もうすぐ30万UA、ありがとうございます。
超絶会議前日、明日私がやるのは相談室。
ノー民達の相談をカメラ越しで聞く、というものだ。
事前に質問内容について一切知らされないので、ぶっつけ本番ということになるのだが、難易度高すぎないか……。
夕方、来客を告げるチャイムが鳴る。
インターフォン越しから確認すると、長い金髪。
威圧感を与えそうな雰囲気に反して、不安そうに視線があっちこっちへと飛んでいるのが面白い。
あ、今日はピアスついてないっぽい。
両者の間に暫しの沈黙、動いたのはあちらが先だった。
「……わ、
「……似合わなさすぎですよ――チャルさん。今開けますね」
「ノームかーい!じゃないっ、貴女でございまして?違うな……」
玄関へと走って向かい、途中の扉の鍵も開けていく。
最後に玄関の扉も開けて
「わざわざ来ていただきありがとうございます。しばらく宜しくお願いしますね」
「お、おう。……なんか思ってたよりちっちゃいな」
相手の身長およそ170センチ、外に出ない女性にしては珍しい少し焼けた肌色。
チャルさんの登場だ。
お邪魔しまーす、と元気よく挨拶して家に入ってくるチャルさん。
この家、私しかいませんよ……。
「マ?……じゃない、ほんとに?パパに言われて正装してきた意味ないじゃん!せっかくドレス着たのに。楽な服貸してよー」
「マです。150センチ用のジャージで良ければ貸しますよ。本当にお嬢様だったんですね」
「おうよ、リムジンで来る女は実在するんやで。……明日の迎えも爺が来るからっ」
リムジンは外から中が覗けないガラスになっているらしい、確かにピッタリではあるが……。
そんなものに乗る日が来るとは思わなかった。
「にしてもノーム若いし、一人だし色々聞きたいねー!家出?この家どうしたん?お姉さん相談に乗るゾ、箱入り娘だけど」
「女の子は色々と融通が利くんですー。これでもチャルさんより色々と経験していると思ってますよ。……家は無理して買いました」
特に元家庭教師の方に色々と助けていただいた。
本当に感謝しかない。
「お、やっぱ金持ちか~?まあ後で追及するとして、配信の準備するかっ!」
「はい、ちょっと防音室から機材引っ張ってくるので待っててくださいね」
「色々と他の部屋覗いて良い?女の子の部屋みたーい!」
「ダメです。大人しく待っていてください!」
よし、twisterでの宣伝もOK。
せっかくなので挨拶はチャルさんに任せておく。
「どうもこんばんわ~ノームですぅ。うへっ、足踏まないで!おめえらオフラインだぞ!今ノームの頭を撫でれるのはアタシだけだ!」
「勝手に撫でないでください!……ノームです。今日は二人で料理配信をします!感想で教えていただいた通り、手袋は二重にしてますよー!」
『(゚∀゚)』『オフ!?』『隠しきれない汚さ』『手料理ってマ?』『手洗った?』『女二人、何も起きないはずもなく……』『チャル場所代われ』『何作るんや』『ちょっと服の端見えてるぅー!』『明日楽しみー』
上から流し台やコンロ、調理風景が映るように撮っているのだが、カメラにドレス映りこんでいる。
……エプロンより長いロングドレスで料理ってどうなんだ。
念のため身バレに繋がるかもしれないので、カメラの角度を調整っと。
これでも身バレ対策はしている、包丁も反射が怖いのでセラミックに買い換えたし。
手袋越しでカメラに手を振っておく、ついでにピース。
「アタシもおてて民救済しとこ、いえい!……んで今日はカレーを作るらしいです。アタシ作ったことないんで、ノーム頑張れ!」
「チャルさんもやるんですよ。少なくとも野菜切るのは手伝ってもらいますからね!お肉の大きさとか、好みありますか?」
「んなもんデカければ何でもいいや!ノームの手料理をノームと一緒に食えるとか贅沢すぎて草ァ↑」
「明日の超絶会議でもカレーを作るので、その練習なんです。ちなみに料理部の方で販売される予定です!」
『おてて民救済、脚から待ってた』『うーん、スコティッシュ!』『どっちもかっわいー↑』『さっきのチャルのドレスか』『雑ゥー!』『草を生やすな』『チャルタヒね』『過激派こわE』『ママのカレーたべりゅ』
宣伝も終えたところで、早速作りにかかる。
玉葱は……、たぶん私に切って欲しい人が多いだろう。
食べたときに玉葱がわかる程度に細かく、大きすぎないように切ろうか。
チャルさんには人参を渡しておく。
「一口サイズでお願いしますね。まず皮を剥いてくださいね……ちょっ、包丁持つときに反対は猫の手です!」
「だあああー!二重手袋がうっとい!これいる?……ってかねえねえ、大きさこれくらい?」
「玉葱に近づくと目に染みますし、カメラに映りますよ!あ、ちょっとキたっ、痛い!」
「アタシもイテーんだけどぉ!」
『漫才するな』『皮を剥いてください.mp3』『チャルネキ本当にできないんやなって』『ほんとに女か?』『ママを泣かせるな』『泣かないで』『水洗った?』『わちゃわちゃ感』『新井が悪いよ』『いつもと違ってノームが振り回されてるな』
目に染みてコメントがボヤけてみえるが、今のところ配信の問題はなさそうかな。
チャルさんはまだ人参に手間取っているので、今のうちにお肉を切っておく。
慣れてない人に生肉触われ、というのは悪いだろう。
配信しているので隠し味なんかも入れずにオーソドックスにいく、変に叩かれるのも怖い。
お、チャルさんも切り終えたみたい。
……随分でかい人参だけども、火が通るだろうか。
そっと目をそらし、じゃがいもを二人で切り終えて炒める工程にはいる。
パチパチ油の弾ける音が良いな……。
だが、チャルさんが横からちょっかいをかけてくるのが油の音で聞こえないのだ。
ニコニコしてるし、取り敢えず頷いておこうか。
いくつか他のこともやったが割愛。
米を洗うときにチャルさんが洗剤を使おうとしたのに驚いたくらいだ。
続いて灰汁を取って、煮込みなのだが――15分ほど暇なのだ。
「チャルさん、キッチンで悪いですが雑談といきましょう」
「あいあい、オフで会った感想といこうか。んにゃぴ、やっぱ可愛いわ、でも髪はちょっと意外だったカモ」
茶髪は生まれつきだ、仕方ないじゃないか。
「詮索されそうな事言ってはダメですよ。チャルさんはイメージ通りでしたね。昔なら絶対関わらないような見た目してますし……」
「怖がりか? まあピアス穴片耳に3つあるし、しゃあねえか。」
なんでそんなに開けてるんだ。
髪も金に染めたりよく親が許したな、と思う。
ドレスだって見るからに高いのがわかるので溺愛されているはずだ。
「まあアタシなりの抵抗の結果よ。かっけえだろ。……そろそろカレールー入れるべき?」
「そうですね、ちょっと入れてきますっ」
数分おきに、何回かかき混ぜてっと。
反射対策としてシリコンの皿に盛り付けて完成。
「「いただきますっ」」
食べてるシーンは映せないので、音で我慢してもらおう。
うん、人参が少し固いが、それ以外はほぼ完璧。
明日の売り物として形にはなっていると思う。
「ノームの前で食えるだけでいつもの5000兆倍うめえわ、くぅ~!農民達すまんねぇ!」
「私も人と一緒に食べるのは2年ぶりとかだと思います。とっても美味しいですね……!」
「ぐげっ、なかなか悲しいこと言うなあ……。これからお姉ちゃんと食べようね」
『桁がおかしい』『煽るな』『闇が深そう』『隠しきれない汚さ』『あっ……』『ノーム、俺じゃダメか?』『新情報、チャルネキの方が年上』『ノーム20くらいでチャル25くらい?』『どっちももうちょい若そう』『夢見てんなあ』『百合すき』『一緒に好ドラスやれ』『できてるわ、間違いない』
いや、できてません、間違ってます。
食事の音だけ放送しても絵面が地味なので、早めにご飯を切り上げる。
明日の宣伝もしておこう。
「明日の超絶会議に私ノーム、お邪魔させていただきます!11時からの相談室で、画面越しでも皆さんと話せるのを楽しみにしてます!抽選ですので、早く来ても意味はないですよっ」
「農民バッジ買えるからお前らも買えよ!アタシはもう貰ったけどな。……もう大体言うこと話したよな?」
『おぎゃりにいきます』『11時』『仕事休んで行きます』『無職なので行きます』『また罵倒してもらうんや……』『チャルイキんな』『チャルネキも居そう』『寝落ち配信しろ』『配信やめないで』『いかないで』
「だが、断る!アデュー!……ノーム、これどうやって配信切るの?」
「ここのボタンを――こうやって押すんですよ。今の、恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしいに決まってんだろうが!……明日はええんだし、寝よ寝よ」
その日、ベッドが狭かった。