というバカげた効果もそうだが、それ以前の問題だ。
こいつ、何考えてやがんだ。
装備魔法カードで強化した直後に、即リリースだと?
「私は生贄3体分の《神・スライム》を捧げ──『
────その瞬間、天が裂けた。
雲の切れ間から、黄金の輝きが顕わになる。
見えたのは、途方もないエネルギーのオーラを纏う、巨大な球体だった。
「……『太陽』?」
その存在を目にして、自然とそう呟いていた。
「えっと、シャークさん?」
「っ!」
取り巻きの言葉を聞いて、かぶりを振った。
バカが、状況に飲まれるんじゃねえ!
いつも通りにデュエルすればいいんだよ。
そうすれば勝てるんだ。自分のペースを取り戻せ。
俺は、意識して悪辣な笑みを浮かべた。
「……無冠の女王様よ。攻撃力6000のモンスターを手放してどうするつもりだ? 遠回しなサレンダーの意思表示か?」
「……ごめんね、ちょっと待ってて」
「ハッ、今さらになって怖気づいたのか?」
「ううん、違う」
「なら、どういう──」
「
「!?」
……なん、だ。こいつ?
意味不明な呪文を、唱え始めやがった……?
「起動せよ、《
球体に溝が走る。
眩い閃光を溢れさせながら、開いていく。
腕、脚、翼、頭部……と、その真の輪郭が顕わになっていく。
──それは黄金の巨竜……否、太陽の化身だった。
灼けつくような暁光と乾いた熱風が肌を撫でた。
頬を伝い、地面に落ちた汗がジュッと音を立てて蒸発したように見えた。
それらがARビジョンの演出なのか、現実なのか、わからない。
そう思わせるほどの圧倒的な力を、感覚で理解させられた。
────────────────
《THE SUN OF GOD DRAGON》攻撃表示
星10 神属性 幻神獣族
攻6000 守3000
────────────────
「《THE SUN OF GOD DRAGON》の元々の攻撃力・守備力は、生贄としたモンスターのそれぞれの合計となる」
リリース元のステータスを取り込むモンスターか。それで攻撃力6000。
だがな。
「手札を1枚捨てて、《サンダー・ブレイク》を発動する! そのモンスターを破壊だ!」
激しい雷撃が、ヤツのモンスターを焼いた。
ま、俺の場にリバースカードが2枚もある状況でやるには、勇み足だったな。
大方、「真の切り札を見せびらかしたかった」とか、そんなところだろう。甘ぇんだよ。
しかし雷光が止んだと同時、俺は目を見開いた。
「効いてない……だと?」
「……私は、バトルフェイズに移行する。
ヤツの呼んだモンスターは、どういうわけか健在だった。
マズい。
エアロ・シャークの攻撃力1900でこの攻撃を受けたら、一撃で4000ポイントの初期ライフが尽きてしまう。
「墓地の《キラー・ラブカ》の効果! こいつを除外することで攻撃を無効にし、さらに攻撃モンスターの攻撃力を500ダウンさせる!」
>《THE SUN OF GOD DRAGON》:攻撃力6000→6000
ヤツのモンスターは、止まらない。
攻撃力も、下がらない。
「な、なんで。攻撃モンスターの攻撃は、無効に……」
「モンスターじゃない……神」
カードゲームで、神だと?
じ、冗談じゃねえ。
たとえそれが神の名を冠していようと、モンスターは所詮カードだ。
ただの、カードなんだ!
「エ……『エアロ・シャーク』をリリースし、《フィッシャーチャージ》を発動する!
カードを選択して破壊し、俺は1枚ドローする! 破壊対象は、当然そのデカブツだ!」
エースと引き換えの決死の反撃。
これならきっと、と期待した。
だが、それでも。
ヤツが「神」と称したそれは、まったくの無傷だった。
「相手フィールドのモンスター数が変化したことで、バトルステップの巻き戻しが発生する。
私は攻撃を続行する。太陽神で直接攻撃」
「……ひ、あぁっ」
灼熱の業火が、大顎から放たれた。
眼前に迫る敗北を、俺は眺めるしかなかった。
「──ゴッド・ブレイズ・キャノン」
「ぐ、う……がああああああああああああああっ!!」
>シャーク:LP4000→0
……負けた。
わけもわからないまま、上から叩き潰された。
数秒か、あるいは数分か。
膝をついた状態で俺は放心していた。
ようやく戻ってきた視界に、あの女の姿が映る。
無冠の女王。
ヤツが、冷徹な瞳で俺を見下ろしていた。
*
おお、なんてことだ……後のバリアンの王が力なく項垂れている。
数メートル先、ショック状態で固まる神代少年を見下ろしながら、私は勝利の愉悦に浸っていた────などというわけもなく。
いや、どーすんねん。これ。
原作開始前にシャークさんをボコってしまった件。
違うのだ、これは不可抗力なのだ。
アニメ1話で、当時の
「今の私」の矮躯からして、そんな彼にデュエル外でリアル暴力に訴えられたらひとたまりもない。
要するに、すっごく怖かった。不良怖い。
それなら、デュエルするほうがマシだと思ってしまったんです。
デュエルなら、まずこの世界の連中には負けないだろうという自信があったから。
私は転生者である。
前世の記憶はあんまりない。
ネット小説によくある、サブカル知識しか引き継げなかったタイプの転生者である。
おかげで、ギリギリここが遊戯王ZEXALの世界ってことはわかった。
他に覚えていることといえば、「前の私」が男性だったことくらい。
……なんか女の子の身体になっててビビったよね。
しかも中学生。なんかの犯罪では?
罪状は、美少女ボディ受肉罪……みたいな。
まあ、そんなことで悩んでいる暇なんてなかったが。
いきなりわけのわからない異世界生活に放り込まれてるからね、私。
「
それが今の私の名前。
ハートランド学園に通う14歳の女子中学生。
私がそんな少女として目覚めたのは今から二年くらい前。
自己の存在を知覚したとき、それはもう混乱したよ。
物語の舞台として知っていた土地、自分じゃない身体、戸籍、身分。
それから……住民がデュエル脳。
もう全部わけわかめって感じ。
あと、なぜか資産はある。
口座(これまた身に覚えのない)には、向こう十数年は生活費に困らなさそうな金額が入金されていやがるのである。
肉親は書類上存在するっぽいが、生憎と顔を見たことも声を聞いたこともない。
おかげさまで表向き一人暮らしを自称しているが、天涯孤独を名乗りたいのが本音だ。本当にわけがわからない。
「あ……有明っ! お前すごいな、シャークさ──
俺たちシャークには前からムカついてたんだ!」
「そ、そうそう! あいつしょっちゅう無茶なこと命令してきてよ、でも怖くて言い出せなかったんだっ!」
なんだこいつら……?
ああ、シャークさんの取り巻きか。
いたのすっかり忘れてた。
ボスがやられたから鞍替えってわけね。
こんな非力なチビ女相手に何ビビってんだか。
たかがカードゲームで強いだけなのに。
まあ、この世界のこういうところはすごーく助かるんだけども。
それはさておき、私は模範生だ。
彼ら不良との関わりなど持ちたくないのである。
いくら尻尾を振ってもダメ。
しっしっ。
「そ、それでよ……シャークの野郎を倒したさっきのカード、見せてくれないか?」
……あ゛?
見せる?
誰に?
何を?
私のフェイバリットカードを?
こいつらに?
ないよ。
ないないないない。
もう全っ然、ありえないんですけど。
いやだって、こいつら、エクゾディアを船から捨てる前のインセクター羽蛾みたいな目つきしてるもん。
これ絶対に「こいつの切り札を奪っちゃえば、俺の天下も同然だぜ」とか考えてるでしょ。
冗談じゃない。
「有明っ──いや、有明さん! どうかお願いしますっ!」
「邪魔なんだけど」
「ひっ」
うおやっべ。
思わずチクチク言葉が出てしまった。
逆上の心配は……なさそう。二人とも顔を青ざめさせている。
良かったぁ。デュエル至上主義万歳。
デッキケースをぎゅっと握りしめながら、私は胸を撫で下ろした。
ことこれを守るためとあっては、クソザコの私とてリアルファイトを辞さない所存だ。
もう、石とか鞄の中の硬そうなものを手当たり次第に投げつけちゃう。
今回はそうならないで済んだけど、私にとってはそれくらい大事なカードなのだ。
この、《THE SUN OF GOD DRAGON》というカードは。
《THE SUN OF GOD DRAGON》──「ラーの翼神竜」は、漫画「遊戯王」を象徴する「三枚の神のカード」の頂点に立つ存在だ。
その圧倒的な能力で以て、バトルシティ編にて武藤遊戯たちを大いに苦しめた。
そんな神に心奪われ、前世の私は、【ラーの翼神竜】デッキを愛用していたのだ。
ぶっちゃけると、…………まあ弱かったけど。
OCG版のは「ラー」じゃなくて「ヲー」だったからね。
「このカードは特殊召喚できない。」って何。制作者は神に親でも殺されたの?
OCG版の再現度があまりにも酷すぎて【ラー抜きラー】デッキなんて意味不明なことを考えたこともあった。迷走し過ぎである。
それでも、私はラーを手放さなかった。
いつになってもデッキを崩さなかった。
新規サポートが来るたびに、デッキ調整を繰り返した。
「ライフちゅっちゅギガント」と呼ばれていた頃から、ラーのことをずっと見守ってきた。
そのおかげなのだろうか。
今の私の手には、なぜか前世で使っていたデッキのカードたちがある。
……全体的にちょいちょいロストしてるけども。
これが特典的なものなのかどうかは知らない。
転生担当の女神みたいなのにも出会っていないし。
ただ、目覚めた私のそばにあった。
それが事実なのだ。
本当に感謝している。
ラーはその中でも、特に思い入れの強いカードというわけだ。
…………なんか、謎に原作っぽい仕様になってたけど。
いや、なんでだ?
球体形も、通常ラーも、不死鳥も、全部消えた。
代わりにあったのが、この《THE SUN OF GOD DRAGON》という一枚のカードだ。
三枚に分割されてない。
ほぼ完全耐性。
生贄のステータス合計を得る。
第二、第三の能力もある。
あと、墓地から蘇る(一番大事)。
ちなみに、
それもなんか……できちゃったけど。いや、だからなんで??
まあ、強い分には困らないし、むしろ前世で飲んだ苦汁を思えばめちゃくちゃ嬉しい。
ふはははー、スゴイぞー、カッコいいぞー!!
……えっと、それで。思ったんです。
ZEXALはDMと地続きの世界観じゃないし、ちょっとくらいなら使ってもいいかなって。
そこで私は、ちらっとシャークさんを見た。
「……」
うん、問題しかなかったね!
未来のカードと神(ガチ)で思い切り轢き殺しちゃった。どうしようね。
でもヲーじゃなくてラーだよ。
持ってるならデッキに入れたいじゃない。
出せるなら出したいじゃない。
第一、私はアンティを挑まれていたのだ。
その状況で自分が一番だと思った勝ち方をして何が悪い。
断っておくが、私は原作の本筋に関わるつもりなんてこれっぽっちもない。
見たことのないオリカにわからん殺しをされるかもしれないのが怖いからだ。
アニメ世界には未OCGカードが数多く存在する。
中には、ゲスト回であっても許されないレベルの雑なパワカもある。
魂や世界の命運を懸けた戦いで、もしも対処法のないカードを投げられたら?
もう目も当てられない。
仮に0.1%未満の可能性だとしても、嫌なもんは嫌。死ぬの怖い。
それで一応、ハートランドを出ればいいんじゃないか、と考えたことはある。
けれど、存在するはずの親が存在していない私一人では、転居や転校の手続きも難しい。
それに、この街は便利だし、住み心地もいい。
逃避行は最後の手段だ。無期限保留ということにしている。
というか、主人公と同じ街に住んでいるだけで原作イベントに巻き込まれる、ということ自体が考えすぎでしょ、とも思うわけで。
危ないのはナンバーズで、原作キャラで、全部あっち側の話だ。
こちらから近づかなければ、遊馬先生とアストラルがキレイさっぱり全部解決。
私は日常側の住民として平穏にやり過ごす。野良デュエルでラーを出しながら。
そんな私に都合のいいパーフェクトプランも、決して夢物語ではないはずだ。
……と、思っていた。今日この瞬間までは。
なんですか、「無冠の女王」って。燦ちゃん初耳だよ。
いや、まあ、うん。
心当たりが完全にないでもない……と、言えないこともないな。
ううん。この話は、もういいや。
結果としてシャークさんは絡んできて、私はそれを返り討ちにした。
なら今考えるべきは、そのシャークさんをどうするかだろう。
「神代くん」
シャークさんの肩がビクッと跳ねる。
彼の視線が揺れる。
私の顔と、デュエルディスクに収まった彼のデッキとの間をさまよう。
アンティは成立した。となると、デッキを失うのは自分────などと思っているのだろう。
もちろん、そんなのは彼の杞憂だ。
彼がこの先どんな道を辿るのか、私は知っている。
でも、その全部がたぶん、遊馬とアストラルに必要なものだ。
私はその流れを乱したくない。
というか、アンティ自体が良くないって話なんです。
デッキを取られたら苦しいし悲しい。
それに、私には他人のカードに浮気する趣味もない。
だからまずは、ちゃんと安心してもらわないと。
「私、神代くんのデッキは要らないから」
「……ッ!」
あ、ミスったかもしれない。
すごく何か言いたそうな顔をしている。
あの、違うんです。ホントそういうつもりじゃなくって。
お前のデッキには奪うだけの価値もないとか、そういう意味じゃないんです。
て、訂正しなきゃ。
…………いや、どう言い直せばいいんだ?
デ、デッキを取らないことを宣言してるのは同じだし、もうこの際いいか。
彼の中での私の印象は最悪だろうけど、これ以上しゃべったら余計に酷くなる気がする。
もう嫌だ。おうち帰りたい。
私はシャークさんから目を逸らし、踵を返した。
背中に彼の視線が刺さるが、無視だ無視。
今日は体力を使い過ぎた。私にとってはそっちのほうがよほど大事である。
原作がどうとか、難しいことを考えるのは苦手だし好きじゃない。
今の私には学校の宿題があるし、夕飯も考えなきゃだし、早く寝たい。
家のことを考えると、自然と足が速くなった。
ラーは、生活のお世話まではしてくれないのだ。