男女比に差のある世界のTS配信者   作:熊猫パンダ

19 / 32
遅れたことをお詫びします。
あまりにテンポが悪かったので2分割しました。


超絶会議①

お腹を潰されるような圧迫感で目を覚ます。

チャルさんに頭を乗せられていて、髪の毛がくすぐったい。

――あっ、ジャージに涎つけられてる!

 

お風呂に入り直そう、と決意して私の代わりに枕をチャルさんの頭の下に敷く。

今日はチャルさんに色々と仕事をしてもらうので、ギリギリまで眠らせてあげたい。

 

 

「そんで起こしてくれなかったのかぁ!!」

 

「いや、起こしたら入ってくるじゃないですか。昨日のお風呂場での戦いを忘れてませんよっ。」

 

「ちょっと見に行っただけじゃん!肌綺麗なんだからもっと露出しないとさ……。着替えも見たかったなー!」

 

ちなみにちょっとなんて力じゃなかった。

扉がギシギシ音を出してるし、なんなら下手なホラーゲームよりも怖かった。

見られたのが上だけで良かっ……やっぱ良くない、忘れよう。

 

 

作った朝御飯はフレンチトースト、食パンを使った簡単な奴でも楽でたくさん作りやすい。

なんかお洒落っぽく見えるし。

でも味は普通。

 

「ねえねえ味噌汁は?」

 

「もしかして、和食が好みでしたか?そこまで気が利かなくてすみません……」

 

「……そうじゃねえんだけどさあ、まあいいか。爺がもうすぐ来るけど――なあ、本当に男と会話できないのか?」

 

「はい、……でも画面や仕切りがあれば大丈夫ですよっ。電話とかも怖いけど何とかいけます。基本は触られるのが無理なだけです」

 

私はもう女で、男性には力じゃ勝てないのだ。

身に染みてわかってる。

 

「なんで相談形式にしたんだよ。他にも案はあったろ」

 

「私は雑談メインの配信者なので、話さないと価値はないでしょう。それに、いつかは克服しないと。」

 

「……まあ詮索はしねーけど、会場でも裏でもアタシから離れんなよ。無茶もしないこと!」

 

チャルさん、イケメンすぎないか。

私が普通の男のままだったら惚れていたかもしれない。

 

……何となく気恥ずかしくて顔が見れないので、散らかっているベッドでも綺麗にするか。

そう思ってベッドメーキングを始める。――あれっ、枕湿ってる。

 

「チャルさん、私の枕にも涎垂らしてるじゃないですか!」

 

「やっべえ、バレた!そのうち乾くからいけるって!気にせずに使って、どうぞ!」

 

使えるかっ。

どこがいける要素あるんだよ!

 

 

 

「だいぶお疲れのようですが、大丈夫ですかな?」

 

「……」

 

「おう、いけるいける。むしろノームニウム補給できて元気有り余ってるよ」

 

「それは何よりです。さあお嬢様、こちらからお乗りくださいませ」

 

「あいお」

 

既に男性と話すのが苦手だと伝わっているようで、お爺さんは無理に話しかけてこない。

申し訳ないので頭をしっかり下げておく、今できるのはこれくらいが限度なのだ。

 

 

二人とも気を利かせてくれているのか無言の車内が続き、そのまま目的地が見えてくる。

 

「車内は覗けないようになっていますが、念のためにお面をつけておいてください。身バレしてはなりませんから」

 

私のお面が可愛い狐、チャルさんが般若。

……微妙に選択に悪意があるだろこれ、ふふふ。

 

「ようやく笑ってもらえて何よりですよ」

 

「良い事やりました感だしてるとこ悪いけど、アタシが般若ってか!パパに告げ口しといてやるかんな!」

 

「これは手厳しい」

 

お茶目なお爺さんだ。

 

何事もなく会場の裏側の入り口から駐車場へ。

般若と言われたことを未だに気にしているのか、チャルさんの金髪が逆立っているのが雷属性っぽいな。

少し不機嫌そうな眉間の皺といい、確かにどこか鬼っぽいかも。

 

「……ノーム、考えてることバレバレだぞ?」

 

ひえっ。

 

「そこまでですよ、お嬢様。関係者用の駐車場とはいえ、あまり長時間いると目立ちます。早く中へ」

 

「へいへーい」

 

リムジンというだけで既に目立ってますよ……。

 

 

ともあれ急いで『ノーム様』と紙の貼ってある部屋へ。

……運営を疑うわけではないが、怖いので盗聴機などがないかも確認。

それでようやく一息だ。

 

「出番まで時間あるし、スマイル動画で舞台の様子とか確認しようぜ」

 

「確かに雰囲気が分かればやり易いかもしれないです。……あ、今はブース紹介ですね。リポーターで女性がいるなんて、超絶会議だけあって気合い入ってますね!」

 

何のブースだろうか。

 

『我々は失禁体験装置を作りました!ぜひっ、ぜひ女性に体験してほしいんです!お願いします!』

 

『嫌です。最後に一言お願いします』

 

『やっぱ断られたかあ!……最後の希望はノームちゃん、見ていたら体験しに来てください!お願いします!』

 

『はいセクハラ、禁固2年』『女と話せて裏山死刑』『高速で断られて草』『開発者農民かよ』『先週電車で体験したわ』『ノームは頼めばいけそう』『失禁するノーム……ふう』『ヌッ』『希望の星やね』『後10分待てねえ』

 

……ノームは何も見てないです。

絶対やらない、何でそんな辱しめを受けなきゃいけないんだ。

 

「コイツら最高じゃん!ふゃははは!アタシ行こうかな。ノームも身バレ対策して体験しにいこうや!」

 

「嫌です、1人で漏らしてきてください。……そろそろ舞台袖に行ってきます」

 

「おう、ちゃんと端にはいてやるからなぁ」

 

スマイル動画の画面は、既に私の相談室の待機画面に切り替わっている。

といっても、舞台には白い布が見えるだけ。

そこを後ろから照らすことで影絵のように私のシルエットだけ映る算段だ。

 

よし、気合い十分!――やるなら全力でやってやろう。

 

 

「今日は来ていただきありがとうございます!放送を見てる方もこんにちは、ノームですっ!早速ですがノームの相談室、開幕です!」

 

「やっぱ身長小さいぞ!」「うおおおおお!」「ノームウウウ!」「foo↑」

 

実際の声が聞こえるとやっぱりびっくりするな……。

こちらからは観客席は見えないので、カメラで会場の様子を確認しつつ話を進行していく。

視界に観客が映らないので、緊張は少なく済んでいる気がする、助かった。

 

「では最初の相談者の方、マイクの前にどうぞ!名前と相談内容を教えて下さいっ」

 

「東京特許許可局と申します。……どうすれば推しの野球球団が勝てますか?ちな虎です」

 

『初手煽り』『噛め、恥じらえ』『ママを困らせるな』『名前覚えたからなぁ……』『なんかもっとあったろ』『そう来たか』『野球わかるの?』『東京なのに虎』『新井が悪い』

 

「東京特許許可局さん……噛むと思いましたか?残念でしたね。動揺しない限り滑舌は良いつもりです。相談の方ですが、監督か打撃コーチを変えてください、話はそれからです」

 

噛まなくて良かった、正直ちょっと焦った。

にしても1人40秒ペースで回す予定らしいが、思った以上に短く感じる。

それにいつもは座って配信しているので、立っているとやりづらいし落ち着かない。

プラス動きも見られているなら、ちゃんと動かなきゃ。

あー、頭の中がこんがらがりそう。

 

他にも歌ってほしいという要望や、即興で俳句を読んでほしいとかの相談が続く。

失禁体験装置をしてほしい、というのは即却下する。

誕生日を祝ってほしいという方なんかもいて、会場の皆でバースデーソングを合唱したりもした。

大分人も捌いたし、そろそろ終わりも近づいてきたはず。

 

 

「続いての方どうぞー!」

 

「き、君島浩太朗と言います、本名です」

 

「――えっ、その、プライバシーとか大丈夫ですか?お顔とか隠してませんけど……」

 

「ノームさんに覚えられるなら本望です」

 

農民ガチ勢だー!昔、配信で名前を読んだことある気がする。

ってか有名人みたいで会場もコメントもざわついてるし、本当に大丈夫なんだろうか。

 

『キターー!!』『運を使い果たした男』『逃げ出した社畜』『本人は草』『未知との遭遇』『覚悟の使い方を間違えた男』『せめて顔くらいは隠せ』『プライバシーを捨てるな』『覚悟がちげぇマロ』『浩太朗、愛してるぞ』『仕事をサボるな』

 

「ノームさん、僕の給料三ヶ月分のこの指輪、受け取っていただけませんか!?お願いします!」

 

相談が重すぎる。

40秒で答えていい質問じゃないだろこれ。

 

「その、まだ結婚とかは考えてなくて……、受け取れないですっ!ごめんなさい!」

 

ああっ、舞台袖のチャルさんが般若の形相をしてる。

今にも飛び出して行きそう、落ち着いて。

 

「――結婚とかは望みません!せめて、受け取っていただけませんか!一農民からのプレゼントとしてで良いんです!」

 

「わ、わかりまひた。……噛んでないですよ?スタッフさん、まず舞台袖のチャルさんに届けてください」

 

『受けとるのか……』『てえてえ』『二人は幸せなキスをして終了』『君島名前……、もう覚えてたわ』『テンパってて草』『ヒュー!』『浩太朗はワイのパパだった……?』『チャルネキいるんか!』『ノーマルか百合かはっきりしろ』『チャルネキでかいな』

 

チャルさんが渡しに来てくれた、凄い形相で。

農民として、何か思うところでもあるんだろう。

……うーん、取り敢えず貰ったからには嵌めておこうか。

特に形のわかりやすい宝石がついているわけでもないが、影で見えるかな……。

 

「つ、つけてみました。そちらから見えますかね……?」

 

「っ!ありがとうございます!もう今世に悔いはないです!――これで明日の仕事も頑張れます!」

 

会場からは謎の拍手、なんなんだこれ。

 

『888888888』『チャルネキ嫉妬してそう』『実質結婚』『888888』『君島君救済』『それでこそ男や』『尊い、尊くない?』『かっこE』『名誉農民』『明日は日曜日なんだよなあ』 『これからも強く生きて』

 

正直、その後の相談はあまり記憶に残っていない。

コメントの言葉を借りるなら、君島くん名前覚えたからな……、だろう。

 

どうやってこのお礼をしようか。

相場とか全く知らないが、この指輪普通に高そうなんだよな。

ノームって名前彫られてるし……。

 

まあ、そっと目をそらしておいて。

取り敢えずはチャルさんの機嫌を取らないと。




君島ァ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。