この世に生を受けて、苦節16年。
前世との違いに苛まれながら何とかここまで辿り着いた。
目の前にはパソコンとマイク、どちらも高性能ではないがこれから長い付き合いになるはずだ。
本当はキャプチャボードとゲームも買いたかったが、如何せんお金がないのだから仕方ない。
雑談だけでも勝負できるはず、そのために準備を重ねてきた。
──それでもやはり緊張はする。静まれ鼓動。
「あー、あー、ドレミファソラシド」
少しだけ上擦った自分の声が耳に入る。
女性特有のソプラノボイスが自分の喉から出るのにも、もう慣れっこである。
……これからはこの喉が一番の武器なんだから、大事にしていかないと。
そして、少し汗ばんだ手で『配信開始』をクリックした。
思い返せば、前世の
そして呆気なく交通事故で死んだ。
迫り来るトラックを前に
「生まれ変われるなら男女比の違う世界でハーレムを作れますように……!」
そう願った、願ってしまったのだ。
結論から言うと、生まれ変わることはできた。
だが、新嶋碧という名前を貰った私は様々な違和感を覚えた。
まず、母が当たり前のように姿を消したのを見て疑問を抱いた。
そしてそれは男性俳優と男性俳優の熱愛報道を見たときに確信に変わることとなった。
どちらにしろ女性がほぼと言って良いほどに存在しない。
──つまり、男女比差と言っても男子が多く、女子が極端に少ないという世界だったのだ。
望んだ世界とはほぼ真逆っ!無慈悲!
それだけで悪夢は終わらない。
自分の体が女になっていた、つまり逆ハーレムを作ることしかできないっ!
心が男である自分が男に言い寄られるなんて、想像するだけで虫酸が走る。
軽い絶望を覚えたまま、必要そうな情報だけ集めていく。
聞く話によると女性と話したこともないまま死んでいく男性も一定数いるらしい。
子作りも托卵されたものを男性が引き取る、という形が大半だとか。
人工授精された卵子を育てる技術も発達してるらしい。
もはや童貞とかいうレベルの話ではない。
女性は女性で、外に出ると危険なのであまり外に出れないらしい。
収入は適当な男と結婚し貢いでもらうのが普通らしく、女性の社会進出が遅れているとのこと。
職業としては、女優や女歌手もいないことはないが、非常に希少で引く手あまただとか。
だが私が芸能界に入っても、体を売れと言われる未来しか見えない。
……控えめに言って詰んでないだろうか?
これに気づいた当時の私は歌の練習や勉強にも精を出した。
しかし、求められるのは女性らしい可愛い仕草ばかり。
更に、歌の先生の肉欲で濁った目が怖くて、数ヶ月で辞めてしまった。
──だって怖いんだもん。7歳に向けて良い目じゃないね。
そんな時に思ったのだ。
女生主として生きれば、姿を出さずに貢がれる存在になれる。
この世界のオタク文化では、女性との会話が夢のように描かれていたり、妥協したのか男同士の物語も多い。
……いや、妥協すんなよ!
そうして、決心してから早9年、冒頭のシーンへと戻るのである。